フェニクス5回戦が終わると、本戦は一時的なインターバルが入る。
激戦を続ける選手達にとってはありがたいだろう。
特に天霧/リースフェルトペアにとっては。
今回の戦い、二人共それなりのダメージは受けている。
状態によってはフォローが必要だろう。そう思った涼は試合直後の二人の様子を見に行く。
ここ数日の昼夜逆転生活で体調はおかしかったが、気にしてはいられない。
専用控室には戻っていなかった。
勝利者インタビューはキャンセルしたはずなので、どこで引っかかっているのかと通路を適当に戻ってみると、気になる物が目に入った。
界龍の制服姿。それも複数。そしてあの二人。
どうやら不快かつ妙な事になっているらしい。
涼は能力を発動して転移した。
「ようお二人さん!お疲れ!」
「!!」
そこにいた全員(涼以外)が絶句する。
何の前触れもなく人一人出現すればそうなるだろう。
「志摩先輩・・・びっくりさせないで下さいよ」
「お、驚いた?君らにウケたなら、俺の能力もなかなかだな」
「あはは・・・」
「今回も大変だったな。疲れただろう。良ければ学園まで送るよ」
と、ごく普通の会話だったが。
「ちょっとー。いきなり割り込んできて何なの?」
「僕らの話はまだ途中だったんだけどなあ」
界龍のページ・ワン。黎沈雲、黎沈華の双子。
天霧/リースフェルトペアの次の対戦相手だが、その性格の悪さ(と言うより不快さ)は涼も知っていた。
いや、知っているのはそれだけでない。
「ガキは引っ込んでな」
発せられた冷徹な声と雰囲気は、普通の涼しか知らなかった綾斗とユリスが一瞬気圧されかけた程だった。
それは界龍の双子も同様だったらしい。
「! ・・・困るんだよなあ。選手同士の話合いを邪魔されると」
「引っ込んでろと言った。理解できないのか?言って駄目なら力で分からせるぞ」
「あたし達と戦おうって言うの?誰かは知らないけど、ちょっと無謀なんじゃないのぉ?」
「星導館学園、生徒会長代行、志摩涼に文句があるならかかってきな。存分に叩きのめしてやる」
双子の表情が同時に強ばった。名前は聞いていたのだろう。当然その能力も。
「リフレックスか・・・!」
「え?生徒会長代行?」
ただその肩書までは知らなかったと見える。
「く・・・。行くよ沈華」
「あ・・・。うん、沈雲」
涼を睨みながら踵を返す双子。肩書か名前か。どちらによって引き下がったのか。
「先輩。いつから会長代行に?」
意外だという表情でユリスが尋ねた。
「ん?ああ。はったりだよ」
「はあ!?」
「と言っても全くの嘘でもない。これまで何度も代行になったし、これからもなるだろうな。ああ言えば少しは怯むと思ったが、効果はあったな」
「それにしても、あんな挑発のような事・・・」
「まあ戦う事になっても構わんがね。負けないし。所詮奴らは俺の下位互換みたいなものだ。能力だけじゃなく、戦術も意識もね」
もっとも戦えるはずがない。生徒会関係者と私闘となれば、自動的にフェニクス出場停止だ。まあそうなった場合、涼も面倒な事にはなるだろうが。
「とは言え、なんか因縁付けたような形になっちまったな。ああいう手合いは嫌いではあるが、俺らしくなかったよ。さて、お前さん達はどうする?」
「一旦控室に戻って少し休みます」
「そうか。必要な物があったら言ってくれ。夜まではここにいる」
そう言って離れる涼。少し呆気に取られている界龍のもう一組、宋と羅の両選手に目礼し、生徒会ブースに向かった。
その夜。
これまで通りの繁華街での見回り。
相方は面識の無かった風紀委員。
そちらには商業エリアを任せて涼は今回もロートリヒトを巡る。
フェニクスはインターバル中でも相変わらずの賑わい、そしてマフィア連中の緊張感も同じ。
よってそちらは何事も無し。
だが風紀委員から商業エリアの路上で所謂ガラの悪い連中が諍いを起こしそう、との連絡が入る。
