第1話 「稲見五良という人間」
───地球とは、はるか遠く離れた宇宙の果て。一面に広がるは黒い艦隊、それを指揮するのは黒い巨大な惑星。
が、黒い艦隊が突如として爆発を起こし、次々と艦隊は壊滅していく。無数の砲撃を放っているのは、驚くほどに巨大な一隻の戦艦だった。さも当たり前かのように宇宙空間で顕在し、船体の前部には顔のようなものが見られ、両舷には巨大なドリルが装備されている。
「提督、敵艦隊撃破しました」
「がしかし…また敵本拠地から新たな艦隊が無数に…」
まるで、黒い惑星と見えない糸のようなもので繋がっているかのような黒い艦隊は、無数のミサイルを放った。ミサイルは物凄い勢いで巨大な戦艦に向かって行くと同時に形を変え、馬を彷彿とさせるような生物群となって襲いかかる。
「狼狽えるな!!」
慌ただしくなる艦の中で、一人の男が声を張り上げた。それに驚いた船員たちは静まり返り、その顔を提督と呼ばれた男へと向ける。
「むしろ敵に教えてやれ。俺達、イナミ艦隊の強さって奴をな」
男はゆっくりと前へ歩み寄り、腕を組んだ。
「戦艦三笠、構わず前進だ!俺を誰だと思ってる!?」
~イナミ艦隊 開戦~
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第一章 イナミ艦隊
第1話 「稲見五良という人間」
非常に迷惑な…話をしよう。
西暦2010年夏、太平洋マリアナ海溝付近の海上にて謎の未確認生物が発見された。上空を飛行していた日本の航空機から撮影された映像を見る限り、海洋生物専門家は新種の海棲生物と断定。調査に乗り出した。
が、しかし…発見された新種の生物は調査チームが乗っていた船を攻撃。船は破壊されてしまったが、乗員は辛くも救助された。
さて、ここまでならば凶暴な生物が船を攻撃したって事件で終わるかもしれないが、ここからが迷惑な話。何たってその新種の生物は”おかしかった”んだ。何処がおかしかったかというと、調査チームが写真に収めたその姿。その写真には三体の生物が写っており、白と黒の配色という共通した外見は一見するとただの深海生物のようにも見えるが、一体は鯨のように巨大で、もう一体は人間のような体の形状をし、もう一体はクラゲかイカのような姿だったのだ。そして、驚くべきことにこの三体の身体には銃のような砲身がついていて…そこから、砲撃を放ったんだ。
おかしいだろう?ただの海棲生物だと思っていた奴らが、突然銃とか大砲みたくドカンとやってきたんだぜ。それで、日本どころか世界中が大騒ぎよ。それから、奴らによる侵略が始まったんだ。
人間は、奴らの事をいつも深海からやって来て、その攻撃方法や仲間との連携行動パターンがかつての軍艦みたいだったから、「
うん、ここまでは2054年を生きてる俺達にとってもう常識レベル。徐々に深海棲艦はその数を増やし、大々的に漁船や商船や客船、さらには空飛ぶ航空機までもを攻撃し始めた。
海上交通網とかはもう崩壊。奴らはさらに勢いを増し、人類を間接的に蹂躙していった。だけど、人間だってやられっぱなしじゃなかった。俺が暮らしてる日本は研究の末、2013年春、深海棲艦に対抗できる「
彼らと彼女らの甲斐あって、ようやく深海棲艦の動きは沈静化…ほぼいなくなったも同然となった。人類はようやく深海棲艦の脅威から解放され、再び自由を手にした。
あぁ?艦娘とかって一体何だって?結局その深海棲艦の正体は何だったんだ、だって?いいから黙っていれば、詳しい事はいずれ分かるはずさ。それまで、俺が巻き込まれたこの迷惑なお話に付き合ってくれ。
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「なーんか…海が赤いな」
五良はそう呟きながら、防波堤の端にしゃがみ込んで海を見渡す。心なしか、地平線の方角の海が少し赤く見えた。今は夜で完全に日が暮れており、海が夕焼けに染まっていたわけではないだろう。
今は五月の暮であり、昼間であれば少しずつセミの鳴き声が聞こえるようになってきている。
「おっと、もうこんな時間か」
五良は立ち上がると、ふらふらと歩き始めた。さっきの赤いのは気の所為だったか、と軽く流し、自転車にまたがると自宅を目指す。防波堤沿いの道を曲がった時、角の先に人が居るのに気付き、間一髪でそれを避けた。その人と一瞬だけ目が合ったが、相手の顔つきと風貌からソイツが不良であると気付くと、五良は無視して先を急ごうとした。
「おい、テメ…待てや」
その不良が発した低い声を聞いて五良は動きを止め、後ろへ振り向く。すると、他にも三人ほどの仲間がいた。
「お前、さっきぶつかりそうになったよなァ!?」
