次回はもう少し早く書きあげるつもりなのでよろしくお願いします……
マンホールから縦穴を垂直に落下して地に着地すると下水の臭いが鼻につく。
セイバーを装備したままだからだろうか、暗闇に対しても目が素早く慣れてアサシンの下へと走り出そうとしたところで足がピタリと止まる。
………しまった。具体的にどの辺にいるか聞いてない。
この地下下水道は街中に張り巡らされている。つまりやみくもに探すということは下手をすると日暮れくらいまでかかっても見つけ出せない可能性もある訳だ……戻ってレアに問い詰めた方が?いやアイツも監視カメラで見ていたと言うなら地下下水道のどこにいるかまでは把握できないだろう……虱潰しに探すしかないのか。
そう走り出そうとすると頭の中にセイバーの声が響く。
『お主……もう少し考えて動いたらどうじゃ?先程の左手といい、焦るのはわかるがどうにもヤケになっとるように感じるのじゃがのう……』
『べ、別にそんなつもりは無いんだけども。でも、考えて動けって今更どうするんだよ。学校まで戻ってレアに聞くのか?』
『いや、恐らくあやつもそこまでは知らんじゃろ。じゃがな、サーヴァントにはサーヴァントの気配が感じ取れるものよ。それもここまでの気配、全く隠す気が無いようじゃの。』
そうか!その手があった!流石セイバー、可愛いだけじゃなくて冷静でいてくれて本当に助かる。
『お、おいお主……そういう思考は、そのじゃな、もう少し心の中でそっとじゃな……』
『そんなことより、どこなんだアサシンは。』
『む……そ、そうじゃったな。じゃが、実はのう、サーヴァントらしき気配は2つ、ハッキリと感じるのじゃよ。』
『2つ?アサシン達じゃないのか?』
『いや、他にも微細な気配を感じるしこれが他のアサシン達のじゃろう。つまり、今この地下にはアサシン達親玉に加え他のサーヴァントも1騎存在している可能性が高いということじゃ。それが味方か敵かまでは分からんがの。』
なるほど……とはいえ、ここで考えていても始まらない。
『セイバー、まずは近い方の気配に案内してくれ。』
『うむ、一時の方向に直線距離でおよそ1kmじゃ。探知に集中すれば恐らく気付かれる距離ではあるし、一気に近づいて仕留めるぞ、ますたぁ!』
この地下下水道は海の手前の下水処理場へと続く幾つもの本流とそれを繋ぐ細い通路部により格子状になっている。故に直線距離で1kmなら実質距離はおよそ1.3〜4km。今の俺の脚力なら全開で40秒程度で詰められる距離だ。
だからこそ、一気に走る。この際そこらの木っ端アサシン共に気付かれるかどうかは二の次だ。まずは1人、アサシン達の親玉にしろ或いは協力者にしろ、不意打ちで斬りとばすーーー!
残り、500m弱。曲がり角を地を蹴り無理やり曲がることで速度をほぼ落とさず間合いを詰める。そして、3、2、1ーー見えたっ!
暗闇に慣れてきた目がサーヴァントをの姿を捉えて、両腕で大上段に振りかぶった刀を振り下ろす。
しかし、その一撃は相手の獲物によって防がれた。
弾き飛ぶ火花の光が闇に慣れた目を刺激する。
そのまま、打ち合うこと数合。互いに弾き合うことで間合いを取る。
「なっ、ロリコンセイバー!じゃなくて、セイバーのマスター!」
「ーー馴染んだか、先より動きが良くなってるなお前。」
聞こえる声は聞き覚えのある、彼女達の声。
「ランサー……に、鎖姫ちゃんか。こんな可愛いロリまでこんな事件に関わってるとかな……まったく、魔術師ってのはとんでもないもんだよ。だが、時間が無いんだ。信条には反するが、例えロリであろうと今は押し通らせてもらうぞ。何、君の美しさに傷1つ付けないことを約束しよう。」
そうい言い放つと同時に。
ギリ、とここまで聞こえるほどの激しい歯軋りの音。
「そう……あなたまで。あなたまで私を半人前扱い、命を奪う価値すら無いと言うの………!!」
彼女の逆鱗に触れたか、怒りのままに攻撃を仕掛けようとする。
「
彼女の呪文ともに励起した魔術回路を魔力が流れ、細い通路全てを押しつぶすようにコンクリートの手が幾本も周囲から地響きと共に生えてきて俺を握り潰そうと襲いくるーー!!
