ある補佐役の日常・・・星導館学園生徒会にて   作:jig

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THAT GIRL

 

 

 

「では、当面の重要な案件はアルルカントとの調印式だけですか?」

 

「そうなりますね。やっと皆さんには落ち着いて貰えます」

 

 

朝の生徒会長室にて。

 

密談ではないのだが、授業時間その他の都合で他のスタッフはいない。

 

「それでは」

 

「はい」

 

クローディアがモニターにコードを入力して宣言する。

 

「学園及び生徒会規定に基づき、赤蓮の総代たる権限を、生徒会書記長 志摩涼に委譲します」

 

「委譲を確認しました」

 

生徒会職務一覧表の表示、及び校章の反応が変化する。

現時刻をもって、涼は生徒会書記長から、書記長兼生徒会長代行という地位となった。

何故こんな事をするかと言うと。

 

「では、行ってきます」

 

「フェニクスも近くなってきました。そろそろ面倒な案件も出てくるでしょう。お気をつけて」

 

「はい。では後はよろしくお願いしますね」

 

六花園会議。

 

アスタリスク中心街にある高級ホテル、エルナトの最上階で行われる、六学園のトップ会談。

各学園のトップが参加する為、全員の会議だけでなく、その後の個別会談や統合企業財体重役との面会等が続けて行われ、場合によっては深夜まで生徒会長が拘束される事もある。

つまり、今日1日はクローディアは不在な訳で、当然次席責任者が必要になる。

現在星導館学園生徒会には副会長が存在しない。

それでクローディアが長期不在になる場合は、わざわざ代行を指名する事になる。

手間と言えばそうだが、長くこのやり方で済ましてきた。よって二人共慣れたものだった。

 

 

 

 

ただ、慣れない事もある。

 

 

 

 

「うーん。馴染めん!」

 

生徒会長室の重厚な執務机。

そこで事務をとっていた涼がぼやくように言う。

 

「そうですか?お似合いだと思いますよ」

 

「そうかもしれんがね、リオちゃん。ここに座るのは会長だけだと認識しているんだよ。俺は」

 

クローディア不在の1日。

生徒会長室にて、会長代行として様々な案件を処理する。

会長秘書の神名リオがサポートについている。

普段はクローディアに同行するが、今回はその必要無しとの判断で涼のフォローに付いていた。流石にホテル・エルナトは中等部1年生には敷居が高そうだ。

 

「決まりでは問題無いんですから、慣れて頂きませんと・・・」

 

その時、チャイムが来訪者を告げる。

涼が頷くと、リオが会長室のドアを開ける。

ドアの向こうには一人の女子生徒が佇んでいた。

 

「刀藤さん、ようこそ。入って下さい」

 

「し、失礼します!」

 

入ってきたのは星導館学園、序列1位。

疾風迅雷と呼ばれる剣士。

刀藤綺凛だった。

 

「よく来てくれた。まあ掛けて下さい」

 

リオに伴われて入ってきた彼女は、まだまだ子供、だった。

中等部1年生ではそれも当然だが、その子供が入学してすぐの決闘で序列のページワン、即ち12位以内に入り、先日とうとう1位に上り詰めた。まさに天才と言っていい。

ただその外見からはとてもそうは見えない。

緊張からか少しおどおどしている所がなおさら幼い印象を強くしている。

隣のリオと背格好はほとんど変わらないが、こうして並ぶとリオの方が歳上に見える位だ。

 

そんな彼女、応接椅子に腰掛けると少しは落ち着いたようだ。

 

「どうぞ」

 

「は、はい」

 

流れるような動作でリオが彼女の前にオレンジジュースのグラスを置くと、不思議そうに見上げる。

同い歳の少女が見せた洗練された雰囲気が意外だったのだろう。そんな彼女にリオが微笑む。

 

そして彼女が落ち着いた所で涼が話かける。

 

