Fate/erosion   作:ロリトラ

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3日目/umbilical cord

夜、10時半すぎ。

鎖山ハイツ2B号室の自室を出て、街灯の灯のみが照らす闇の中をセイバーと2人、埠頭方面に向けて歩き出す。

 

「にしても……レアか。厄介なのに目をつけられたなぁ、俺も。」

「全くじゃよ、お主女難の相でも出とるんじゃないのか?」

「うーむ、あながち否定出来ない……あ、そこ右に曲がって。そこからバスで向かうから。」

「なんじゃ、歩いて向かわんのか。」

「遠いから時間かかるしな。それに帰りはバス無いから嫌でも歩きになるって。」

「ふむ、なるほどのう。」

「だから霊体化頼むぞ、セイバー。」

「え、何故じゃ?」

「そりゃこんな夜遅くにロリっ子と2人でとか間違いなく誘拐に思われてポリスメン呼ばれるからだろうが、いやーあの時は大変だったなぁ。」

 

「……え、え、え。」

 

ふと横を見るとセイバーが50m近くも距離をとっていた。

それを見ていまの失言に気づく。

 

「い、いやちょっと待って待って!違うから!誘拐はしてないから!」

「いつかやらかすやらかすとは思っていたがお主まさか、そこまでとは……」

「だから勘違いだから!迷子の幼女見つけたから丁度住所も調べてある娘だったし家まで送り届けただけだから!!」

「お主……それ弁明どころか別の罪状の告白になっとるぞ……」

「捕まりかけたけど無事にやり過ごして送り届けたから!」

「儂はますたぁが捕まるだけでこの街の幼子は安心して暮らせるようになると思うぞ……」

 

冷めた目付きで俺を見続けてくるセイバー。おっかしーなー、少しは懐いてくれたと思ったんだけどなぁ。

 

「はぁ、まぁいいわい。儂の認識が甘かったということじゃろう。」

 

溜息をつきながらそう言うとセイバーはふっと姿を霊体化させ、俺の横に潜む。

 

『それで、じゃ。そのバスはいつ来るのじゃ?』

『うーむ、もうそろそろだとは思うが……おっ、来た来た。』

 

そうして乗り込み、バスに揺られること30分。

 

『次は終点、守掌港です。お忘れものの無いようにお気を付けてお降りください。』

 

終点のアナウンスでうつらうつらとしていた意識が覚醒する。

 

『お、到着か。起きろセイバー、もう着くぞー。』

 

霊体化しながらうとうとしてるセイバーに対して声をかけて目を覚まさせる。

 

『ん、む、マシュマロ……いっぱい……はっ!』

『お、目ぇ覚めたか。てかなんだその寝言。まぁとりあえず着いたからこっちゃ来い来い。あ、霊体化はもう解いていいぞ。』

 

バスから降りるとそう、セイバーを招き寄せる。

 

「なんじゃ急に……ここか港かの?」

「あぁ、割と眺めいいだろ。でもそれ見に来たわけじゃなくてさ、ここは夜だと人目につかないんだよ。だかや、セイバー頼みがある。」

「お、おお主まさか……儂に…」

「あぁ、お前に魔術を教えて欲しいんだ。最低限の自衛用で構わない。守られっぱなしじゃなくてせめてお前の手助けになりたいんだ。」

「やらしいことを……って、へ?」

「ん?」

 

え、今なにかすっごいことが聞こえたような。

 

「え、セイバー。今、なん「うわわわわわわ何も無いのじゃ何も!それより魔術じゃな!分かったぞうむうむ!」

 

「え、あ、お、おう。」

「そ、それで魔術じゃったな。ハッキリ儂も門外漢じゃし、どちらかというと呪術みたいなのの方がメインなんじゃが……」

「じゃあそれでもいい、俺もこのまま守られっぱなしは嫌なんだよ。」

「うむむむ……じゃが…….うむむ。」

「たのむ、セイバー。俺はお前の足でまといにはなりたくないんだよ。」

「う、うむ、むむむむ〜〜!

