Fate/erosion   作:ロリトラ

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0日目/いつもの朝、いつもの学校

ーー夢を見ている。それは遠く、遠く、追憶する夢だ。

 

そこはとあるマンションの1室。

 

目の前にいるのは絶対的な強者。

 

そこには幼い子供というボクの立場においては何よりも畏怖すべき存在となった、両親(あくま)がいた。

 

「その目だ……その目をやめろよ、こそ糞ガキがぁ!」

 

投げつけられた金属製の灰皿がボクの額をかち割る。

 

「あんたが、あんたが生まれてから何もかもおかしくなったの!何もかもよあんたのせいよ!」

 

それは違う。

無為で無能な父親(おとうさん)がリストラで職を失ったのは不況の煽りをたまたま受けただけであり。

叫び喚くだけの母親(おかあさん)が近所の婦人会でイジメを受けているのはたまたまそこの上位者の癇に障ってしまっただけである。

 

とどのつまり、それらは全て間が悪かったに過ぎないのだ。

しかしボクの両親は怒りの余りそんなことに気づけない。

 

確かにボクが生まれて以降全ての歯車は狂ったのかもしれない。けれど、それはボクのせいではなく、こうしてボクの皮膚に火傷や痣が残るのは単に両親(おろかもの)の心の弱さに過ぎない。

 

「なによ、

なによ、なによなによなによーーー!達観した目で見ちゃってさぁ!その目、その目をやめなさいよぉぉぉ!!アンタなんて産むんじゃなかった!!」

 

母親がヒステリックに叫びながらタバコをボクの肩や腹部に押し付けてくる。

 

「お前さえ、お前さえ生まれていなければ俺は会社で出世して幸せな人生を歩めたんだ!それを!このっ、このっ、このっ!!」

 

父親は怒りに身を任せつつも、痣が目立たないであろう腹部や胸部もねらって的確に蹴りを叩き込んでくる。

 

このままではボクは死んでしまうだろう。

 

ーーーだから。

 

 

ズプリ、と音がした。

包丁が母親の腹部に刺さった音だ。

 

ーーー殺す。

 

サクリ、と音がした。

カッターナイフが父親の喉に刺さった音だ。

 

 

ーーーボクは自由になった。けれどこのままじゃあ生きていけない、だから。◼◼を、◼◼ことにしよう。

今は、眠りにつく時だーーー

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ーーーなんだ、今の夢。」

 

目覚めるといきなり頭の奥に鈍い鈍痛を感じた。

何やら自分が自分でないような夢を見ていた気がする。自身を把握出来てるだろうか。

 

えーと、ここは日本の地方都市、守掌市平斗町(もりてしひらとちょう)の駅前から徒歩15分のところに存在するアパート、鎖山(さやま)ハイツの1室。そして俺はそこに済む高校生の伍道(ごとう) 戈咒(かしゅ)

うん、ちゃんと把握出来てる。

あんな訳の分からない夢なんて

俺は知らない/ボクは知ってる

あんな虐待なんて記憶に

存在しない/残っていない

 

一瞬訳の分からない鈍痛を感じたが、それ以上の痛みは感じることもなかった。夏とはいえ夜に体を冷やしすぎたのだろうか。

とはいえそんな呑気な思考はすぐに振り払い朝食の支度をする。

今日は夏休みが目前とはいえ月曜日であり、憂鬱だが俺も健全な高校生である以上学校に行かなくてはならない身なのだ。とはいえ男1人の朝食など簡単なものでパンを焼いたトーストにフライパンで焼いたプライドエッグとカリカリのベーコンを乗せただけのシンプルなものである。とりとめもないことを考えながら作っているうちに出来上がってしまった。

 

 

「ごちそうさま。」

 

1人での朝食などすぐに片付き、洗い物までがスッと終わる。そして支度をして家を出ようとした時、左手の甲に鈍痛を感じた。うっすらと痣のようなものが出来ている。今日の帰りにでも湿布を買ってくるとしよう。

 

 

