イナミ艦隊   作:ねっぷう

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第10話 「ラスト・ラン」

「しつこいわねぇ、三馬鹿共…。じゃあこれが最後のレースよ。この線路の次の駅に着くまでに私を抜いてごらん。私が勝ったら、アンタら三人を車ごと…潰すから!」

 

「望むところよ。必ずアンタをぶちのめして、私たちが気になってる事全部教えてもらうわ」

 

「あははははははは!!私をぶちのめすですって!?無理よ、無理!私は絶対あんなところには帰らないから!」

 

高笑いしながらそう叫ぶ島風。その様子に何かを察したのか、五良は黙って睨み返す。

 

「なんだかわからんが、完全に狂ってやがるぜ…」

 

「ではそろそろラストレースへと洒落こもうかしら!」

 

島風の乗った連装砲ちゃんは叢雲の乗っている車の横に付いた。そして姿勢を低くし、走り出す構えを取る。

それに合わせて、叢雲も車のエンジンをふかし、一気に走り出す姿勢を取った。

 

「よぉい…スタートォ!」

 

島風の合図とともに両社は同時に走り出した。敷いてある砂利がはじけ飛び、土煙が舞う。

 

「こなくそ…!」

 

しかし、わずかに島風の方がリードしている。

 

「もっと気合い入れろ叢雲~!」

 

叢雲も負けじと速度を上げ、じりじりと追い抜こうとする。それに気づいた連装砲ちゃんはその巨体を車へと寄せ、勢いよくぶつけた。

 

「おい、こっちの壁にぶつかるぞ!」

 

「くそ、またハバ寄せかよアイツ…!」

 

五良は突然黙って立ち上がった。

 

「バ、バカ五良、テメェ何しようってんだよ?」

 

「摩耶。悪いけどやっぱり運転代わってくれない?」

 

「アタシがか?」

 

「ええ、やっぱりアンタのほうが上手いみたい…これは刺しっぱなしにしとくから、やっちゃって」

 

「…よぉぉぉし、やったるぜ!」

 

摩耶は叢雲と場所を交代し、ハンドルを握った。

一方、立ち上がった五良と島風はお互いに睨み合っていた。

 

「人間、何が言いたいの?」

 

「おめぇ、さっきあんなところには帰らないから、って言ったよな?俺ァ思うんだが、艦娘が帰る場所ってのは大抵基地とか鎮守府とかって決まってんだろ?だったらなんで、帰るのが嫌なのよ?」

 

「…何だと…」

 

「おめぇがおかしくなってんのはわかるぜ。でも本来帰らなきゃなんねぇ場所に帰りたくねぇってのはもしかして…何か嫌な事でもあったんかよ?」

 

島風は顔を逸らし、下を向いて怒鳴った。

 

「連装砲ちゃん、何してるの!はやく潰しちゃいなさい!!」

 

「ウオオオオオオオオオ!!」

 

島風の命令に応えるように吠えると、さらに摩耶の車を壁際に押し込むように接近する。摩耶の車は両サイドから火花が飛び、タイヤが浮きかけている。車体が浮き上がり破壊されるのももうすぐだ。

 

「これで終わり、クラッシュよ!」

 

「こんにゃろォ!」

 

しかし、性能を限界以上に引き出された車と摩耶の運転テクニックにより、車は壁と連装砲ちゃんとの間から脱することができた。

 

「しまった!」

 

島風が気付いた時には遅かった。ムキになって力を入れ過ぎたおかげで勢いのあまりにこちらが壁に激突してしまった。

連装砲ちゃんがぶつかったことにより壊れた壁の瓦礫によってつまずき、巨体が地面を転がり、雄たけびを上げながら線路橋から落下していった。

 

「やったぜ、ヤツの方が壁を壊して落ちていきやがった!」

 

 

─そんな、私が負ける…負けたら私は、またあそこに…

 

ねぇ島風、アナタ速いんだから遅く走りなさいよね

 

─うん、わかったわ

 

あの子、本当に島風なの?確かに速度はあるし回避にも向いてるんだけど、肝心の砲雷撃が下手くそじゃない?

