人間やれば出来るもんだなぁ!(自画自賛)
「鎖姫ちゃん……どうしてここに?」
「なれなれしく呼ばないでよこの変態。どうしてこんなのがお兄ちゃんの親友なのよ……」
「お兄ちゃんってことは……錬土に呼ばれて?」
「……ええ、そうよ。貴方がいるって聞かされてたら来なかったろうけどね。」
「でも……なんで。」
「貴方から受けた屈辱を晴らすために決まってるじゃない。でも、安心したわ。ここで私との再戦を投げ捨てて逃げるようなやつだったら私のイライラがもっと高まるところだったし。」
「……いや、俺は別に君と戦うつもりは。」
「貴方に無くても私にはあるのよ!!……はぁ、今はこんなことに付き合ってる場合じゃなかったわ。」
そう言うと鎖姫ちゃんは今度はルキアに向き直り、堂々と話し出す。
「それじゃあ、監督役さん。いえ、シスター・ルキア。以前の約束通り、貴方個人に借りを返してもらおうかしら。」
「なるほど、そういう……ことか。だが、あの時こうも言ったはずだ、一介のシスターとしてとして、監督役の特権は使えないとも。」
「ええ、だからこれは監督役としての貴女ではなく、
「そ、そんなの詭弁ですわ!だいたい、そのときには私はまだ召喚されて無かったのです。そんな理屈が……」
「通るだろう、そりゃあ。
そこに追いついてきた
「それに、貴女は監督役の立場でありながら、ルーラーとはいえマスターを兼任していた。これは公平性を欠く行為には変わりないわよね?」
「……ふ、ハハ、ハハハハ。なるほど、そう来たかい。」
ルキアは頭を掻きながらため息を一つついて、答える。
「いいさ、セイバーの治療、やれるだけのことはやってやろうじゃないか。」
「ルキア!?」
「ほ、本当か!?」
「嘘は言わないさね。戈咒、ルトガルディス、奥に行くぞ。」
そうして、奥の寝室にセイバーを寝かせると、ルーラーが手を当てて治療を開始する。昨日錬土の傷を治したのと同じ力だろうか。
でも、これで一安心だ。
「これで、お前がここで脱落することはなくなったわけだ。」
「ああ……あなた達のおかげだ。ありがとう。」
「よせよせ、あたしは嬢ちゃんへの借りを返しただけさ。」
そして、ルキアは懐からスキットルを取り出すとそれをあおりながら、こちらに向かって話し出す。
「……1つだけ、忠告しておこう。」
「……忠告?」
「ああ、かつて同じ目に遭った先輩からのな。」
「この、左手に関してか。」
「いや、そんな小さなことじゃない。アイツに関わってしまったせんぱいとしてのさ。まぁ、酒のつまみにでも話させろ。」
「つまみって……」
「この先、アイツに気に入られちまったお前は間違いなくあの手この手で苦しめられるだろう。だが、決して。折れるな、立ち止まるな、諦めるな。」
「諦めるな……」
「アイツは悪趣味だからな。お前みたいな変な奴が足掻くのを見て楽しんで、欲しがる。だが手に入れたら、ポイだ。飽きられても殺されるだろう。だから、対抗できるだけの力の無いお前はとにかく生きることに専念するといい……しまった、これ以上の助言は肩入れしすぎだな。忘れてくれ。」
「いや……ありがとう。」
そのとき、セイバーを治療していた光が止む。
「終わりましたわ、セイバーのマスター。」
「セイバー!」
急いで駆け寄ると、セイバーは静かな寝息を立てている。
「もうすこししたら、目を覚ますでしょう。」
「って、ことだ。お前はとっとと嬢ちゃんとかセイバー連れて出てけ。ここは中立地帯なんだ、そうそう入り浸られてたまるか。」
「ルキアの場合、周りに人がいるとのんびり出来ないからではなくって?」
「うるせぇ、とりあえずほら帰った帰った。」
そう言われるがままに、セイバーをおぶりながら教会を出る。
「戈咒、セイバーちゃんは……」
「この通り、無事だよ。」
「そりゃあよかった。」
