モモンガさんが冒険者にならないお話   作:きりP

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今までのあらすじ。
冒険者になるためにエ・ランテルへやってきた四人姉妹は、街が燃えてて困った。



エ・ランテルの蒼い薔薇

 

 

 

「ちょっと! 『あーん』ってなんなの? こらっエントマ返事なさい! ……もう」

「あれ? ナーちゃん<伝言(メッセージ)>って姫様からじゃなかったんすか?」

 

 ここはエ・ランテル城門の喧騒から数百メートルほど離れた草原。城門前の人だかりなどどこ吹く風で、丸テーブルを囲む四姉妹は、傍から見れば貴族のお嬢様がお茶会を楽しんでいるかのように見える。

 しかしながら街から上がる黒煙や、時折聞こえる断末魔のような悲鳴。民衆の怒号や、すすり泣く声がそれを否定する。

 

 一人眼鏡の女性だけがチラチラと城門を見ては愁いを帯びた表情を見せてはいるが、他の二人は眩しい程の笑顔だ。

 そして最後の一人は、少し複雑な顔をしながら<伝言(メッセージ)>を終え、用意されていた紅茶に口を付ける。

 

「姫様は少し手が離せないそうで、エントマからだったんだけど……『安全を優先して、あとはお前たちに任す』との言伝だったわ」

「ならこの甘美な音色を楽しんで……ってわけにもいかないのね?」

 

 口角を歪みに上げ、ちらりと城門に視線を送ったソリュシャンであったが、眉根を寄せるナーベラルに疑問を返す。

 何気にこの『姫様』呼びなどものっぴきならない理由があるのだが、ぶっちゃけて言えば咄嗟に出てしまう御方の名前を隠す意味でもある。

 

「エントマがね、聞いちゃったんだって……独り言なんだろうけど姫様の言葉を。『いつかみんなであそこに料理を食べに行きたかったなぁ』って……目尻に涙まで浮かんでいたそうよ」

「くぅっ!?」

「それは……のんびりしているわけにはいかないわね!」

「でもなんでナーちゃんはそんな顔してるっすか?」

 

 驚愕に目を見開くソリュシャン。両手の手甲を「ガインッ!」と胸元で合わせるユリ。数瞬前にあったテーブルや椅子にティーセットなどはすでに無く、ナーベラルの手元に残るカップが先ほどまでの光景を思い起こさせるだけ。

 

「いえ、ただエントマが「わたしもぉ、また『あーん』てしてもらいたいからぁ、よろしくねぇ」って言ってたんだけど『あーん』ってなにかしらって思って」

「ナーちゃんの超絶似てないエンちゃんのモノマネは置いといて、マジっすか!?」

「くぅっ!? エントマも大変なのはわかるのだけど、羨ましいですわ」

「ふふっ、そうね。でもあの子もうまくやっているようで安心したわ」

 

 モノマネってわけじゃないんだけど……と、若干頬を染めながら立ち上がるナーベラル。手元のカップも座っていた椅子もいつの間にか消えている。

 

「でも本当に姫様の言った通りね。何が起こるかわからないって。ユリ姉さんの機転で連れてきたはいいけど、こんな状況は想定していなかったわ」

 

 まるで虫けらでも見るかのように切れ長の瞳を細めて一人の男を見つめるナーベラル。だが頭の中では(え、結局『あーん』ってなんなの?)とか考えていたり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルが燃えている。

 

 正直そんなことはどうでもいいのだが、予想もしていなかった光景を見せられて、簀巻きにされた男。ブレイン・アングラウスは逆に冷静さを取り戻していた。

 

 どこからともなく現れた四人組の美しい女性。『死を撒く剣団』の塒を強襲した彼女たちは、冒険者ですらないという。漏れ聞こえる会話からどこかの姫に仕える近衛と言う線が濃厚だが、どうあがいても自身の死は確定している。野盗は即縛り首であり……俺はこいつらに負けたのだから。

 

 だが一対一であればどうであったか。最終的に眼鏡のモンクに敗れたとはいえ、同時に相対していたこの剣士(・・)は多少の物覚えがあるのだろう。だが自分に言わせてもらえばまだまだであったと感じた。

 後衛の赤髪は、自分を癒したことから確実に神官かなにかの癒し手であり論外。完全に想定外だったが、裏の抜け道から入ってきたであろう最後の一人はレンジャーかなにかなのだろう。腰に下げた短剣は飾りではないとでも言わんばかりなナイフさばきは、一流であるとは感じたが、対峙していたなら負けない自信はあった。

 

 ……いや、馬鹿を言え。どう強がろうとも彼女たちのチームワークに敗れたのだ。個としての強さも自身を上回っていたとしてもおかしくはない。それほどの強者たちだったのだ。

 ああそうだ、慢心してしまったのだと。

 

 揃いの装備と言うのだろうか。まるで下ろしたての装備は新人の冒険者のようであった。蒼を基調とした布製であると思われる衣服に皮のズボンにマント。鉄製の胸当てや、神官が装備している前垂れが付いた皮のスカートなどの違いはあるが、傷一つ、綻び一つ無いそれらの装備を見て鼻で笑ってしまった。