 

お前、今回の作戦ではその速度を活かして前へ出ろ。お前の艦隊の担当は駆逐級が多い、奴らの頭なら引き寄せられていくはずだ

 

─なんで私だけ…。こんな思いするなら…なんで私を作ったの?

 

「ああ、そうだ五良とやら、突然現れて私の心を言い当てたアナタは何者よ!?」

 

 

「げぇ、アイツ…まだやるつもりだ!瓦礫の上を飛び越えてきた!」

 

「まだよ…私は負けない!アナタが何者でも…私は帰るのなんて嫌なのよ!」

 

未だ瓦礫の上を飛び越えながら摩耶の車よりもやや先をキープしている島風は、一度口笛を吹いた。するとどこからともなく二つの大きな影が現れ、線路橋の上へ降り立った。

一つはライトやグリルのあるフロントがまるで牙を剥きだした顔のように見える大きなオープンカー、もう一つは先ほどの連装砲ちゃんよりは小さい細身のトカゲの怪物だった。

島風はトカゲの上に乗ると、トカゲは猛スピードで走り出す。

 

「連装砲ちゃん二号と三号!走ってちょうだい…私は負けないわ!!」

 

トカゲは途中で身をひるがえし、五良たちへ向けて飛びかかって来た。

 

「いくぜ、島風!」

 

その直後、五良は拳を振り下ろす。トカゲの鼻先に衝撃が走り、そのまま進行を止められ、勢いよく吹き飛ばされた。島風は衝撃で前方へ飛び、トカゲは慌てて起き上がって走り出すが、既に車に追いつけるような距離ではない。

 

「やった、デカいのに続いて細いのも潰してやったぜ!」

 

摩耶がそう言った。

 

「いや、喜ぶのはまだ早いわ!」

 

しかし、叢雲は後ろを見ながらそう言う。後ろではまだこちらへ向かって走ってくるトカゲが、再び飛び跳ねた。そして細長い口を大きく開き、車のバックへ噛みついたではないか。

白い骸骨のような顔に浮かぶ目が島風、早く行け、と言わんばかりに主を見つめる。

 

「ええ、頼んだわ!」

 

当の島風は先ほど呼び寄せた、車型の連装砲ちゃん三号の席へ乗り込み、先を急ごうとしていた。

 

「ちっくしょー!」

 

五良が呟く。

 

「構うな五良、このトカゲ野郎はアタシが何とかする!テメェはアイツを何とかしな!…何とかできるもんならな!」

 

「けっ!待ちやがれ、コラァ!」

 

五良は車のフロントからジャンプし、ギリギリで連装砲ちゃん三号の上へ降り立った。

 

「五良!やっぱりアンタだけじゃ…」

 

叢雲の声は五良には届いていなかった。

 

「離してよ五良とやら!レースにならないじゃないの!」

 

五良に気付いた島風がそう言った。

 

「レースレースってそんなに競争してぇのかよ!?」

 

「当たり前よ、これを見なさい」

 

彼女が指差した場所を五良が見る。するとそこには、三号のボディに刻まれた無数の線のような記号がいくつも見られた。

 

「これは…?」

 

「250台、私がここへ来てからレースで負かした相手の数よ!」

 

「それだよ…帰るとこにも帰らねぇでレースごっこたァ…なにワガママこいてやがんだよ…?」

 

五良がそう言った瞬間、額に島風の蹴りが命中した。

 

「ワガママですって!?馬鹿ね、このアタシがマガママですって!?」

 

 

ええ、そうよ…他の島風がどうだったのかは知らないけれど、少なくとも私がワガママを言った事なんて無かった。波風を立てないように、ただ言われた通りに。

そして、最後の出撃の時…私は気が付いたんだ。私は艦娘になってから、一度も自分で何かを決めた事が無い!全部、人から言われたことを波風立てぬように穏やかに…。でも、何も決めずに何もせずに…?こんな私でいいの?このまま沈んでいくの?

