……だいたい一ヶ月ぶりか?それだけの間出番がなくてなおかつその間に重大事実の明かされてる主人公とは。
「ああ、三つ目の質問だ。……なぁ、ラバック・アルカトよ。お前……
そう、問いかける。
しかしラバックは一切動揺を見せず、どころか表情すら変化させず。ただ、顎をしゃくるようにして続きを促した。
「アンタの話にはところどころ、不可解ないところがある。」
「ふむゥ……私が嘘を話していた、或いは本当のことを話していない、と?」
しかしあたしは首を横に振り、その答えを否定する。
「いいや、違う。アタシとルトガルディスの両方が騙されているのでなければ、アンタは間違いなく真実を、それも知りうる限り全てを話してくれてると思う。だからこそ、おかしいんだ。」
「ふ…だからこそ、とは?」
「アンタがそこまでの情報を握ってるってことがだよ。何故そこまで詳しいのか?そこまで思考した時、脳裏に浮かび上がったのはルトガルディスが召喚時に感じたという違和感だ。彼女は、召喚される時に引っかかる様な違和感を感じている。事実、その不完全な召喚のせいでクラススキルのランクが低下していた。」
「クラスランクの……スキルが……!?なんだって……!」
それは流石に予想外だったのか、ラバックも驚いた表情を見せる。
「特定のスキルでも、固有スキルでも無くクラススキルだけが低下している……これは召喚されうるルーラーのみを狙ったたと考えていいだろう。そして、今聞いた奴の手段と併せればその理由にも十分納得がいく。」
「……ルーラーが召喚されるのは、その聖杯戦争が特殊な形式で、結末に予想も使い場合……または。」
「そう、その聖杯戦争によって世界に歪みが出る場合、だ。」
「だからこそ、世界の歪みどころか人類の滅びかねないこの手段を取ることを決めた時点で、ルーラーの介入は予測できていたはず。よってそれを邪魔した可能性のある協力者がいるはずで、それが私……という推理かね?」
「その通り…だ。何か、反論はあるか?」
「勿論。だいたい、何故そこでレアを疑わない?」
「理由は簡単。アイツが仕掛けをしたならまずルーラーの召喚からして阻止されるだろう。アイツは遊び半分の行動を重ねることも多いが、何らかの目的、計画を立てた場合はその不確定要素を潰すために徹底した動きを取る。」
「ふむゥ。どうやら、なかなかにレアの行動パターンについて詳しいようだな。……君こそ、レアの協力者ではないのかね?」
「なんだよ、イヤミか?あんな奴に協力なんて死んでもしたくねぇことはお前も百も承知だろうよ。」
「勿論、それに私も君の立場と情報なら同じ結論を出しただろうと言う程度には君の推理は信憑性がある。だが違うのだよ。どうやら君には、情報が足りていなかったな。」
なんだって……情報が?
「君は思考の方向性を誤った。『中途半端なルーラーの召喚阻害を起こせたのは誰か』、ではなく『何が起きたらルーラーの召喚が中途半端になるのか』と考えるべきだったのだよ。」
一体、どういう事だ……?
「つまり、だ。アレは元は完璧な召喚封じだったが、私がそれを破壊した結果、中途半端にクラススキルのランクを低下すレベルに召喚阻害として残ってしまった、と言うことだ。」
「な……なんだとっ……!」
「私としても完全に予想外でね、君から聞くまで全くその可能性を考慮していなかった。いやはや、こちらも考えが浅かったということだ。」
「だ、だがーそんなことをして、生きて戻ってこれるはずがない。レアの留守を狙ったとしても、いや、留守だからこそ仕掛けられた罠を突破出来るとは思えない……まさか、アンタも死徒……なのか?」
思わずそう言うとラバックは苦笑しながら首を降り、否定する。
「それこそまさか、だ。正々堂々正面から突っ込んでいったとも。」
「それじゃあどうやって……!」
「生き延びた……か。最初はここまで伝える気はなかったのだがな……仕方がない。クラススキルのランク低下の詫びと君の百点満点中五十点の推理への褒美だ、こちらの部屋に来たまえ。」
「その部屋で、全てが分かるってのか?」
「あぁ。それと、レディ・ルトガルディス。君は待っていてくれないか。」
そう言ってラバックは突如ルトガルディスを制止する。
「なぜですの?ルキアには見せられて、私には見せられないと?」
「そうい訳ではないが、おそらく君の機嫌を損ねかねないのでね。出来れば待っていてもらえれば、と思ったのさ。」
ルトガルディスの機嫌を損ねるような何かが、そこにはあるというのか……?