 逆にありえないがドレスなどを着ていたのなら、警戒心が跳ね上がったかもしれないが、『貴族の子女が冒険者の装いをしてみました』と言わんばかりの出で立ちに、一瞬警戒が緩んでしまったのは事実だ。

 

 はっきり言おう、武技すら使わせてもらえずボッコボコであった。

 

 強者としての驕りが一切ない、油断のない三人の同時攻撃。もちろん神官の支援も的確だったのだろう。事前の魔法で視覚を遮られることは無かったが、暗闇化などのサポートも抜かりが無かった。

 最初に後方から飛んできたと思われるなにかを抜刀していなした時点で詰み。初速以上の速さは出せず、かろうじて剣士の突きは見えたが、モンクの拳は腹部に突き刺さるまで反応することも出来なかった。

 

 そして彼女たちの目的は冒険者になることのようであり、つまり自分が治療されたのは冒険者組合への手土産のつもりなのだろう。後方からの一人がいた時点で察したが、自分が最後の一人であったのだ。

 

 ここまで綺麗に負けてしまえば後はどうとでもなれと思っていたが、こいつらは何を言い合っているのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対イヤよ! 私はクラスチェンジしたの! 姫様のお風呂になったんだから!」

「すっごい方向に性癖が歪んだっすね……面白いからいいっすけど!」

「とりあえず一日動けなくなるぐらい殴り倒すっていうのはどうかしら?」

「ユリ姉さん……自分で目立たないようにって言ってたじゃない……うーん、そうねぇ」

 

 現状邪魔になってしまった人間をどうするか。門前で槍を街方向に突き出している衛兵に引き渡しても、彼らはそれどころではないだろう。逆に今の状況で何を言ってるんだと思われかねない。

 逃がしても構わないのだが、事前情報で冒険者にランクと言うものがあり、一足飛びにランクを上げられるかもしれないこの人間の処遇を考えあぐねているのだ。

 

「えっと……ブライアン。お前この街は詳しいの?」

「……昆虫シリーズは終いか? 今までで一番惜しいが俺の名はブレインだ。まあ隅々までってわけじゃないが、それなりにはな」

 

 交易の要ともいわれている城塞都市エ・ランテル。ブレインとしても自身を高めるための装備を探したり、消耗品の買い足しなどで訪れたことはある。

 

「なら連れていきましょう。ここでやる(?)のが拙いんであって、中なら問題ないでしょう? なんて宿でしたっけユリ姉さん」

「黄金の輝き亭ね。ブレインさんわかる?」

 

 お前さっき殴り倒すだのなんだの言ってた割には『ブレインさん』とくるとは驚きだったが、不承不承ながら答えていく。

 

「有名な宿だからな。そりゃぁ知っているが……この状況で宿に行こうっていうのか?」

 

 墓地からアンデッドが大量発生している。民衆の声からエ・ランテル市街の状況も察せられるが、こいつらは一体何がしたいんだと呆気にとられるブレイン。

 

「もうチャッチャと行くっすよ! また担いで行くのめんどくさいから自分で歩く!」

「ほら早くなさい。これあなたの武器ね。でもアンデッド相手だと私もだけど対処が面倒よねぇ。今回も遊撃かしら?」

 

 自身を縛っていた縄を外され、愛刀を手渡される。どうやったら胸元から刀が出てくるんだよとか、なんでお前らサッサと先に行ってるんだとか、呆れを通り越して口をポカンと開けたまま棒立ちになってしまった。

 

 なんだこれは……馬鹿にでもされているのか? 逃げ出すとは思わないのか?

 

「……プッ……ククッ……こらっ! お前ら待て、俺が案内役だろうに!」

 

 なんと言うのか、ボタンの掛け違えとでも言うのだろうか。思えばあの婆さんを入れて三度目の敗北だというのに心が折られることも無かったのは一対一ではなかったからだろう。『相手が魔法使いだから負けた』『相手がチームだから負けた』

 

 負けた理由を模索しては『ガゼフ・ストロノーフ』にさえ勝てれば良いなどと甘えていたのだ。

 

 死地に向かおうとする少女たちを追いかける。あいつらにとって既に俺が死人(しびと)だと言うならそれでいい。再び殺そうと思ってくれるなら万々歳だ。今度こそ俺の全てを見せてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時の覚悟をブレイン・アングラウスは心底後悔するのだが、後の祭りである。

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

「ここは特にモンスターが徘徊しているというわけではないのね」

「煙が上がっているのは西側だな。あっちはほとんどが共同墓地で貧民街がある程度。それでどうするんだ? 黄金の輝き亭は東側の真反対だから無事だとは思うが、アンデッドが大量に湧きだしてあふれかえるまでそこで待つのか?」

 

 検問所を素通りし数百メートルほど走りきって出た大通りは東西南北に道が続くメインストリート。ここから東へまっすぐ進んでいけば目的の宿には着けるが、それがなんになるのか。

