戈咒君でもやれば出来るんだ!
走る。
全速力で学校へと向かい、校門を潜る。
走る、走る。
階段を一足飛びに駆け上がり教室へと向かう。
頼む、間に合ってくれーーー!
そうして、扉を開けると。
「誰も……いない……」
遅かった……のか、俺のせいで錬土達を巻き込んでしまった……!!
心底から湧き上がる無念の感情と慚愧の心がうちより精神を蝕む。
なぜ……こんなことに……!!
「お、やっと来たか戈咒。やっぱあの画像は効果覿面だったなぁ。イザという時の餌になるかもって保存しておいてよかったぜ。」
そう、声が聞こえて。
振り返ると、よく見知った錬土の顔がそこにあった。
「……っ、お前!よく無事で……!」
思わず手を握りしめる。
「う、うおっ!お前何いきなり人の手を握りしめてんだ気持ち悪い。てかお前もはよしろよ、もう全員化学室に向かってるぞ。」
……………へ?
「どうした、鳩が豆鉄砲食らったような顔しやがって。今日実験の日だから化学室で授業やるって昨日……あ、お前はいなかったのかそーいや。まぁいい、とりあえず向かうぞ!」
「お、おう。ちょっと待て今教科書持ってく!」
そうして前を走る錬土の後を駆けながら霊体化させておいたセイバーと相談する。
『どうやら、魔術の痕跡も感じられぬし。誰も被害にはあっとらんようじゃの。』
あぁ、そうみたいだな。だがそうなると気になるのは何故行動を起こしていないか……警戒は怠らない方が良さそうだな。
『うむ、儂も少し周囲に気を配るとしようかの。じゃが、もし儂が間に合わぬタイミングで襲われたならこれを抜くのじゃぞ。』
セイバーがそう言うと同時に腰にズシリとした感覚を感じる。刀そのものも霊体化させることが出来たのか……!
そうこうしているうちに化学室は目の前だ。奴が、いないことを祈るしかない。
息を呑み、覚悟を決めて扉を開く。
ーーしかし、そこには。見慣れたクラスメイトと化学の教科担任がいるだけであった。
「あー!ようやく来たわね、伍道君!全く無断欠席なんてなにかんがえてるの!?」
げ……委員長だ。めんどくさいのに見つかったな……ここはさっさと自席についてやり過ごそう……そう考えていると教科担任から声がかかる。
「伍道、あなた遅刻なら生徒指導室寄ってきたの?」
「あ、いえ。まだです。」
「そう、なら先に向かって入室許可証貰ってきなさい。」
「あ…はい。」
そーいやそんな校則もあったな、と思い出される。とはいえレアはいなかったのだ、これで少しは安心できるというものか。
そう心の中で一人呟きながら、化学室を出て生徒指導室へとのんびり歩き出す。
授業中の廊下特有の、ヒヤリとした静謐な空気がどことなく肌に、喉に、心地いい。
ーーー「あら、来てくれたのね。私の
だから。
そう、だから。
その
その
彼女の言葉には、呼吸には。それだけの『魔』があった。
「レア…アーネス……!!」
「はぁい、2日ぶりくらいかしら、戈咒君♡」
「なんっ……で!お前が、ここに、いるんだ!!」
「何でってぇ、ひっどいなぁ。私はキミに興味がある。だからキミをもっと識りたいのよ。そうやって近づいてきた女の子をそんな無碍にしちゃうんだァ、ひどいなぁ……」
そう言いながらレアは肢体をくねくねさせつつこちらを上目遣いに見やる。
並の男なら、堕ちるのかもしれ無いが……俺にはそんなものは効かない!
