イナミ艦隊   作:ねっぷう

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第3話 「艦娘という存在」

さて、ここまでのおさらいをしようか。俺は高校生の稲見五良。実家のラーメン屋が苦しくなってきたんで、丁度見つけたこの横須賀鎮守府の清掃員のバイトを始めたんだが、俺はどうやら確実にヤバい方へと進んじまってるらしい。

昨日、ここを謎の敵が襲った。艦娘の叢雲と俺、あと凪の協力で何とか敵は倒せたが、俺がもっと対策すべきってここの司令とやらに言ったら、あの冷たい爺さん、「君が自分だけの艦隊を作ればいい」だとよ。まあなんだかんだあって…俺はそれを承諾しちまったのよ。全く迷惑な話だろ?

 

「まず、艦娘についで大方説明しなきゃね。一般人には知らされていない専門的な事よ」

 

脚を組んで椅子に座り、そう喋っているのは叢雲だ。その反対側の椅子に、五良と凪が座っている。昨日、あの騒ぎが終わってからイナミ亭に帰った五良は、親父にまたどやされるかと思っていたが、どうやら父親の栄五は事件が起こった事は知っていたがそれが深海棲艦の仕業だとは思っても居ないようだった。あの指令が手を回し、事件の噂が広まらないようにしていたらしい。

 

「艦娘はご存知の通り人造人間であると同時に、”記憶兵器”という兵器でもあるわ」

 

「きおくへーき?」

 

「…やっぱり低能なアンタは何一つ知らないのね」

 

「何だとォ!?」

 

「まあいいわ。無い頭をこじ開けてよく覚えなさい。記憶兵器って言うのは、読んで字の通り記憶を使う兵器の事よ。艦娘の存在を構成しているのは、人造人間(バイオロイド)の素体。この状態ではまだ脳みそは空っぽ…心や意志や思考なんてこれっぽっちもないわ。でも、記憶のダウンロード理論というものがあってね…脳内の記憶や人格を電気信号として保存し、別の脳へ書き込む事よ。それを空っぽの脳を持つ人造人間にダウンロードするのが、いわゆる記憶兵器ってワケ」

 

「…??」

 

頭の上にハテナマークを浮かべる二人。だが、凪がハッと何かを思いつく。

 

「でも、待ってよ…艦娘…記憶兵器である叢雲サンも、元は空っぽで、そこにダウンロードしてる訳だよね…じゃあ、一体、何をダウンロードしているの?」

 

「そこのバカと違っていい質問ね、凪。敵である深海棲艦は基本、海から湧いて出て来るわ。それに対抗する艦娘には海上で奴らと戦えるように海上戦闘に最も特化した兵器…特に、太平洋戦争時の日本海軍の軍艦の記憶をデータ化したものがダウンロードされているわ。ま、正確には記憶ってよりは、その艦に関する記録や細かなデータね。もちろん、艦娘の種類ごとに素体のバイオロイドの形状が決められてて、記憶なら口調だとか一人称だとか癖とかもデータ化されているわね」

 

「で、でもよ…アンタは一般で知られてる叢雲とはちょっと違うぜ」

 

「…ふん、私だって20年もこうしているのよ…少しの変化くらいあるわ」

 

「へぇ~」

 

「纏めると、艦娘はデータ化した軍艦の記憶を持つ人造人間って事ね。次に、敵であった深海棲艦について」

 

その言葉を聞いたとたん、二人は息を呑んだ。かつて人類を蹂躙した、あの怪物たち…。

 

「奴らは赤い水と共に、主にマリアナ海溝付近の深海から姿を現し、その行動パターン等がかつての軍艦と似ていたことから、それでついた名前が、”深海棲艦”。でも私たちは”Deep Ship”、あるいは略して”DS”って呼んでるわ。奴らは姿かたちが人間に近くなり艤装が大きくなるにつれて強さも知能も上がっていく。インドネシアの基地とかを奪って輸送ルートを断ったりとか、空母級の奴らが艦載機を飛ばして飛行機を落としたりね。でも…結局正体が分からないまま戦いが終わっちゃったのよねぇ」

 

20年前の”第二次硫黄島決戦”で深海棲艦は大敗を喫し、それ以降数を減らし続け、10年前には完全に姿が見えなくなった。

 

「艤装…?」

 

凪がふとそう尋ねた。叢雲は壁に立てかけてある銀色の槍を手にする。

 

「艤装…簡単に言えば艦娘の武器ね。主に背中に背負ったり、腕や足に装着するタイプがほとんどで私のもそうだったけど、たまにこういう近接用の艤装もあるのよね。んで、その艤装にも、それぞれが装備する艦娘の種類に合った記憶がダウンロードされてるの」

 

「物にも…その記憶ダウンロードってのァできんのか?」

 