「よーっす、戈咒。どした、体調悪そうだな。」

 

家を出るとクラスメイトの(いぬい) 錬土(れんと)が声をかけてきた。いつも通り俺を待ってたらしい。

 

「おっす、錬土。いやな、なんか変な夢見てな。」

「へぇー、どんな夢?エロいの?」

「いや、違うんだが……あれ、なんだっけか。」

「おいおい、そりゃなんだよ。よく分からんのに気分悪いのか。」

「……ん、そうみたいだ。だがまぁ大したこっちゃねぇさ。それより、今日の数学の課題やったか?」

「んまぁ、そりゃ流石にその程度は。豪ちゃん無駄に迫力あるからなぁ、怖ぇよ。」

「まぁ、確かに……ホント初見だとその道の人にしか見えねぇしな。」

 

俺らの担任でもある雷禅(らいぜん) 豪三郎(ごうざぶろう)を初見で教師だと見抜いたのは噂だと校長1人だとも聞く。寧ろ逆に何故校長は見抜けたのか不思議なレベルだ。

 

「まぁそんなことはどうでもいいさ。それより戈咒、昨日送った動画見たか?あれならお前も気に入ると思ったんだぜ。いいよなぁ、やっぱあのたわわ感こそ最高だぜ!」

「開いたけどすぐ閉じた。お前は全く何も分かってない。」

「え?なんでそんなに怒ってるん?ロリコンのお前ならロリ巨乳も好きだと思ったんだけど……」

 

コイツは何度言っても懲りないようだ、やはりここは俺がビシッと素晴らしさを伝えなくてはなるまい。

 

「お前は学習能力がないバカなのか。ロリに巨乳を付けるだと?それは甘く瑞々しく実ったイチゴに練乳を付けてその素晴らしさを台無しにするかの如く愚かな行為だ!ロリはあの清らかさの溢れるぺったんこそが至高なのだ!巨乳なぞという低俗なBBA要素を付属させるんではない!だいたい過去にも言っただろう、ロリこそが至高にして究極の女性であると。」

「いやいやいやいやいや、俺はストライクゾーンは広い方だがその考え方は頂けないね。女の価値は胸で決まると言っても過言ではない。それほどにおっぱいとは苛烈なるまでのパゥワーを秘めているのだよチミぃ。故にロリに巨乳を乗せれば相乗効果でむぅわぁさにぃ!ビッグバァン!!と言えるほどの破壊力を身につけるのは当たり前じゃあないか!だからこそそのぺったん以外をロリとして認めないその姿勢には断固反対するね。」

「いいや、俺はその反対を認めないぞ、錬土。何故ならそれにはリアリティというものが存在しないじゃないか。お前の動画しかり、ロリ巨乳というものは非現実の存在か或いは年増だ。つまりその存在こそが清く美しいロリータに対する冒涜とすら言えるのだよ。つまりだなぁ、俺は高らかに主張させてもらおう、18以上はBBAだと!!」

「……お前今、全国の女性を敵に回したぜ。」

「構うものか、ロリへの愛の前においては些細なことだ。ん……おや。」

 

俺の両の眼が前方で談笑しながら通学途中と思われるランドセルを背負った女子小学生の二人組を見つけた。

 

「悪い、錬土!また今度な!」

 

考えるより先に身体は動き出していた。そして彼女達の前に現れて俺の口は甘く誘いの言葉を紡ぐのだ。

 

「おはようございます、麗しきレディの御二方。俺は伍道 戈咒といいます。唐突で不躾だとは思いますが今からお茶でも如何ですかな?勿論お代はこちらで持ちますし、学校の方にも連絡はさせて頂き…ブベラッ!」

 

後頭部に強烈な衝撃を感じて言葉を詰まらせてしまう。これからレディをお茶に誘おうとしていたのに一体何をするのだ、この錬土(バカ)は。

 

