ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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LOVE CHAIN

 

 

涼が目を覚ますと、窓の外の光景には橙色が混じり始めていた。

 

つまり、寝過ごした。

 

昨夜、では無く今日に入っていたが、再開発エリアでイレーネ・ウルサイスが(多分)やらかした件の後始末に奔走した結果、朝まで帰れず。

本来無関係なのに、何であんなに一生懸命だったんだろうと自問しつつ自室に戻って仮眠しようとしたが全然眠れず、仕方ないので寝酒のつもりで普段飲まないウイスキーを一杯、ロックで呷った後の記憶が無い。

 

まあ眠れたのは良かったが、この時間になるとは思いもよらず。そして・・・

 

「4回戦、全部終わってるし」

 

とりあえず結果を見ようとモニターを付けると。

 

 

 

『それではこの天霧選手の状態について、解説のキャリスさん、どう考えられますか?』

 

『はい。恐らく普段の天霧選手はその力を制限されているのでしょう。この映像で見る限り、封印のような物かもしれません」

 

『封印、ですか?』

 

『何らかの魔術的な処置が施されていた、と見るべきでしょう。問題はその封印を解除して戦った場合、その反動と思われる悪影響が試合の後に―――』

 

 

 

 

「ありゃ~。そうなったか・・・」

 

他にも注目すべき試合はあるだろうに、どこのニュースチャンネルも天霧/リースフェルトペアの試合の再現。そして天霧の能力制限について報じている。

試合自体は強敵ウルサイス姉妹を相手に見事な勝利、だったが・・・

 

まあ彼の能力制限とその反動。涼も薄々気がついてはいたが、とうとう衆目に晒してしまったようだ。

天霧ペアにとってはマズイ事になったが、いずれバレた事だろう。それに彼らの実力なら何とかするような気がする。

 

他の結果はというと。

 

刀藤/沙々宮ペアは無事4回戦突破。まあここまでは予想通りだった。

予想通りと言えば、他の2組の星導館のペアはどちらも敗退。わかっていたとはいえ、残念だ。

その試合内容はというと・・・

 

「行くか」

 

制服を羽織る。

体調は少しおかしいが、寝てる場合じゃ無さそうだった。

 

 

普段使っている生徒会の車はバッテリーメンテナンスが必要になっていた。それ程時間はかからないはずだが、待ちたくなかったので総務課に出向いて学園の車を借り出す。長く生徒会をやっているとそれ位の融通は効くようになる。

少し急いで向かった先は治療院。

 

今大会で初めて、入院を必要とするレベルの負傷者が出た。

 

 

「フィル!無事か!」

 

「見ての通り生きてるよ。大げさだな、志摩」

 

そう言う彼はベッドの上。点滴のチューブと電極用の配線が繋がった姿は無事には見えない。

 

フィリップ・オーキー。

涼とは学年も学科も同じ。付き合いは大学部からだが、今では良い友人と言っていい関係になっている。そしてベッドサイドの椅子にはタッグパートナーの美夕希。多分泣きはらしたのだろう。目が赤い。

 

「大げさにもしたくなる! 最後のアレ、まともに喰らってるじゃないか」

 

オートドライブの車内で彼らの試合映像を見直したが、疲労で隙ができた彼女を守る形で相手選手の技の直撃を受けた。

 

いや、明らかに彼女を庇っていた。

 

ペアで出場するがゆえのフェニクス特有の問題。

そのペアの関係が、信頼、友情を通り越して愛情にまで発展すると、試合中にこんな事が起こる。

自分にとって大切な存在を傷つけまいと身を挺してしまう。

兄弟姉妹、或いは恋人同士のペアで見られる行動だが、その結果はまず確実に負傷となる。

時には負傷ですまない事もある。

 

彼らの場合もまさにそれだったが、この程度で済んだのは不幸中の幸い。

 

「なに、大した事はないさ。美夕希が受けていたらこんな物では済まなかっただろう。これでいい」

 

「・・・まあその通りだと思うよ。けどなあ・・・」

 