「せやぁ、当たったらどうしてくれんねん!」
三人は口々に怒鳴りながら五良のワイシャツの襟を掴み、殴りかかろうとする。が、すかさずに五良は襟を掴んだ不良の顔面にパンチを叩きこんだ。
「悪かったな」
「上等だ!ぶっ殺してやんぜ!」
態勢を立て直した三人は五良目がけて一斉に襲い掛かる。だが、五良は少しだけ笑みを浮かべると、一人の顎を思いきり蹴り上げた。
「アンタら知らなかったのかよ?南校の稲見にゃ手を出すなってよ!」
五良は一分と経たないうちに三人の不良を叩きのめしてしまった。そう、いわゆる同じような不良としてのレッテルを貼られている五良は腕っぷしは強いのだ。
「やべ、帰らねぇと!これ貰ってくぜ」
倒れている不良のポケットから財布を取り出し、中身を少しだけ物色して自分のポケットへ突っ込む。
「テメ…稲見…覚えとけよ」
「アンタらみたいな怖いヒト、忘れるわけねぇだろ」
そう吐き捨てると再び自転車に乗り、その場を後にした。
着いた先は、商店通りにある一軒の店だった。暖簾には「らーめん」と、看板には「イナミ亭」と大きく書かれている。建物は少し古く、二階が自宅となっている。五良はその店の前に自転車を停め、急いで戸を開けた。
「ワリ、遅れたぜ!」
「あ、帰ってきた」
店の中のカウンター席でラーメンを食べていた、前髪をカチューシャで上げている一人の女子高生を見るなり、五良は真顔で店を飛び出した。それを追いかける女子高生の名は、
「イテテテテ!!」
凪は五良の耳を掴み、再び店の中まで引っ張ってきた。
「ほら、親父さんが話があるんですって」
「あ?」
「おせぇよこのバカヤロウ!!!」
耳を壊してしまうような大声に、思わず五良は後ろへ飛びあがる。
「店手伝う気がねぇなら、ハナからおとなしくそう言いやがれ!」
そう怒鳴っているのは、白髪交じりの髪の毛を残して禿げた頭をした、見たところ五十~六十の男だった。頭に巻いたタオルに、腰にエプロンをかけ、オタマを手に持ったままカウンターから飛び出している。
「い、いや、オヤジ…今そこで不良がよ…」
「おっ、いい訳か?言い訳するんだな!?女々しいぜ、殴る!!」
「イテテテテ!」
頭に拳骨を喰らった五良。
「ウチの馬鹿が騒がしくてすいやせんね、凪ちゃん」
「いつものことですもの」
言うまでもなく、五良はこの凪と親父が苦手なのだ。五良の父親でここまで男で一つで育ててきた男で、イナミ亭店主
凪と親父が喋っている間に、五良はレジスターに近寄り、それを開けた。
「何やってんだ!?」
「イテテテテ!」
それに気づいた親父がすかさず五良の腕を掴む。
「うわ、アンタついにお店のお金に手を出したのね~!」
「バカ、その逆だ、カンパだカンパ!」
「ほぉ、暇のないお前がどうやって稼いだ?」
「そりゃ…何とかしてよ…」
「お前がカツアゲした小汚い金なぞいらんわ!」
「うるせー、儲かってないだろこの店はァ!!」
「チッ、その金は要らんが…どうだった?良いバイトは見つけたんだろうな?」
「ああ…」
ハッキリと言って、あまり儲けの無いイナミ亭の収入だけでは少し厳しいと思った五良は、自らがアルバイトを始めることを決め、今日はそれを探していたのである。
「で、どこよ?」
「えっと…横須賀鎮守府の『清掃員』だぜ」
…今思えば、ここから…俺にふりかかった非常に迷惑な話ってのは始まってたのかもしれねぇ。
「なんだとおおお!!?テメェ、横須賀鎮守府だと…そんなトコ行って、軍人にでもなるつもりか!?俺は許さんぞ!!」
しかし、五良の話を聞いたとたん、親父は手にしていたオタマを取り落とし、血相を変えて猛反対した。五良は訳も分からず、ただ耳を塞ぐようにして話を聞いていた。
「なるつもりなんざねぇよ!ただの清掃員だって!歩いてたら丁度あそこの鎮守府の近くに、清掃員募集の求人が貼ってあったんで、それに時給も良かったんで話をしに行ったらあっさりオーケー出ちまったのよ!」
「って言ったってよォ…あの場所は…確か…」
「あ?何かあんのかよ?」
「いや…何もないが…でも、もしも何かあったらと思うと心配だな…」
「何かってなんだよ?まさか、今さら”深海棲艦”とでも言いてぇってのか?」
「”深海棲艦”…?」
横で話を聞いていた凪が話に入ってくる。
「おう、凪ちゃんも知ってるだろ?最近じゃあんま聞かなくなったがな…。2010年、突然として地球上に現れた未知の生物群だ。2054年の今じゃほとんど殲滅されて、全然姿も見られなくなったが…万が一ってこともあるかもしれねぇだろ?」
「そりゃねぇぜ!面接のときによ、それについては絶対の安全を保障するって言ってたぜ」
「まあ、いいが…。ただし、何かあぶねぇ事があったら、すぐにそんなところ辞めるんだぞ!」