「改めて、良く来てくれました。刀藤さん。本来会長が迎えるべきなんだが生憎不在で。代行の俺が応対させてもらいました。よろしく」

 

「は、はい。こちらこそ」

 

「それで今日来て貰ったのは、聞きたい事があってね。刀藤さんは、ページワン、学園序列上位者に与えらえる様々な特権、これについてはご存じのはずですが、実際には受けていませんね。どうしてでしょう?」

 

「そ、それは・・・私のような未熟者がそんなたくさんの褒賞など受ける事はできません。叔父様にも言われていますし・・・」

 

序列1位で未熟者、と言われると涼も立つ瀬が無いのだが、自己評価が低いのか、他に理由があるのか・・・?

 

「なるほど、それで辞退したと。・・・叔父様というと、刀藤室長の事かな」

 

刀藤鋼一郎。統合企業財体銀河でエンターテイメント事業本部に所属している。学園生徒のスカウトを管理していたはずだ。

 

「叔父をご存じなのですか?」

 

「面識はないが、お名前は聞いた事があります(どちらかと言えば悪名だけど)。ふむ、君の意志がそうであるならば構いませんが、別の事も考えておいて欲しいですね」

 

「別の事・・・ですか?」

 

「刀藤さんは今や序列1位です。そんな君が受けられる特権を辞退している、となると、下にいる人達の中で、ならば自分もと行き過ぎた遠慮をする人が出てくるかもしれませんね」

 

とは言え現時点でそんな謙虚な者は出ていない。多分これからも出ないだろう。

 

「そ、それは・・・」

 

「まあ刀藤さんの意向はわかりました。そこを無理に変えろとは言えません。このままでも大丈夫ですよ。ただしばらく時間が経ったら、もう一度考えてみて下さい」

 

「はい・・・。わかりました!」

 

「入学してすぐにページワン、そして序列1位。色々気苦労もあるでしょう。ですが君は一人ではありません。少なくとも生徒会は君を全力でバックアップします。何かあったら言って下さい。そうだな・・・リオ、まず君が相談にのるんだ。頼んだぞ」

 

「綺凛ちゃ―――いえ、刀藤さんとは同じクラスです。任せて下さい!そういう事だから、刀藤さん、よろしくね」

 

「はい!こ、こちらこそ」

 

「それではこの辺で。ああ、リオ、送ってやってくれ」

 

共に中等部1年生の序列1位と生徒会秘書。

二人を見送りながら考える。

もしかしたら数年後、リオが生徒会長、刀藤綺凛が序列1位のままで、この二人が星導館学園の新たな時代を牽引して行くのかもしれない。それはそれで楽しい未来予想だ。

 

その予想を現実の物とする為には、今から配慮は必要だろう。

リオの方はクローディアに指導されていれば問題ないが、刀藤綺凛はどうか?

あの才能を曲げずに伸ばして行けば良いのだが、障害になりそうなのがあの叔父だ。

 

確かに会った事は無いが、見かけた事はある。

その印象はというと、尊大、この一言で済んでしまう。

そんな男が傍にいて大丈夫、と思える程楽観的にはなれない。ならば何をするべきか?

刀藤綺凛その人についてはリオにフォローさせればいい。関係は良さそうだし。

あの室長については・・・生徒会役員とは言え一介の学生の言う事など歯牙にもかけないだろう。

だったら・・・何か手を考える必要がある。

 

 

 

数日後。

 

六花園会議も無事に終わった。

 

そこでも少し話題になったそうだが、アルルカントとの協力の件は正式発表となった。

事が事だけに、学園のメディアだけでなく、公共の報道機関からも取材等があり、多少面倒に思う生徒会の面々。

だが本当に気を遣うのはその後。

技術提携調印式だった。

 

その日。

先方からやって来たのはたった二人。

だがその二人が問題だった。

 

最大派閥、フェロヴィアスの代表、カミラ・パレート。

その協力派閥、ピグマリオンの代表、エルネスタ・キューネ。

 

