「よう、久々だな坊主。奇遇じゃねぇか。ん……その小娘は、サーヴァントか。」
「ら、ライダー、さん。」
マスターとなったいまだからこそ分かる。漏れ出づる神威はそれだけでここにいる俺を圧迫して、まるで荒れ狂う大海の中1人溺れているような錯覚すら覚えてしまう。
「ますたぁよ。お主、あのサーヴァントと知り合いじゃったのか?」
「あぁ、以前に、な。勿論聖杯戦争を知る前だ。ライダーとか言われても日曜朝的な意味だと思ってたけどな。」
けれど、今聖杯戦争を知ってから考えればわかり易すぎるほどにヒントは出ていた。そもそも、あの屋敷自体マスターが潜んでいたのだろう。元々人が立ち寄らない空き洋館、拠点とするにはもってこいじゃないか。そしてあの時にライダーの言っていた魔女というのがおそらく、ライダーのマスター。
……と、ここまで考えてふと思い出す。あの時の都市伝説は確か
「……ライダー。戦りあう前に1つ、確認しておきたい。」
「お、なんだ、質問ごとか?」
「お前のマスターは
夏の夜の埠頭、開けた夜空の下の空間に静寂がはしる。
「ふむぅ、詳しい年齢までは気にしてねぇが……ガキンチョではねぇが、大人でもない。お前さんと同じくらい、ってところだろうぜ。」
思わず額に指をやる。
ーーーーー残念、だ。
まさか、俺の夢見た
思わず心中で自重しながら。横のセイバーを見やる。やはり俺にとってのベストパートナーは……って、あれ?
なんか、めっさ、プルプルしてません?
「ど、どうしたセイバー!体調崩したか!?はっ、ひょっとしてさっきのが何かお前に負担を……!?」
「ますたぁよ……お主、儂がどれほどの覚悟でさっきの行為を行ったと思っておるのじゃ……?」
へ?なんだって?
「すまん、もう少し大きい声で頼む。もし声が出せないなら筆談でもいいから、なにか必要なものでもあれば…」
「ば……」
「ば??」
バケツ?バンバンジー?それとも晩御飯か?
「バカァァーーーーーーーーーッッ!!!!!」
ーーーーーーーーーーーーッッ!!
耳をつんざくような叫び。
その一声とともに、セイバーは何処かへと走り去ってしまった。
な、なにかやらかしてしまったろうか。何が一体まずかった?俺はどこで間違えたんだ!?
「ふは、はっはは、はっははっははははははははははははは!!!!おもしれぇなお前ら!!」
特大の笑い声で思考が現実に引き戻される。そうだ、おそらく俺が原因だがその理由はともあれ、目の前にはライダーがいる!!
何とかしてこの場をやり過ごさねば探しに行くどころじゃない!
ここは、どうにかしてでも時間を稼ぐは見逃してもらうためになにか手立てを考えなくては……!
「な、なぁライダー。1つ提案があるんだが。」
「なんだ?聞いてやろう。」
「お、俺達と。同盟を組まないか?」
た、頼むっ!受けてくれ!ここで俺が死んだら、セイバーも消えちまう!そんな事、させられるかーー!
「ふ、同盟か……断る。」
「な、何故だっ!俺達は未熟かもしれないが、アサシンだって倒してるんだぞ!」
「理由は2つ……いや、3つに増えたか。」
そう言うとライダーは指を立てて話しだす。
「1つ目は俺は聖杯戦争の参加者ではあるが、あくまでも俺のマスターの協力者に過ぎん。俺が聖杯戦争について考えることはない。」
そうして、ライダーは指をもう1本立てて続きを話す。
「2つ目、そもそも自身の功績に拘るマスターが、同盟を組むとは思えん。」
交渉……失敗か、何か何か、何かないのか!
