イナミ艦隊   作:ねっぷう

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第2話 「開戦」

「叢雲サン、今日の分終わりやしたよ~」

 

箒とバケツを肩に担いだ五良が、控室に戻ってきた。椅子に足を組んで座っていた艦娘の叢雲は読んでいた雑誌を置いた。

さて、この俺の名前は稲見五良。この辺りの高校に通う高校二年生。実家の経営するラーメン屋の「イナミ亭」の収入に少しでも貢献するため、この横須賀鎮守府の清掃員のバイトをすることになった。んで、この偉そうな女は艦娘の叢雲って言うらしい。

 

「あら、どうも。じゃあさっさと帰ってくれる?」

 

「へいへい、言われんでも帰りますよ…」

 

五良が荷物をまとめていると、突然地面が揺れ、ドカンと爆発のような音と衝撃があたりに響いた。

 

「何だ!?」

 

「…まさか」

 

五良は叢雲の表情の変化とその言葉、そしてここがかつて深海棲艦との戦いの本拠地の一つでもあったことを思い出して最悪のケースを想像し、窓を開けた。

 

「あ…ありゃあ、なんでぇ…?」

 

彼が見たのは、人類が忘れかけていた悪夢そのものであった。その窓からは海、そして港が良く見え、普通に道路もある。その混乱に陥っている場所で、ただ2つだけの影が全く動くことなくこちらを見ていた。

2つの影は人の形をしており、黒い服を着ている。が、片腕が筒のように細長くのび、煙の立ち昇る先端をこちらへ向けているのだ。

叢雲も一緒に窓から外を覗き、小さな声でこうつぶやいた。

 

「あの気配…”深海棲艦”…」

 

 

 

一方、イナミ亭を後にした、五良の同級生である藤廣凪。彼女もまた爆発の音を聞き、下に向けていた顔を上へ上げた。すると、遠くの建物から煙が上がっているではないか。

 

「その方角は、確か横須賀鎮守府…。五良がいるんだわ!!」

 

凪は横須賀鎮守府へ向けて走り出した。

 

「五良が…五良が心配だわ…!」

 

行き交う人々の間を抜けて、目の前の赤い建物を見上げた。燃えてこそいないが、壊された塀と、その中の敷地内は黒く焦げていた。凪は驚きを隠せずに、この騒ぎの元であろう二人組を見た。

 

「なんなの…アイツら…?」

 

 

 

「チクショウ、なんだってんだアイツら…ここに何か用かよ!?なァ、叢雲サン…逃げ…!」

 

五良が叢雲の方へと目を向けると、当の叢雲は立ち上がっていた。右手に身の丈ほどもある細長い槍を持ち、頭には耳のようにも見える機械が浮遊している。

 

「新型深海棲艦。とでも呼ぼうかしら。見たこともないタイプ…」

 

「あ…アンタ…」

 

「五良、貴方は逃げなさい。アイツは私が倒す」

 

「倒すって…」

 

叢雲は、いつの間にかもう一本の槍を手にしていた。先端がドリル状に尖った、金色の長い槍だ。こういうのを、美しいとでもいうのだろうか、2本の槍を手に凛とこちらを見つめる叢雲を見てそう思った。

 

「私が負けるはずないわ、だって…”伝説の駆逐艦”ですもの」

 

そう言い残すと、叢雲は開け放った窓から飛び降りていった。

 

「覚悟なさい!!」

 

飛び降り様に槍を振りかざす。その一撃は一人の肩を切り裂いた。

ここは陸である。艦娘が海で扱う強力な”艤装”は定めてある規則やその性質によって、陸では使う事が出来ない。もしもの場合には今の叢雲のように、武器型の艤装で戦うしかないのだ。

 

「「おっと、何だお前は」」

 

二人は同時に声を発した。

 

「喋れるのね。知能は姫級?それともレ級か…」

 

「「黙れ」」

 

二人は砲身となっている腕を叢雲へ向け、一撃を放った。叢雲は槍の刃でそれを弾き、もう一本の槍のドリルを回転させた。その槍を持ってもう一度飛びかかり、脅威となるであろう砲身を砕こうとドリルを押し付けた。

