イナミ艦隊   作:ねっぷう

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第14話 「ヤツについて」

ここ最近、海がおかしいらしい。何たって、海から戻って来たかつての艦娘が凶悪におかしくなってこっちの世界に現れる。自分の好きなように暴れて、他の事なんて知らんぷり。

そしてそれを追って倒し、元に戻しているのが、”伝説の駆逐艦”と呼ばれている艦娘叢雲、そしてラーメン屋の息子の稲見五良率いる”イナミ艦隊”の面々。

…なんだけど、今日はどうやら違うみたい。

 

「ワリ、見てのとおり暇しか無くて今は無理だ!他に暇な奴いねぇのか?」

 

珍しく混んでいる店で、ラーメンを運びながら携帯電話を肩に挟んでそう話す五良。

 

「ああ、アイツ?いいんじゃねぇか、でもアイツァ別に…そうかい、じゃあな」

 

「テメ、こんな時誰と話してんだ!」

 

それを見た五良の父親、稲見栄五が一言。

 

「るせぇ、誰でもいいだろ!」

 

「やっほー、混んでるねー」

 

そこへ凪と摩耶、そして暁の三人が入って来た。

 

「へへへ、オメェがドジ踏むトコ見に来てやったぜ」

 

「…おめーら暇だよなァ…」

 

 

 

「おめぇ、深海棲艦のスパイだろ?」

 

建物の路地裏から突如出現した女が開口一番に発した言葉だった。辺りには人だかりが出来ていて、目の前には学校帰りと見られる女子高生が驚いた様子で立ちすくんでいた。

 

「深海、な…なんですか?わ、私はちがいます…」

 

意味の分からない難癖をつける女子高生はそう否定した。が、女は凶悪な目つきで女子高生を睨んだまま、ポケットから何かを取り出して話しかけた。

 

「だってよ?どう思うよ、ネズミやコトリ」

 

取りだしたのはハムスターやコトリといった小動物たちだった。

 

「コイツは深海棲艦…つまり殺すべき敵だよなぁ?」

 

女は拳を動物たちにグリグリと押し付けながらそう話しかけている。どうやら、完全に頭のおかしい人らしい。人だかりも出来ているし、誰かが助けて…。

 

「や、やめてください…かわいそうですよ…」

 

─ちがうよ、あの子は人間だし、殺しちゃだめだよ

 

女にはこの小動物たちの声が聞こえていた。

 

「そうか、敵で殺すべき、か」

 

すると、女は手に持っていた小動物たちを口の中に放り込んだ。女子高生が驚いている間に女はそれを何度も噛み、やがて飲み込んだ。

な、なに…このひと…!?

女は血を口の端からしたたらせながらにやりと笑った。女子高生はさすがに怖くなり、その場から逃げ出した。

 

「あ、逃げたってだめだァ」

 

「たすけて…たすけて!」

 

「こら、君。ちょっといいかな?」

 

「やめなさい」

 

騒ぎを聞きつけてやって来た刑事と警官数名が、この女の肩を後ろから叩いた。

しかし、女は振り返ると同時に思い切り刑事を殴りつけ、そのまま続けて警官をも殴り飛ばした。地面に倒れ込んだ警官は顔から大量の血を流し、気を失っている。

それを見て、周りの人々が悲鳴を上げながら逃げていく。

 

 

一方その頃、イナミ亭では。

 

「だいたいねぇ、摩耶…この辺りの不良のボスなんじゃん、そんなにアイツの事気にしなくてもいいでしょ」

 

「きっ、気にしてねぇよ!ただ、確かにヤツは五良の次に癇に障るんだがな」

 

と、凪と摩耶が話している。

 

「それを気にしてるって言うのよ」

 

「大体アイツはなー!」

 

「うるっせえなァテメーら、少しはしずかに食えねぇのかよ!?」

 

ようやく客の数も減り、暇になっていた五良が読んでいた漫画から目を離してそう怒鳴った。

 

「なによー、いいじゃない別に」

 

「そうだそうだ、男はすっこんでな」

 

 

 

「本日もご来場いただきましてありがとうございました。またのご来場を…」

 

町の一角にある小さな動物園。既に閉園時間が間近に近づいており、合図のアナウンスが流れている。その中で、木の陰に隠れるようにしてさっきの女子高生が息を殺していた。

 

「な、なにかの罰ですか…神様…」

 

私は北の女子高に通う普通の高校生で…勉強だって運動だってそこそこで…なのに…

「これからどこにでも逃げてもいい。オレが追っかけるさ。おめぇが俺に捕まったら…その時は殺してやるからな~」

猟奇的殺人鬼ってやつだわ…それから、あの人は私がどこへ逃げても見つけてきた。この動物園にも、きっと来るんだわ…。

 

 

「ヨォ、ゴミみてーなスズメども、ここに黒髪を後ろでしばった女が通らなかったか?」

 

─通った通った さっきこの小路を通って向こうへ行ったよ

 

