Fate/erosion   作:ロリトラ

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3日目/魔刃

決まった……そう、確信した瞬間。

目の前のアサシンは消えゆく肉体を気にも止めず、こちらへと慣性に任せて突っ込んでくるーー!!

 

回避ーー不可能。

生半可な回避行動はそれ以外の動きを出来なくする、逆に無防備な身を晒すだろう。

 

迎撃ーー不可能。

ガンドは貫通力はあっても衝撃が足りない、そのまま攻撃されるだろう。

 

ならば、腕を犠牲に。それも彼女を振るう為に出来れば片腕のみ。その犠牲のみでここを切り抜けねばならない。

左腕に力を込め、両の眼で相手の軌道をしっかり把握し確実に受け止めるーー!

 

 

ーーその瞬間。意識が、世界が。斬り離される。世界が停止し、俺の意識だけが動けるような……

 

()斬斬(キキ)ヒャ、()ヒャヒャヒャヒャ。よウ、久しイナぁ生贄君。」

 

そう、目の前の。姿の見えない禍々しいモヤの様なものが声を掛けてきた。

 

「だ、誰なんだ……」

「あン?なンだヨつれネェなァ、といウカお前さん気ヅイてるダろう?理由あル無駄はイイものだガ、意味の無い無駄はよくネェよくネェ。」

 

確かに……目星はついている。いや、目の前にいるこれに関しては確信を持ってすら言える。1度アレに支配されたものなら確実に分かるだろう、それだけの禍々しさと悪しき斬妖(ようとう)の気配。

 

「妖刀の……意識(ほんのう)……」

「ひュゥッ、やルネぇ。流石ハ、ますたぁ。」

 

ーーッ!

その呼び方は、彼女だけのものだ。断じて軽々しくお前なんかが使っていいもんじゃないんだ。

 

「おイオい、わールかッたッテ。オふざケガ過ぎタぜ。」

 

だが、そのへらへらとした雰囲気のまま声色に殺気を乗せて言葉を続ける。

 

「けドよ、俺にはあのイケスかねぇガキとつるンデルお前を助ケる義理は存在しねェンダぜ?その気ニナれば(おれ)ハ、コのまマオ前の意識を斬り刻んだっテイいんダ。」

「………っっ!」

 

確かに、何の因果か俺の意識は奴に攻撃されるギリギリで己のうちに、妖刀の(なか)に、引き込まれた。

けれど、確かに何故。言葉通りなら俺を嫌って、それどころか憎んでても不思議ではないのに。

 

「なぁ、何でお前は……」

「助けタのかッテか?気まぐレダ気マグれ。ソレにな……まダ暴れたタリナかったノサ。まァそんなコトはどウデモイい。今かラお前ニ残さレタ道は二つ。」

 

そう言ってやつは俺に2つの未来を提示する。

 

「2つ……」

「1つハコのまマ意識を戻シ、左腕の犠牲で逃れウル。もう1ツは、(おれ)の力デ迎撃すル……ダ。」

 

コイツの力を借りる。それは益々妖刀としての力に(おもね)るということ。それは俺の寿命を縮めることであり、セイバーにも止めるよう言われていること。

だから当然、断る以外の選択肢はない。

 

 

ーーけれど。

 

 

ーーけれど、それで本当にいいのか。

 

 

ただ、守られているだけ、俺の身体こそ担保に乗せてはいるものの、全ては彼女に任せっきり。そんな、自分の意思をなげうったような戦いで、彼女の為に戦えたと。本当に俺は誇れるのか。

 

未来まで、結果まで考えたらここの最善手は左腕を犠牲にする事だ。この誘いは妖刀の悪辣な罠で、俺を妖刀の本能(やつ)が蝕む為の策。そんなことは百も承知。こんな提案を呑むことは誰も。それこそ、セイバーすら望まないだろう。

 

 

けれどーーこのまま。左腕を犠牲にして生き延びたら、セイバーは間違いなくそれを気に病む。自分のせいだとして自らを責める。そんなこと、俺のせいで幼女が、彼女が悲しむなんてことはあってはならない。

 

それなら寿命くらいーー幾らでも払ってやる!!

