Fate/erosion   作:ロリトラ

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今回、ちょっと一部表現がエグめかもしれないのでご注意ください


幕間/鬼の晩餐

 

ーーーinterludeーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

守掌市に纏わる都市伝説の一つ、守掌の人喰い鬼。人々の間では未だ一笑にふされる存在に過ぎない彼らは、守掌の地下でその息を潜め、今この時も巣食っている。

 

 

守掌市の地下を流れる下水道。冬でも暖かいここは真夏を控えたこの時期、蒸し暑さを地上より多く蓄えている。だが、そこに佇む黒衣の現代衣装に身を包んだ痩せぎすの男は汗一つかかずにこれより訪れるであろう朗報と自分達家族の好物(・・・・・・・・)を待ち望んでいた。

 

しかし、その期待は不発に終わり。

家族の一人を失った空っぽの喪失感が彼の胸を蝕み。

その哀しみにつんざかれるように絶叫をあげはじめる。

 

「ああ、ああ、ああああああ!!私の、私の息子セドリックよぉぉおお!なぜ、何故死んでしまったのだぁぁああ!!」

 

その声には深い哀しみが刻まれている。

 

「……まぁ、いっか。」

 

しかし、一転。

まるでそれまでの哀哭が嘘であったかのような豹変。だがそれは先程の慟哭が演技であったのでも嘘であったのでもなく、確かに本物であった肉親の喪失による悲しみをすぐにどうでもいいもの(・・・・・・・・)として切り捨てただけであり。

それこそが、その男の異常性を何よりも表していた。

 

「なんだい、アサシンの旦那。セドリックの坊ちゃん死んじまったのか。折角魔力を含んだいい肉を持ってきてくれると思ったのにねぇ。しかし、こうなるとなかなかにそれを倒したサーヴァントは厄介じゃねぇか?」

 

黒衣の男に対し、親しげにそう言い放つのはこの場所には徹底的に不釣り合いなコックコートを着た金髪の男性。

そして呼ばれる名は、先程セイバー陣営により脱落させられたはずのアサシンの名。

 

「おぉ、猟理人(シェフ)か!全く、我が息子ながら実に不甲斐ない。聖杯戦争に勝ち抜き、我らの悲願を達成しなくてはならないというのに。」

「あぁ、だがアサシンの旦那。それはは別に気にすることじゃあないだろう。旦那は俺の料理さえ喰えば幾らでも家族を増やせるんだからさ。」

 

そう言うと猟理人は手に持った紐を引っぱる。

そうして引きずりだされてきたのは手足を縛られて紐で繋がれた全裸の女性だった。

 

「た、助けて……お願い、何でもしますからぁ………」

 

彼女はなぜ、と必死に考えながら助けを乞う。数時間前にアサシンの家族に捉えられて、服を毟られ縛られたことにより彼女の恐怖は臨界点へと既に近づきつつあった。

だが、その恐怖は彼らの次の発言で容易く臨界点を突破した。

 

「それじゃ、旦那。早速だけどさっき捕まえたこの獲物、どう調理します?なかなか絞ってるみたいで腹筋の肉付きもそこそこいいし刺身でいきます?それとも背筋をミンチにしてハンバーグってのもなかなかイケそうだと思うんですよねぇ。或いは頭部をそのまま網焼きにしながら醤油をたらーりと垂らして頬肉や脳ミソ辺りをスプーンでほじくりながら食べるのも行儀悪いけどなかなかに乙なものですよ?」

 

その発言を聞いた瞬間、彼女の思考はぐちゃぐちゃになり自身も知らないほどの恐怖に包まれた。自身が食べられる、という恐怖。自然界の動物においては当たり前な、されど現代社会に生きる人間にとっては想像もしないほどのもの。目の前の彼らが本気で自分を食べる相談をしていると気づくとともに、必死にそれを否定する材料を周囲を見渡し探そうとする。

しかし、その結果見えたのは纏めて棄てられたであろう人骨とおぼしき白骨と臓物であり。それは逆に彼女の推測を確定づけることになってしまう。

 

「ヴぉぇっ、ヴぇロロロロろろ」

 

彼女は余りにも自身の理解を超えた展開と自身を食べようとする目の前のバケモノの恐怖に嘔吐する。

 

「おっ、この人間食べてもらう気満々だな旦那。胃の中を空っぽにしてくれるなんて捌きやすくて有難い。」

 

その言葉は更に彼女の精神に負荷を与え。

 

ーーーそこで、彼女は生きることと考えることを放棄した。

 

「あれ、気絶したのか。まぁ生きてればいいか。それで、アサシンの旦那はどの料理にします?」

「では刺身とその網焼きとやらを。そして同じものを家族の皆にも頼むぞ。材料は調理場に送るよう念話で伝えておいた。」

「おぉ、それは有難い。ではまず旦那の分から調理を始めますか。じゃあまず血抜きして頭蓋焼きから始めますね。」

 

そう言うが早いか猟理人は手馴れた様子で気絶した女性の頸動脈を切り裂き、バケツに血を流し入れる。

 

「前から気になっていたのだが猟理人よ、なぜお前は人を食べる時にいつも血を抜くのだ?そのまま切り落とせば早いではないか。」

 