「木よ、その女が向かった先にゃ何がある?とっとと答えねぇと引っこ抜いちまうぞ」

 

─北側…の売店…が…ある…

 

「近道はねぇのかよ、クセェライオンども」

 

─あっちあるよ

 

「テメーはどうだ?」

 

─うん、まっすぐ そこの林の中の小路

 

「どこだよ、説明が下手だね飛べねーダチョウチクショウは」

 

と、動物に話しかけながら歩き回る女。はたから見ればますますヤバい奴に見られているだろうが、この元を「夕立」という奴は、植物や動物を初めとした喋れないものたちの声を聞きとることができるようだ。

 

「あははは、近くでおっちんでた多摩と球磨から頂戴したモンで作ったこの耳当てがありゃあ、わからねぇ事なんてねぇや!」

 

夕立はそう笑いながら、耳当てを外して見せた。夕立自身の頭の上にある犬耳のようにはねた毛と合わせて、まるで耳が4つもあるように見える。

 

「オレァ無敵だ~~~!!」

 

クリーム色の長い髪の毛をはためかせながらビョンと飛び跳ね、猿山のある展示場を越えて着地する。

 

「きた…!」

 

女子高生はトイレの影に隠れながら、そう呟いた。

ああ…どうしよう、助けて…神サマ!

 

「よォ、お前の近くに居るんだろ?小汚ねぇ腐りかけた木ィ」

 

─ああ

 

その間、心臓を早鐘のように鳴らしながら、口を押えて息を殺す。しかし、その直後、真上から覗き込むようにして凶悪な顔が視界に現れた。

 

「見つけた~」

 

「きゃああああ!!」

 

夕立は腕を引っ掴んで小道に引きずり出す。

 

─ああ、かわいそうに あの娘さん捕まっちゃったよ

 

─せめて居場所を黙ってやることはできなかったんだろうか?

 

─無理だよ 草や木はあまり早く考えられないんだもの

 

─それは小さい動物だって同じだろ

 

─人間にあんな大きな声で尋ねられたら思わず答えちゃうだろ

 

─うん そうだ

 

─かわいそうに、気の毒だなぁ あの女の子

 

─ああ せめて痛い目に遭いませんように

 

─でも、あの邪悪な女はヘンだな 人間の匂いが全然しないよ

 

「はなして!」

 

「ええい、捕まったんだからおとなしくせいや!コラァ!」

 

─海の匂いがするよ

 

女は女子高生を思いきり殴りつけ、地面へ叩き伏せた。背中を足で踏み、グリグリと力を込める。

 

─あ やった

 

─ひどい

 

─ひどい

 

─悪い奴

 

─あいつは悪い奴だ

 

─痛そう 涙出てる

 

─かわいそう

 

─人間でもないくせに人間をはたいてる

 

─もうだめだ あの子に抵抗する気がなくなったもの

 

─そんなことわからないじゃないか

 

─ホラ見ろよ 一発の暴力で諦めてしまったよ

 

─なんでひどいやつだ

 

口々に喚く動物たちの声を聞いてその愉悦にひたる。

 

「思い知ったか、この悪魔め。へへへへ…」

 

ピタリ

 

その瞬間だった。アレだけ騒がしかった動物たちの声が一瞬にして何も聞こえなくなった。風に木の葉が揺れる音も、唸り声も、風の音も、何も聞こえない。

 

「あ…れ?」

 

 

 

「だいたいヤツの名を口にした瞬間、ガキ共が静かになんのが気にくわねぇ。なんか、寒そうな面になって口をモゴモゴ…マジムカつくぜ!そんな大層な奴じゃねぇよ!」

 

「どうどう!」

 

1人で怒りながら話す摩耶を凪が諭す。

 

 

 

「なんで急に動物共が喋らなくなったんだ?」

 

「え…?」

 

女子高生は夕立の言っている事が分からずに、立ち上がりながら腫れた頬をおさえる。

 

─なんかきたよ

 

「あ?何が来んだ!?」

 

─つよいやつ そしてこわいの

 

「こわいだと、オレは何も怖くねぇ!」

 

─あれはこわいよね

 

─そうだよ

 

─こわいよねぇ

 

「うわ!何だよ、誰が来んだァ!?」

 

─現役の”艦娘”だよ

 

「けっ、それがどうした!怖いかよ、オレは無敵なんだ」

 

 

 

「それにヤツァすぐに人を怒らせる!ま、あんなツラだしナマイキだしな」

 

「ツラは摩耶も人の事言えないと思うけど…」

 

 

 

─艦娘だかなんたらは知らんけど 俺は男だって聞いたぜ

 

─えー、あたしは女だってきいたわ

 

─そうかい ボクはチンピラだって…

 

「そんな事はもういい、うるせぇ。ソイツはどっちから来るんだよ!?」

 

─右から来るよ

 

─左からさ

 

─いや 南口の方から来るってペンギンが言ってた

 

─それを言うなら真ん中の池に居るってコイが騒いでいたよ

 