転移を使って駆けつけてみると、フェニクス敗退組を含めた数人の学生が女子グループ(多分市外の学生)にしつこく絡んでいた。
「全く・・・」
イラっとした涼は連中の前に転移する。
「消えろ!バカ共が!」
「なっ!なんだテメエは!」
「学園の面汚し共。帰れ!叩きのめすぞ!」
「うるせえ!テメエなんぞに―――」
「よし!分かった!」
煌式武装の起動、鏡像の複数展開、連続瞬間転移、をほぼ同時に発動し、問答無用で全員を打ち倒した。
「あの・・・やり過ぎでは?」
少し引き気味の風紀委員。周りの野次馬も似たような反応。
これだけ派手にやれば他のチャラい連中も少しは考えるだろう、そう言って風紀委員と共に、後始末にかかった。
翌日以降も夜は見回り、夜明け前には学園に戻って一眠りして昼前には生徒会室で日々の業務、というパターンをこなす。激務と言えば言えるが、身体の方は慣れもあって楽にはなってきた。
業務の方は新学期の準備とフェニクス関連が半々という所。つまり処理案件はむしろ増えている。こちらは涼以外のスタッフを集中させているので何とか回っている。
そんな状況に変化が現れたのはフェニクスが再開されてからだった。
準々決勝第1試合が行われたその日はシリウスドームの生徒会ブースで仕事。
昼夜逆転生活にも慣れた所で準々決勝、天霧/リースフェルトペアの試合を観戦。
界龍の双子のろくでもない試合運びは相変わらずだったが、結局は天霧に撃破された。
天霧ペアには素直に感心する。連携も良くなったし、どうやら能力制限も解消したようだ。
一方界龍ペアには軽蔑を通り越して呆れてしまう。
全力で戦っていれば勝てただろうに、相手をいたぶる事にかまけて反撃を許し、あまつさえ新たな力を得る手助けをしたような物だ。
涼の感想はともかく、試合後の二人はダメージを受けながらも良い顔をしていた。
それを見て涼もまた良い気分になった。
この様子では次の準決勝も大丈夫だろう。試合は見れなかったが沙々宮/刀藤ペアも勝利して準決勝進出している。こちらも大活躍中だ。
そして翌日の準決勝。まずは沙々宮/刀藤ペアの試合が組まれている。
昨日の結果から上機嫌で調子よく書類関係(紙と電子データ双方)を処理して、試合を観戦。
対戦相手は強敵、アルルカントのパペット。よって前評判通りの激戦となった。
刀藤の剣技の凄まじさ―――何しろパペットの表面装甲にあっさり傷をつけた―――と、沙々宮の煌式武装の大火力には驚いたが、相手のパペットは合体強化というまさかをやってみせて試合が決まってしまった。
どうもアルルカントの技術力は予想以上だった。
結果は残念だったが、それでもベスト4。
学園としても、近年の不振からすると大健闘と言える。
フェスタ上位入賞者には学園から公式に褒賞がでるが、そこに上乗せしても文句は言われまい。
仕事は増えるが生徒会推薦という形で何か渡せないか考えながら、様子を見に行こうと席を立つ。
この時点で、既に問題は発生していた。
ブースの扉を開けた所でクローディアと出会う。
「おや。会長?」
「涼さん。丁度良かった。車を出してくれますか?」
(何かあったな)
いつもの笑顔の前に一瞬影が差したのに気がつく。
二人は何も言わずに駐車場に向かった。
「それで、トラブル発生ですか?」
車を発進させると早々に尋ねる。
「ええ。涼さんはフローラをご存知ですか?」
「はい。少しは。お姫様の侍女?でしょうか。つい先日、リーゼルタニアから来たそうですね」
その認識は完全では無かったが、この場では問題にはならない。
「そういえば今日は姿が見えないような?」
「そうです。誘拐されました」
「なっ! それは・・・。誘拐、と言う事は、犯人から要求が?」
「はい。セル=ベレスタの緊急凍結処理を要求してきました」
「ほう!相手は天霧達を優勝させたくないと。ここまであからさまに妨害してくるとは・・・いや、犯人捜しは後にしてまずは対策ですね」
