Fate/erosion   作:ロリトラ

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5日目/地下侵攻〜バーサーク〜

 

先陣を切って突っ込んでくるラッパーアサシン。

ふむ、この場の音頭をとっているように見えるだけあって動きはこないだのアサシンより素早いか。

……じゃが、儂の敵ではない。

 

今まで同様一太刀で斬りふせてーーー!?

突然突っ込んできたラッパーアサシンの動きがぐん、と一気に後ろへと引き戻され、振り抜いた一撃は虚しく空を斬る。

 

「甘いぜチョロいぜションぼいZE!俺達家族の絆を舐めるなYO!!」

 

そう言い抜くラッパーアサシンを見るといつの間にか腰に紐が巻きついておりそれで引っ張られることで無理やり躱したのか……!

 

「ふざけおって……じゃが気にするなよ、ますたぁの身体にこれ以上負担をかけぬようとっとと終わらせてやろう」

 

ますたぁにそう声を掛ける。

じゃが、なんなのじゃ、この不安感は。喩えるには知識がないが、それでも感じ取る不安感。

 

じゃがその不安感はますたぁには伝わらず、儂の動かすますたぁの身体は縮地でラッパーアサシンまでの距離を瞬時に詰めて頸を断ち斬る為に振るう。

 

「ジェニー、ラハール!」

「了解、兄貴!」

「OK、ブラザー!」

 

しかし、唐突に響くラッパーアサシンの声とその背後から共に突如現れたポニーテールと角刈りの2人の小柄なアサシンの刃により受けられる。

 

ぶつかり合う刃から火花が散り髪の穂先を焦がす。じゃが、所詮はただの刃物。儂ならこのまま纏めて……!?

 

しかしそのまま刃物ごと完全に切り伏せられるタイミングで今度はラッパーアサシンがポニテアサシンと角刈りアサシンを掴んで共に後ろへと弾き飛ぶことでまたしても儂の太刀筋を躱しおった!

 

こやつら……連携を高い精度で取ることで儂の斬撃的確に回避しておる。

勘か、計算か。

儂の妖刀としての経験は1VS1の立ち合いか、或いは無抵抗の人間を連続で斬り捨て続けていくものに限られている。

 

つまり、複数の戦闘員との同時戦闘の経験が儂の刀身()には()()()()()

 

そも、断片的な知識やますたぁは言わぬようだが見た夢から窺える儂の真名からすればある種当然とも言えるか。儂が打たれたのは恐らく天下太平の世となった後。そもそも合戦自体が存在しない。

 

じゃが、身体能力が高いと言っても所詮は素人。

ならば、これなら……!!

 

刀を鞘へと納め、息を吐く。

呼吸を落ち着け、気を呑む。

 

「Hey!怖気付いたかYO!テメーのますたぁ差し出すなら聖杯手に入れるまでつかつまてやってもいいぜベイベー?」

 

ラッパーアサシンがこちらを煽る。じゃが、その内容は今の儂の耳には入らない。

ようは、奴らに連携させるより素早く切り伏せ続ければ良い。そうすればやっておることは1vs1を幾度となく繰り返すのに等しいのじゃから。

そう考え心を静かに、水面の如く。

 

間合いを一息で詰め、抜刀。

逆袈裟から袈裟に転じ、二の太刀までを叩き込む。

そのまま左右への斬り払いで胴を断つと、同時に胸の中央に感じる感覚。

 

先の尖った鉄パイプが胴を斬られたラッパーアサシンの()()()()()()()()、儂の……ますたぁの肉体の心臓を貫いている。

後ろから小柄な、儂本来と同じ位の背丈のアサシンが鉄パイプを握ってるのが見える。

 

「兄貴の作戦…….恐れ入ったか!」

「へへ、Hey……良くやったミハイル……見ろよ大成功だぜ、こんちくしょうめ。戦闘はともかく、戦争は俺達家族の方が、上だな……おら皆!今がチャンスだ!俺の再召喚までにはちゃんと部位ごとに分けとけよ!!!」

 

アサシンが光の粒子として消失しながら命令を出す。

 

「「「「了解ッ!!」」」」

 

その号令と共に周囲から聞こえる声。

傷口を押さえながら周囲を見渡すとどこにここまでの数が隠れていたのか。ザッと30人程のほどアサシンが周囲を取り囲む。

 

「おのれ……よくも……よくもますたぁに傷を……!!」

 

儂が憑いている限り、妖刀の力を使っている限り契約者のますたぁは死なぬ。現にこの今現在も心臓が修復されていっている。

じゃが、それはヒトから遠ざかることと同義。

そも、心臓を貫かれれば生物は死ぬ。サーヴァントですらそれは変わらぬ摂理。そこからすら蘇ろうとするものがマトモなヒトであるいえるのじゃろうか。

儂は、またこうじゃ。何が儂に任せておけ、じゃ。戦闘を焦らず落ち着いて見ておけば後ろに伏兵を潜ませていたのにも気づけていたはず。

目の前のリーダー格さえ倒せば残りは烏合の衆だと侮りそれ以外を見ておらんかった。いや、いたところで儂の敵ではないと過信しておった……そのせいで、またますたぁは。

 

港の時も儂がますたぁを放置してどこかに行ってしもうたから……先の力、出力という事じゃろう。儂の中の本能(いしき)に魂を売り渡す事に……

ならば、もう儂なぞ。ますたぁを守護する事の出来ぬこの(わし)なぞ不要。

 

全て、総て、統べて。

ーーー斬リ尽くシテやるのジャ。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「おい、サキ!」

「いいから、ランサー!私たちもアサシンを追うわよ!」

 

あのいけ好かないロリコンからランサーを呼び戻し、傷を修復して再びお兄ちゃんを探す為に探索していると突然アサシン達が1箇所に私たちを無視してある方向へとむかって動き出した。

 

ーーその方向は、先程のあのロリコンがいた方向。ならば、やはりあいつが黒幕……!

