ーーーinterludeーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3人組の来訪者が去った後の幽霊屋敷。
そのうちの静まり返った一室で珈琲を飲みながら黒髪の少女は己が従者を呼びつける。
「出てきなさい、ライダー。」
彼女の声と共に霊体化していた彼女のサーヴァントが現れる。格好こそ筋肉質な肉体に対し小さ過ぎるパツパツのTシャツを来てるというアンバランスな姿だが、そのうちを渦巻く濃密な魔力と神秘はそれだけで彼が人間でなくそれを超越した存在であるということを明確に表している。
「呼んだか、マスターよ。」
「呼んだか。じゃないわよ。あんたは私の使い魔なんだから、それらしく従いなさいってのよ。なんてったって私は千年以上続く魔導の大家、カフナ家の後継者なのよ!アンタは強大な力を確かに持ってるけれど、私と主従契約を結んだからには私の使い魔なの。そこんとこ、もーちょっと自覚して欲しいのだけれど?」
「相変わらず注文のうるさいマスターだ。『お呼びでしょうか、マスター。』とでもやればよかったのか。」
その筋骨隆々とした肉体には似合わないほど無駄に爽やかな声でライダーが丁寧な態度を取ると、少女は途端に顔をしかめ
「うわ、ごめん、私が悪かったわ。それ気持ち悪いからやめなさい。」
その身に似合わぬ殊勝な態度に思わず謝罪の言葉を発す。
「だろう?だから分かったならマスターはそうした態度を取ればいいのさ。俺も好きにやる。」
「そんな事は言ってないでしょ。それは最初の契約と違うわ。私は魔術協会からの派遣でカフナ家の魔術師の名に恥じぬ戦いをしにここに来たの。使い魔の手綱1つ握れないようじゃ家名の名折れなのよ。」
「……はぁ、やれやれ。家名、家名とマスター、お前さん家系に縛られ過ぎてないかい?もっと年頃の娘らしいことでもしたら?」
「余計なお世話よ。それに魔術師はいつか子孫が根源にたどり着くために人生を使い潰す生き物だもの。家系に縛られるのは当然じゃない。」
「それは自分自身で生き方を選んでからの話だろ、お前さんのは見たところそれ以前のーーーいや、いいさ。今のところはな。」
「何よ、含みあるような言い方をして。だから使い魔としての基本がなってないって言うのよ。使い魔なら使い魔らしく主人を讃えなさい。」
「讃えろっつーてもお前さん、まだまだへっぽこじゃねーの。現代の練度がどんなもんが知らんが俺の頃と比べたらしょぼ過ぎるね。」
「あのねぇ、幾らなんでも神代の魔術、それも神霊級のものと比べるんじゃないわよ。私をおちょくるのもいい加減にしなさいよ?」
少女が青筋を立てて左手を右肩の痣に添える。
「うぉっと、すまんすまん。俺が悪かったからこんなアホなことに令呪を使うのはやめてくれ。」
その痣こそは令呪。サーヴァントに対しマスターが持つ3画の絶対命令権。
濃密な魔力の塊でもあり、それをどう使用するかが勝利の鍵を握るといっても過言ではない。
しかし、慌てるライダーを見て腹の虫が収まったのか、はたまた自分のやろうとした愚かさに気がついたのか少女は右肩に添えた手を下ろす。
「……はぁ。使わないわよこんなことには。それにライダー、余り現代の魔術師というものを舐めない事ね。神秘の満ちた時代に生きたあなたみたいなのとは違う、神秘の薄れた現代で神秘を求めるからこその魔術師の凄さってものをこの聖杯戦争で見せてあげるわ。」
「ふ、はははは。言うじゃねぇか、マスター。いーぃ啖呵だ。ならせいぜい俺を上手く使ってその現代の魔術師の凄さ、見せてもらおうじゃねぇか。」
「……どう聞いても皮肉しか聞こえないのだけれど。」
「ンなことねぇよ。俺はいつだって
「そう?……まぁいいわ、ライダー。それより聞かせて欲しいことがあるのだけれど。」
そうして軽口はこれまでと言わんばかりに少女は声のトーンを落とし、呼び出した理由をライダーに告げる。
「ん?なんだ?そこのこんびに、とやらで買ってきた中で1番美味い酒がどれかって話か?」
「誰もそんな話はしてないわ。さっきの侵入者達よ。あのまま工房内に引き入れていればそのまま分解して魂を魔術の材料にしたりあなたに食べさせて強化することも出来たのに、何故わざわざ飛んで火に入る虫たちを逃したのかしら。」
「無辜の民を殺す理由も喰らう理由もないだろう。俺らがしているのは聖杯戦争だ。目撃者でもないものをわざわざ目撃者にして死地に送り込む必要もあるまい。」
「そういうことじゃあないんだけど……まぁ、いいわ。それだけ大口を叩くなら戦果で持って示しなさい。成果を出す使い魔には意見を出す程度の報奨は認めるのもやぶさかではないわ。逆に、無様に敗走を示すようなら勝つ為に無辜の民であろうが何であろうが殺し、魂を喰らわねばならぬものと覚悟しなさい。」
「ふ、この俺に負けるなというか。つくづく未熟なくせに傲岸不遜なマスターよ。」
ライダーは少女の言葉がツボに入ったのか高笑いを始める。しかし少女は気に食わなかったようで霊体化を命じ、姿を消させる。その後、珈琲をあおりながら少女は1人呟く。
「教会の監督役によれば私は6人目のマスター。つまり、あと1人。開始が待ち遠しい。お爺様の期待に答えるためにも、何としても勝たなくてはーー」
少女が1人決意を固める中、守掌の夜は更けていく。彼女が望む7騎目のサーヴァントとそのマスターが現れる時は、近い。
ーーーinterlude outーーーーーーーーーーーーーーーーー
戈咒のサーヴァント、早く召喚したい……もうちっとだけ待っててね!