この街の霊地の地下深く。毒聖杯の鎮座するその場所でレアは
「ふぅん……人が見てないからって、いえ見られてるの承知で好き放題言ってくれるわねルキアちゃん。ひどいと思わない?バーサーカー。」
「フン……俺にはあずかり知らぬことだが、別に間違ってはないのではないのか?お前は化け物側の存在だろう。」
「ひどいわねぇ、バーサーカー……でもまぁ、いいわ。ルキアとルーラーが組んでいたのは予想通りとはいえ、ここで確認できたのは僥倖ね。でも、私と彼の繋がりを気づかれた以上、あまり干渉してルーラーに余計なことをされてもめんどくさいし……取り敢えずは毒の器をを満たすべき、かしらね。」
そう言うと、レアはすくりと立ち上がる。
「さて、ならまずはあの娘の下へ向かおうかしら。いくわよ、バーサーカー。」
「……ああ、承知した。」
そうして、この主従は毒聖杯の下をあとにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日が暮れかけたその時、鎖姫は自宅へと帰投していた。
「帰ったかい……鎖姫。」
「お祖母様……」
「あの出来損ないの下に向かったらしいじゃないかい。」
「そ、それは……」
「それでいて、サーヴァントは倒せてないときた。」
「お、お祖母様……どこでそれを…!?」
「その位を把握してないとでも思ったのかい、この繰空の七代目である繰空
「ご、ごめんなさいお祖母様……」
「ふん。実績の伴わない言葉ほど軽いものはないね。この恥さらしめが。」
「つ、次こそは!!必ずや他のサーヴァントを倒して見せます!!」
「なら、結果で語るんだね……」
そう言うと、同時に縛は崩れ落ちるように消えさった。
そして、それを背後で見ていた声がかけられる。
「あらあら……繰空の後継者さんも大変ねぇ。」
「んなっ!?」
「なっ、下がれサキ!?」
背後に突如現れたレアにランサーが槍を振るう。
「悪いが、こいつをここでまだ殺させるわけにはいかなくてな。」
しかし、その一撃はバーサーカーの剣によって弾かれ防がれる。
「白昼堂々攻め込んでくるとはいい度胸じゃない。ちょうどいいわ、ここで貴女とそのサーヴァントを倒させてもらう!!」
「あ、あ~~、ちょっと待って。今回の目的は別に戦いに来たわけじゃないのよ。手を組まないか、と思ってね。」
「手を……?」
「そう、あの強力なライダーを倒す為にも、ね。」
「なるほど…」
そういうと鎖姫は口元に手を当て考え込む。
「……バーサーカーのマスター。」
「あら、考えは決まったかしら?」
「ええ。答えは決まったわ。いまここで、貴女たちを倒す!!!!ランサー!!」
「おうよ!!」
その号令と共にランサーが襲いかかるが、バーサーカーの剣によって弾かれ、そのまま中庭へと飛び出す。
「ランサー!?」
『平気だ……にしてもそう簡単にはいかねぇか。』
「ちょっと……私にはいまのところ戦う気は無いんだけども。まぁ仕方ないか……バーサーカー、遊んであげて」
「ふむ……承知した。」
バーサーカーも追うように中庭へと飛び出す。
「さ、どれくらいのものか見てあげるわ。
「遊んで?私たちを舐めないでよね、おチビちゃん!
鎖姫の詠唱と共に魔術回路を魔力が流れ、魔術が発動する。
床から、天井からーーー石の、土塊の手が伸びてレアを押し潰さんとする。
「やはり、この程度か……
その、詠唱と共に。レアの身体が、いや周囲が溶けるように浸されるように。
大気が穢れ、歪み、崩れーーーレアを潰そうとした石塊や土の手が、振れた先から溶解し、或いは揮発し、或いは彼女の身体にどろどろに融け込む。
「え、え、ええ……なに、これ!?」
「やはり……繰空も落ちたものね。後世の育成には失敗したのかしら。あの娘なら防がれる前に届かせたろうし、それ以前にもっと的確な魔術行使をしたでしょうに。こんな行き当たりばったりの選択ではなく、最適解の魔術を使えたわ。それに、未知の魔術で防がれたからと言って、隙は見せなかったのに。まぁでも、その血の衰えもまた運命かしら。」
「ひ、ひぃ……」
腰を抜かしかけながら、鎖姫は怯えるように後退し、屋敷の奥へと逃げ込む。
「……あら、逃げ出すの。まぁどうでもいいのだけれど。でも、それならそれでサーヴァントだけは魂を回収しないと、ね!」
レアは意識を中庭に向け、バーサーカーに呼びかける。
「バーサーカー、ランサーを逃がさず確実に仕留めなさい!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中庭に弾き出されたランサーを追撃するバーサーカーは、槍をまともに構え直すよりも素早く斬りかかってきた。その剣技は、狂気など欠片もなく才能と努力に裏打ちされた剣筋であり。一合一合ごとにランサーの手傷を増やし、敗北への道筋を紡いでいく綺麗な剣筋であった。