星導館に喧嘩を売り、フェスタの運営委員会も敵に回して良しとする相手。ある程度想像はつく。
まあそれは後で考える事で、今はどう対応するかだ。
「綾斗達とも相談しましたが、手続きはしてもらいます。その上で私の所で申請を止めます」
「ああ、なるほど。時間が稼げますね。その間に奪還、ですか」
「はい。すでに沙々宮さんと刀藤さんに再開発エリアの捜索に出てもらいました」
悪くない手だ。だが・・・
「あの子達か・・・試合のダメージがあるのでは?」
「それを承知で志願してくれました。私達もできる限りの支援をしましょう」
「ですね。ああ、申請を止めるとなると、会長は表に出れませんね。理由は『上』絡みにして、どこかに姿を隠すのはどうですか?『セーフハウス』は幾つか用意できます」
「お願いします。連絡は入るようにしてもらって、長くても表彰式までは、ですね。出来れば決勝戦前に助け出したいと思います」
「準決勝は大丈夫でしょうが、決勝はセル=ベレスタ無しでは無理か・・・確かにそこがリミットですね」
車をオートドライブに切り替え、早速準備に入る。
隠れ家の手配と秘匿回線の確保、緊急凍結処理の手続きに対する事務―――装備局にはセル=ベレスタが回収された事にしておく―――そしてフローラを捜索する方法について。
しかし捜索については、出来る限りの支援と言っても限りがある。
あまり人手は割けない。そんな余裕もないし、何より秘密厳守だ。動くのは涼だけにしておくべきだろう。
その涼自身、夜間は見回りがあるし、昼は昼でクローディアの代行業務が出て来る。
夜の見回りの間、少し再開発エリアに入る事も考えたが、ここ最近の涼は目立つ行動をとっていた。今までと違う動きをしたら犯人側もおかしいと思うかもしれない。それは避けたい。
現時点では、捜索チームと連絡をとって彼女達が動き易くなるような手配をする位しか出来ない。
後は夜、見回り時にロートリヒトで噂話に注意する、とか。
ただ今回の対象は再開発エリアに潜んでいるだろうからそちらは望み薄だ。
車内で可能な手続き関係を終えてしまうと、運転をマニュアルに切り替える。
幾つか用意した隠れ家の内、クローディアと検討してベストと思われた場所に向かう。
アスタリスク行政エリアの一角で、普段学生には縁の無いオフィスタワーに入る。
駐車場に入ると、出ようとするクローディアを制する。
「ああ、ちょっと待って下さい」
プラーナを集中させて能力を発動。
一瞬、周辺にマナが集まって消えた。
「いいですよ」
そう言ってドアを開ける。
「もしかして・・・魔法ですか?」
「ええ、練習して最近できるようになったんですが、この周辺の光を屈折させています。少なくとも、周りから俺達の姿は明確には見えなくなっています」
「流石ですね」
能力を維持しつつ屋内に入る。
一部の関係者しか知らない事だが、宿泊可能なフロアがある。2~3日過ごす分には問題無い。
何よりこの時期は利用者がいない事がいい。
確保しておいた部屋(本来なら会社役員等が使うグレード)のドアを開ける。
室内はクローディアが滞在しても問題無いレベルで、高級ホテルの一室、という雰囲気だった。
「涼さん、後はお願いしますね」
「はい」
「これから先、私には何も出来ません」
憂いと、少し悲しさを含んだ表情。
そんな顔は久しぶりに見る。
「既に貴女が成すべき事は済んでいますよ。今はこれでいい」
「・・・ありがとうございます」
「では!」
車に戻ると、端末を用意。
短いコールの後、すぐに相手が出る。
「沙々宮か?生徒会の志摩だ。事情は聞いたよ。―――ああ。で、この件について支援する。必要な物があったら言ってくれ。そうだ―――」
出来る事は限られているとは言え、相手は星導館学園に直接攻撃してきた。
黙っていられる涼ではない。
空を見上げ、決意を新たにする。
「反撃開始だ。好きにはさせんぞ!」
リアルがアレで遅れました。。。