…………はぁ。分かったのじゃ。なら、一つだけ、これだけじゃぞ。それと、多用は禁止じゃ。」

「ほ、ホントか!で、どんなのなんだ!」

「慌てるな、ますたぁよ。それに教えるとは言ったがお主は魔術回路こそあるものの魔術師ではないし魔術基盤にアクセスも出来ない。じゃからこれから使えるのは儂と契約してるから無理やり使えるだけの裏技と心得ておくのじゃぞ。」

「あ、あぁ分かったよ。で、一体どんなのなんだ。」

 

セイバーは一呼吸ついてらそれから躊躇うように息を吐き、その名を口にした。

 

「ガンド撃ちじゃよ。」

「ガンド撃ちって言うと北欧のルーンか……?」

「厳密には違うがの。儂とて日本出身故に馴染みはないが、この儂を打った刀工にはその辺も含めて魔術の心得があったのじゃろうな。知識としては入ってるいるが故に儂と契約している限り使えるじゃろう。とはいて、今のままでは儂が取り憑いてないと使えん。」

「ふむ……ってそれじゃダメじゃねぇか!」

「……じゃから、人の話は最後まで聞かぬか。その為に今からやってやるんじゃよ。」

「………?」

 

そう言うとセイバーは躊躇うように顔を伏せ、首を振って顔を上げ、再び俯き、という行動を幾度か繰り返すと決意したかのようにこちらに向き直る。

 

ーーそして。

 

ーー次の瞬間、気づいた時には。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「〜〜〜〜〜〜〜!!!??」

 

舌と舌、粘膜と粘膜がねっとりと触れ合い、絡み合う。

 

俺の唾液がセイバーの口腔への染みていき、逆にセイバーの唾液が俺の口内から魔力へと、魂へと溶けていく。

 

息をつかせぬ蠱惑的な魅了。

息を呑み込む倒錯的な魅力。

視界は暗澹に閉ざされ、ここにいるのにここにいないような錯覚を受ける。

 

魔力の経路(パス)はより太くなり、因果は同期する。おれの魂の一部が溶けだし、セイバーの魂と混ざり始める。

その量は僅かだが、たとえ僅かといえど他者の魂など。ましてや人の身にとっては過ぎたる毒にしかならない。

 

身を裂くような激痛。

自身という存在が犯され、人生という過去が穢されるような苦痛。

それだけで、生きたくなることをやめたくなるような。

他人(じぶん)自分(たにん)になるような気持ち悪さ。

俺という存在が、俺という存在価値(アイデンティティ)が、ポロポロと剥落していく。

余りの絶望に全てを忘れ、投げ打って絶叫しそうになり。

そこで、ふと我に返る。

 

 

 

ーー辛い。とてつもなく辛い。

 

ーーーだが。それは俺だけじゃないはずだ。

 

ーー目の前の女の子も同じだけの辛さを味わってるはずなんだ。

 

 

全て、俺の我儘の為に。

それなのにここで投げ捨てる。

ふざけるな、そんなものーーロリコン失格だ。

いいやーー男としても落第だ。

ここで踏ん張らないで、いつ踏ん張るんだーーーー!!

 

 

ーーーーそれから幾刻が経ったか。

 

先ほどのまでの苦痛は嘘のように晴れ、視界は再び目の前の景色を映し。

ぷはぁ、とセイバーが唇を離した。

 

「……どうじゃ?儂の接吻は。」

「〜〜〜!ん、んんん、なな、なななななななななななななな!!!!!」

 

咄嗟に先までの苦痛すら忘れて頬が熱くなる。いや、額まで熱くなっているかもしれない。

だめだ、口は酸素を求める魚のようにパクパクと必死に動くも言葉が出ない。

落ち着け、落ち着け俺ーー!