 

「集合。作戦会議」

 

 そしてユリの号令で5人は輪になるように集合する。ブレインとしては「俺もなのか?」とぼやく以外ないが、4人の鋭い視線にさらされしぶしぶと寄って行った。

 

「現状宿が安全なら問題ないわね」

「んじゃぁその共同墓地ってのに行ってみるっすか? あれ? この場合は撤退の方がいいんすかね?」

 

 まただ、この不可思議さだ。正直こいつらはそんじょそこらの冒険者とは一線を画した身体能力をしている。そしてある意味不遜すぎるくらいの態度で接してくるくせに嫌に慎重なのだ。

 

 ブレインは知らない。凍河の支配者とも呼ばれるコキュートスによる死んだ方がましレベルの実践訓練を。見学に来た他の階層守護者も加わっての更なるしごきを。

 それだけならまだしもLv16の姫様とデスナイト三体を相手にしたチーム戦の訓練での辛勝(・・)

 圧倒して当たり前。手加減して傷を負わせないようになどの配慮をする必要などなかったと言わんばかりな、戦術や未知のアイテムなどで翻弄され、なんとか姫様以外を倒したものの、負けを宣言される姫様の心配げな涙を、四人は忘れることが出来ない。

 まるで「この子達は大丈夫なんだろうか……」と憐れんでいるようで。

 

 姫様が出立されてからの三日間は更なる地獄の日々であったが、今彼女たちに慢心と言う言葉は無い。

 

「撤退は愚策でしょう。そもそも私たちの目的が……まぁいいかしら。ブレイン・アングラウス、冒険者組合はどちら側にあるのです?」

「あっ、ああ。西側だな」

 

 まぁ別にこいつは死ぬんだからいいかとソリュシャンは、そもそもの目的である『強者の情報を得る』と言う目的を明示する。

 

「なら冒険者はこの状況に対応するために動いているのよね。それならば行くしかないでしょう」

 

 傍から見れば……いや、ブレインから見れば「私たちだって冒険者になるんだから!」なんて格好良いセリフにも聞こえたかもしれないが、この状況を覆す強者を発見するのが目的だったりする。

 

 だが近隣諸国で名の知れた強者をすでに簀巻きにしていた事実には気づいてはいない。単純にこの四人を相手にして、初手でギリギリ死ななかったのがブレインだけだったのだ。

 

「そうね。じゃあまた私が前衛でいいかしらね? 対アンデッドだし」

「今回は自分も前出るっすよー! 前回は我慢したんだからいいっすよね!」

「ふふっ、わかってるってば。姫様ならどうされるかしら……効果時間延長で今からかけておいた方が良いかしらね……でもMPの節約も考えるべきっておっしゃられていたし……」

「ナーちゃんが支援に徹するって面白いわね。私は墓地に先行して……いえ、最悪を想定するのよね。墓地までは索敵とナーちゃんの守りに徹するわ」

 

「……」

 

 ほぉ、と思わず感心してしまう。刺突耐性があるアンデッドに対して剣士を下がらせる。そして神官が前衛に出るというのはよくあることとは聞いているが、太陽のように朗らかに笑うあの少女で大丈夫なのだろうかと、若干不安にもなってしまう。

 

「俺も前に出るぞ。ああ、邪魔をするわけじゃない。壁にでもしてくれて構わないさ、どうせ俺は死んでるんだろ?」

「よーし、ぶんぶんするっすよー。エンちゃんが見てたら「ブンブンするのが大好きなんだぁ」と言わんばかりにぶんぶんするっす! ん? なんか言ったっすか?」

「おい……まぁいいさ……とにかく墓地まで案内すればいいんだな」

 

 何やら今まで持っていなかった真っ白な杖を構えて、よだれを垂らしかねない恍惚な表情を浮かべている赤毛の少女に、ブレインのみならず全員が不穏なものを感じながらも一行は走り始める。

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

「ぶん!」「ふんっ!」

「……」

 

 前衛にユリとルプスレギナ。それを追いかけるようにブレインが続く。後衛にはナーベラル。その半歩後ろにソリュシャンが追従する。

 立ちふさがるのは動死体(ゾンビ)骸骨(スケルトン)ばかりなので脅威ではないのだが、その進行速度に目を剥くブレイン。むしろ前に敵が見えた瞬間競うように速度が上がる二人に呆れるほどだ。

 

「ソリュシャン……この場合の最悪ってなんなのかしら。私にはさっぱりわからないのだけど……」

「そうねぇ、ブレイン・アングラウス。アンデッドが墓地から大量に湧いて出るっていうのはよくある話なのかしら?」

 

 さすがにレベル一桁、それも1とか2とかいうレベルのモンスターを前にして何を警戒したらいいのか不安になるナーベラル。姫様の涙に誓って絶対慢心はしないと強い心持ではあるのだが、どうにも気が緩みそうになってしまいソリュシャンに問いかける。