「そして3つ目、これは断った理由というよりは訂正だが……アサシンは未だに生きている。」
「……なっ!!」
突如の宣言に思わず思考が固まる。
「だ、だが、奴は確かに俺が……」
「詳しくは言わんが俺は確かに確認した。そうして……実際ここに現れた。」
そう言うや否や、未だに水の噴き出るマンホールから複数の影が飛び出て、地面に着地する。
その中には、あの時確かに斬ったはずの。俺を喰らおうとしたアサシンの姿があった。
「な、何でだ……お前は確かに斬ったはず!それに、何でこんなに沢山っ!」
「んー、んー、んーー?あっっ!!テメェ、俺をぶった斬ってくれやがったクソったれセイバーのマスターじゃねぇか!!どうやらセイバーもいねぇみてぇだし、今度こそ喰らってやるぜぇ!」
アサシンはそう、とびかかろうとするが。
「待ちなよ、セドリック。アンタは逸るからしくじるんだよ。物事は順番に、だ。先にこのムキムキマッスルを片付けてからだよ。」
その暴走は、横にいるTシャツとホットパンツ姿の少女に止められる。どことなく青白さを感じさせる皮膚に、痩せぎすの姿。姉弟かなにかだろうか。
よく見ると残りの3人も同じような服装をして、見た目も似通っている。まさか、家族でサーヴァント……なんてことがあるのだろうか?
「えー、でもよぉ、ミランダ姉ちゃん。あのムキムキマッスル、サーヴァントといっても俺らから逃げたくらいだし
「確かに、セドリック兄貴の言い分にも一理あるね。兄貴にしては珍しく。」
「あぁ?何が珍しくだシバくぞジョージ!」
「やるか?クソ兄貴。昨日も俺の肉喰いやがって、ふざけんなよ?」
「やめなさいよみっともないわぁ、2人とも。ねぇアニー。」
「そうねぇみっともないわぁ、2人とも。えぇジェニー。」
そうながめていると、4人で言い争いを始めた。これは、逃げるチャンスでは?
そう思い後ずさりを始めようとすると港中に響き渡る声がアサシン達を一括する。
「2人とも。アニーとジェニーの言う通りよ。我ら家族でいがみ合ってどうするの。腹いっぱい食べたいんでしょう、なら家族で協力しなくちゃ!!」
それは、さっき俺に飛びかかろうとしたアサシンを止めた最年長らしき少女の声であり、それを聞くと奴らは全員冷静にこちらを見据える。
「確かに、セイバーを呼ばれても厄介だし、セドリックはあなたの意思通りセイバーのマスターを解体してちょうだい。ジョージにアニー、ジェニーは私と一緒にあのムキムキマッスルを消すわよ!」
「やりぃ!」
「わかったよ。」
「「えぇ、ミランダ姉様。」」
奴らは口々に答えると一目散に向かい出す。まず俺の下に向かってくるのは一番近くにいた、セドリックと呼ばれていたあの時のアサシンだーー!
「ひゃっはははぁぁ!!念願の俺の肉だぁぁぁ!!」
だがーーしかし。俺だってあの時とは違う。ライダーみたいなのにはとても効かないだろうが、
だから、右手の人差し指をやつの心臓……霊核へと向け。
ーー撃ち込む!!!
瞬間、ズガンという破壊音。指先から放たれた魔力の収束、呪詛の塊は確かにアサシンーーセドリックの霊核を貫いた。
◇ ◇ ◇ ◇
ーーが、しかし。
人が心臓を撃たれても即座に死なぬよう、サーヴァントも霊核を破壊されてから数秒の間ではあるが、自由に動く猶予がある。基本的に怠惰なこのサーヴァントは、その間際まで足掻こうとはしないが。この場合、2度も自身が喰らう筈の獲物に土壇場でやり返されたことが、彼の肉体をギリギリのまま動かした。
「まだ、まだまだまだァ!!」
無論、そのように叫んだところで限界突破など現実には起こりえない。現に今も、撃ち抜かれた霊核を中心に肉体は霧散を始め、既に肩で繋がった腕と頭は慣性の法則に従い戈咒を狙うだけである。しかしそこまでの動きは腐ってもサーヴァント、もはやその爪と牙は人間の反応速度では逃れ得ぬ程に迫り、戈咒の首元へと迫るーーー!!