背後で、破壊された霊核の霧散と共にアサシンのサーヴァントととしての肉体が風に溶け、消えていく。
そうして、最後の一欠片まで。完全に霧散したのを見計らって、憑依を解く。
「はぁ……はぁ……つっっっかれたぁぁぁあ!!」
「儂……もじゃ……!」
2人して地面へとへたり込む。
「礼を……言おう、ますたぁよ。お主のおかげで儂は真銘を受け入れられた。あのままじゃったら、儂はお主ごとやられてたじゃろうて。」
「礼なんていいよ……セイバー。俺が信じたくて、信じたんだ。寧ろアレで俺の言っていたことが間違ってて、セイバーの人格が消えちゃったら俺は俺を許せなかった。だから、本当に良かった。」
「ふふ……全く、素直でないますたぁじゃのう……」
セイバーが、その言葉とともに、肩にしなだれかかってくる。慌てて声を上げそうになるが、顔を見ると疲れきったのか寝息をたてて始めていた。
「お疲れ様……セイバー。」
そうして頭を少しだけ、撫でると彼女を霊体化させて立ち上がる。
すると、ポケットのスマホに錬土からの着信が来ており、それを取る。
「はいはい、こっちは無事に済んだぜ、錬土。そっちの首尾は?」
『お疲れさん、こっちもちゃんと拘束したぜ。けどまぁ、少し負傷したから運べねぇし迎えに来てくれ。』
「ったく……しょうがねぇな。さっきお前が示した場所にいるんだよな?」
『ああ、そうだ。んじゃ、頼むぜ。』
「はいはい……分かりましたよっと。んじゃ、待ってろよ。」
そう言って通話を切ると、ポケットから先程のキッチンで見つけた地図を取り出し、歩き出す。
……そして。
「……お前。余裕こいて一人で向かってそれはだせぇぞ。」
「うるせぇな、割と痛いんだぞこれ。」
腕に深々とナイフの刺さった錬土にひとしきり驚いた後に淡々と呆れながら腕の傷より上を服を斬って作った即席の包帯で処置を始める。
「だいたい俺はお前の為にやってやったっていうのに……かつてない程の功労者だぜ?俺は。」
「はいはい……それだけ元気なら大丈夫だな、お前。」
「かー、つれないねぇ。あれ、ところでセイバーちゃんは?」
「疲れたのか、霊体化して寝てるよ。よし……と。応急処置はこんなもんだろ、ナイフは抜くと出血ひどくなりそうだから病院に行ってからにしとけ。」
「お、サンキュー。割と痛いからな、地上に出たらとっとと救急車呼びたいところだぜ。」
「そうだな……」
ん?何か大切なことを忘れてるような…………
「どうした戈咒、急に考えこんで。」
「いや……何か……あ!?」
「おい、何かあったのか!?」
「しまった……俺としたことがロリの事がすっぽり頭から抜け落ちてたなんて……鎖姫ちゃんどうなってるんだ今!?」
「え。」
「悪い錬土、急用思い出したから先上に上がって救急車呼んでてくれ。んじゃ!」
そう言って駆け出そうとすると後ろから錬土に片手で肩を掴まれる。
「だから済まんって、急がないと……!」
「おい、今……鎖姫って言ったよな。それって、
「え、ど、どうしてその名前を……え、まさか、お兄ちゃんって、ホントに……?」
「あぁ、そうだ。鎖姫は俺の妹だ。だからアイツの名前がなん今出てくるのか……いや、聖杯戦争関係に間違いないよな、なら今どういう状況になってるか教えろ!!」
「向こうでライダーと戦ってたはずだ、必ず勝つって言ってたから信じて来たんだけど……」
「この……バカ!そんなこと言ってる時のアイツはいっつも無茶するんだよ……どこだ、案内しろッ!」
な……なんだって。いや、自分を責めるのは後だ。今は急いで向かわないと……!
「分かった、ここからならアサシン達のお陰であそこまでは一本道だ。全力で飛ばすぞッッ!」
「あぁっ!」
そうして、ランサーとライダーが戦っていた地点にまで行くと。
「おいおい……地上が見えるぞ……!?」
「そんなことより鎖姫は、鎖姫はどこにいる……!!」
「た、多分向こうのほ……あれは、監督役に、サーヴァント……!?」
俺の一言に冷水をぶっかけられたかの如く錬土の声から狼狽が引く。
「あれがライダーってことか!?」
「いや、見たことないやつだ……どんだけ集まるんだよここに……!!」
「全くだ、というか戈咒、お前まだ戦えるか……?」
「正直キツい……けども、アレ監督役にと共にいるなら敵じゃないんじゃ……?」
「少しは考えろ、監督役がサーヴァント引き連れてる時点で参加者ってことだし怪しいだろ完全に……」
言われれば、それは確かに。
そして、近づいてくる2人の後ろから鎖姫ちゃんを背負ったランサーが歩いてくる。
「いや、待て錬土!ランサーと鎖姫ちゃんもいるぞ、どういうことだ……!?」
「俺にも分からねぇよそんなの。敵じゃないといいがな……」
そう疑心暗鬼になりかけた時、向こう側から監督役が声をかけてくる。
「おーい、セイバーのマスター。それにランサのマスターの兄貴か?ちょっとツラ貸しな。」
「ルキア……もう少しくらい丁寧な言葉遣いの方がよろしいのでは?」
「こちとら昨日も森まで行って疲れてんだよ仕方ないだろ。」
「いや、それ私もですよね……あ、申し遅れました私は
共にいたサーヴァントが自らのクラス名と真名を信用させる為の証とばかりに明かしてくる。
なので、小声で錬土に訊ねてみる。
「どうする……敵じゃないか?あの人達。」
「……多分な。あのサーヴァントが本当に
審判役のサーヴァント、そんなのもいるのか。
「でも、そうってことは審判役が2人いるってだけだし心配は無さそうだな……良かった。」
「ホント……良かったぜ。なら……」
そう言うが否や錬土は全力で駆け出し。
「あ、じゃあまず話を……」
「鎖姫ィィィィィィィ!!!!」
2人をガン無視して後ろのランサー、その背にもたれ掛かる鎖姫ちゃんへと慟哭と共に全力疾走していった。
「……聞きたかったんだが。ちょっと落ち着くまで無理そうだな……はァ。」
「ど、ドンマイでしてよ、ルキア。」
なんかルーラーに慰められてる監督役の人を横目に俺も鎖姫ちゃんへと駆け寄る。というか監督役の人の名前何だったっけ……?