「できる。生き物にするよりも簡単ね。昔、2011年に初めてDSの鹵獲に成功して、そのDSの技術が艤装を形作っているの。そこで記憶ダウンロードよ…例えば、ただのピストルに”駆逐艦の装備していた砲”をデータ化した記憶をダウンロードすれば、そのピストルの一撃が駆逐艦級になるってわけ。それと同じで、DSのテクノロジーで作った艤装に実際の艦艇艤装のデータが記憶として搭載されているの」

 

「お、ぉ…?」

 

「でも今言ったのはありがちなたとえ話よ。実際はそう簡単に行かないわ…ピストルの一発が駆逐艦並だとしたら、ピストル自体がその衝撃に耐えられる訳ないでしょ?そういう訳で、砲の威力を人間サイズの艦娘でも難なく耐えられるように調整し、さらにそれに合わせて艤装自体にも改良を加え…そういう細かい努力や技術の結晶が、私たち艦娘と艤装なワケね。さ、これで分かったかしら?」

 

「なーんだ、そうだったのかァ!!」

 

「なーんて…信じられる訳ないでしょ!」

 

「全くだ、そんな説明で一般人のオレたちが納得できるかよ!!…と言いたいが」

 

「もう色々と間近で見ちゃったからねぇ、信じるしかないってことね~…」

 

「聞き分かりが良いわね、二人とも。それで、五良」

 

叢雲は姿勢を正し、改まった様子で五良の名を呼んだ。叢雲の鋭く、赤い眼光に見つめられ、五良は少したじろいだ。何か、昨日会った吹雪という艦娘とは比べ物にならないような…”何か”を秘めているようだった。

 

「昨日言ってたこと…本当にやるの?」

 

「…本当に、迷惑だぜ。艦隊を作るってーの、よく分からんが…やってやるたァ言ったがな…もしもそれからまた敵が現れて、もっと多いテッポウ持ってたり俺の何倍もデカかったりしたら…俺はソッコー降りるぜ。俺ァ親父のラーメン屋をずっと手伝って、いずれ継がにゃならんからよ…」

 

「まあ、仕方ないわね、一般人だもの…」

 

「ちょっと!叢雲さんにハナっからそんな事言ってどーすんのよ!?」

 

「うるせえ!俺は訳の分からん奴らと一文の得にもならねぇケンカなんざゴメンなんだよ!もちろんケガすんのも疲れるのもまっぴらだぜ!!」

 

五良は凪に向かってそう怒鳴りつける。胸中には、言った通りの気持ちが渦巻いていたが、ふと別の光景が思い浮かんだ。もしも自分がイナミ亭を継いだとしよう。そして自分はここで逃げかえる…だとすれば、俺が艦隊編成ってのをやらなければ、客になってくれる大勢も…死んじまうんじゃなかろうか?

 

「…でも、まあいいぜ…」

 

「え?」

 

「いいって言ってんだよ!その代り、それだけだぞ…俺は絶対に危ない事はしないからな…」

 

「約束、ね。最初にそういう約束だったモノね…絶対の安全を保障するって。とりあえずまず一人は何処にいるのか、目処はたってるわ。どうするの?」

 

「…明日は土曜でどうせ暇だし…」

 

 

五良が艦隊編成をすると言ってから何時間か経った後、夜10時。この横須賀鎮守府の艦娘用宿舎に、二人の艦娘が派遣から帰投していた。

 

「龍田ァ、生きてっか~」

 

「天龍ちゃんは~」

 

「死にそ~」

 

同じ部屋の二段ベッドの段にそれぞれ死んだように寝そべるのは、軽巡洋艦の艦娘である天龍と龍田であった。顔や服は黒く汚れており、ボーッとした顔で天井だけを見つめている。

 

「全く、このご時世じゃ俺らの立場なんてねーもんな~」

 

「そうね~。今回だって、演習相手になるやいなや、向こうの人も死ぬような顔で戦ってるんだもん」

 

「だよな…そんな必死に戦って司令や提督にでも認めてもらいたいのかね。敵も居ないのに強さを証明してもねぇ」

 

二人は叢雲を含めて今この横須賀鎮守府に残っている五人の艦娘のうちの二人で、今まで一か月近くの間ブルネイへ派遣に行かされており、今日帰って来たのだ。そこには同じ状況化である他の鎮守府の艦娘も集っており、練度向上の演習を行っていたらしい。今の時代、需要の無い艦娘は手放される傾向にあり、彼女らはそれを怖れ必死に戦い、練度を上げ自分たちはまだ使えるんだと示すようだ。

 

「ホントに…強くなって何の意味があるんだろうなァ」

 

天龍はボソッと呟く。

 

「お疲れ様です、夕食をお持ちしました」

 