もう一つ涼が言いたかったのは試合運びについてだった。

最後の局面、パートナーを庇う行動に出なければ逆に反撃、形勢をひっくり返せたかもしれない。

 

「惜しかったよな」

 

「それは言われるまでもない。でも後悔は無い」

 

「そうか。ならもう何も言わんよ」

 

その後は容態と治療の状況について聞く。幸い長くはかからないらしい。

ひとまず安心して病室を出ると、治療院側の担当と手続きについての確認。学園としてもフォローする為、その件についての打ち合わせ。

一通りの仕事を終えると、長い夏の陽もかなり傾いていた。

 

そこに着信。

 

「会長。どうしました?」

 

「涼さん、手は空きましたか?」

 

「ええ、治療院での用件は済みましたよ」

 

「ではシリウスドームまで車をお願いします」

 

「と言うと・・・ああ、天霧達ですか」

 

「ええ、学園まで送って欲しいんです」

 

「了解、すぐ行きます」

 

 

 

再び市内をドライブ。

会場周りはまだ少し混雑している。

ただ生徒会員である涼なら、出入りはかなり自由になる。今回もシリウスドームに幾つかある、関係者用ゲートから車を入れると、参加選手控室近くまではすぐだった。

 

「ようお二人さん。送りにきたよ」

 

「志摩先輩・・・。ありがとうございます」

 

天霧綾斗はソファーに横になっていた。傍らにはパートナーのユリス。彼女にはダメージや疲労は見られない。

 

「じゃあ帰るか。そういえば会長は?」

 

「運営に用があるとの事でした」

 

「ああ・・・そういう事か」

 

多分今回の試合の件で、委員会がメディアに余計な事を言わないように釘を刺しに行った、という所か。

 

「それで天霧、歩けるか?」

 

「ちょっと厳しいですね」

 

肩を貸して立ち上げさせたが、ちょっとバランスが悪い。涼もジェネステラの身体能力は持っているので、このまま引きずっていっても苦にならないが・・・

 

「リースフェルト、そっちを支えろ」

 

「はい。綾斗、掴まれ」

 

二人で抱えるようにして車まで運んだ。

 

 

 

「そういえばお前さん達を送るのはこれで二度目か」

 

サイラスの件が終わった夜、同じように動けなくなった天霧を車で送った事があった。

ただ、その時より余程状態が良くないように見える。

その事を指摘すると。

 

「封印解除のリミットをかなりオーバーしましたからね」

 

「全く、無茶をする・・・」

 

「仕方ないよユリス。今回はああするしかなかったし」

 

「わかっている!だが綾斗、私は・・・」

 

バックミラーには酷く疲れた表情の綾斗と彼を気遣うユリス。

湖面からの夕陽に照らされた二人の姿も実に絵になる。これ以上は邪魔をしない事にした。

 

だた、その姿が先に治療院で見た友人達の姿に重なる。

この二人の場合も関係が良さそうだ。この先の試合でああいう事が起こるだろうか?

いや、危機的状況となれば有り得る。

しかし試合でお互いを庇うなとは言えない。そんな事態を見たくはないが・・・

 

「今日はゆっくり休めよ」

 

そんな事しか言えないのが残念でならない。

 

 

 

学園に戻って二人と別れると、一度生徒会室に顔を出す。

そこではこれまでの戦績の集計中だった。いや、単なる集計ならすぐに終わる。大事なのは試合内容を分析し、出場した学生に適切なアドバイスを与えると共に、データベース化して戦訓として次に備える事にある。

特に他学園の有力学生の実戦データは重要になる。他学園ともなるとフェスタの戦いでしかデータを得られない学生も多い。

その作業は順調のようだったので、まずは個人宛の連絡に目を通す。

どうやら今夜は風紀委員会の見回りメンバーは出て来るようだった。

あまり涼と面識の無い高等部の学生だったので、手分けした方がいいだろうと商業エリアを廻るように依頼しておく。面倒な方、つまりロートリヒトはは涼が引き受けるしかない。

風紀委員といえば優はどうしているんだろう。アレとの関係改善?も考える必要があるが、行動に移す時間も無い。

 