 

 

 

「……どうじゃ、じゃねぇよ。せめてやる前に一言言いやがれ。」

 

漸く落ち着いた心で、必死に言葉を発する。

しかしその必死の抵抗はすげなく受け流され、やれやれと言わんばかりに反論される。

 

「言ったらお主あーだこーだ言って、、必死に断ろうとするじゃろ。ますたぁ、チキンじゃし。」

「なっ………!?」

 

とてつもなく不名誉なことを言われた気がする。これは反論せずにはいられるか。

そう思っているとセイバーは俯くように続きを呟く。

 

「それに、じゃ。期待させてあんな苦痛を与えるのも嫌じゃからの。」

「ふ、ふん、あんなもん全然大したことなかったっての!」

 

思わず虚勢を張る。意味なんてない。でも、何故かそうせずにはいられなかった。

 

「ふふ、ふ。そうか…………さて。それじゃあ試しに1発撃ってみるかの。」

「おう!えーと、指を向ければいいんだっけか?」

「うむ、あのコンクリートの壁でも狙って撃ってみるといい。指先から発射するイメージじゃ。」

 

言われた通り壁に向き直り右手の人差し指を向ける。意識を指先に集中させ、弾丸を撃つイメージでーー放つ!

 

それと同時に、赤黒い呪いの塊が壁に激突し、破壊音と共に穴を穿った。

 

「すげぇな……ガンドってこんなやばい呪いだったのか。」

「ん、いや?普通は風邪をひかせる程度で破壊力なんて無いぞ。ただ儂と呪いの親和性が高くて、更にお主は魔力量だけはやたらあるからのう。上手くハマったというだけの事じゃ。それより、じゃ。」

 

セイバーは急に声のトーンを落とし、警告するように告げる。

 

「今、ガンドを使えるようにする為にお主と儂の魂は端っこ同士を溶かして混ぜて繋げてある。今までのように魔力の因果線(パス)ではなく、魂同士がへその緒のように結びついた強固な繋がりじゃ。じゃが、それはそれだけお主の寿命が縮まるとも言える。契約当初、儂を使い続ければ三ヶ月で魂を喰らい尽くす言ったが今はもうそれどころではない。3週間あるかどうか、じゃ。」

 

3週間……それは、かなり短い。

 

「しかも、儂を振るったりガンドを撃てばその度に儂との同調が進み、お主の魂は少しずつ儂の、妖刀としてのものに侵食されていく。それを………ゆめゆめ忘れるなよ、ますたぁ。」

「……あぁ、分かってる。」

「ふん、ならいいのじゃがのう……さて、用事も済んだのじゃろう?そろそろ帰らぬか、此処では潮風が肌寒くなってきおった。」

「あ、そうだな。じゃあ……」

 

 

ーー瞬間。

 

地響きが埠頭を襲う。

 

「な、なんじゃ……!?」

 

海を見やると水面が漣立ち、まるで何かを畏れるかのようにすら感じ取れる。

 

「まさか……サーヴァント…!?」

 

地響きは益々大きくなり。最高潮に達したその瞬間。

目の前のマンホール、その蓋が大空高くへと水流により打ち上げられた。

 

「んなーーーー!!」

「こ、これは……!!」

 

マンホールの重い蓋をはね飛ばした水流の勢いはとどまる所を知らず、垂直の濁流として打ち上がり続ける。

 

そして、その滝のカーテンから出てくる人影が一つ。

 

「ん、なんだぁ。なんか見た顔だと思ったら、こないだの坊主じゃねぇか。ほかの2人はいねぇのか?」

 

 

それは、セイバー召喚よりも前。あの幽霊屋敷で出会った、ライダーを名乗る男だった。

 




久々のライダーさん登場!ホントいつぶりだよコイツ!

あと戈咒君はカッコいいこと言ってるふうだが傍から見ると幼女に唇奪われてるとかいう過去最高レベルに(社会的に)やばい状態だから困る

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