「くそ、やっぱ、強いな。」
「……逆だ、貴様の武芸が三騎士の割に拙すぎるのだ。かといってその槍が神造兵装レベルの代物というわけでもない。ランサーとしてはお粗末すぎる。」
「ちぇっ、好き放題言ってくれちゃって……」
確かに、ランサーの武芸はそれだけで三騎士たりえるほど優れているわけでもなければ、その槍が伝説に深く刻まれるほどの宝具というわけでもない。
そもそも、この英霊は一通り程度の武技を修めていたところでそれで名を残した英霊ではないし、最も適正のあるクラスもライダーである。
この毒聖杯のイレギュラー性故か、ランサーでの召喚にこそなったが彼は一騎打ちなどの戦いで名を残した英雄ではない。
「事実を言ったまで、だ。それにお前のマスターは事実、既にやられ駆けているが?」
「サキ……!?がはっ!」
バーサーカーの言葉にのせられ、意識をわずかに向けた瞬間防御をくずされ、ランサーは塀まで吹き飛ばされる。
そして、それと同時にレアからの指示が中庭へと響き渡る。
「バーサーカー、ランサーを逃がさず確実に仕留めなさい!」
「……承知した。」
そう答えると同時に、バーサーカーは仕留めんと襲いかかってくる。
ーーーその時。
ランサーの脳裏に念話での合図が飛び、彼の指はケンのルーンを描き、それを発動させ周囲を発火させる。
そして、それにより生まれたバーサーカーの一瞬の隙を突くかのごとく、鎖姫の
「
そして、それと同時に中庭の草から立ち上る炎と煙の陰に隠れるようにして、地面がめくり上がり、そのままランサーを包み込むように地下へと落とす。
そして、バーサーカーが詰め寄ったときには、元からなにもなかったかのように。既に、逃げられた後であった。そうして、そこにレアが歩いてくる。
「なるほど……まだ小さいからって怯えて逃げたかと思えば……なかなか肝は据わっているじゃない。面白い……彼女と彼をぶつけたら案外いい展開になるかもしれないわね、これは。」
そう言うと、バーサーカーと共に、沈みゆく日の中、レアは姿を消した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
繰空邸から少し離れた林の地面をこじ開け、地上に出ながらランサーがぼやく。
「ふぅ……なんとか上手くいったか。にしても、やっぱり乱暴だったんだじゃないか?」
「なによ、無事に成功したんだからいいのよ、ね?」
鎖姫の返答に対し、ランサーはさっきのレアの提案に対して思案するふりをして行われた念話を思い返す。
『確かに……あのライダーは強敵ね。どう思う?ランサー。』
『たしかに、一合斬り結んだだけだがあのバーサーカーはかなりの強さだ。手を組めばライダーを倒すのもそう難しくはないだろう。だが……』
『だが?』
『あのマスターの方が信用が出来ないな。死徒ってだけでもともと英霊である俺たちと敵対する存在だ。正直手を組むならセイバーのマスターの方がマシだな。』
『な……あんな奴と手を組むくらいなら死徒を相手にする方がマシよ!』
『あー、今のは失言だった、忘れてくれ。だが、組むべきでは無いと思っているのは事実だ。』
『ふん……まぁいいわ。でも確かに、貴方の言う通りね、ランサー。バーサーカーのマスターは私たちにあの強力なライダー、と言った。けれど、私たちがライダー達と戦ったのは?』
『昨日の、地下での一度だけ……』
『そう。なのに、私たちがライダーの脅威を知っている体で話を振ってきた。つまり、この女もお兄ちゃんがさらわれたことに絡んでいる可能性は十分にある。それを信用できるわけがないわ。』
『なるほど、それもそうだ。で、どうする?こっちの本拠にまで攻め込まれてるんだ。逃げるのは難しそうだが?』
『ええ、確かにお祖母様がいないと屋敷のトラップ類も作動させられないし、ただ拒否するのは危険よ。かといって、組む気も無い。だから、先制攻撃で騙すのよ。』
『どういう、ことだ?』
『簡単よ、戦意があるように見せかけて、やられたり、怯えて逃げ出したふりでそれぞれ距離をとる。あとは、私の魔術で地下に穴をあけて、そのままこの屋敷の地下道から逃げおおせる。』
『……簡単に言うが、出来るのか?というかかなり穴だらけじゃねえかその作戦……』
『なら、いまやりあって勝てるの?』
『…無理だな。仕方が無い、その作戦でいこう。ただし、いざとなったら俺は切り捨てて1人でも逃げろ。』
『大丈夫よ、監督役への態度からしてもこの女はきっと周りを軽んじてる。だから、多分上手くいくわ。』
そして、一通り回想したところでランサーは思考を打ち切り、鎖姫に問いかける。
「けど、これからどうするんだ?あの場所はばれてるし、どこか拠点を考えないとな。」
「そうね……お兄ちゃんになにかいい案を聞いてみようかしら。」
そう言いながら、2人は日の暮れた街を歩き始めた。