「書記長、大丈夫ですか?」

 

「ん?澪か。別に問題は無いけど?」

 

「それにしては深刻な感じですけど・・・」

 

どうやら厳しい表情になっていたらしい。

 

「少し、お手伝い、しましょうか?・・・いえ、見回りではあまり役に立てないでしょうけど・・・」

 

「ほう・・・」

 

思わず澪を見つめる。

これまで、それ程親密な間柄では無かったし、生徒会業務以外で一緒になる事は無かった。

そもそも真面目系の彼女、仕事絡みとは言え夜の街を(しかもロートリヒト)男と歩くなんてやった事も無いはずだった。

 

「あ、いえ。同じ大学部のメンバーですし、私が行くのが良いかな・・・と」

 

当然これまでも、こういう仕事には出ていない。会計という担当上、出るべきでは無かったとも言える。

それがどういう心境の変化だろう。

 

目を伏せた彼女の表情。

ジェネステラとしては並、しかし一般と比較すると整っている容姿を見ると、例え仕事でも街を歩く時に隣にいてくれると嬉しいタイプではある。

 

「遠慮してくれ。色々面倒になる」

 

「・・・はい」

 

今は無理をする時ではなかった。

 

 

 

 

そして再びロートリヒト。

 

観光客は相変わらずだが、学生の姿は明らかに減っていた。

そんな中、店側の黒服連中も目に付く。

ただ、以前のような不審と牽制の目で見られる事はなくなった。

涼がトラブルを抑える為に動いている事が知られてきたのだろう。

多分同じ理由からか、あちこちにいる客引きからもそれ程声がかからなくなった。

 

そんな訳で、比較的平穏に見回りを進める。

休憩で適当な店に入って一杯やる回数も増えている。サボっているようだが、そういう店で聞こえてくる会話、或いは店員との会話で情報を得る事もできる。

 

「それであの店、つぶれたのか」

 

「まあ、店内はボロボロだったからな」

 

昨夜のイレーネ・ウルサイスの件を話題に出してみると、すぐに事情が分かってきた。

相手はロートリヒトでは高級な方になるジャズ・バーのフロア担当。涼とは高等部で一緒だった。卒業後は歓楽街で職を得て、今ではチーフの一歩手前まで来た、と言った所。

 

「あの女が色んな意味でカジノで暴れているとは聞いてたけどね」

 

「いずれにしろ連中にとっては迷惑だったろうがな」

 

多分店側かディーラーが余計な事をして、キレたウルサイスが店内を破壊したんだろう。

それで店員か、雇われたチンピラ連中が仕返しをしようとして返り討ちか。

いくら人数を集めたとは言え、レヴォルフの序列3位のオーガルクス持ちに直接報復しようとは、命知らずと言うか、判断力が無いと言うか。

 

「で、店の方はいつ新装開店、になるんだ?」

 

「分からん。店内を整理したところから作業が進んでいない」

 

「そりゃ妙じゃないのか?この儲け時に。普通はすぐに再開したいだろう」

 

「業者の都合らしいが、よく分からん」

 

あまり星導館学園には関係ないが、情報はいくらあってもいい。

 

 

結局その晩は何事も無く。

学園での生徒会業務は無しにしてもらったので、早朝の街中を飛ばしてシリウスドームに。

星導館生徒会用控室で事務を執っていると、いつの間にか眠ってしまった。

 

涼は椅子で寝るのは得意ではない。

そのせいだろう。疲れが残っている感覚。そろそろ不味いかもしれない。

 

 

5回戦。

 

今回は直接観戦できた。

 

印象に残ったのはやはり天霧/リースフェルトペアの勝利だろう。

見事なコンビネーションで界龍の中堅を破った。

力ではなく戦術の戦い。

ギリギリの勝利だったが、彼らにとって良い経験になったはずだ。

 

刀藤/沙々宮ペアも勝ち抜いたので、この時点で星導館学園は前回フェスタの成績を上回った。

 

 

それは沈みがちだった気分に対し、一服の清涼剤になってくれた。

 

 

 

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