アサシンは猟理人の行動が不可解でしかないと言わんばかりに不思議な声で質問をする。しかしそこにこの行動に疑問を抱く気持ちはあれど、人を喰らうというこの行動に疑問を抱く気持ちはまるで存在していなかった。

そしてその質問に対し猟理人は、チッチッチと指を振りながら解説を始める。

 

「動物を食べる際に血抜きをするだろう?それと同じで人間をしっかり血抜きをしないと臭みが出て美味くないのさ。まぁそれでも多少は臭みがあるから初心者には香草とかで食べやすくしたりもするけど、旦那みたいな慣れてる人にとっちゃそれじゃ逆に物足りないだろうから今日は使わないけどな。」

「なるほど、磨きあげられ洗練された料理人の知恵ということか。そのお陰で私は美味しい人肉料理を食べられる訳だから、感謝しなくてはな。

 

そうこう話しているうちにバケツは血で満たされ、首から流れ出る血も僅かになっていた。

すると猟理人は大鉈を振るい、首を完全に断ち切って、更に頭頂部の辺りを横に切り裂き脳を露出させると、バーベキューコンロの上に乗せて焼き始める。

 

「まずは弱火でじっくり……っと。それじゃ、眼球内の水分がとぶくらいまで火を通すのでその間に腹筋の刺身用意しちゃうから、申し訳ないけどちょっと待っててな。」

「いやいや、君の美味い料理の為ならこの程度待つのはなんとも無いさ。この度の現界で私が君のような素晴らしき友を得ることが出来たのはまさに僥倖だったよ。最初の召喚者は実につまらない上に肉の味も不味いと、まるで価値が無かったからねぇ。そもそも勝手に呼び出しておいて外れクラスだの知ったことかというのだ。」

「あぁ、確かにその召喚者も見る目がねぇぜ。俺もまさか収監中にこんなに素晴らしい同士が来てくれるとは思ってなかったからな、とても嬉しいのはお互い様だぜ。旦那とその家族は俺の味を理解してくれる最高の客だからな。っと、あがりぃ!」

 

そうこう話しつつも猟理人の包丁捌きは止まらず腹直筋を綺麗に整った刺身へと切り分けてしまう。

 

「んじゃ、このポン酢につけてで食べてくれ。生姜も合うんだが慣れてないだろうしやめた方がいいかな。お、頭蓋焼きもそろそろだなぁ。」

 

そう言うと猟理人はバーベキューコンロの上の生首、いや焼き首の眼球を菜箸で突くと水分が抜けて一気に萎みはじめる。それを確認すると同時に醤油を素早くザッとかけ回して火を止めた。

 

「これで頭蓋焼きも完成だ。併せて食ってくれ!」

「ああ。では、いただきます。」

 

アサシンはそう言うと黙々と人肉料理を食べ始める。

よく火の通った脳を掬って食べ、香ばしく醤油の香りのついた頬肉を食べ、ポン酢へとつけた腹筋の刺身も食べる。すると、通常では有り得ないほどアサシンの肉体に魔力が補給されていきくではないか。

これこそがアサシンの固有スキル、食人。おぞましきことに、人肉を喰らえば喰らうほどにこのサーヴァントは強化されていっているーーー!

 

 

「いや、此度の食事も実に美味かった。猟理人、君の料理は本当に素晴らしいよ。」

「いやぁ、照れるなぁ。それじゃ、俺は旦那の家族の分の調理に取り掛かってくるな。」

「いやぁ、かたじけない。そうだ、ついでにセドリック(・・・・・)を手伝いに寄越そう。ちょっと待っててくれ。」

 

アサシンはそう言うが早いか、魔力を自身の内に集中させる。

そして渦巻くは大量の魔力の奔流。

アサシンの宝具がここに開帳される。

 

食 人 一 賊(ビーンズファミリー)

 

そうして宝具の発動とともに、アサシンの腹がボコリ、と盛り上がる。その膨らみはだんだんせり上がり、ついには喉を経て口から外へととびだすーー!

 

「うおおおおおえええええ!!」

 

そうして口から吐き出されたのは先程セイバー陣営に倒され消滅したはずの方のアサシン。いや、正確には本来のアサシンの家族、と言うべきか。

アサシンの宝具は恐るべき、いやおぞましきことに、人肉から家族をサーヴァントとして召喚する宝具。そして彼と行動を共にするのは人肉食のスペシャリストである猟理人。

 

そうしてそれを見た猟理人は一言呟く。

 

「いつ見てもその召喚はビビらされる。それにしても、7騎目のサーヴァント、セイバー……か。旦那、全員の食事が終わったら計画を練り直しましょう。」

「あぁ、分かったとも我が友よ。」

 

 

そうして守掌地下の鬼の巣窟でも、夜は更けていく。

 

7人目のサーヴァントが召喚されたこの夜、守掌に人知れず吐き気を催す程の願いを抱えた食人鬼達が新たに動きをみせようとしていたことを知るものは、未だない。

 

 

ーーーinterlude outーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 




ここで1章は終わりです

2章は正直プロットも書ききってないくらいなのでしばらく時間かかるかもです
出来るだけ早く投稿できるよう頑張ります

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