 

「おっと」

 

空いていたもう一体の敵が叢雲に殴りかかるが、それを槍で止めた。

 

「久々に使ったけれど、悪くは…ないわね!!」

 

その槍を前に突き出しながら上へ持ち上げ、敵の胸元から顎までを綺麗に切り裂いた。敵は真っ赤な液体を吹き出しながら後ろへと倒れ込んだ。

が、しかし…。

 

「うぐ…!」

 

敵の一人の膝から先も同じように砲身へと変化し、叢雲の腹を撃った。小規模の爆発が起こり、服ごと叢雲の肉を吹き飛ばした。

 

「あの人、大丈夫…!?」

 

その様子を見ていた凪は思わず声を上げた。

 

「…あれは…」

 

とその時、建物の窓から何者かが飛び降り、地面に着地したのを見る。

 

「五良!!」

 

「おもしれーじゃねぇか、テメェ!!」

 

「な…五良…!」

 

五良は一人走り出し、その新型深海棲艦とやらへ向かって行く。

 

「愚かな人間が割り込んでくるんじゃない」

 

そう言うと、敵は砲身を五良へ向け、手前の地面へ向けて発砲した。弾は着弾し、地面のアスファルトを抉り、その大きな破片が五良へ向かって飛んでいった。数個の破片が激突し、五良は思わず後ろへ倒れ込む。

深海棲艦と人間が戦おうとすれば、所詮こんなものだ。と、叢雲は思った。

 

「…いてぇな、コラ…!」

 

「な、何だお前は!?」

 

しかし、すぐに起き上がった五良を見て、敵は思わず声を上げる。叢雲も、その光景を見て何かを決するように目を細める。

 

「ちょっとそこのアナタ!」

 

「え!私!?」

 

咄嗟に叢雲が呼びかけたのは凪であった。

 

「これを…あの子へ渡して!」

 

「あの子って…五良?」

 

叢雲が指差したのは、手から離れ地面を転がっているドリルの付いた槍だ。

 

「はやく!」

 

「う、うん!」

 

「ははは、手の速い事だ、あの艦娘は。人間に戦わせようとするとは…」

 

敵は五良を冷徹な目で見下しながらそう言う。

 

「けっ、何言ってやがる…」

 

こんなのと、どうやってケンカすりゃいいんだか…。

そう考えながら、五良は焦っていた。

 

「死ぬるがいい、人間!」

 

いよいよ五良へ砲を向け、今にも発砲しようと構えを取る。それとタイミングを同じくして、凪はドリルの槍を五良の方へ向けて投げた。

 

「これで…やっちゃえ!稲見五良~~~っ!!」

 

「よっしゃあ!!」

 

上手く槍をキャッチし、それを敵へと向ける。ボンと音を立てて砲撃が放たれ、それに五良は槍を携えて向かって行く。ドリルは独りでに回転し、なんと向かってくる砲弾を中心から真っ二つに破壊してみせた。

 

「そんな…馬鹿な…!」

 

ズギャアア

 

そのまま一直線に前へ向かうドリルは、新型深海棲艦の顔に突き刺さり、そのまま回転により吹き飛ばした。五良は見事敵を倒すことに成功したのだ。

 

「な、何だったんだ…」

 

五良ですらも今の自分の行動を理解できずに槍を取り落とした。この槍を手にしたとたん、自分の意志とは違う何かが自分を突き動かし、あの怪物を倒したように感じた。頭部を失った敵は動かなくなり、身に着けていた衣服だけを残して液体となって流れて消えてしまった。

 

「五良!大丈夫?」

 

「凪か…何とかな…」

 

「無事だったようね。よかったわ」

 

凪と五良の元へ、叢雲が歩み寄った。その腹は抉れて血が流れだしている。

 

「ぎゃああああ、抉れちまってんじゃねぇか!」

 

「きゅ、救急車を~~!!」

 

「平気よ。1日あれば修復可能…ここが海だったら沈んでたわね」

 

「ほ、本当かよ…?」

 

「艦娘はナノマシンの組み込まれた人造人間…。この程度、修復が可能だわ」

 

