ハリーポッターとゴーント家の令嬢 作:ゆきみかん
雑多な店が所狭しと並び、ロンドンで唯一魔法使いや魔女が必要とするありとあらゆる魔法道具が売られている場所、ダイアゴン横丁。その中心部にある広場の一角に私は居た。
「お嬢様、大丈夫でございますか?」
軽く頭を抑えて目眩が収まるのを待っていた私をリーネが心配そうに見上げてきた。
「うん。まさか、2日連続で姿現しをするハメになるとは・・・帰りにまた呼ぶから、それまで戻って家の作業すすめておいて」
「はい、お嬢様」
バシッ、という音と共にリーネは再び姿くらましで家に帰っていく。
ダイアゴン横丁に来るのは本来煙突飛行粉を使うのが楽なのだが残念ながら、屋敷には在庫がなかった。
わざわざ姿現しをしてまで出かけたくは無いのだが、致し方ない。杖や制服は間違いなく買わなければならないし、その他の学用品も学期が始まるまでに地下から発掘できるか非常に怪しかったのだ。
ダイアゴン横丁はまだ昼前だというのに買い物客で賑わってるようだ。昨日の陰鬱な天気とはうってかわって、今日は抜けるような青空が広がっているからかもしれない。
「まずはグリンゴッツかな」
持ってきたお金でも足りるだろうが、この際新学期に使う分もまとめて引き出しておくのがいいだろう。
広場から大通りの方向へとまっすぐ進んでいくと、正面にそれは見えてきた。ダイアゴン横丁では大小様々な店が立ち並んでいるが、その中でも一際高くそびえ立つ真っ白な建物。これが魔法界唯一の銀行、グリンゴッツだ。正面玄関は鏡のように磨き上げられたブロンズの扉で、左右の子鬼がお辞儀にて出迎える。ブロンズの扉をくぐるとまた扉がある。今度は銀だ。この扉に刻んである物騒な警告文を一瞥すると内部へ進んだ。
「どのようなご用件でしょうか?」
案内役の子鬼が話しかけて来る。
「金を引き出したい。フォウリー家の金庫への案内を」
「かしこまりました。お取り次ぎ致しますのでどうぞこちらへ」
子鬼の後ろについていき、カウンターへと進む。
「よくぞお越し下さいました。フォウリー家金庫へのご案内ですね?では、杖を拝見させて頂きます」
頷くと、母の杖を渡した。子鬼は杖を受け取ると丁寧な手つきでしらべていく。
今日でなくても良いが、杖を新調したら杖登録も変更せねばならない。毎回金庫に入る度に母の杖をもってくる訳にもいかないからね。
「結構でございます。では別の子鬼に案内をさせますので、少々お待ち下さいませ」
子鬼は杖調べを終え返してくるとそう言い、カウンターの後ろに居た別の子鬼に何かを伝える。
私は袖口に杖をしまうと、別の子鬼の案内の細長い通路へと進んでいく。
細長い通路を多少下ると、先導していた子鬼がトロッコを呼び寄せ、そのトロッコに乗車する。今まで数回しか乗ったことは無かったがどうにもこれが苦手だ。私は激しい揺れには強くないらしく、地下深くの金庫に行く頃には姿現しした時と同様の目眩を感じていた。
「こちらでございます。開けますのでお下がり下さい」
そう言うと、子鬼は長い指で扉を上から撫でる。次の瞬間扉は溶けるように消え去った。
金庫の中には金貨や銀貨が天井高くまで積み上がっている。ありがたい事に私が豪遊したとしても一生働かなくても暮らせるような財がフォウリー家にはあった。現在住んでいる屋敷と共に亡き母から相続した物だ。今日、そして今年度にホグワーツで使うには十二分な量を取り出し、鞄へと詰める。詰め終え金庫の前から離れるとどこからともなく扉が現れ再び金庫を固く閉ざした。
トロッコの元へと戻ると、チラリと下を見る。行ったことは無いがまだまだ下には道が続いているのが見える。さらに歴史が古く高貴な家柄の金庫があるのだとか。