「うおっ!!」
バックステップを取りつつ必死に回避を続けるが、キツい。これだけの質量を動かされるといなすのが難しい分回避に専念しなくてはならない。
このし状態でランサーも相手にするのは……と、警戒するがランサーはこちらに目を向けない。それどころかランサーの足下からも同じような手が出てくる為それを回避する事に気を取られている。
連携が取れてないのか?だとしたら、回避に専念出来るからこの程度……!
そう回避しつつコンクリートの腕が落ち着くまで後ろへと引く。300mくらいは下がったか……?
完全に視界も塞がれ、道としては機能しなくなってしまった元・通路部を見やりつつひと心地つく。
にしても……何か地雷踏んだか俺!?
『いや、どう見ても思っきり爆発させてたじゃろ……じゃが、好都合じゃ。ランサーのマスターの後先考えない行動でランサーと完全に分断された。あやつらからも目視はう出来んじゃろうし、ここはもう一つの気配……アサシンの親玉の下へ向かうぞ、ますたぁよ。』
『……そうか、鎖姫ちゃん達は攫ってきた人達を連れているようには見えなかった。だからこそいるとしたらアサシンの親玉のところってことか。』
『うむ、それにもしその場にいなくとも捕らえている場所は知っているだろうし、間違いなくランサーよりは格下のサーヴァントじゃろうからの。戦うにも戦いやすい。』
『よし、なら……』
そう、向かおうとした時。背後から地響きが聞こえる。
見ると、先程まで俺らを襲っていた手が逆向きに。
「な、なんだ……!?」
そうして、奥からとびこんでくる一筋の影。
「悪いが、この俺の前では。あらゆる魔術は、意味を成さん。」
射し込んでくる一筋の穂先。それを刀身でギリギリ受けるがそのまま吹き飛ばされる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あいつまで!どう見ても素人なあのロリコンまで私をバカにして!
「ちくしょおおおおおおおお!!!!」
「お、おいサキ、落ち着け。」
なにか聞こえるがまるで聞こえない。
魔力を勢いに任せて魔術式に流し込む。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、 ふざけるな!!
「おい、だから落ち着けサキ。」
どいつもこいつも私を認めない!!私は!お祖母様の後を継ぐ魔術師にならなくちゃいけないのに!お母さんの為にも!
「ああああああああああ!!!!」
私の貧弱な魔術回路が焼け付きそうになるほど魔力を回して魔術を行使する。
もう既にセイバーのマスターの姿は見えない。けれど、けれど、止まらない。止める気が起きない。このまま……全てーー
「あぴゃっ!?」
後頭部を強い衝撃が襲い、目から火花が飛び出そうになる。
「……落ち着け、サキ。触れられたくないところにぶつかったのだろうがそうカリカリするものではない。それでは勝てる戦いにも勝てなくなる。」
ランサーが諭すように私に語りかける。
少し……落ち着いた。ちょっと怒りのまま暴走し過ぎたかもしれない。魔力を使い過ぎて少し目眩もする。
「ごめん……ランサー。あのままランサーに任せておけば倒せたかもしれないのに。というかそれどころじゃないのに、とんでもないミスを………!!」
「気にするな。そんなもんどうとでもなる。ただサキは俺にこう命じればいいんだ。アイツらを倒して彼を救い出せ、と。」
そう、女性のようにしか見えない美しい相貌と声で、ランサーは力強く言い放つ。
「ありがとう……あなたが私のサーヴァントで良かったわ、ランサー。」
「礼を言うのは早いさ、サキ。その礼はここから無事出てから受け取らせてもらうよ。だいたいこういうのは帰りまで苦労させてくるもんだったからな。」
そう笑うと私の魔術でかさなりあって通路部を塞ぐコンクリートの手の前に立つ。
「ランサー、そこを壊して抜けるのは流石に時間がかかりすぎるわ。回り込んで……」
「おいおい、サキ。俺の宝具を忘れたのか?俺にとって魔術は何の障害にもならねぇのさ。」
そう言うとランサーは槍の、その穂先を突き刺す。すると、コンクリートの手はまるで逆再生を見ているかのように壁へと戻っていく。
「あなたの宝具、効能は知っていたけれどまさかここまでの力だったなんて……」
「はははっ、驚いたか?なら驚きついでにセイバーをとっちめて吐かしてきてやるさ。」
「ええ、お願いランサー!」
そう言うと、ランサーはこちらに向けて親指を立ててそのまま出来始めた隙間を縫って一気にセイバーのマスターを追い始める。
ランサーがいれば、助け出すまで後少しだ。
だから……生きてて。