 

そう思うと、ランサーの静止も聞かず飛び出していた。

あのロリコンが黒幕なら、あいつをぶっ倒せばお兄ちゃんは助かり、私の屈辱も晴らせる。

一石二鳥の行動だ。

 

「これじゃアイツらには追いつけねぇだろ……よっと。」

「ちょ、ちょちょっとランサー!何サラッと抱え上げてるの!?私は子どもじゃないのよッ!」

「いや、普通に子どもだろ……お前さんの脚じゃ《強化》したところで効率が悪い。ならこの方がより早く着けるってことだ。」

「う、うう確かに……でも!着く直前には下ろしなさいよ、こんな屈辱的な姿あのロリコンに見られたら今度こそ理性を保てる自信がないわ、私……」

「分かったさ、だが今は一気に追いかけるぞ、サキ!!」

 

そう言うとランサーは一気にスピードを上げて追いかけていく。

 

「サキ、戦闘音だ!」

「え、どういう事なの!?まさか仲間割れ?」

「それは分からねぇが、とりあえず一気に突っ込むぞ!!」

「え、ちょっ、私を下ろしてくれる話は!?」

「あぁ、下手に放置してアサシンに裏かかれても困るからこのまま突っ込む!!」

「え、ちょっと!?待ちなさいよランサーー!!」

 

 

そうして、先程ランサーとセイバーが戦った辺りに辿り着くと。

 

そこには、集まった最後のアサシンを斬り捨てたセイバーのマスター……いや、中身はセイバーか。

ともかく、そこに立ち尽くしていた。

 

「なるほど、アサシンと仲間割れしたのかもしれないけどそれで全て返り討ちにしたってわけ。流石、セイバー。それでこそ私が討ち取る価値があるッ!!さぁ、魔術師の誇りをかけて、勝負しなさい!!」

「………………くれ。」

 

その宣言に返るのは沈黙と、僅かな言葉。

 

「何かしら、聞こえないわね。それとも私達に怖気付いたの!?」

 

「……助けて、くれ。」

「命乞い?お断りね。あなたは私が殺すと決めた、絶対によ。まぁ、まずはお兄ちゃんの居場所を吐いてもらう方が先だけれど。」

 

だが、その言葉も届かぬ様子で虚ろな目のままアイツは言葉を紡ぐ。

 

「頼む……ますたぁ、を……助けてくれッ…」

 

そう言うとともに崩れ落ち、その肉体から黒の粒子のようなものが出現して私より数歳歳下くらいに見えるセイバーの、そのままの姿になる。

 

「どういう……ことよ、これ。」

「あー、普通に考えて相打ちだろうな。だが、チャンスだ。勝利を取るならここで殺せば、セイバー陣営を排除出来る。」

「私は、そうすべきと?」

「それは、お前の決めることだ。サキ。」

 

目の前には無防備なまま倒れているロリコンとセイバー。私はただ、ランサーに命令するだけで聖杯戦争の勝利へと駒を1つ進められて、尚且つ最優のセイバーを脱落させたとあればお祖母様にも認めてもらえるかもしれない。

なら、答えは決まっている。

 

「ランサー……そいつらを。」

 

「……こいつらを?」

 

「捕縛しなさい。ただし、傷つけないように。」

 

ランサーは難しい顔のままこちらに問いかける。

 

「どういう風の吹き回しだ、サキ。お前の目的は聖杯戦争の勝利だろ?」

「何度も言わせないで、ランサー。こんな勝ち方では私の屈辱は晴れないし胸を張って繰空の後継者を名乗ることなど出来やしない。一時休戦よ、そして…….コイツらが回復した時こそ正面から正々堂々叩き潰してぶち殺すッ!!」

「………フッ、流石マスター。ただの勝利に意味は無い、ああそうだ。その通り、本当に俺はお前に召喚されてよかったよ、サキ。」

 

それまでの難しい顔を崩し、笑いながらこちらの頭を撫でてくるランサー。

 

「ふん、私に召喚されるサーヴァントがそれを喜ばないはずがないじゃない。何を当たり前のことを言ってるのかしら。それより、コイツらが敵対したというのならアサシンの親玉やマスターが逃げ出す可能性もあるわ。手早くお兄ちゃんを助け出さないと……っと、いうか!いい加減頭撫でるの止めなさいランサー!」

「ははは、すまねぇなサキ。さて、いよいよこの臭い地下ともお別れだ。一気に片をつけようぜ、サキ!」

「ええ、勿論よ!ランサー!」

 

そうして再び奥へと私達は進む。後少し、待っていて、お兄ちゃんーー!

 




主人公……って、誰だっけ?

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