 そのソリュシャンも少し逡巡してから、まずはとブレインに質問する。

 

「墓地からアンデッドが沸くのはよくあることだ。だが冒険者や衛兵隊が毎夜巡回しているはず。これは弱いアンデッドが強いアンデッドを引き寄せるのを防ぐためで、放置などするはずも無い。だがこの量は……正直あり得ないぞ」

 

 墓地まであと数キロというところまで迫ってきているが、前衛の二人はすでに二桁近いアンデッドを屠っている。この分では100や200体では済まないかもしれない。

 

「ならナーちゃん、これを人為的に起こしている人物がいたらって仮定するのはどう?」

「あぁ、なるほど」

 

 第七位階魔法『死者の軍勢(アンデス・アーミー)』。自身も第八位階まで使えるとはいえ、第七位階を使える人物がそれ以上の位階を使えないなんて保証はどこにもない。つまりは私たちを超えるレベルの人物がいたって不思議ではないのだ。

 

 耳に届くその会話にありえないだろうと眉を顰めるブレインであったが、前から上がる声に意識を戻す。

 

「墓地はこっちみたいだけど……」

「声が聞こえるっすね。結構戻ることになるかもだけど……あっちは?」

「あっ、ああ。中央方向に戻ることになるが冒険者組合がある」

 

 戻るか進むかの思案は吹き飛び、その言葉で全会一致で戻ることに。四人に与えられた使命は『冒険者になって強者の情報を集めてもらう』なのだから。

 

 この状況下でついでだから登録もしておきましょうか、なんてお気楽にのたまう四人の少女を見ながら、声をかけようとするブレインだったが、諦めたようにかぶりを振り、またも走り出す少女たちを追いかけるのだった。

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

「別に苦戦しているわけではない……のよね?」

「どうなんすかねぇ、ふふっ。はぁはぁ言ってるけど、どうなんすかねぇ」

「もうちょっと頑張ってるところが見たいわね。何かこっちに向かって手を振っているみたいだけれど……あ、やられた」

「本当に冒険者なの? 一般人じゃないのかしら?」

 

「……」

 

 数分ほど走って見えたのは、篝火に照らされる冒険者組合とバリケード。そして大量のアンデッドに冒険者達だ。ただバリケードは組合を守っているのではなく逃走方面への街道を守っているようだ。

 つまりはここが最前線なのだろう。

 

 だが確かにこれは少々おかしい。散らばっている骨がまるで絨毯のようになっていることから、壮絶な戦闘があったのだろうとは察せるが、少々アンデッドの数が多く『腐肉漁り(ガスト)』や『膨れた皮(スウェル・スキン)』が混じっているとはいえ、この程度で息も絶え絶えとはアイアン以下の冒険者たちなのだろうか。

 確かエ・ランテルにはミスリル級冒険者が3チームいたはず。第三位階魔法が使える者など有力な者達であるはずなのに、彼らは依頼で街を離れていたりしたのだろうか?

 

 ブレインとしても「え? お前ら助けるとかしないの?」なんて考えもあったのだが、のんびり見学を始める少女たちにどうこう言うことも出来ず留まるのみ。

 

 ただ彼らが手を振っていたのも、遠目から見ていても安堵した空気を醸し出していたのもこいつらのせいだろうとは察せた。いや、もしかした俺も含まれているのか?

 

 あの時……城門を抜けてエ・ランテルに入るときにはものすごい歓声が沸いたものだ。

 

『あぁ……お噂通りの美しさだ……』

『頑張ってください! 応援しとります!!』

『きた! 蒼薔薇が来た! これで勝つる!』

 

 などなど……完全に間違われているが……確か『蒼の薔薇』は五人の絶世の美女とか、いや一人だけ男が混じっているとかの噂は聞いたことがある。あの婆さんが元いたチームだが他のメンバーは見たことは無い。

 

 そんなどうしようもないことを考えていたブレインだったが、アンデッドたちの中央に火球がさく裂し我に返る。

 

「おいぃいい! 蒼薔薇ぁあ! 早く手を貸せー!!」

 

 バリケードを飛び越えて数人の冒険者たちが躍り出てくるが、皆疲弊しているのか肩で息をしているのがここからでもわかる。どうやら火球はその冒険者たちからのようだ。

 

「はいっすー! 新人冒険者の蒼薔薇が行くっすよー!」

「あぁ、そういうことね」

「面白いわねぇ……お近づきになれるかもしれないわね」

「私ってポンコツなのかしら……ソリュシャンあとで教えてね」

 

 どうやらこいつらはなにかに間違えられていることに、いや、有名な冒険者に間違えられていることに気付いたようだ。

 だがなぜそこで否定しない。すぐにばれる嘘をつく理由が分からない。こんなことが蒼の薔薇に知られたら、目を付けられてもおかしくないぞと思案しながら、暴れまわる四人組に交じり戦闘に加わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でっ、ですから『蒼い薔薇』でもお受けすることは出来ません。現存する冒険者と似たチーム名ですと、依頼者に混乱を与えますし……」