「ハッ、残念だったな魂BBA!俺は幼女にしか興味の無い、ロリしか好きになれないロリコンだ!一昨日来やがれ!」
と、思いっきり啖呵を切る。
『お主、もう少し真っ当な……いや、もうなんでも良いわ。』
セイバーには不満げに呆れられたがそうだとしても仕方がない。俺は、ロリコンであるのだから。
「ふ、ふふふ。やっぱり、だ。魅了ももはや君には効いてない。そして呼吸に混ぜて流した毒も、言葉に混ぜた呪いも全てがキミには効いてない!」
仕掛けてきていたのかー!しかし、セイバーと契約した、セイバーの担い手となった影響か。レアの言う通り確かに肉体には何も変化はない。
一方のレアは身体を確認している俺を見つめながら、頬を紅潮させ、表情を喜悦に歪め、恍惚としながら絶頂したかのように嬌声をあげる。
「あぁ、あぁーー!!なんて素晴らしいんだ、
「気狂いが……セイバー!」
『うむ、任せるのじゃ!』
セイバーに呼び掛けると同時に霊体化した彼女がスルリと体内に入り込む。何度も感じたこの感覚。霊体化させた刀を実体化させ抜き放つ。
刀の
斬りたいという
だが、心なしかこの間より毒の荒々しさが弱い様な……いや、俺を見ているようで見ていないと言った方が正しいのだろうか。何か、致命的にボタンを掛け違えたような。そんな
「ふぅ、戦闘準備完了……かの、ゲホッ。……どうやら、貴様はバーサーカーを今は連れていないようじゃの。ならば殺すのは容易い。」
そういい、セイバーは令呪の赤い光が宿る、奴の眼球に切っ先を合わせる。
「貴様がその瞳の令呪を使うより早く儂の刀はその脳髄を令呪ごと貫くぞ。よって抵抗は無駄じゃ。」
「あらら、
「その通り、王手じゃよ……折角じゃ。辞世の句くらい述べてみせい、聞いてやろう。」
そう、俺の口元が緩み。
セイバーが不敵に嗤う。
やはり、おかしい。いつもならここまでセイバーが肉体を支配してるなら俺の意識は完全に妖刀としての
……けど、なにがおかしいんだろう。
そう考えているとレアが口を開く。
「あのー、さ。私別に戦う気は無いんで、その物騒なの下ろしてくれない?」
「……は?下ろす訳がなかろう。貴様は生かしておいたところで害にしかならぬ魑魅魍魎の類よ。それにここで殺せばバーサーカーも消滅に勝利に近づけるのじゃ、理由が無いわ。」
「そうかー、なら仕方ないや。バイバイ、セイバーちゃん。」
そう言うとレアは刀を掴みそのままズブリ、と。自身の眼球を、脳髄を、抉り、貫くまで押し込んだ。
「んなっーーー!!?」
ズブリ、ブチュリ、グチュリと脳味噌を掻き回す音が響く。セイバーも思わず呆然としていたが、何かに気づいたように顔を歪めると一気に刀を引き抜いた。
「貴様……何をした……!?」
「ふむふむなるほどぉ、
言われた通り、確かに指先から肉が変色し始めているのが見える。刀も切っ先から微妙な朽ちかけている。このままでは、セイバーが!!
『安心せい、ますたぁよ。じゃが、このままだと少々キツい。スマんが刀の
セイバーのその気合いとともに俯瞰している俺の意識すら血を求める斬妖の如き本能に飲み込まれ乱激の渦にと俺は沈んでいったーーー
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ますたぁの意識は飛ばした。これで後はますたぁの魂に呪いが回るまでにコイツを斬り殺すーー!
「あれれー、戈咒君寝ちったんだー。てか、セイバーちゃんまだやる気なの?人払いもそろそろ限界だよ?」
「知らぬわそんなもの……今ここで貴様を斬らずしていつ斬るというのじゃ……!!」
「もー、怖いなぁ。だいたい主催者として隠蔽も図らなきゃいけないんだしあんまし人目を気にしないみたいなこと言わないでよ……でも私の毒じゃまだキミには勝てないからさ、今日は休戦といかない?だって私も戈咒君のクラスメイトなんだから♡」
「何を……」
「戈咒君だって
ま……まさかっ!
この学校全てを人質に……!?
「物分りが早い子は私も好きだよ、私が戈咒君を
「……外道め。」
そう、吐き棄てるように呟くとレアは心外といったような顔で軽々しく呟く。
「何を今更〜、魔術師にとって他人の命なんて綿毛くらいの重さしかないのにさ。というか、それはキミも変わらないでしょう?ーー妖刀◾◾さん?」
「な……何故その名、を。」
何故、何でその名に辿り着いてるのじゃ!?儂ですらさっきの夢の話を聞いて、それでようやく仮説程度だというのに!しかし、否定出来ない。身体が、霊基が、それを真実だと訴えている。
「まぁ、さ。私にとってはそんなのなんでもいいんだけど。ここは大人しく刀を納めてくれないかな。」
学校中を
「何が……何が目的なのじゃ…!!」
思わずそう問いかけるとレアは極めて真顔で。
「世界を、神の庭にするんだよ。」
そう、答えると。
また雰囲気を人畜無害そうな女子生徒のものへと変化させ、にこやかに微笑む。
「それじゃあ、納めてくれたみたいだしこれから仲良くやりましょうね、セイバーちゃん!戈咒君にも宜しくねー!」
そう、廊下の角を曲がって姿が見えなくなるまで。
こちらに手を振りながら去っていく姿を。
儂はただーー眺めるしか、無かった。
龍旋処ってのは毒の地獄です、分かりづらい例えだこと!
あとレアの令呪は右目に浮かんできてます。そんなんありなの?とかあるとは思うだろうけどかっこよければそれは全てに優先されるんですよ!!