「何だ、心配してくれんのか?そんなコト、そうそうねぇってよ」
翌日。学校を終えた五良は、自転車に乗って例の横須賀鎮守府へと訪れていた。煉瓦造りのボロボロの塀に囲まれた赤い建物は壁に蔦が張っており、庭も雑草が生え放題でまるで廃墟のような印象を受ける。しかし、駐車場に車が何台か停まっており、少なくとも人が中におり、ここを出入りしている様子はあった。
五良も雑草だらけでガタガタの駐輪場に自転車を止め、正面門の方へ歩いていく。門にカギはかけられておらず、少し重いが簡単に開いた。目の前に聳える赤い本館のドアのチャイムを鳴らす。
「…何だ、誰も出ねぇな」
そう呟いていると、勢いよくドアが開け放たれた。そのドアに顔をぶつけた五良は後ろへ数歩下がる。
「いてて…」
「どちらさまよ、アンタ?」
五良の前に姿を現したのは、白っぽい色の長い髪をした、スラっとした女性だった。白い長めのセーラー服に、黒いタイツを穿き、姿勢を落としている五良を赤い目で見下ろしている。
「あ、いや…今日から清掃員のバイトで…」
五良が顔を上げ、そう言った瞬間、こちらを見下ろす女性の表情が変わった。
「あら、アンタ…へぇ、そうだったの」
しかし、すぐに元の表情へ戻る。
「話は聞いてるわ。ついてらっしゃい」
「へ、へい…」
謎の女性を後ろをついて、建物の中を案内される。中には軍艦の模型が飾ってあったり、何かよくわからない格言のようなものが書かれたポスターなどが壁に貼られている。
「ここよ」
少し廊下を歩いていると、一つの部屋に案内された。木の机の何個かの椅子が置かれている普通の質素な部屋だ。
「さて、一応聞くけど、名前は?」
指を差された椅子に五良が座ると、女性はそう質問してきた。
「稲見五良ッス…」
「そう…五良…。私は艦娘の
「えええええ、アンタが艦娘だったのか!?叢雲だって…でも、俺が知ってる艦娘の叢雲よりも色々とデカいぜ…」
「うるさいねっ!同じ種類の艦娘でも姿が異なる事もあるのよ!!…コホン、それで本題だけど、清掃員だったわね…。シフトは火水木の5時から。やってもらいたいのはこの本館全体と、この後ろの艦娘用宿舎の廊下ね。部屋は絶対に入らないように」
「へいへい」
「返事は『はい』!」
「はい!!」
「いいわ、ま、今日からせいぜい頑張りなさい」
そう言うと、叢雲という艦娘は黒いエプロンと三角巾を手渡し、部屋を出ていく。
「あ、そうそう。分かんないことがあったら聞いてちょうだいね。変な事やらかしたらどうなるか覚えておきなさい」
「…ちえっ、嫌な女だぜ…」
それから、2日程の時が流れた。
「ココ、まだ染みがとれてない!あとそこの用具はこっち!!」
「へいへいへい!!」
叢雲の指導のもと、五良は床にモップをかけ続ける。
それはそうと、五良には少し気になることが有った。もう2日もこの館内や、艦娘用の宿舎まで出向いているのに、誰一人として艦娘と出会わないのだ。整備士やその他人間の関係者はまちまち見かけるのだが…。
「なぁ、叢雲サン…そういやぁ、他に艦娘ってのは居ねぇのか?」
五良は思わず、腕を組んで壁に寄りかかっている叢雲にそう尋ねた。
「…そうね、私以外には4人しか居ないわね。でも今は他のトコへ派遣されてるわ」
「はぁ…そうなんスか…でも、4人はいくら何でも少なすぎないスか?」
「初めて深海棲艦が現れたのは2010年、初めて艦娘が造られ戦線に立ったのは2013年…。2054年の今じゃもう深海棲艦との戦いも終わって、需要の無くなった艦娘は約半数が処分…残ったのも日本中に散り散り…。処分を逃れた艦娘は、今も人間社会に紛れてどこかで暮らしているんじゃないかしら?」
同刻。
「あーあ、つまんないなァ。五良は、今日もバイトかぁ」
学校の帰り道、イナミ亭のある商店通りを歩いていた凪。いつものようにイナミ亭の戸に手を掛けるが、何かに思いとどまり、ふとやめた。
「横須賀鎮守府…ね。五良がそこにいるなら、ちょっと覗いてみようかな~」
そう呟き、商店通りの先を急ごうとする。
この時、いや、凪が戸に手をかけた時だった。彼女の後ろを、黒ずくめの二人組がかすめるように速足で歩き去っていった。これが、五良を、そして凪を…「イナミ艦隊」の戦場へと巻き込もうとは、誰もこの時には思っても居なかったのである。
どうも、今作で三作目となります。一、二作目は東方projectの二次小説を書いてきましたが、今回は艦隊これくしょんでの二次小説に挑戦してみたいと思います。
自分なりに面白くなるように色々考えました。早めの更新ペースと必ず完結させる事をモットーにやらせていただきます。
後から絶対に面白くなるハズなので、読んでくれええええ