もしかしたら、ゴーント家の金庫もそこにあるのかもしれないが、残念ながら私は正当にゴーントの家督を受け継いでいる訳ではないので、今ゴーント家の金庫を開けることは叶わない。昨日魔法省で男から聞いた話だと私の他にゴーント家の者は皆死んでおり、書類上の当主は私になっているそうだからグリンゴッツでの手続きと本人並びに血の証明か何かをすれば開けられる可能性はあるのだろうが、少なくとも今はする気は無い。ゴーント家の金庫に興味が無いわけではなかったが、この金庫にも十二分な資産はあったし何よりこれ以上このトロッコに長く乗るのはまっぴらゴメンだ。
薄暗い地下からダイアゴン横丁の青空の下へと戻ってくると、大きく深呼吸をした。あまり意識したことはなかったが、私はあまり体力が無いのかもしれない。今まで屋敷からほぼ出ることが無かったから致し方ないといえなくはないが。少し休憩してから買い物を始めるとしよう。
回復した私がまず最初に向かったのは、オリバンダーの店。そう、これから一生のパートナーになる杖を買うことにしたのだ。
杖とは、魔法使いや魔女が魔力を集中させて使うことにより、高度な魔術を発揮できる準知性的な魔法の道具だ。普通の魔法使いは杖が無いと魔法を使うことはまず出来ない。基本的に杖は魔法動物の一部を芯とし、その周りを木材で覆う事で完成する。魔法動物も複数の種類、個体がいるし、外側の木であっても同様だ。つまり全く同じ杖という物は存在しない。だからこそ杖選びは重要になるし相性の良い杖を選ばねばならない。その点において長い歴史を持つオリバンダーの店であれば間違いはないだろう。最もダイアゴン横丁で杖の作成販売をしているのはここだけだから他に選択肢は無いのだけれども。
オリバンダーの店へとたどり着き、中へ入ると外からの見た目以上に狭く、店の奥側にあるカウンターの向こうには天井近くまで細長い箱が山と積み重ねられていている。カウンターの前には先客の男の子がおり、そわそわと立っていた。男の子は私が店に入る音に反応してこちらへと振り返り、入口に居た私を見つけるとぽかんとした表情で私の事を見てきた。気にすることも無く男の子の脇へと置いてある椅子へと腰掛けたが、その間もずっとこちらを見続けていた。
「何?」
まっすぐと見返しながら声をかけると、男の子は自分で私を見ていたことに驚いたようだったが、問いかけに答えた。
「あ、ううん。何でもないんだ」
つづいて男の子は何か言いかけたようだったが、店の奥から聞こえてきた声にかき消された。
「いらっしゃいませ」
奥から現れたのは銀髪の老人だった。
老人は男の子を見るやいなや、目を大きく見開く。
「おお、そうじゃ。そうじゃとも。そうじゃとも。間もなくお目にかかれるとおもってましたよ、ハリー・ポッターさん」
それを聞いて思わず私もつぶやく。
「ハリー・ポッター?」
さすがに私でもその名前は知っている。
当代最強の魔法使いと知られている闇の帝王ヴォルデモートを滅ぼしたいわゆる生き残った男の子だ。
私が思わず呼んだ名前を聞くと、ハリーは少し顔を赤くするとチラリとこちらを見た後老人へと視線を戻す。
老人は、ハリーの両親の杖の思い出を話し、その後闇の帝王の杖についても語り終えると杖腕を出すように言い、メジャーをポケットから出しハリーの体を測り始める。一通り測り終えたのか高く積まれた箱の山から幾つか取り出しハリー・ポッターの前に置くと言った。
「では、ポッターさんこれをお試しください。ブナの木にドラゴンの心臓の琴線、23センチ、良質でしなりがよい。手に取って振ってご覧なさい」