「ところで、鎖姫ちゃんは?」
「あいつならもう帰った。というか昨日も思ったが、戈咒お前人の妹に少々馴れ馴れしくねえか?うん?」
「そりゃあ、彼女は小学生だろ?そうしない理由がないじゃないか。」
「よしわかったお前はここで潰しておく、大事な妹にロリコンがついたらたまったものじゃない。」
「うわーお、まさかお前がとんでもねえシスコン野郎だったとは。予想外ここに極まれり、だぜ。」
「はっはっは、言い残すことはそれだけか?」
「いや、末期の一言は『ロリ最高!!』がいいなぁ。」
「ふ、ふふ、ふふふ。」
「ははは、はははは。」
そして、どちらからともなく笑いながら帰路へとついた。
「あ!原付忘れたじゃねーか!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、守掌教会のルキアの私室ではソファで2人がもたれかかりながら言葉を交わしていた。
「ルキア……何故、参加者でもある彼を助けて、なおかつ励ますようなことを?あんな言いがかり、いくらでも断れたでしょうに。」
「なに……せっかくアイツがよそ見をしてくれてるんだ。ここで脱落してアイツが計画に専念しちまうより、陽動になってもらった方があたし達も動きやすいだろう?」
「悪い人ですわね……」
「手段を選べる程の、余裕はないんだ。お前も理解してるだろ。ルトガルディス。」
「ええ……でも、せめてあの子の先行きに光がありますように。」
「聖人の祈りだ、きっと届くさね。」
「いやですわ、ルキア。こういうのは誰がしたかではなくて、心持ちが大事なんですのよ?あなたもシスターですし、祈って差し上げれば?」
「…………そうだな、願わくば。これ以上アイツによる犠牲が出ない事を。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
暖かな、穏やかな光が。
穢れを、
緩やかに溶かして、意識を浮上させる。
「…………ん、んむ……?」
ーー目が覚める。
そして、身体を起こす。
「ーーーーーー!!!!!」
言葉にならない声と共に、この身体を。
再び有り得たこの身体を抱きしめられる。
「……まったく、これではどちらが世話をかけていたのか分からぬな。」
「目を覚ましてくれて……よかった、セイバー……!!」
そうして、それを見て。
心から湧き上がるのは。
この、感情は。
これがーーーいや、今はまだ。これを受け入れる時ではない。
儂が、今の
だから、今言う言葉はこれだろう。
「助かった、ますたぁ。」
「お互い様だろ。それに……
「お主は変わらんのう。相変わらず、阿呆じゃ。」
「セイバーに言われたかねぇよ!だいたい、急に消えかけて……やっぱレアのせいか?」
「さぁ……な。儂にも分からぬ。」
嘘だ、あれは全て自業自得だ。
けれど、今はそれを口にしたくなくて。
そして、その名前であの微睡みの、くらやみの中を思い出して。
再び、覚悟を決めた。恩を、返す為に。
「じゃが、今ここに再び誓おう。ますたぁ……儂はお主の刀となり、立ち塞がる敵の、全てを斬りさこう。」
「なら、俺も誓おう。俺は君のマスターとして、君の願いのためにこの戦いを勝ち抜こう。」
そして、どちらからともともなくくすくすと笑い出す。
「なんじゃ、似合わぬことをしおって!」
「そっちこそ、急にどうしたのさ。まったく。」
「なんとなく、じゃよ。」
「じゃあ、俺もなんとなくだ。」
「まったく、素直じゃないのう。」
「お互い様だろ……そうだ、パンケーキミックス用意しておいたんだ。焼こうか?」
「ほほう……分かっておるではないか。駆けつけ3枚といこうかのう。」
「……そういうところは素直だな。」
「う、うるさいわい!」
こうして、つかの間の穏やかな午後は。
ゆったり、ゆっくりと過ぎていく。