「な~~んだ、そうだったのかァ!」

 

「な~~んて聞いてじゃあお大事にってなる訳ないでしょ!」

 

「そうだぜ、中まで運んでやるから、ホラ…」

 

二人は叢雲の腕を取り、建物の中へと入っていった。

 

「そういやぁ、騒ぎになってもおかしくないはずだよな…」

 

「あ、確かに」

 

その時、廊下の向こうから二人組の男女がこちらへ向けて歩いてきているのが分かった。一人は五良の父親と同じくらいの年齢で、太った身体に白いスーツを纏い、顔には白い髭を蓄えている。帽子を深くかぶっているが、その奥の眼光は鋭く光っている。もう一人はセーラー服を着た、黒髪の少女…きっと艦娘だろうか。

 

「司令…先刻、謎の敵の排除、完了いたしました」

 

その男の姿を見ると、叢雲は五良と凪の肩から手を離しびしっと敬礼の姿勢を取った。

 

「はい、そうです!」

 

思わず二人も一緒になって敬礼をしてしまう。しかし、男は少し口ごもり、手を前にかざして言った。

 

「いや、いい。何度も言っているはずだ、私は敬礼というのが嫌いなんだ。するのもされるのもな」

 

「は…」

 

叢雲は静かに手を降ろし、再び二人に寄りかかった。

 

「君かね、吹雪から聞いたよ、清掃員のバイトだったか」

 

「そ、そうっすね…」

 

そこで五良は気付いた。どうやら吹雪という名前らしい少女は艦娘で、前にここへ来るときの面接をしてくれた人だ。

 

「ふん、この非常時だ…いくら関係者でも、所詮ただのバイト…早く帰ってもらおうか」

 

「あ…?」

 

男は五良から視線を外し、今度は凪をじっと睨みつけた。

 

「何よりそこの君は何の関係もない部外者だ、即刻ここから立ち去ってもらえないか」

 

「あ、はい…すみません…」

 

「俺たちゃ叢雲サンにここまで手ぇ貸してやってたんだぜ!」

 

「無用だ、”CMS”はそんな事をせずとも自力で何とかできる」

 

たんたんと話す男。

 

「じゃあ、アンタは何してたんだよ!?」

 

「私は賀上だ、五良君。私は警察への説得と対応、上層部への報告、ここの辺りの封鎖をしていた。だが心配はいらない、陸であのように活動できる深海棲艦は姫・鬼級以外では稀有な事例なのだ、二度と同じことは起こらんよ」

 

賀上という名の男は帽子を被りなおし、吹雪を連れて先を急ごうとする。

 

「待てよ、コラ」

 

しかし、五良は賀上の肩を掴んで止めた。

 

「ちょっと稲見さん、司令に何てことを…」

 

「いい、吹雪。して、何かな?」

 

「本当に…もうああいうのはここへ来ねぇのか?」

 

「ああ、ここへは来れまい。上の方や”CMS特別部”へと対策を要求した。ここは安全になる」

 

「ここは…?じゃあ、他のトコはどうなんだよ…」

 

「分からない、奴らの気まぐれ次第だな」

 

「今回はここだからよかったけど、他のもっと一般の人とかが居る場所だったら…どうするの?」

 

と、凪が問う。

 

「有りえない。奴らは決まって、軍の重要拠地を狙うからな」

 

「アンタ馬鹿か、それでも万が一って可能性が…」

 

それでも食い下がらない五良。賀上と五良はしばらく睨み合い、やがて賀上が視線を逸らした。次に飛び出た言葉は、五良にとっても、他の者にとっても到底想像しえないものだった。

 

「…そこまで言うのなら、君が艦隊を作ればいい」

 

「…は?」

 

「他の場所へ上陸する”DS”と戦い、そして守れるような、そんな君だけの艦隊をな」

 

「司令、何を…」

 

叢雲が口をはさんだ。

 

「言った通りだよ、叢雲。五良君が自分で艦娘を集めるんだ。まあ、無理だと思うがな…」

 

