ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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DANGEROUS PLACES

 

 

 

レヴォルフ黒学院の生徒会長、ディルク・エーベルヴァインに対する警告(半分は涼の意趣返しだが)は、表向き目立った反応を呼び起こしていないように思える。

と言っても涼に先方に対する充分な伝手がある訳では無いので、ただ見えていないだけなのかもしれない。

 

(まあイレーネにもあからさまには聞けないしな)

 

分かってはいたが、もどかしさが・・・

 

「涼、どうした。あんまり飲んでねーぞ」

 

「ん?そうだったか。そりゃいかんな」

 

そう言ってグラスに注がれたビールを一気に呷ると、周りからはちょっとした歓声。

 

今夜はしばらくぶりの元同期との飲み会だった。

 

今回は就職組と進学組で半々位、十数人が思い思いに騒いでいる。

 

進学組は即ち星導館学園の大学部なので、まあ顔を合わせる機会はあるが、就職組連中は久しぶりに会う。

社会人となった彼らの話もまた興味深い点が多い。職場では経験的にもう新人と呼ばれる段階は過ぎ、ある程度自発的に動いて良くなる頃の成功談と失敗談、酒が乗った上で話されるとどちらも盛り上がる。

 

ただ流石に部下を持つに至った者はいないようで(後輩と部下はイコールでない)その面では生徒会ナンバー2の涼がある意味一番かもしれない。

 

いや、もう一人いた。

 

「よう。何を考え込んでいたんだ?涼」

 

二十歳ちょっとで捜査チームのサブリーダーになっているリッキー・エコーレット。事実上、ここの面々では彼が出世頭だろう。

 

「あ。リキ。おめー優に何言ってくれちゃってるの?おかげで面倒になりそうなんだけど?」

 

「優?ああ、七海さんか。何の事だ?」

 

「とぼけなさんな。イレーネの事・・・」

 

「ああ、あれね。話の流れでそうなった。すまんね」

 

「お前な・・・」

 

「何々?涼が振られたのか?」

 

「破局?破局ですか?」

 

再び場が盛り上がる。しばらくはそのネタでいじられる事になった。

 

 

 

それなりに盛り上がった飲み会の後、次はどの店だ?と騒いでいる中から早々に連れ出された涼。

 

今度も目立たない喫茶店の片隅。目の前にはリキ。

 

「で、何の話だ?」

 

酔いが覚めて行く。何しろ相手は警備隊の捜査員だ。

 

「お前さ・・・。レヴォルフで何かやったか?」

 

もう何か掴んだのか。内心舌を巻く涼。

 

「何かと言われてもね。あっちで何かあったとでも言うのか?」

 

「ここ数日、ディルク・エーベルヴァインの姿が見えない。学園内外共にだ。いかなレヴォルフでも、生徒会長が公の場に全く姿を見せないというのはおかしい」

 

「ふーん。引きこもってるのかねえ」

 

こう言ってくる以上、その他の異変の兆候も掴んでいるのか。

 

まあ表に出てこないのは・・・ああ、出てこないのではなく、出てこれないんだろう。

あの時涼は、手加減はしたがかなり強く彼の顔を机に打ち付けた。

魔法治療でも受けなければ、今でも腫れ上がった顔のはずだ。

 

あの男の不機嫌なふくれっ面が更に腫れて膨らんでいるのか。

 

「クッ・・・」

 

思わず吹き出してしまった。

 

「やっぱり何か知っているな、涼」

 

「いや。知らねーぜ。どこかの会長がどこかで顔をぶつけたなんて知らねーよ、くっくっく・・・」

 

「おい・・・。貴様という奴は・・・おい」

 

思わず笑ってしまったせいで、知らぬ存ぜぬは通らなくなった。だが全部話す訳にはいかない。

 

「ふふふふ・・・」

 

「お前なあ・・・。今後は自重しろよ。何しろこの件に絡んだ捜査でウチの隊長が張り切っている。無茶すると公式に話を聞く事になるぞ」

 

「わかったわかった。しばらく大人しくしてるよ。くははは」

 

流石に話の内容を考えて、声を抑えながら笑う涼。

それを見るリキの表情は呆れを通り越して苦い物になっていった。

 

 

 

 

 

翌朝に、何気なく残るジンとバーボン。

 

学園寮の自室で目を覚ました涼が最初に見た物。

 

(帰ってから飲み直したのか・・・)

 

自室に戻って少し酔いが覚めると、よせばいいのにリキに余計な事を言ってしまったと後悔した。

自己嫌悪をまぎわらそうと深酒をしたようだ。

 

「うぅ・・・」

 

その結果が酷い二日酔い。鈍い頭痛と胃のむかつきが耐え難い。

 

今日の生徒会業務は新入生データの取りまとめと前期各クラブ活動報告の確認作業。

高等部以下のメンバーは授業があるので基本放課後からの参加になる。

その前に大学部メンバーと会長で整理を進める事になっているので、寝ている訳にはいかない。

取り急ぎ頭痛薬を水で流し込むと、シャワールームに向かった。

 