 

 

 

「いいさ、乗ってやるよお前の策に。……寄越せ、力を!」

 

斬斬斬(キキキ)()()ャハハ!!いイ返事だ!」

 

モヤはひとしきり嘲嗤(わら)うとこちらへと意識を向ける。

そして同時に、流れくる呪詛(ちから)の奔流に意識は肉体へと、現実へと引き戻されていく。

 

「教えてやるよ……妖刀(おれ)を振るうってことなどういうことかな!」

 

その、最後の瞬間。

何故か晴れたモヤの中。

振り向かぬままこちらに笑うその白装束の妖刀(やつ)の顔は。

彼女に/ボクに

似ているような気がした。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

斬り刻まれ、斬り離された俺の意識と現実が、再び噛み合う。

 

目の前に、アサシンが。

 

「いただきまぁァすス!!」

 

しかし、耳に触れるのは。

牙が、爪が。肉を、血管を。

裂き、破る音ではなく。

 

「が……へ………?」

 

紅黒くガンドのような色に染まった、俺の左腕(やいば)がすれ違いざまにヤツを斬り捨てる音だった。

 

『そうだ、今のお前は1振りの刀。そしてその呪い(ちから)は使えば使う程馴染み、(おれ)に近くなる。さあ、楽しませろ!斬斬斬(ききき)()ャハハハ!』

 

うるせぇ。思わずそう心中で毒づく。サーヴァントとしての、表層のセイバーではなく。より深部の、妖刀としてのアイツから力を受けているからか、声も多少は流れ込むようになったようだ。だが、この力さえあれば、俺もセイバーの役に……

 

「ふぅん、面白ぇ事するな坊主。」

 

声の方を見やると、向かってきた4人全ての動きを封じたライダーがいた。

 

「まさか……ここまでなんてね」

「私達の連携が」「通用しないなんて!」

「畜生、この水、離しやがれ!」

 

よく見ると、アサシン達の表面に滴る水は糸のように絡みついている。水の中から出てきたアサシン達は濡れていた……それで縛られているのだろうか。つまり、水を操る宝具……?

 

 

「ぎゃあぎゃあ鬱陶しいぜ、お前ら……そうだ。サービスで坊主に俺の手品を見せてやるよ。」

 

そう言うとライダーはこちらに向き直り、指をパチンコ と鳴らす。

 

すると水の糸は、瞬間的に肉へくい込み、ウォーターカッターのように容易くアサシン達をバラバラにした。眼球から、手足から。全身を濡らしていた奴らは完全な細切れに変化し、消滅した。

 

「な………!!?」

「ほれ、すげぇだろ?」

 

和やかな笑みを見せてくるライダー。水をあそこまで操る相手に、この港での戦いはとてもまずい。連続して使いたくはないが、ここは妖刀(アイツ)の力を借りてでも全力で逃げなくては……!!

 

「おいおい、そうビビんなよ坊主。俺は別にお前らと戦う気はねぇんだ。」

 

……………へ?

 

「いや、だからそんな指示は受けてねぇし。大体マスターはともかく、俺は聖杯自体どうでもいいしな。」

「な……ならなんで。」

「俺はマスターの支持で調べ物をしてただけよ。それに俺は、アイツを見定めるためにサーヴァントやってるだけだ、それ以外に興味はねぇ。」

「そうなのか、なら……」

「ああ、見逃すぜ。今回も。」

 

そうしてライダーは背を向けて、海へ向かって歩いていく。

どうやら……助かったのか……

 

「けどよ、次は知らねぇぞ。」

 

そう、ゾッとするような声色で言うと。ライダーGパンのポケットから丸い何かを取り出して、それを身長程のサイズに変える。

あれも、宝具かーー

 

そしてそれを海に浮かべ、その上にサーファーの様に乗ると。

 

「それじゃあな坊主、長生きしろよ!」

 

そう言うが否や、ライダーはものすごい勢いで水平線上に消え去っていった。

 

 

聖杯戦争は、未だ3日目。

その終焉(おわり)が如何なるものか、未だ識る者はない。

 




書いてて思ったんですけど……ライダー、チート過ぎない?
いや、原典の方がもっとやばいんですけどさぁ!

という愚痴はおいておいて、やっと強そうなところを見せてくれたマンホールおじさんもといサーファーおじさんの今後に期待して貰えれば幸いです。


そして今後も着実に縮まるであろう戈咒君の寿命……セイバーちゃん早く気づいて止めてあげないとやばいぞコイツー!!

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