ハリーが少し振るや否や取り上げると、その後も何種類もの杖を渡して振らせては取り上げるのを繰り返していた。
「難しい客じゃの。え?心配めさるな、さて次は・・・そうじゃ、ちょっとまっていて下され」
そう言って、店の奥に入っていってしまった。
どうやらまだ時間がかかりそうだから、先に他の店にでもいってこようかと考え始めた時にハリー・ポッターが話しかけてきた。
「えっと、あの、君もホグワーツなの?」
「ええ」
「あの、ごめん、またせちゃって」
「気にしなくていいよ」
「あ、ありがとう。僕、ハリー・ポッター。えっと君は・・・?」
私が口を開く前に奥から老人が戻ってきたので会話が打ち切られる。
「お待たせしました。これを試してみてくだされ。滅多にない組み合わせじゃが、柊と不死鳥の羽、28センチ、良質でしなやか」
ハリーが杖を振ると、杖先からでた金色の火の玉が部屋中を飛び回る。満足気に頷いている老人を見ると、やっと相性の良い杖がみつかったのだろう。
その後老人がハリーへと何か会話をしていたが、私はそれよりも店の入口から急に現れた大柄なというにも大柄過ぎる男に気を取られていた。その背は私の倍はありそうだ。大男の事は老人もハリーも知っているらしく何言か言葉を交わしていた。それからハリーは老人に金を払うと、大男と店の入口へと歩いていき、私に向き直る。
「じゃあ、またね」
そう言って、店からでていった。
しかし、先ほどの男の子が近代魔法史にて語られる、ハリー・ポッターと同じ人物とは。
闇の帝王を滅ぼした力に興味があったのだが、彼自身に本当にそんな力があるのだろうか?何らかの力により、闇の帝王を滅ぼしたのは事実なのだろうが大きく脚色されているのは間違いなさそうだ。
「大変おまたせしました。さあ貴方も杖をお求めですかな?」
「ええ」
杖腕は右だと答えると、老人は先ほどのハリー同様に私の体を測りながら話しかけてくる。
「お嬢さん、お名前をお伺いしてもよろしいですかな?」
「ゴーント。サラ・ゴーント」
驚いた様に老人の手が止まる。
「ゴーント?かの家に跡継ぎが?」
目を細めると、入口の方を眺めつぶやく。
「いやはや、数奇な運命じゃて・・・」
そう言い、メジャーをしまうと一本の杖を差し出してくる。
「モミの木に一角獣のたてがみ、28センチ、少し脆い。さあ振ってみて下され」
軽く振るうと、小さな火花がパチパチと弾ける。老人は私から杖をもぎ取る。
「黒檀にドラゴンの琴線。30センチ、よくしなる」
その後も、サクラに不死鳥、カエデに一角獣など10本近く試してみたがどれもしっくりはこなかった。
「貴方もなかなか難しいですな、ゴーントさん。では今度はこれを試してみてくだされ、ヤマナラシにドラゴンの心臓の琴線、26センチ、しなりにくく、戦闘魔術に最適」
杖を受け取る。それを手にした瞬間、指先から一気に熱い何かが体に流れ込んだ。まるで今まで欠けていた体の一部がもどったかのような気がする。私は確信をもって、体の中心で渦巻く膨大な熱いものに従うように大きく杖を薙いだ。
杖先から銀色の光が迸り狭い店内を染め上げる。
「うむ。すばらしい、非常に素晴らしいですぞ、ゴーントさん」
老人は満足そうに手を叩く。私もこの杖を使えばなんでもできる、そんな高揚感に包まれていた。
杖の代金を払い、オリバンダーの店を出た。存外時間がかかってしまったがこの杖には変えることは出来ないだろう。ともあれ、買うものはまだたくさんある。
少し考えたが、先に細かいものを全て済ませてから最後に制服を買いに行くことにした。