「えぇー……まぁいいっす」

「まぁ分かっていたことだけどね。インパクトはあったんじゃないかしら。それではチーム名は『若草』でお願いします」

 

「つまりは撒き餌ね」

「なるほど……断られることも分かっていたのね。姫様がつけてくれたチーム名を使わないのかと思ったわ」

 

 冒険者組合長プルトン・アインザックは受付で行われている会話を腕を組んで見つめる。なんなんだこの娘たちはと。

 

 墓地からアンデッドが大量発生したという一報に、不穏を感じて集まってくれた冒険者たちを向かわせたが、戻ってこれたのは一人だけだった。

 数千のアンデッドが溢れかえっているという情報から、討伐より住民の避難を優先することを冒険者に指示。三重の城門の内側に逃げることは悪手と判断し、組合前の街道を死守。城外への道を生かす判断をした。

 避難は順調に進んでいたが、住民の足はそれほど速くは無い。徐々に圧を増してくるアンデッドたちに対し、交代でバリケードを死守していく。

 

 数は多かったが一対一ならアイアン級程度でも十分対処が可能だったため、これなら何とかなるかと思った矢先に現れたのは、身の丈4メートルを超える巨人であった。

 『集合する死体の巨人(ネクロスウォーム・ジャイアント)』が二体だ。

 

 幸いなことにミスリル級冒険者『天狼』『虹』『クラルグラ』は疲弊はしているものの健在。それに魔術師組合長テオ・ラケシル。不明な息子を探しに訪れていた薬師リイジー・バレアレ氏も参加し、何とか撃退に成功はしたものの、アンデッドたちは無限に迫ってくる。

 もしかしたらまた、あの巨人級のアンデッドが迫ってくるかもしれないと、先ほどの戦いでボロボロになった上級冒険者達を休ませている間頑張っている、アイアン級以下の冒険者たちを見つめていると、不意に歓声が上がる。

 

 まるで踊るようにアンデッドを屠っていく四人の美姫。篝火に照らされるそれは絵画のようであった。

 

「チッ……さすがアダマンタイト級の動きだぜ。ふん……俺もすぐ追いついてやるがな」

 

 なんて愚痴なのか賞賛なのかわからない『クラルグラ』のリーダー、イグヴァルジの言葉を聞いて合点がいった。確かに『蒼の薔薇』の正確な容姿を知っているのは自分ぐらいなのではないだろうかと。

 

 

 

 

「はい、それではユリ様、ルプー様、ナーベ様、ソリュシャン様、ブレイン・アングラウス様。以上五名チーム『若草』の登録を完了しました。冒険者タグの発行は後日……冒険者組合が残っていたらになります」

 

「あはははは、面白いっすね。了解したっす!」

「おぃいい!? なんで俺が入ってるんだ!?」

 

「なんでなのユリ姉さん?」

「情報は有用だからよ。ここまでの道のりでも役に立っていたし現地協力者としては合格点だと思うの」

「それに思ったよりタフだったし、ホモだとも思うから色々問題ないですわね」

「そっちのお前ら! 俺のあらぬ噂を無垢な娘に信じ込ませるなよ!?」

 

 おっと少々呆けてしてしまったが、その名前を聞いてやはりそうだったかと声をかけることにする。共同墓地方面から迂回してきてくれたおかげで、しばらくは冒険者たちも休める。何故か冒険者登録を始めるとは思わなかったが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレイン・アングラウス殿! 私も観戦していたあの試合以来姿を隠していると聴いておりましたが、なるほど、弟子を育てていらしたのですね。この度の御助力、冒険者組合長として感謝いたします!」

「いやっ!? ちが……俺は……」

 

 慌てて否定しようとするものの、自分は野盗の用心棒でなどとのたまうことも出来ず四人に振り向くが、ものすごい良い笑顔で微笑み親指を突き出す美少女たちに、完全にはめられたと悟るブレイン。

 いや実際にははめられてなどいない。証拠などないのだから。だが腐っても武を志していた自分に負けてなどいないとは口が裂けても言えない。こいつらが「野盗を捕まえました」と言えば素直に投降だってするだろう。

 いやそもそもの前提が違う。彼女たちにとって俺などどうでもいいのだ。単なる野盗の生き残りでも、情報提供者という名の仮初のチームの一員でもだ。

 

 言いように使われるのもしゃくだが、こいつらの底も……いや、力の頂も見て見たいのだ。

 

「っ……弟子などではありませんが……ああもういい! お前らもう用事は済んだんだろ? 墓地に行くんじゃないの……か!?」

 

 お偉いさんと話すような言葉は持ち合わせていない。すぐさま振り返って四人を視界に入れるが、少々奇妙な光景に唖然としてしまう。

 ばらばらの位置に立ってはいるが、まっすぐな姿勢で直立し、ある一点に向けて綺麗なお辞儀をする美少女たちの姿をだ。向けられていたのは組合の受付嬢であり、それが登録に対する会釈とは思えないほどの丁寧さを感じる心のこもったお辞儀であったのだ。