 

 

「うわ。先輩、何ですかその顔!?」

 

挨拶も無く、いきなり澪に言われる。

 

「おはようございます。涼さん、飲みすぎましたね?」

 

普段はにこやかなクローディアもその形の良い眉を寄せている。

 

「おはよう。・・・そんなに酷いかな?」

 

「ええ・・・。それにちょっと・・・」

 

まだアルコールが抜けきっていないんだろう。それにジンとバーボンの香りが混ざり合って・・・

 

「こりゃダメだ。二人は会長室に行ってくれ。ここは俺だけで仕事するから」

 

香り、というか臭いに敏感な女性にこの状況は良くない。

結局昼前まで、生徒会室で一人事務を行う涼だった。

 

 

 

午後。

 

会長室。

 

「涼さん、気分はいかがですか?」

 

「まあ何とか回復、といった所ですね」

 

「二日酔いになるまで飲むなんて、涼さんにしては珍しいですね」

 

「まあそういう気分の時もあります」

 

深酒は珍しいという程では無いのだが、それを言ってもクローディアを心配させるだけである。

 

「ところで涼さん、レヴォルフで何かやりましたか?」

 

一体どこで知ったのだろう?

影星の関係しかないだろうが、あれも会長が自由に使える組織ではない。それなのに何かがおかしいと判断する情報をどこかで掴んだ事になる。学園の会長ならばそれなりの伝手もあるだろう。良く考えれば当然だった。

 

「・・・」

 

いつまでも黙っているつもりはなかったが、いきなり核心を突かれるとも思っていなかった。そのせいで上手く言葉が出ない。

 

「涼さん?」

 

クローディアの表情はいつも通りの穏やかな微笑。だがその向こうに何かがあった。

 

「すみません。勝手なマネをしてしまいました」

 

盛大にため息をついて、ディルク・エーベルヴァインに対するテロ行為を報告(白状)する。

 

 

 

「困った事です」

 

クローディアの反応もため息混じりだった。

 

「事後報告で申し訳ありませんが、会長が事前に知っているのはマズイと思って」

 

「そういう事ではありませんよ、涼さん。貴方が生徒会メンバーである以上、その行いの責任は全て私にあります。その責任から逃れるつもりはありませんし、逃れたくないのです」

 

「は、はい、確かに。ええ」

 

傍から見れば面白い光景かもしれない。

普段は飄々としている涼が冷や汗を浮かべ、恐縮しきっていた。

 

「気持ちはわかりますし、必要な事だったのかもしれませんが、他の方法が無かったとは言いませんよね?」

 

「・・・はい」

 

確かに警告、報復であっても、やり方が粗雑にすぎたと思い始める。

充分すぎる準備をして、やった事はチンピラ紛いと、何ともちぐはぐな行為だ。

 

「それで、他にこの事を知っている人はいますか?」

 

「その件でもう一度謝ります。実は・・・」

 

リキの件を話すと、流石にクローディアの視線の温度が下がった。

 

「涼さんらしく無いですね。こんな明確なミスをするなんて」

 

「酔った勢いとは言え、調子に乗っていました。全く、後悔しかありません」

 

「はぁ・・・。まあ相手があの人であれば、この件を理由に過剰な要求等は無いでしょう。ですがこの分では、他の学園情報機関もレヴォルフで何かあったらしい、程度の事は掴んでいるかもしれません」

 

「でしょうねえ・・・」

 

その位の事で何かが起こるとは思えないが、良くない流れだ。

 

「それに事が大きくなれば、シャーナガルムとしても調査を実施しなければならないでしょうし」

 

そうなった場合、涼は犯人の最有力候補だ。

 

「まさか奴が被害届を出すとも思えませんが、どこから噂が広がるか、わかりませんよね・・・」

 

「涼さん」

 

珍しくクローディアの声が硬い。

 

「貴方には、当面学園外への外出を控えて貰います」

 

「・・・はい」

 

それでどうにかなるかはわからないが、これは涼に対する処分の意味合いもある。

 

「では、しばらくは大人しく、でお願いしますね」

 

最後はいつもの笑顔なクローディア。

とりあえずこの話は終わり、となった。

 

 

 

 

 

それから数日、涼はあまり調子の良くない日々を過ごしている。

 

二日酔いは後を引かなかったが、クローディアの叱責が後を引いているのかもしれない。

肉体に影響する程の精神的なダメージだったのだろうか。

 

そんな訳で、その日の会議も気分の悪い状態で参加して、不機嫌に発言者を眺めていた。

 

だがその学生はそんな涼の視線に全く気が付いていない。むしろ機嫌よくモニターの前で長広舌を振るっていた。

 

「ですから、プラーナの変換効率については従来の煌式武装を大幅に上回る性能を実現しています。これは我々の開発陣が新しい理論を現実の物とする為に―――」

 