「何をする、バカ錬土。お前のせいでレディの前で言葉を詰まらせてしまうなどという失態を演じてしまうことになってしまったではないか。」

「バカはてめぇだこの真性ぺド野郎!放課後に遊んであげる程度なら近所の優しい高校生で済むけど今のは完全にアウトだろうが!!ほら見ろ今の子達防犯ブザー鳴らす寸前だったぞ!……あー、ごめんねー、このお兄さん頭がおかしいんだ、こんなバカは無視して小学校で勉強頑張ってねー。」

「おい、邪魔を……」

「捕まる気かこのペドロリコン。節度くらい守りやがれこのドアホ。」

「……すいません。」

 

今のは逆らってはいけないと言葉でなく心で理解した。それだけのスゴ味があった。

 

 

「ったく……相変わらずのバカ野郎だなお前は。」

「面目ない……あのように美しいレディを見るとどうにも抑えが効かなくなってな……」

 

あれから俺が落ち着いたところで歩き出し今は錬土と共に教室で会話を続けていた。

ちょっとした高台にある守掌市ではそこそこ名を馳せた進学校である鎖山高校(さやまこうこう)の2年1組こそが俺らの所属するクラスである。

 

「戈咒……お前いつか手出しして捕まるぞ……」

「いや、その心配はない。俺はデートに誘ってお茶をしたいだけだ。それ以上はロリコンとしての名誉にかけてないと誓おう。」

「その名誉自体がすげぇ信頼ならねぇぞ……。ったく、お前もやっぱロリじゃなくてもっとほかの女性に目を向けようぜ?もっとボンキュッボンなお姉さんとかを守掌駅の方に行って引っ掛けてそのまま夜までしっぽりとよぉ。」

「錬土、前にお前がその計画をやろうとしてるのを見守ってやったけど1日で50戦50敗だったじゃねぇか。逆によくあそこまでナンパ出来たもんだと思うぞ、いやマジで。」

「バッカ野郎、戈咒お前そんな程度で諦めてられっかよ。俺はいい女を沢山捕まえて退廃的な生活を高校在学中に実現するのが夢なんだぜ?」

「その夢は叶いそうにないけどな。」

「ぐっ……言ってくれるじゃねぇか。しかしそうだな、やはり身近な所から始めるべきなのかもしれないな。まず委員長とかどうだ?ロリ系だけどもボンキュッボンだしいいと思うんだが。」

「委員長か……悪くは無いが、胸があるのが唯一の欠点だな。」

「そこがいいんだろうが……やはりお前とはそこに関しては永遠に平行線だな。」

「あぁ、委員長の胸とは真逆にな。」

「上手いこと言ったつもりかよ、おいおい。」

「ええ、ちっとも上手くありませんねぇ、伍道君に乾君。」

 

噂をすれば影、というやつか。

我らがクラスのロリ巨乳型委員長、二階堂(にかいどう) 京子(みやこ)さんが目に見てわかるほど、ふつふつと怒りを煮えたぎらせてそこにいた。

 

「伍道君、乾君。いったい、誰がロリ巨乳ですって?」

 

怒っていた。彼女は、とてつもなく。

 

「な、なんだ聞いてたのか、ひ、人が悪いや委員長。俺らはただ、なぁちょっと男としての性について話してただけだよな、戈咒?」

「お、おうそうだな、錬土。俺らはただ……」

 

膨れ上がる殺気。

これがいわゆる蛇に睨まれた蛙、死を覚悟する瞬間だと理解した。

瞬間、パァンパァンという小気味いい平手打ちの2連撃が俺と錬土を襲った。

 

「全く!少しは反省したらどうなのよ!毎日毎日毎日毎日……風紀が乱れるのが分からないの!?それに、今回は、わ、私…じゃなくて!クラスメイトに欲情するとか何を考えてるのあなた達は!これだから鎖山高校変態四天王なんて呼ばれるのよ。まったくあなた達は……」

 

そして、それから始業の鐘がなるまで俺らは彼女にお説教を受け続けた。




委員長は校内では眼鏡だけどプライベートではコンタクトレンズを付けるんです(果てしなくどうでもいい情報)

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