ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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BROKEN

 

 

決闘。

 

アスタリスクに存在する学園においては、日常的に行われる学生同士の闘争。

傍から見れば驚くか呆れる現実だが、この特殊な街では学生の評価を決定する一つの手段になっている。

 

志摩涼もまた、決闘或いは公式序列戦を重ねて今の序列にいるので戦いを否定するつもりはない。

だが世間一般で成人と呼ばれる歳を過ぎた今、多少の思う所はある。

 

頭を振って雑念を追い払う。

今はこの決闘を終わらせるのが先だ。

 

能力を展開し、自分の鏡像を多数維持する。

ちなみに鏡像とは通称、或いは比喩的表現であり、実際は立体像になっている。

視覚だけでこの鏡像と本物を見分ける事は不可能と言っていい。

少し余計な事を考えてはいたが、その程度は能力維持の障害にはならない。それ程に自身の能力には馴染んでいた。

 

「これが噂の『リフレックス』ですか・・・でも!」

 

対戦相手、高等部生徒の時沢がその大剣で斬りかかってきた。

その剣は本物の涼、そのすぐ右の鏡像を両断した。

 

「ほう、良い勘ではある。だがそれだけだな」

 

鏡像であるので、斬られた偽物は消滅、とはならない。

刃に貫かれたままで存在している。

 

「外れですか。まあいいです。こういう能力も想定していましたし。例えば界龍の幻映創起―――」

 

「一緒にするなよ。ガキが」

 

涼の雰囲気が変わった。

 

「・・・!」

 

「あんなのは俺の力の下位互換ですらない。所詮は幻術。俺の能力とは原理からして違う。それすらわかってないなら、お前はここまでだ」

 

「・・・大きく出ましたね。いいでしょう。どちらがここで終わりか、はっきりさせましょう」

 

そう言うと時沢はルークスにプラーナを集中させる。

流星闘技(メテオアーツ)。

ルークスに多量のプラーナを注ぎ込んで一時的に出力を増大させる高等技術。

大剣の刀身が数倍の長さになり、唸りと共に輝きを増した。

 

「これで終わりです。ハッ!!」

 

裂帛の気合と共に、一瞬で体と共に剣を回転させる。

その1回転で周囲全ての鏡像が斬られる。

 

「どうです。これなら・・・」

 

「範囲攻撃で虚像と本物をまとめ斬りか。ま、普通の発想だな」

 

その声は真上から降ってきた。

 

「な・・・?」

 

頭上にも涼の姿。

 

「ちッ。上か・・・!ガハッ!?」

 

大剣で斬り上げた瞬間。

 

正面に現れた、片膝をついた涼の正拳突きが時沢の腹に食い込む。

 

「なっ!?」

 

驚く間も無く、上下左右からほぼ同時に拳が突き出された。

ギャラリーからは、彼が同時に滅多打ちにされたように見えただろう。

 

『エンド オブ デュエル。 ウィナー 志摩 涼』

 

システムのコールと同時に、意識を失った敗者が崩れる様に倒れた。

 

 

(これはちょっと勝てないな)

 

決闘を見ていた七海優の感想。

彼女もストレガであり、強者としての自負はある。

その彼女が見ても、今の決闘には戦慄に近い物を感じてしまった。

一つはその能力。

多重展開されたその鏡像に、ではない。

 

志摩涼は自身をその鏡像に転移させる事ができる。

タイムラグ無しで、回数制限無く、自由自在に。

つまり、涼はその鏡像の間を連続して瞬間移動しながら戦っていた事になる。

とても捉えられるものではない。

 

もう一つは能力その物ではない。

涼はその能力の発動に対し、殆どプラーナを消費していなかった。

自身の能力イメージに、余程慣れているらしい。

 

ダンテとしての志摩涼。その恐ろしさは、能力プラス高い継戦能力にある。

 

 

「涼。やり過ぎ」

 