─ソーセージの屋台からだ 意表を突いてくるんだと

 

「う、うるさい…一匹ずつ喋れ…うるさい…!」

 

夕立は思わず耳を塞いだ。

 

「くそう…ヤツは一体、どんな武器を使ってくるって言うんだ…」

 

─ドリル

 

─剣

 

─槍

 

─自動車

 

「うるせー、聞いてねーって!!」

 

今のうちに…と思った女子高生は、ひとりで騒いでいる夕立の見ていない隙を見て逃げようと走り出す。しかし、すぐに肩を掴んで引き戻され、その首に指を絡められてしまう。

 

「逃がすと思ったかよ!あぁ!!」

 

ああ…誰か、助けて…

 

 

 

「てか、おめーらさっきから誰の話してやがるんでぇ?」

 

「ああ、アンタも知ってるでしょ…」

 

 

 

メキャ ゴキ…

 

夕立の真上から舞い降りてきた黒い人影が、紫色の刀のような武器の逆刃を斬る面にして、思いきり振り下ろした。それは夕立の顔にめり込み、大きく顔を変形させる。

 

「だ、誰だ…おめぇ…」

 

─天龍だ─

 

動物たちは吠えながら、あるいは心なしか笑顔のような表情を浮かべながら、叩きのめされて蒸発する謎の女に向けてそう言ってやるのだった。

 

 

 

───────────

 

翌日。長野県の大本営本部では、島風が出現した直前の時と続いて重大な会議が行われていた。重大な会議と言っても、今回集っているのはたった4名だけだ。

まず一人は、総司令である宮島司令、そしてその秘書艦を務める木曾。続いて、我らが横須賀鎮守府の提督、賀上とその付き添いである叢雲。

 

「…では、聞かせて頂けるかな?新たな種、”海巡種”について」

 

「ええ。まず、海巡種は海を巡った種…という意味で、理由はいつも海から現れ、あたかも艦娘に酷似した姿をしていて、かつ撃破するとただの艦娘に変化することから。さらに、先日現れた戦艦陸奥の言っていた事…」

 

─だから我が深海の赤い水に選ばれて良かったわ!これで思う存分、暁に復讐することができるからな!!

 

「この発言と、海巡種に見られた、体から発する赤い色をした液体…これは深海棲艦が大量に出現する際に海域を赤く染める謎の液体と同じ成分をしていた。そしてその赤い水は誰も知らない海の底にあるとされる深海棲艦の棲み家から流れて来るとされており、この事とあわせて、私は”かつて沈んだ艦娘が深海棲艦の棲み家へと流れ着きそこで赤い水によって変貌を遂げて日本へ戻ってきている”と考えています。まぁ、後半部分は根拠のないものでありますが…」

 

「うん、まあいいんじゃない?今までだって想定と全く違う事態になったり、根拠のない空想が現実となった例もあるわけだし、分からない以上は仮説に頼るしかないよ」

 

「口調を直せ」

 

「はい!」

 

ついプライベートの口調に戻ってしまった総司令の耳元で木曾がそう呟くと、慌てて背筋を伸ばした。

 

「…コホン、今までで何体、海巡種を発見したのかね?」

 

「島風、陸奥、雪風、夕立の四名です。今現在、我が鎮守府で保護しています」

 

「そうか…。しかし、まずいことになったよ…」

 

「まずいこと、とは?」

 

賀上がそう尋ねる。

 

「CMS特別部が動き出すぞ」

 

「…そうなのですか」

 

「らしいよーん。僕ァあの女長官が苦手でね…奴らが介入すればさらに世間は騒がしくなるぞ」

 

「第二次硫黄島決戦後、生き残った少数の艦娘が立ち上げた組織。その後も軍の不況により鎮守府や基地に居られなくなった艦娘を次々と吸収し、今や大本営の中での一大組織となってしまった。彼女らは手段を選びませんからね」

 

「ああ、ストッパーとなる人間が一切内部に居ないからだ。多少人間と異なる論理感を持つ艦娘が集まれば、その分そこの部分も大きくなる…艦娘は人間と共にあって真価を発揮する兵器だ、それがなくちゃあねー」

 

「口調」

 

「はいっ!!」

 

「総司令…」

 

賀上は少し呆れたようにつぶやいた。

 

「コホン…ま、言いたいことはつまりだな…引き続き、君らに海巡種を任せたい。これは大本営総司令の私が許可した事だ。いいかね、叢雲くん」

 

総司令は、今度は叢雲を見てそう言った。これまでの事件のほとんどは叢雲のおかげで解決できていることは賀上に教えられて知っている。

 

「はい」

 

「それと、君と一緒に行動しているという学生アルバイトの子…何て言ったっけ?」

 

「稲見五良ですか?」

 

「そうそう、それ。彼にもよろしく頼んだよ」

 

「…わかりました」

 

 

まだ、彼らは気付いていないだろう…この後、予測していた事態が起こるという事を。

 

 

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