 受付嬢の方も「えっ!? な、なんで!? そ、そんな、おやめください」と顔を真っ赤に染めて、小さな声を発しながら慌てふためいている。

 

 無論ブレインにもこの受付嬢、イシュペン・ロンブルにも知りえない事ではあるが、ナザリックの主人が『世話になった人物』の情報は、当然今回の任務に当たっている者たちに知らされているのだ。繋がりを示すことは出来ないとはいえ、彼女たちが出来る精一杯の礼であったのだ。

 下等な人間種に対してという思考は勿論あるが、『絶対の主人』であり『妹』でもある姫様が世話になったと知れば敬意を向けないわけがないのであった。

 

「それじゃいくっすかー!」

 

 まぁ、その敬意も長くは持たないのだが。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれどこへ行こうというんだね!?」

 

 完全に全員に無視されているような状態だったことに我に返り、とにかく現状の最大戦力の動向を聞くことにするアインザック。いくら冒険者組合に所属したとはいえ、ブレイン・アングラウスと言えばかの王国戦士長と同等の強さを誇るのだ。実力だけならアダマンタイト級といっても過言でもない彼に指示を出せるとは思っていない。

 この状況での冒険者登録など何の制約も無いのだからと考える。

 

「この『蒼い薔薇』が墓地まで行ってくるっすよ!」

 

 え、まだ引っ張るの? とか他の仲間に突っ込まれているが、組合で休憩を取っている遠巻きに様子をうかがっていた低級冒険者たちからは盛大な歓声が上がる。

 受付でのやり取りが聞こえていた者たちにとっては思うところもあったが、先ほどの戦闘での強さも垣間見ている。

 一人真っ赤にした顔を手で押さえ、「いや、違うんだ……アダマンタイト級の強さは間違いないんだよ……」とかぶつぶつ言っているイグヴァルジは放って置いてあげようとかいう優しさでもあったりする。

 

 確実に事態の原因の中心は共同墓地であることが分かっていたため、アインザックにも否定は無い。これ以上は何も言うことが無いとばかりに道を開けるのだが、一人の老婆が女性たちの前に飛び出した。

 

「すまぬ! お嬢さんがた! もし……もしでいいんじゃ……孫を……ンフィーレアを見つけたら助けてはくれんだろうか?」

「婆さん……すまないがお前さんの孫なんか知らな」

 

 唐突に出てきた老婆を邪険にするわけにもいかなかったが、さすがにそれはとブレインが断ろうとすると、後ろから小さな声が上がる。

 

「ンフィーレア? あれ? なんだったっすかね?」

「あーあのシズが『……しりとりで使ってもいい?』って言ってたやつね」

「ナーちゃんのものすごく微妙なモノマネは置いといて、そういえば書いてあったわね」

 

 ユリ姉さん私今回すごいダメな役回りかも……と抱き着く(ナーベ)の頭をなでながら、ユリは老婆に慈愛の籠った瞳で答えを返す。

 

「お孫さんの正確なお名前と、できれば容姿なども教えてください。出来るだけ力になりましょう」

「おぉお! こんな無茶なお願いを……感謝いたします……感謝……いたします、ううっ」

 

 嬉しさに泣き崩れる老婆に、一連の会話を聞いていた他の冒険者たちからも賛辞の声が上がる。「もしかしたらこんな時だからなのかな……英雄って奴が現れるのは」なんて詩的な言葉を紡いだのは誰であっただろうか。

 

 もしかしたらエ・ランテルは救われるかもしれない。憔悴しきっていた冒険者たちの目にも力が戻ってくる。ただ、

 

「ものすごいハーレムパーティだな……」

 

 なんて声を漏らした冒険者の言葉は誰も否定できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ……共同墓地の門が吹き飛んだんだが?」

「どうなの? ルプー」

「姫様は力は無いって言ってたっすけど……魔法威力増幅的な意味でも元装備と変わらないぐらいっす……クオーター・スタッフ(いわゆる鈍器)って言ってたんすよ? 正直ゾクゾクするっす!」

「うわぁ! すごいわ!」

「いや……そういう事じゃなくてだな……」

 

 門を覆うアンデッドにぶち込まれた特大の火炎球。「フレイム・ストライク」とか言っていたか……正直そんな魔法名は聞いたことが無かったが、目の前の惨状に呆気にとられるしかない。

 

「<負属性防御(プロテクション・エナジーネガティブ)><集団標的盾壁(マス・ターゲッティング・シールドウォール)>……あとは逐次かしら……それじゃ行くわよ」

「漠然とした方向しかわからないわねぇ……いったん先行するわ。ナーちゃんお願い」

 

 そして目の前で<不可視化(インビジリティ)>の魔法をかけられ消える金髪の少女。

 

魔法詠唱者(マジック・キャスター)……だと!?」

 