「言われると思ったよ。イラッとしてやった。反省はする」

 

涼はそう言いながら倒れた後輩を担ぎ上げる。

 

「保健室に連絡してくれるか?」

 

「うん」

 

(その気になれば序列も名声も、もっと上になれるのに)

 

優は複雑な思いを胸に、共に保健室に向かった。

 

 

 

カレンダーは6月となった。

すっかり初夏のアスタリスク。

過ごし易く爽快な毎日だが、涼にとってはそうでもない。

今の所、懸案の他学園からの妨害工作、その対策が進んでいない。

自分を囮にして犯人を釣り出すつもりが、全く反応が無い。

その為だけでもないが、その日の朝の涼のテンションは上がらなかった。

 

(まあ今日は1限の講義が無くなったし、ここは二度寝でも・・・)

 

そう思って大学部寮の自室で再度ベッドに潜り込む。

 

そのタイミングで、外から轟音が聞こえた気がした。

 

しばらくすると、また連続で爆発音が聞こえる。

 

(うるさいなあ・・・誰か決闘でもしてるのか?それとも事故でもあったか・・・)

 

「って爆発だと!!」

 

跳び起きて窓を開ける。どこだ!?見えない。ならば!

慌てて制服上下を着こむと、能力発動。

窓の外、学園上空に鏡像を展開、その鏡像に自身を『移す』。

一瞬で校舎全体を見渡せる高さに転移した。

落下しながら眼下に視線を巡らせる。異常はすぐ見つかった。

 

「あれか」

 

薄く煙が立ち昇り、多くの生徒が集まっている場所がある。

地上に鏡像を展開、即座に転移する。

 

「うわっ!?」

 

「驚かせてすまん。何があった?」

 

突然現れた涼の姿に驚いている生徒を捕まえる。

 

「あ・・・ええと、お姫様が決闘してた・・・」

 

「ほう?そういう事か」

 

(珍しいな。あの子は最近あまり・・・ん?あれか)

 

集まった生徒達の間から、お姫様ことユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトが見える。近くにクローディアの姿もあり、そして彼女に向かい合っているのは・・・

 

「そうか。来たのか」

 

天霧綾斗がそこにいた。

 

(うん、事情は後で聞くとして)

 

ギャラリーの間を抜けて決闘の場を見ると、予想はしていたが困った状態になっている。

芝生はあちこちで焼け焦げ、地面に大穴が開いている。

コンクリート製の床面さえ大きく抉れていた。どうやら本気の戦いだったようだ。

 

「派手にやってくれたな・・・」

 

火を操る能力を持つストレガ、リースフェルトが本気で戦えばこうなる。

 

(華焔の魔女じゃなくて火災の魔女だろ、これじゃ)

 

そのリースフェルトと戦って平然としている天霧彩斗も、並の人間では無いという事。

 

(成程、クロちゃんが期待するだけの事はある)

 

「皆さんもどうぞ解散して下さい―――」

 

そのクローディアにに促されて生徒達が散って行く。

彼女と目が合うと、涼も一つ頷いてその場を離れる。

この場の修理手配、どうするかを考えながら。

 

 

放課後の生徒会室。

フェニクス関連の事務処理は相変わらずだが、今日はそこに一つ余計な仕事が加わっているので面倒が増えている。

 

「総務課は何て言ってる?」

 

「業者は手配するそうです。校内立ち入り許可も。作業日程はそちらで決めてくれ、だそうです」

 

「わかった。その調整は俺がやる。他には?」

 

「別件なんだけど。会長から書類用意しておいてって」

 

「ん?オーガルクスの適合率検査?・・・またか」

 

最近他の生徒からも申請があったが、今度は・・・

 

(天霧綾斗か!そうか、セル=ベレスタだ!確かに適合するかもしれん)

 

何しろ涼は彩斗の姉がセル=ベレスタを使っていた事を知っている。血縁者なら確実、という事は無いが、可能性は高いだろう。そして強力なオーガルクス使いが増えれば学園にとってもプラスになる。