星導館学園、装備局の一室にて。

 

アルルカント・アカデミーとの共同開発で完成した新式煌式武装、レクトルクスの説明会。

 

対象となるのは関係者だけだが、その中でも重要なのはモニターを担当する学生達で、選ばれたのは序列上位者ばかり。その最上位は序列5位にして今期フェニクス優勝者、ユリス・アレクシア・フォン・リースフェルト。

そんな錚々たる強者達の前でプレゼンする、となれば、緊張するか高揚するかだが、目の前の男は後者のようだ。いや、むしろ調子に乗っているのか?不自然な声の大きさと大げさな身振り手振り。

ただでさえ良くない気分が更に下り坂に向かって行く。

 

他の出席者も似たような気分らしい。違うのは生真面目なユリスだけで、しっかりと手元の端末にメモを取ったりしている。

 

「続いては新開発の起動制御方法についてです。こちらの新技術については―――」

 

いい加減我慢できなくなった涼は、敢えて目立つようにわざわざ転移を発動して前に出た。

 

「―――発動の高速化の為――― うわっ・・・志摩先輩?何でしょうか?」

 

「あのさあ。さっきから延々と技術的ディテールの解説ばかりなんだが。これ以上は他でやってくれんか?」

 

「し、しかしこのレクトルクス開発に当たっては、我々の技術力の成果でもあります。その点を明らかにして初めて・・・」

 

「うん。それはわかった。わかったから次に行こう。この煌式武装の実際の取り扱いについての解説だ。いいよな」

 

「で、ですが・・・」

 

「次だ。いいよな!?」

 

「はい・・・」

 

場の雰囲気は悪くなったが仕方がない。

席に戻る涼に対し、装備局側からは冷たい視線。その他の関係者からはやれやれといった感情が見える。

 

ともあれ、その後の進行は問題無く終わった。

 

 

 

夕刻。

 

生徒会業務は早めに終わったが、陽が短くなった為と曇り空という事もあり、周囲は暗い。

 

だがそんな薄闇の中でも、薔薇色の髪は輝くように目を引いた。

 

正門近くに佇む彼女と目が合う。

 

「あ・・・」

 

「よう。また会ったな」

 

「はい」

 

別に急ぎの話も無かったが、このまま立ち去るのも妙に思える。

 

「それでリースフェルト。あの新型ルークス、レクトルクスか。使えそうかな?」

 

説明会場ではあまり話もできなかった。

 

「ええ。中々興味深い装備だと思います。少し時間はかかりそうですが、必ず」

 

「空間把握能力が重要だそうだが、まあ君なら問題無いかな」

 

「はい。そこは大丈夫です」

 

話ながら若干の違和感を感じる涼。このお姫様には珍しく、落ち着きが感じられない。

 

そういえばこの場所は・・・

 

「ああ、すまん。待ち合わせだったか。お相手は天霧かな?」

 

「え?何で・・・。知っていたのですか!?」

 

「いや。『そういう顔』をしていたからね。君にしては珍しく。なるほどこれからデートじゃあそうなるよな」

 

「デ、デート!?ち、違います。綾斗とはそういう事は・・・」

 

実にわかりやすく慌てるユリス。

 

「わかってるって。この時期の夜の商業エリア、場所によっては雰囲気良いしね。何なら良い店教えようか?」

 

「ですからそうでは無いと!あ、そうだ。先輩も一緒にどうです?七海先輩も呼んで・・・」

 

動揺のあまり妙な事を言い出した。ただ、そうなったとしたらそれはつまりダブルデートとなるんだが、気づいていないのか。

 

「済まんがそれは無理だ。今の俺は会長から外出禁止令を受けていてね。学外に出れない」

 

「・・・何かやったんですか?先輩」

 

「いや、まあ・・・」

 

理由は言えない。しかしあの件で最も憤っていたのはユリスだし、実際迷惑を被ってもいる。

 

「そうだな・・・。誰にも言わないで欲しいんだが」

 

「はい」

 

周辺をチェックしながら、小声で話す。

 

「実は、ある学園の生徒会長室に忍び込んで、そこの主の不機嫌面をぶん殴ってきた」

 

「・・・先輩、それはまさか!?」

 

「そうだよ。少しは気が晴れるだろう。じゃ、そういう事で」

 

視界の端に天霧綾斗が見えた。待ち人到来。いや、それにしては・・・

 

「あ~。こいつは・・・」

 

綾斗の両隣に沙々宮紗夜と刀藤綺凛が引っ付いていた。

 

ユリスはと言えば・・・。

見るまでもなく、不機嫌、そして怒りの波動が伝わってくる。

 

(こりゃダメだ)

 

間に入っても収拾つけられないだろう。

 

 

 

涼は悪いと思いつつ、静かにその場を離れた。

 

 

 

 




そろそろこの物語の結末を考えています。
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