 自身にもかかる魔法の効果に愕然とするブレイン。特大の爆炎に驚く暇も与えられず、次々とかけられる支援魔法の数々。「あれは効果時間が……」と、ぶつぶつ呟く少女からまだまだ余力があることも察せられる。

 

 神官であり論外と断じてしまっていた赤毛の少女に。自身より格下だと思っていた剣士が魔法詠唱者(マジック・キャスター)であった事実に……ブレインはもう考えるのをやめた。

 そして達観した瞬間に上空から現れたのは骨の竜。スケリトルドラゴンであった。

 

「あーすまん! ちょっと頭を冷やすためにこいつは俺にくれないか?」

 

 そう言って前方に躍り出るブレイン。

 

「あーズルイっすー……って言いたいところっすが、何か見せてくれるんすか?」

「ほら男の人は溜まりやすいから……察してあげなさい」

「わかったわ、ユリ姉さん」

「もう……ホント……行くぞ! 武技! ≪領域≫!」

 

 本来の自分であれば逃げてもおかしくは無い相手だ。だが……だが! ここまで蚊帳の外に置かれて……そんなつもりはないのだけれどと言わんばかりに心を砕きに来る彼女たちに、見せつけたいと思う心が……身体が、ブレインの細胞を活性化させていく。

 

 本来とは逆向きに鞘を返し、両腕を上げその剣を鞘ごと上段に構える。

 

 自身の持つ刀の名は『神刀』。その名の通り神聖属性があり、アンデッドにも有効な武器である。道中の戦いでは鞘をひもで縛り鈍器として対応していたのだが、その結び目は解かれている。

 

「秘剣虎落笛じゃ……あんな骨に突いてどうなるってんだよな……なら!!」

 

 地面を滑るように飛来するスケリトル・ドラゴンが領域に触れた瞬間にはすでにブレインは中空に飛び上がっていた。

 

「秘剣唐竹割!!」

 

 自身最高速と思われる抜刀を峰でスケリトル・ドラゴンの頭部に叩きつける。

 

 後にはパーンと真っ二つに分かたれた竜が、勢い余って後方へ滑り、崩れていく。

 

「くっ……くくっ……はぁ……どうだお前ら! 武技ってわけじゃな……おい!?」

「終わったっすかー? さくさく行くっすよー!」

 

 また一歩自身の壁を少しだけ崩せた感覚に感動する間も与えられず、遠くの方で戦闘をしながらズンズン進んでいく少女たちを涙目になりながら追いかけるブレインであった。

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

「え? この人たちなの?」

「内部は入り口付近に軽装戦士かな? それが一人と地下に老婆が言っていた『目が隠れてて卵の殻を被ったような髪形の少年』が裸にスケスケのワンピースを着て棒立ちしていましたわ」

「うわっ変態っすね!」

 

「ブロ……ブレ……あいつらは冒険者なの?」

「……いや、どう見てもド本命だろう」

 

 小さな霊廟と言うのだろうか、その前でどう見ても怪しい集団がフードを被り、何かを唱えていたのだが、不意に現れた複数の男女を見とめて声を上げる

 

「なんだ……お前らは。どうやってここまで来れた?」

 

「ソリュシャン他はどう?」

「私ではわからないわ……完全不可知かしら。いえ、そうだったとしたらこいつらに私たちの存在を知らされててもおかしくないし……かなり高い確率で最悪の人物はいなさそうね」

 

「待ってまってぇ! カジッちゃん私にやらせてよぉ! うぇひっ、こーんなに可愛らし!? ヒグッ!?」

「どっ、どうしたクレマンティーヌ!?」

 

 自分の大好きなとんでもない美しさの初心者装備をしたカモが現れたのを視認して、我慢ならず霊廟の出口から飛び出してきたクレマンティーヌと呼ばれる軽戦士であったが、自身を襲う懐かしい毒物の感覚に戦慄する。

 

「あ、毒みたい。確率的に毒が多いのかしら? とにかく人間体相手なら私も出るわよ」

「ソーちゃんのそれ姫様に貰ったやつっすよね? 他にどうなるんすか?」

「野盗のところで試した時は、毒・麻痺・即死……はどうなのか分からなかったわね。すぐ死んじゃうから。面白いのは氷柱になったのもあったけど、姫様がおっしゃってたとおり確率はかなり低いわ」

「ほらほらあなたたち、おしゃべりは後でよ。とにかく殴ってみればわかるわ」

 

 まずは軽いジャブだとばかりにフードの男たちを強襲するユリ。軽い六連撃を放つが最後の一発は地下から出てきた骨の腕に止められ……

 

「ハッ!!」

 

 無い。発勁と呼ばれる力の波動がスケリトル・ドラゴンを粉砕し、様子見とばかりに一旦下がる。

 

「もうユリ姉さん! 服が傷ついたらどうするのよ! <鎧強化(リーンフォース・アーマー)>」

「あっ!? ご、ごめんなさい私ったら」

 

 あぁ、謝るところそこなんだ……と、これまでの出来事で達観の極致まで来ていたブレインには、多少目を見開く程度であったが、残された敵の首魁であろう二人にはとてつもない衝撃であった。