言わばアルルカントのツートップが取り巻きも連れずに堂々と現れたのだった。

確かに契約の内容については大体協議が終わっていて、特に問題は無いのだが、実務スタッフを誰も連れて来ないというのは、合理的なのか自分達の能力に余程の自信があるのか。

 

涼も事前協議(但しオンラインによる3DTV会議)の時にカミラ・パレートとは顔を合わせていたが、その意向は計りかねている。

 

機密管理仕様の会議室にて、装備局スタッフ、生徒会役員、教員等合わせて10人以上(その他に報道系クラブ関係者)の星導館側の人間に囲まれているアルルカントの二人は平然としていた。

 

「ではこちらが最終契約内容になります。事前協議の物とほぼ変わりありませんが、一応チェック願います」

 

空間ウィンドウをに表示される文章はかなりのページ数であり、少々堅く難しい表現もあるのだが、すらすらと流して行くカミラ・パレート。エルネスタ・キューネの方はあまり興味が無いのか、椅子にもたれて足をぶらぶらさせている。およそ契約締結の場に相応しくない態度だが、性格がアレなのは知られていた。

 

「わかった。特に問題無い。これで進めて構わない」

 

主文だけで20ページ以上ある契約内容を2分程度で読み終わったらしい、カミラ・パレートが言った。

 

「そうかな?第21項補則2において開発ルークスの試験時破損の対応方法に変更があったはずだが、構わんのか?」

 

本当に内容を理解したのか?

その意味で涼が問いかける。

 

「構わない。むしろここもそちらに有利な方法になっているね。それで何か不都合があるのか?」

 

「いや、構わないならそれでいい」

 

しっかり反撃を喰らう。やはり並の人物では無いようだ。

 

その後は小さな波風すら立たず、すぐに正式調印となった。

隣あった机で、クローディアとカミラ・パレートが契約文章にサインする。

何とも前時代的だが、こういう場合の手続きとはそういう物だ。

サインの後、二人共立ち上がって握手。

クローディアとはいつも通りにこやかだが、お相手はほとんど無表情。

ここに至った経緯を考えればそうなるだろう。或いはそういう性格なのか。

 

(外見はクール・ビューティーそのものだが・・・せめて柔らかい表情になれよ)

 

涼も内心はともかく、笑顔で拍手する。

関係者に囲まれた二人に、カメラのフラッシュが浴びせられた。

 

 

 

 

 

契約の儀式が終わると、訪問者二人はあっさりと帰って行った。

 

涼は生徒会スタッフをまとめて会場の後片付け。

その他の関係者も引き上げ始めたが、その中にちょっとした顔なじみを見つける。

 

「よう。部長さん。今回も儲かりそうだな」

 

「あら書記長さん。ご無沙汰ね」

 

新聞部の部長が部員に指示して機材をまとめていた。

やり手と評判の彼女の事、今回も記事と映像を学外の報道機関に高値で売る算段はつけているんだろう。

(一般報道機関は、アスタリスクの学園内には入れない決まりになっている)

 

「そういえば夜吹がいないな」

 

「あの子は他のネタ追っかけてどこか行っちゃったよ」

 

「・・・まあいいけどな。ああ、一つ注意。もうすぐフェニクスだが、奴にはあまり張り切るなと言っといて」

 

「ふーん。どうして?」

 

本音では奴の裏仕事に労力を割いて欲しい為だが、別の理由もある。

 

「あいつ天霧綾斗と仲いいだろ。それはいいんだが、この後いつもの調子で取材やインタビューすると、いずれお姫様が火を吹くぞ。文字通りの意味で」

 

「あー・・・あの子かぁ。そうかもね。わかった」

 

「頼むぞ。夜吹の丸焼きなんて誰もみたくないだろう」

 

ともあれ当面の面倒はこれで終わり。

しばらくは平穏な日常を過ごす事ができればいいんだが。

 

 

 

 

 

 




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