その時、部屋に夕食の盆を乗せた台を運んで吹雪がやって来た。

 

「お、サンキュー」

 

「そういえばお腹減ってるの忘れてたわ~」

 

「これ喰ったらさっさと寝るか!」

 

そう言いながら箸を手に取る二人。その様子を見た吹雪はすぐに戻ろうとするが、何かを思い出したように立ち止まった。

 

「今週から高校生が清掃員のバイトで来てるんですが、くれぐれも問題は起こさないでくださいね」

 

そう言うと、今度こそ去っていった。

 

「バイト、ねぇ…。なァ龍田、次そのバイトが来たときどんな奴か顔見に行こうぜ」

 

「いいわねぇ、男だったらカッコいいのがいいけど…」

 

そんな他愛のない話をしながら、二人は眠りにつくのだった。

 

 

次の日。曇り空の日で、夕方にはきっと雨が降るだろう。町の一角にある古ぼけたアパートの一室から、長い茶色の毛をした一人の女性が姿を現した。

 

「今日は…雨が降るのかな」

 

そう呟き、ドアの鍵を閉めた。すると、隣の部屋のドアが開き、そこから一人の男の子が姿を現した。

 

「あ、カナエお姉ちゃんこんにちわ!」

 

「あらマーくんじゃない、今日はどうしたの?」

 

挨拶をするマーくんという子供にそう話しかけるカナエ。

 

「今日は一緒にお昼ご飯でも食べに行こうと思ってるんです」

 

子供の後ろからその子の母親が顔を出し、カナエと同じように玄関の鍵を閉めた。

 

「こんにちは。今日は雨ですかね…」

 

「ええ、今日はせっかくうちの子と外食する約束だったのに…まぁしょうがないですものね」

 

「本当にね」

 

「じゃーねー!」

 

こちらに手を振る子供に、軽く手を振り返した。

カナエは土曜日も仕事だ。少し歩いたところのスーパーで働いており、正直言って楽な暮らしではない。暮らしているアパートだってここしか暮らせないのでここにしているのであり、他には一人暮らしの学生がほとんどである。さっきのマーくんだって、親が離婚した母子家庭だそうだ。

 

「いらっしゃいませ」

 

ただお昼の12時から夜の8時まで、こうして声を出しながらレジを打ち続けて過ごす。日曜日には一人で出かけるかゆっくり過ごすだけである。そんな普通の暮らし。友人も居なければ恋人を作るでもない。

仕事が終われば別のスーパーで買い物をし、アパートへ帰るのだ。だが、いくら仕事をしても、いくら眠っても、自分の過去に纏わる念は消えない。昔の私が今の私を見れば、何とみすぼらしいと笑いたてるだろう。しかし、こうして生活する以外の道は私には無いのだ。

何故なら、私は…

そんな事を考えながら、アパートの階段を上る。そして玄関のドアの鍵を開けようとした瞬間、近くに何者かの気配を感じて思わず振り向いた。

 

「あ、貴方は…」

 

鉄の手すりの上に腰かけているのは、赤い瞳と銀色の髪の女…。そう、横須賀鎮守府の叢雲だった。

 

「随分と辛気臭い顔してるじゃない。ねぇ、戦艦金剛?」

 

「そういう貴方は…伝説の駆逐艦・叢雲…!」

 

「覚えててくれたのね」

 

「当然よ。それで、現役艦娘の貴方が私に何の用だっていうの?」

 

「喋り方まで普通になっちゃって。ちょっと、こっち(鎮守府)の方で深海棲艦の事件がまた起こってね。前に所属してた艦娘を中心に声かけてるって訳」

 

「へぇ、私にもう一度戦えって言いたいの?私はもうごめんよ、あんな大変な事…死んだ妹たちの分までしっかり生きるって私は約束したのよ」

 

金剛はそう言いながらドアを開け、逃げるように中へ入ろうとする。

 

「逃げるのかしら?あの戦艦金剛が」

 

「うるっさいわね!!とにかく帰ってよ!!」

 

叢雲に向けて怒鳴りつけると、金剛は家の中へ入ってしまった。叢雲もそれ以上追うことはせず、静かに手すりから降り一気に地面へ着地した。

 

「どうだった?」

 

自転車に乗った五良がそう尋ねる。

 

「ダメね。明日また他を当たりましょ」

 

叢雲は自転車の後ろに乗り、二人はそのままどこかへと消えていった。

 

「とは~、アイツらそんな事してんのな~」

 

「これはちょっとびっくり…」

 

「あの金剛さんがこんなとこに住んでたなんてな…」

 

その様子を眺める、一般人に扮装した天龍と龍田。二人もまたこれ以上隠れて五良を観察することを辞め、鎮守府へ向けて帰るのだった。




今回はキャラが多く出てきましたね。
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