中央通りを行ったり来たりしながら必要なものを購入していく。書庫で未だ見つけられていない分の教科書、錫の鍋、クリスタルの薬瓶。薬問屋では記載されていた基本的な材料の他、個人的にも家にストックが無いもの等多数の素材も買った。これでほぼ全て購入できたはずだ。リストを眺めながら確認し、最後にイーロップのふくろう百貨店へと向かう。
必須では無いのだが、ホグワーツにはペットを持っていくことができる。私はペットを飼ったことはないのだが、今後の事も考えフクロウを買うことに決めていた。
「こんにちは、お嬢さん。どんなフクロウをお探しじゃ?」
「そうですね、賢く大きな子を」
「そうじゃなぁ、では、このフクロウはどうじゃ?イギリスに野生はおらんが、おすすめじゃ」
そういって、茶褐色で大きく、頭部に耳のような形の羽毛が生えているフクロウを持ってきた。凛々しい顔立ちに大きな荷物でも運べそうな立派な翼、申し分ないだろう。
「ではこの子をもらいましょう」
「メスじゃ、名前をつけてかわいがってやってくだされ」
私は頷くと、金貨を払いフクロウを受け取る。名前はまたゆっくり考えるとしよう。
最後の目的地であるマダム・マルキンの洋装店の前に行くと、ずんぐりとした魔女に声を掛けられる。
「お嬢ちゃん、ホグワーツかい?それならこの、マルキンにおまかせなさいな、全部そろいますよ」
「ええ。一揃いお願いします」
「さあ、中へお入りなさいな。今も別のお嬢ちゃんの丈をあわせているところよ」
店の奥へと進むと、少し焼けた健康的な色の肌に銀髪の少女が踏み台の上にたち、もうひとりの魔女が長いローブをピンでとめ合わせていた。
マルキンに促されその隣の踏み台に登ると頭の上から長いローブを着せかけられ、ピンで色んな所を留められる。
「貴方も、ホグワーツなの?」
店で待っている時間が暇なのだろう。隣でピン留めをされている女の子が話し掛けてきた。
「ええ、今年からね。そのホグワーツかどうか聞くのはダイアゴン横丁ではやってるの?」
「そんなことは無いと思うけども・・・、どうかしたの?」
「いや、さっきオリバンダーの店でも男の子にそう聞かれてね」
「男の子なら仕方ないわよ、だって貴方可愛いもの」
「可愛い?」
「ええ、とってもね!その青い目がとっても素敵よ」
そんな事を言われるとは思ってもいなかったからびっくりしてしまった。自分の容姿を気にした事は無かったが、そう言われて悪い気はしない。
そういう目の前の子もすっと通った鼻筋にエメラルドグリーンの目に美しい銀髪。間違いなく可愛い部類には入るだろう。
「貴方も、その銀の髪が綺麗」
「ふふっ、ありがとう!私はダフネ、ダフネ・グリーングラスよ。貴方は?」
「ゴーント。サラ・ゴーント」
「さあ、終わりましたよお嬢ちゃん」
グリーングラスの調整をしていた魔女がそう告げる。
「残念未だ話したかったのに。でも外でママが待ってるみたい。またね!」
そういって、グリーングラスはぴょんと踏み台から飛び降りると出ていってしまった。
ハリーに比べるとすごい社交的な子だったな。同年代の女の子だとあんなものなのかもしれないけども。
私の丈の調整も終わり、私も店の外へとでるとその場でリーネの事を呼ぶ。バシッと音とともに迎えに来てくれたリーネ。
「今日の用事はもう済んだ。かえろう」
「かしこまりました。ではそのように」
必要なものは全て手に入れた。ホグワーツへの入学までおよそ約1ヶ月。
先生の手ほどきもあり魔法についてはかなり自信があるので授業の心配は全くしていない。
早くこの杖で私が偉大な魔法使いへと進むためにも新学期が始まってほしいと思いながら帰路につくのであった。
第二話についても誤字脱字修正ありがとうございます。
誤字脱字を出さないよう努めて行きます。
今後ともよろしくお願いします。