 

イヤ

 

そんなの、イヤだわ

何故私は艦娘になったのだろう。人から言われたことを黙って実行するなら、ただの軍艦と同じだ。でも艦娘は意志を持ち、自分で考える力を持っている。でも私は、今でも軍艦と同じ、命令を実行するだけの兵器に過ぎない。だったら、何故私を艦娘にした!?教えて頂戴、深海の真っ赤な水よ…

 

そうだわ、私にだって何かできる。

私の好きな事、無かったか?ああ…スピードだわ。

「私」が「私」で決めてやる、スピード勝負!「私」が自分で考えて敵を抜き去る!なんてステキ、なんて気持ちいいの。もうあんな場所へ帰る必要なんて無いわね。

 

 

「うれしいねぇ…」

 

その時、もう一度五良に向けて放たれた蹴り。しかし、五良はその島風の脚を掴んで見せた。

 

「かっこよく暴走しちまってるアンタの事、分かっちまった…」

 

「なに…!」

 

「アンタが自分の居場所に帰りたくねぇってのは分かる…家出したいんなら勝手にしろってこった。だけどなぁ…アンタは他様に大迷惑かけてんだよ、人殺してんだよ」

 

コイツ、何か変わった…?

 

「自分の好きな事がレースかい、そりゃいいこった…でもよ、自分の快楽の為に他を踏み台にしてんのが、許せねぇんだよ!!」

 

その瞬間、島風の車に銀色の槍が突き刺さった。叢雲が後ろから投げてよこしたのだ。五良はすぐにそれを手に取り、刃に近い部分を持ち、柄の方を島風へ向ける。

 

 

「ヤロォ!」

 

一方、車に噛みつく連装砲ちゃん二号は一向に口を離す気配は無く、車体は圧力によって潰れかけている。

 

「こうなったら…!」

 

摩耶は意を決したようにハンドルを握り直すと、ぐっと力を込めながら腕を上へ引く。すると車体の前部が浮き上がり、ギュルンという音を上げながら地面に垂直に立ち上がった。

後ろにくっついていたトカゲは後部に潰され、そのまま押されてひっくり返った。

 

「アンタ凄いわね!」

 

「ああ、でも車でウィリーなんて初めてやったぜ!」

 

「じゃあ…」

 

叢雲はもうこの車の周囲に敵がいないことを確認すると、運転席に刺さったドリルの槍を引き抜いた。車はボシュンと煙を吐き出すと、急に速度が通常に戻ってしまう。が、摩耶が運転の感覚を元に戻したころには既に叢雲の姿は無かった。

 

 

「クッソォおお!!」

 

五良と打ち合いを繰り広げる島風。その心が乱された所為か、若干島風の方が押されていた。あるいは艦娘の武器を使いこなす五良が強いのか…。

 

「なんでよ…なんでよ…!」

 

「負けるかよ!ホントにゴキゲンだぜ、おめぇ!居場所へ帰るのに二の足踏んで、都合ばっかくっちゃべりやがってよ!」

 

「アンタ、スピードが好きって聞いたわよ」

 

五良がそう喋った後、島風の背後から叢雲のささやきが聞こえた。

 

「アナタ…いつの間に!?」

 

「スピードなんて、そんなもんはねぇ…!」

 

叢雲は車の上から地面に降り立つと、思い切り走り出した。足が歯車の如く回転し、さらに速度を上げていく。

 

「あ…まさか、そんな!」

 

なんと叢雲は”走り”だけで島風の車に並んで見せた。それを見た島風は驚愕を隠せないでいる。

 

「こっちは300キロ以上出ているのよ!アイツが”伝説の駆逐艦”でも、まさか!!抜かされるなんて!」

 

「私たちの勝ちよ、島風!」

 

車の前まで来ると、叢雲は靴の裏と地面から火花を散らしながら急停止し、車の方へ振り返る。その手に握られたドリルの槍を回転させ、突く構えを取る。

 

「まさか!まさか!まさか!!まさか!!!」

 

目を丸くしながら叫ぶ島風。しかし、そんな彼女をお構いなしに見つめ、槍を前方へ突き出した。ドリルが島風の車に突き刺さり、その威力でもって破壊していく。

 

ボガァン

 

車は大破し、島風は大きな部品と共に撥ね飛ばされる。

 

「やった!」

 

その場に今到着した摩耶が声を上げる。

 

「いやあああああ!!」

 