「おい、鎖姫!目を開けろ、死ぬな、死ぬんじゃない、おい鎖姫ィィ!!」
「落ちつけ、サキの兄よ。」
錬土がそう叫んでいるとランサーに額を指で弾かれる。
「ただの魔力切れによる気絶だ。サキなら1晩ほど霊脈の上で休めば元に戻る。」
「え……あ、ほ、ホントだ。息もあるし脈も有る……よかった。」
「だいたいな、錬土。ランサーが消えてない時点で死んでるってことはないだろ。」
とはいえ、俺も錬土が慌ててなかったら焦ってあわあわしてた気もするけども。
「いや、それは違うなセイバーのマスターよ。俺は単独行動スキルを持つが故に、マスターからの魔力供給無しでも短時間なら活動可能だ。現に今もそうしている……というよりこの状態のサキから魔力を貰うわけにはいかないだろうが。」
「い、言われてみればそれもそうか……」
「さて、サキの目的としての兄の救出は既に済んだ……と見ていいのか?セイバーのマスターよ。」
「あぁ……アサシンは倒した。」
「ならば、後はお前に預けるとしよう。俺は一刻も早くサキを休ませねばならんのでな。ではな!」
「え!?」
「おい!!」
そう言うとランサーは鎖姫ちゃんを抱えたまま天井に空いた穴から地上へと飛び上がり去っていく。そこから見える空は既に夜の星空へと切り替わっていた。
「あ、あの野郎……勝手に人様の妹を連れてきやがって……いや、どうせ行き先は分かってるんだ。それに今は一刻も早く休ませた方がいいのも事実……か。」
そう言うと錬土はこちらに向き直って声を掛ける。
「よし……まぁ、とりあえず帰るとするか。俺も怪我をどうにかしたいしな。」
「そうだな、帰るか。」
そう帰ろうとした矢先に、俺たちに声がかかる。
「おい、帰る前に話だけしてけよコラ。」
「「あ」」
……すっかり存在を忘れかけてた。
「監督役の事情聴取ってとこか……悪いが、見ての通り怪我人なんでまた後日ってことで……」
「ルトガルディス、頼む。」
「わかりましたわ。」
ルーラーはそう言うと錬土の腕の傷からナイフを引き抜き、手を翳す。
すると数秒と経たぬ間に傷が塞がった。
「お、おおお……」
「さ、これで話をしてもらえるよな。」
「仕方ねぇ、治療の礼だ。戈咒、お前も話せよ。」
「はいはい……分かったっての。」
そうして、俺たちはアサシン達についての一連の件について話した。
「誘拐殺人事件に、猟理人に、アサシン……マジかよ、仕事がまた増える……頭痛くなってきた。」
「る、ルキア、しっかりしてくださいまし!?」
頭を抱えながら横のルーラーにもたれ掛かるとルーラーが慌てながら慰める。
「ところで、お前らが捕縛した猟理人ってのはどこにいる?」
「どこって……あ。」
警察に突き出すために連れてこようとしたけど、ダッシュで来るのに邪魔だから放置してきたんだった……!」
「しまったな……」
「ああ、置いてきちまった……」
「そうか……まぁ、一応回収して記憶処理をした後に警察にこっちで突き出しておく。そっちで勝手にやられると面倒だからな…んじゃまぁ。聞いておきたいことはこのくらいか、お疲れさん地上まで送らせてもらうぜ。」
そこまで監督役……ルキアさんが言ったタイミングで、今度は錬土が口を挟む。
「一つ、聞かせてくれ。」
「ん?なんだ。」
「なんで、
「それは……参加者でもないお前さんには関係の無い話だ。それじゃあ、ルトガルディス。コイツらを地上まで運んでくれ。」
「わかりましたわ、ルキア。」
「おい、話はまだ……!」
そう応えるとルーラーは俺たちを抱えて穴から跳びあがり、俺達を地上へと送り届ける。
「それでは、私はここで。」
そう言うとルーラーは再び穴から地下下水道へと戻っていく。
「錬土……何だったんだ、さっきの。」
「いや、まぁ、とりあえずは大したことでもないだろうから大丈夫だ、それより疲れたな。とっとと家帰ろうぜ!」
「あ、あぁ…そうだな。」
そうして、俺たちは共に家へと向かい。
俺は、家に着くと同時に泥のように眠りについた。
それほどまでに疲れていたから、俺は気づけなかった。
セイバーが、アサシンを倒した後から霊体化したまま、反応のないことにーー
次は以前要望のあった3章終了時点でのサーヴァントマテリアルのようなものになります