 

「ふむ、じゃあ澪ちゃん、書類作っといて」

 

「え?書記長、やってくれないんですか?」

 

「いや、俺ダンテだし。オーガルクスには縁が無いから」

 

「それもそうですね・・・って、書類作りとは関係ないじゃないですか!」

 

「バレたか」

 

苦笑と微笑。

この日はまだ笑っていられた。

 

 

 

笑えなくなったのは次の日だった。

 

「噴水を破壊したぁ??」

 

「今度は何ですか。一体・・・」

 

放課後、リースフェルトと同じクラスの沙々宮紗夜がもめた。

それだけならまだしも、そこを狙って狙撃した奴がいた。

沙々宮が反撃して煌式武装で射撃、というか砲撃して隠れていた噴水ごと吹き飛ばした。もっとも犯人らしき者は逃げたそうだが。

 

「どうするんですか、これ。修理には金も時間もかかりますよ。てか会長は?」

 

「今は装備局に行ってる。この件はご存じだ。とりあえず風紀委員の現場調査が終わってから対応しよう」

 

流石に涼の表情にも余裕が無い。

仕事が増えたせいでもあるが、二日続けてあのお姫様が狙われた。どうやら彼が打った手は完全な空振りになってしまったようだ。

クローディアもこの件はかなり憂慮している。調査も進めなければならないが、事態がここまで来るとリースフェルトへの護衛も検討しなければならないだろう。

 

「とにかく、何らかの妨害工作、襲撃があったのは明らかだ。皆も充分気をつけると共に、何か情報があったら頼む。俺も自分なりに動いてみる」

 

そうやって話をまとめると仕事にかかる。

普段は和気藹々、に近い雰囲気の生徒会室は、いつもより静かに業務が進む事になった。

 

 

二日後。

 

風紀委員会本部会議室。

 

生徒会と風紀委員の非公式な情報交換の場。つまり涼と優の二人。

 

「まー容疑者?みたいなのはいるんだけどね」

 

そう言いながら気だるげな優を見れば、調査はあまり進んでいないのがわかった。

 

「それがマクフェイルとランディ・フックか?いくらアリバイが無いと言ってもねえ」

 

「あたしもあんまり納得してない。説明つかない事もあるし」

 

「他に何かないか。ウチの会長もかなり気にしてる」

 

「肝心のあのお姫様が協力的じゃないからね。警護どころか調査も不要、って何なの?あの子」

 

「だな」

 

ぼやきながらも優はモニターに幾つかの資料を表示する。もっともあまり役に立ちそうな物は無かった。ただ監視カメラの画像がいくつかある。上手く映ってはいないが、一応はコピーを取る。

 

今後の対応をどうしようか、という所で、部屋のチャイムが来客を告げる。

 

「どうぞ~」

 

優の気楽な声にドアが開き、入って来たのは―――

 

「失礼します」

 

「ようこそ。天霧君」

 

「わざわざすまんね。そこに掛けてくれ」

 

 

特待転入生、天霧綾斗。

入学したてのせいもあるのか、彼は緊張気味で声が堅い。

まあ風紀委員会の呼び出しとあってはそうなるだろう。

 

「はじめまして。天霧彩斗です」

 

彼の態度は控えめだった。

それでも鍛えられた者の雰囲気と、内在するプラーナの量と強さが感じられる。

そして先日、オーガルクスの適合率検査であの黒炉の魔剣《セル=ベレスタ》に見事認められた。

 

先に只者では無いと感じた涼の印象は間違っていないようだ。良い意味で、今後注意するべき生徒となるだろう。

 

「それでは、ちょっと話をしようか」

 

「うん、よろしくねー」

 

第一印象は良好と言っていい。優も似たような思いらしい。

 

後は話してみてどうか、という所だ。

 

 

 

 

 




壊した物は修理しないと・・・
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