その向かう先には、拳を大きく振りかぶった五良。飛んでくる島風に、その拳が命中した。

衝撃でよろめく島風。その身体からは白い蒸気が上がり、血ではない赤い液体がポタポタと流れ出す。

 

「な、何故…なんで放ってくれないの!?道を走るだけなら私も人間も変わりはあるまい!?アナタには関係ないでしょ、これからは大人しく走ると約束してあげる!だから見逃して、五良!!」

 

膝をつきながらそう言う島風。

 

「そりゃあダメだな、島風」

 

「え…?」

 

「人間には色んな不幸があってよ…病気やケガ、生まれつきのハンデ、家族のいさかい…自分じゃままならねぇ事がよくあるんだぜ。笑わせるな、病気にもならんし怪我もすぐに治る…そんな恵まれた存在に生まれてんのに二の足踏んで、しかも自分の居場所すら飛び出してよ…」

 

「…そんなこと私にも分かってるわよ!自分が艦娘としてこの世に生まれた事が恵まれたことだって!でもそれが”幸せ”がどうかはアンタが決めるんじゃないのよ!私自身が決めるのよ!」

 

自身の感情を吐露する。

 

「なにも自分で決めないでただ生きて、何が”幸せ”なのよ!?私ってばあんまり周りに流されっぱなしじゃない…人から言われたことに頭下げてそれをやって…いつも馬鹿にされて何も自分で行動できなかったじゃない!」

 

島風の赤い目に涙が浮かんでいるように見えるのは、おそらく気の所為ではないだろう。

 

「でも今の私は違うわ、自分で走って自分で勝ってきた!そんなの馬鹿だなぁとか言われて笑われたっていいの!自分で決めて、かけがえのないあの日にやったんだもん!!それを言えなきゃ、なんで私が生まれてきたか…わからないじゃない!」

 

「…ああ、アイツの言う事も一理ある気がするぜ…」

 

摩耶が島風の様子を見て呟いた。思うに、幸せは他人の顔色をうかがっていては掴めないモノなのだろう。

 

「でも、他人に迷惑かけてまで、ねぇ…」

 

叢雲も摩耶と共に呟く。

 

「それでもよ、お前が遅いっつって蹴散らしてきた連中はどうでもよかったのかよ?」

 

五良は下に転がるドリルの槍を手に取り、それを頭の上へ振り上げた。

 

「お前がやった事は、お前が昔やられてた事と同じだぜ」

 

その言葉を聞き、自分の心の中の何かが溶けだしたような気がした。しかし、負けたくない。

五良の持つドリルに目線を奪われ、ただ目を丸くしていた島風は元のように目つきを尖らせ、最後の勝負に出る。

 

「でぇぇえええええい!!」

 

地面に手を付き下半身を上げ、蹴りを繰り出す。それと同時に、五良もドリルの槍を振り下ろした。

 

ガキン

 

両者の攻撃が鈍い音を立ててぶつかる。

 

パキパキ

 

続いて響く何かがヒビが入る音。

 

バキャ

 

「そんな…今の私が…!」

 

砕けたのは島風だった。足や腰についていた黒い装甲が叩き壊され、破片が飛び散る。島風は倒れるように地面に伏せられ、動かなくなった。

 

「終わった…」

 

摩耶は額の汗をぬぐった。叢雲は倒れた島風のそばで座り込み、周囲をざっと見渡した。うつ伏せの島風の身体からやや透過した赤い液体が流れ出ている。布越しにそれに触れ、匂いを嗅ぐ。

 

「…結局、この島風は何だったのかしら…。調べて見なくちゃ分からないわね…」

 

この赤い液体は、以前に街で倒したサメ型の辿異種にも見られた。あの辿異種は絶命すると同時にこの液体を流し、さらにその後普通の鮫へと変化した。

もう一度島風に視線を戻す。すると、やはり…と叢雲は眉をひそめた。いつの間にか島風の体系や身長が小さくなっており、装飾や衣服以前のままだが皮膚の色は血色の良いものに戻り顔つきからも毒々しさは抜けている。

あの辿異種とこの島風、類似点が多い。これはもしや…

 

「無事かね?」

 

と、そこまで考えた瞬間、後ろから声が聞こえた。ぱっと振り向くと、そこに居たのは賀上司令と吹雪であった。

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