しかし、ルトガルディスは首を縦に振りついていくことを表明する。
「いい、たとえどのような外道が行われていようと私は真実を知る為、止まりませんわ。それにあなたの力が、世界の為に必要なのも事実ですし、ね。」
「……そうか、ならキャスター、君も来たまえ。君にも一度は見せておくべきだろう。」
そうして、案内された隣室は。ガラスケースの中に満たされた培養液と、その中にたゆたうホムンクルスが両端にズラリと並んでいた。
「そうか……錬金術師だったな、アンタ。だが、この大量のホムンクルスがそれなのか?」
「いいや、違うとも。ところで、レディ・ザビーヌ。君は『アカシャの蛇』と呼ばれた魔術師を知っているかい?」
アカシャの蛇……!?確か、元聖堂教会司祭でありながら永遠を求めて死徒となった魔術師の呼び名のはずだ。転生を繰り返すという話を聞いたことがあるが……まさか!?
「ミハイル・ロア・バルダムヨォン。かの魔術師は死後に魂を次の肉体へと転写することで次代のロア、更に次代のロアへと転生を行い、実に十八代に渡って転生を繰り返したという。」
「お前も……その転生をくりかえしたってのか……」
「いいや、私にはそのままでは使えなかったからね。人のままの私には無理だったし、そもそも次の復活までにラグが生じるこのやり方では私の目的には適さなかった。だから、私は転写ではなくーーーー複写を選んだのだ。」
思わず息を呑む。転生ってだけでも充分突飛な話だったのに、それを軽く上回ってきた。
「て、転写ってことは自分のコピーを大量に作れるってことか?でもそれなら人形だって……」
「所詮長く生きて研究を重ねただけ程度の私にはそんなものは作れない。というより、そもそもそんなのが作れるのはかの『橙』の称号を持つ人形師くらいだろう。」
魂の転写ではなく複写。無限転生ならぬ無限増殖。それこそがこいつの秘密……!
「理屈は分かったけどよ、それがどうしてこのホムンクルスと繋がるんだ?」
「ーーこのホムンクルスは、未来の私だ。読み取ってある私の魂でホムンクルスの魂を上書きする用に調整して作られた素体なのだよ。もちろん、肉があればそれだけで魂は宿る。だから完全なコピーとはいかないがそこは精神と記憶を脳に電気信号で焼き付けることによって………」
「ちょ、ちょっと待った待った。専門的な解説は完全についてけなくなるからいい。それよりも、これがルトガルディスを入れたくなかった結果なのかよ。」
「あぁ、と、いうより非道を良しとしないであろう善属性の英霊すべてに見せたく無かったがね。感情で敵対されては非効率的だろう?君たち正統の英霊というものはえてして他者の命を道具として使い潰す行為に嫌悪を覚えるらしいからね。」
そう、なんの悪びれもなく言う姿に対して「チッ」と激しく打ち鳴らすような舌打ちが背後から聞こえる。自分でああ言った手前怒りはしないだろうが、それでも不機嫌になるのはある種当然とも言えるか。だがここで不快感を表せるだけ
と、心中で何気なく自嘲しているとルトガルディスが口を開いた。
「……やってる事は理解しましたわ。しかし、何故あなたはそこまでして永遠を求めるのでして?」
「永遠を求める……か。その考えからして既にボタンをかけ違えてるのだ。私はね……彼女に、レアの隣に並び立ち、そして引き止めるためにこの術式を開発したのさ。まぁ、上手くいかなかったからこうなってる訳なんだが。」
ラバックそう言うと、苦笑するようなジェスチャーをとり首をやれやれと振る。
「…………マスター。」
「ん?なにか質問かい?キャスター。」
「…………ふぅ。いいえ、何でもない……わ。ふぅ……」
「それじゃあ、今日はこの辺りでお開きにしようか。もう日もだいぶ傾いてきたし、ご婦人がた2人の帰り道はぶっそうだ、キャスターに送らせよう。」
「……は、すまんね。ルトガルディス、荷物を持って先に表に行っててくれ。」