五良は呆気に取られて何を言う事が出来なかった。賀上は挑発するように目を細めると、吹雪と共に廊下を歩いていった。やがて、廊下には元の静寂のみとなる。

 

「五良、アンタ…なんかとんでもない事になっちゃったんじゃない?」

 

「こりゃ…夢だな。尻つねってくれ」

 

「ほい」

 

「イタタタタ!」

 

「本当に…とんでもない事してくれたわね」

 

叢雲が後ろから話しかけてきた。

 

「叢雲サン…」

 

「別に呼び捨てでもいいわ。五良はいつもの部屋で、凪…だっけ…二人で待っててちょうだい。一時間もあれば戻るわ」

 

「あ、そうか…そんな酷い怪我してるのよね…」

 

「このぐらい、平気よ…」

 

賀上が去った方とは逆の方向へゆっくりと歩いていく叢雲を見ながら、五良はバイトの控室へと入っていった。待っている間、ふと五良は部屋の片隅にある小さな本棚にある一冊の本が目につき、それを手に取った。どうやら艦娘についての事が書かれた本のようだ。五良はそれを見て、艦娘について調べようとした。

凪は窓から、崩された塀の修理が行われる様子をじっと眺めている。

”艦娘はナノマシンの組み込まれた人造人間…。この程度、修復が可能だわ”

叢雲が言っていたことを思い出し、それについての項目を見る。そこによると、”艦娘”とは正式名称を”戦闘バイオロイド型記憶兵装保存媒体(Combat bioroid Memory-weapon Storage)”、更にそれを略して”CMS”と呼ぶそうだ。世間一般には艦娘という呼び名で通っており、CMSはその関連に携わる人が使う用語だそうだ。

 

「待たせたかしら?」

 

「いや、大丈夫ッス…」

 

「そう、アンタね!!」

 

叢雲は戻ってくるなり、五良の耳を引っ張り上げた。

 

「イテテテテ!」

 

「ただの人間の癖にあんな危ないマネしてんじゃないわよ!あれで死んだらどういうつもり!?」

 

「わ、悪かったって…!」

 

「…まあいいわ。ところで、さっきの話…アンタが艦隊を作るって話だけど、私からもお願いできないかしら?生憎、今この鎮守府に居るのは私と吹雪だけ…後の三人は派遣されたままだし…。そこでよ?この辺りに散らばって一般人として暮らしてる艦娘をもう一度艦娘として復帰させるの。ここを出るときに大体の事は書類に書かせてあるから、それを見ていけば自ずと艦隊編成に必要な艦娘は集まるはず…」

 

「おい」

 

「え?」

 

「サクサク話進めてくれてありがてーが、誰がその”艦隊編成”っての、やるって言ったんでぇ?」

 

「じゃ、じゃあ…」

 

「誰がやるかバカタレ!!」

 

「ちょっと、この人の力になってあげないのォ?」

 

怒鳴る五良に対して、凪がそう言った。

 

「ありがとよ凪、おめぇがついてくるから面倒くさい事になったじゃねーか!んじゃおめぇが手伝ってやれよな!」

 

「そう!じゃアンタはやるつもりはないっていうのね?」

 

「ゼンゼンネーな」

 

「このハクジョーもんがーっ!!」

 

「うるせーな誰がやるかよ!」

 

「別に嫌ならいいわよ、私だけでもやってやるし…」

 

「いーのいーの叢雲さん、私には秘策があるんだから!」

 

凪は叢雲に小さく耳打ちする。

 

「五良…じゃ、いーのね?叢雲さぁん!!五良は中学生のプールの時に女子の…」

 

「なんでオメーはそういう事言うかね!?やりゃいいんだろ、やりゃあよ!!」

 

「こ、これは秘策じゃない…脅迫だわ…」

 

 

もしも人生が一本と道であったとして途中で分かれ道に差し掛かった時、たった今、五良は確実にヤバい方の道を選んでしまったようだ。それを合図するように、そこかで開戦を告げる汽笛が鳴り響いていた…。




第2話です。
今回の艦娘の呼び名などの一部の設定は、こちらの小説からお借りしました。
→ https://novel.syosetu.org/72231/
もちろん許可は取ってあります。

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