 

「まっ、まずいカジッちゃん……あの眼鏡の攻撃はギリギリ見えたけど、自分がなんで毒状態なのか、んぐっ、さっぱりわからないよ……」

「なんだ……こいつらは一体何なんだ……」

 

 治癒のポーションをさっと呷り、マントを外して油断なく周囲を警戒し腰を軽く落とす。完璧な臨戦態勢……わかっている……あの女の手元が伸びたようにも見えたが斬られたんだろうという事は。口角を歪みに上げてニチャっと冷笑しこちらを流し見るあの女に。

 

「うはっ! 雌豹っすね!」

「確かビキニアーマーでしたっけ……ブティックで姫様がじっと見てたのを覚えているわ」

「えぇぇ!? 本当っすかユリ姉さん! ……あ、でも意外とアリかも」

 

「あのお姉さんは私をご指名みたいなんだけど……いいかしら?」

「慎重派のソリュシャンが言うなら構わないと思うけど……一応ルプーもお願いね。私たちはカジッチャンて方にお話を伺ってみるわ」

 

 『人間のドS』対『人外のダブルドS』。ある意味可哀そうになってしまうほどのレベル差のドリームマッチは、とんでもない彫像(・・)が出来上がった事でダブルドSの腹筋が崩壊し、お開きとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊廟から少年を担いで現れるブレイン。とにかくこれで解決だろうと全員が集まってくる。

 

「じゃぁ一応……ユリ姉さんはちょっと離れててくれっす。<集団軽傷治療(マス・キュア・ライトウーンズ)>それじゃ帰るっすか?」

 

 HPが1でも減ってたら姫様に泣かれるっすからね、なんて笑うルプスレギナの配慮だったのだが、どさくさに紛れてンフィーレアの目も治っていたりする。

 

 霊廟内で発見されたンフィーレアがこの魔法の発信源であったことは分かったのだが、頭部のアイテムが問題であった。子供を発狂させるのはユリにはどうしても出来ず、やむを得ず『ほうれんそう』を発動。

 姫様に連絡を取ったナーベラルは事の次第を事細かく報告する。なぜか感涙に咽び泣いていた姫様の声にあたふたするも『人命優先でアイテムは破壊』との指示を承り、この騒動に終止符を打つことが出来たのだった。

 ついでに言うとカジッチャンはすでにオトモダチだったりする。

 

「なあ……これはなんだ?」

 

 それは朝日に照らされて光り輝く巨大な氷の彫像だった。

 

「ぷっ、すごいのよこれ。外の世界もまだまだ楽しめそうだわ」

「偶然の二連撃だったんすよ。<巨人化(エンラージ・パースン)>も入ってたんすよね! 爆笑っす!」

 

 ソリュシャンがアインズから頂いた短剣は、低級の状態異常のクリスタルを大量に詰め込んだ所謂お遊び用の武器だったのだが、低確率ではあるものの連撃でそれが発動してしまったのだ。

 

「つまり大きくなって凍ったのね……なにか胸元を抑えて居るみたいだけど」

「魔法の防具じゃ無かったみたいなんすよね、なんか大量のプレートみたいなのを編み込んだ手作り防具だったっぽいっす」

 

 右腕で胸元を抑え左手で股間を抑える艶めかしいポーズをした巨大な氷の彫像は、わずかながら羞恥に顔を赤く染めているようにも見える。

 

「これはいつまでこのままなの?」

「一発殴れば戻るけど、時間経過だと……うーんちょっとわからないですわ」

 

 不憫な……と思うも何気にブレインも男として目を逸らすことが出来ない。

 

「なら放って置きましょ。依頼も片付いたし、目的の人物(強者)もいなかったようだしね」

「『蒼い薔薇』の凱旋っすー!」

 

 すでに歩き出している四人に付いていくオトモダチらしいカジッチャン。その後ろをンフィーレアを担いでついていくブレイン。あぁこいつらは人の心を折る天才なんだなあと考えながら。

 

 

 

 

 後に面会することになる高貴なオーラを発する絶世の美少女に『あの娘たちをよろしくお願いしますね。優しい子たちだから心配で心配で……』とこぼれそうになる涙を見て、

 

「わかりました!! わかりましたから泣くのはおやめください!!」

 

 と絶叫したのは、お前姫様泣かせたらどうなるかわかってるよな? と言わんばかりの四人の初めて見せた本気の圧力に屈してしまったからであったり、ブレインの胃を崩壊させていく冒険譚は、本家『蒼の薔薇』を巻き込んでまだまだ続いていきそうである。

 

 なおクレマンティーヌを追っていた風花聖典の隊員が、泣きながら裸で走り去る巨大な女性を発見していたが、いろんな意味でクレマンティーヌと繋がらず、本人の望まない形で逃走に成功していたりもするのは、また別のお話。

 

 

 

 




一年ぶりにノリと勢いで書いてしまったw ちょっとでも笑ってもらえたら嬉しいですねw

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