「わかりましたわ、ルキア。」
そう言うとルトガルディスはキャスターと共に部屋から出ていった。これでここにいるのは2人。
「なぁ……結局上手い感じにはぐらかされたりして答えてないことがひとつあるよな、アンタ。」
「ふむゥ、何のことだろうかね?」
顎髭を撫で回しながらラバックは答える。
「アンタがレアに詳しすぎる理由、より具体的に言えば執着する理由だよ。ストーカーかってレベルで執着しているように見えるぜ?」
「……別に、そんなことは無いさ。これは、ただの感傷。過去の因縁と感情の残り滓に過ぎない。」
「……あんたがそう言うならいいけどよ。まぁとりあえず、アタシはアンタのことを信用ならないなりに信頼させてもらうとするよ、これからよろしく頼む。」
そうやって右手を差し出すと、ラバックは一瞬目を見開いて。されどすぐにその胡散臭い笑みを取り戻して強かに笑う。
「魔術師を信頼する、ときたか。本当、シスターのクセになかなかに面白いな君は。妙にフェアなのも面白い。」
「……それ、褒められてんのか?てか妙にフェアってなんだよ。」
「それは勿論、惜しむことなく私達に真名を晒したその態度さ。ルーラーはルーラー故にこちらの真名を望むと望まざるとに関わらず看破してしまう。それを考慮してくれたのだろう?」
……え。え。え。なんか凄いいい感じに解釈してくれてるんだけど、これ。何がどうなった。
……いや、そうか。サーヴァントが自分から真名で呼んで欲しいなんてことは通常は有り得ないし、そもそもそれを呑むメリットはまるで無い。つまりセオリーから逸脱した行動でなおかつ合理性もまるでない。だから、そんな行動をとるという発想がまるでないんだ。それよりは同盟の関係性を良好にするために明かした、という方がよっぽど納得のいく理由なのだろう。
……まぁ、とりあえず口裏を合わせておくか。
「あ、あぁ。まぁな。アタシとしてもこれから同盟を組む相手には仲良くしていきたいと思ってたからな、うん。まぁ、キャスターの真名は分からなかったみたいなんだけど。」
「……分からなかった?」
「ああ、ルトガルディスは何らかの隠蔽スキルか宝具のせいだろうと言っていた。」
するとラバックは突然考え込むようにしてブツブツ呟き出していた。
……アタシのこと言えねぇじゃねぇかコイツも。
「おい、急に考え込んでどうしたんだよ。」
「ハッ……!いやすまん、少々な。それより、キャスターの真名を知らないのだろう?ならば伝えておこうじゃないか。」
うわ、露骨に逸らしたな……って、え、マジで?
「……一体どういう風の吹き回しだ?」
「何、借りを作るのが怖いだけの話よ。」
「それだけにはみえねぇけどなあ……」
「ふ、それは穿ち過ぎというものよ。」
そう言うとラバックは息を大きく吐き、キャスターの真名を口にした。
「では、伝えよう。私のサーヴァント、キャスターの真名は"ミルディン"」
「……ミルディン?」
まるで聞いたことのない名だ。知名度補正も無いに等しいだろう。とはいえそもそもこの国では西洋の英霊は軒並み知名度が低い。ヘラクレスなどといった優秀なサーヴァントを用意出来ないなら弱点から何からが分かりづらい、知名度の低いサーヴァントを選んだ方が有利ということか……?
「それ以上を知りたければ、せいぜい自分で調べるのだな。」
その一言を最後にして、ラバックは奥へと引っ込んでしまった。
同盟は無事に締結されたが、やることはまだまだ沢山ある。
ーーーだが、まずは。教会に戻ってルトガルディスとゆっくり晩酌の続きといくとしよう。
今回チョロっと名前の出た人気投票0票でもお馴染みのピアニストことミハイル・ロア・バルダムヨォンさん。
こないだのカルデアエースで色々Fate時空での奴のアレコレが発表されちゃいましたがこのssの設定立てたのはそれより前なのでこのssの時空では姫君に会ってます
そして二十一世紀初頭に絶倫メガネに殺されてます