イナミ艦隊   作:ねっぷう

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第5話 「居場所」

やあ、こんちわ。私は藤廣凪、五良の同級生よ。ちょっとここまでのおさらいをするわね。

コホン、五良が横須賀鎮守府の清掃員のバイトを始めたのは何回も話したわね?そこで、何か新型深海棲艦っていう陸でも活動出来て頭も良い怪物が鎮守府を襲って来たのよ。まぁ艦娘の叢雲ちゃんと私たちが何とかしたんだけどね。

そしたらそこの賀上提督って人、五良に何て言ったと思う?「街や人を守りたければ、君が自分だけの艦隊を作ってみなさい」だってさ。

そこでこの間、日曜日にデパートで起こった事件を通じて、金剛さんって人が五良の作る艦隊に加わったのでした!

 

 

──────

 

デパートの事件から1週間以上経った。

 

「…吹雪、あの金剛…よくやってるかね?」

 

薄暗い執務室で、ペンを休めた賀上提督は、部屋のソファに座っていた秘書官の吹雪にそう言った。

 

「ええ、そうですねぇ…まあ馴染んではいるようですが…」

 

「そうか…」

 

そう呟くと、ふと窓から海を見渡す。

 

「でも、無理だろうがな。敵は私が思っている以上に大きいのかもしれない。お前の息子は死んでしまうぞ…なぁ、栄五」

 

 

 

 

 

「お母さんは死んでしまったよ。今度、葬式に行こう。…何だ五良…泣いてんのか?大丈夫、大丈夫だ…俺が付いてる…俺はずっと一緒だからな!」

 

13年前、寒い冬の日だった。来ていたジャンバーの袖がごわごわしてるんで涙が上手く拭えなかったのを覚えている。母さんは痩せてて小柄だった。身体も弱かったし、健康なんて言葉が無いような生き方をしていたらしい。だから病気で死んだって親父から聞いてる。

 

 

現在。

 

「~~~~~!!」

 

五良は学校の帰り、イナミ亭と同じ商店通りにいつもより人が多く集まっているのが気になり、その元を探った。どうやら、この新しくできたラーメン屋のチェーンが目当ての行列のようだ。

 

「オイ親父!」

 

五良は急いで自宅へと戻り、店の戸を開けてそう怒鳴りつけた。

 

「あん?」

 

ガラッとした誰も居ない店内で一人新聞を読む父親の栄五。

 

「あん、じゃねーよ。客あっちの店にとられまくってんじゃねーか!ヤベーだろうがこれはよ」

 

「しゃあねぇだろ。あちらは人気ラーメン屋のチェーン、こっちは普通の町のラーメン屋とくらァ」

 

「確かに、チラシ見れば旨そうだ…じゃなくって、ウチだって取り上げられたことあんだろ!?」

 

「ああ、これな…『たまにはこんなミョーな味 イナミ亭』…いまだに褒められてんのかわかんねぇ」

 

「客が来なけりゃよ、流石に俺のバイトの分じゃ食ってけねぇよ…」

 

「そりゃいい、ハゲオヤジと捻くれ者の死骸か、面白い!」

 

「~~~、出かけて来る!」

 

五良が店を出ようとしたとき、もう一度店の戸が開いた。

 

「こんちわーおやっさん!」

 

「おお、凪ちゃん…」

 

凪は店に入るなり五良の耳を掴み、外へと引っ張り出す。

 

「いででで、おめー何すんだ~」

 

「ちょっと聞いてよ、金剛さんが働きたいんだって」

 

「ドモ、五良~」

 

凪の隣に立っていたのは、金剛であった。一般人のような服装に身を包み、茶色い髪を後ろで纏めている。金剛は再び横須賀鎮守府にやって来たのだが、まだ制服が用意されておらず、鎮守府内でもこのような格好でいることが多い。

 

「ね、金剛さんが働かないと落ち着かないんだってさ~」

 

「そうなんデスヨ、やっぱりあの場所も悪くはないデスけど、やっぱり私には働く居場所が無いと退屈すぎて退屈すぎテ…」

 

「んで色々行ったらしいんだけど、もう鎮守府に配属になった以上履歴書を偽る訳にはいかなくて、世間は艦娘に厳しいと」

 

「それでウチだってか?グッドタイミングだぜ、こっちはライバル店に客とられてピンチなのよ…オレらも食ってけるか分かんねぇのにバイトは雇えねぇだろうぜ。ま、オヤジには話してやるが、俺は用事があるんでな」

 

 

「…でもなァ、ウチは潰れっかもしれねぇんだ。いくら五良がバイトで稼いでもこっちも稼げなきゃ意味がねぇ…。五良から聞いたろ、雇えねぇぜ」

 

店の中で話している栄五と金剛。五良が話をさせたようだが、この通りだ。

 

「はい、すみまセン…」

 

「それにそのカタコト言葉はなんじゃ?まぁ、悪く思わんでくれ…」

 

その時、店の戸が開いた。

 

「へいいらっしゃ…!?」

 

 

 

「テメェまだやんのか?」

 

「やりません」

 

商店通り近くの公園で、チンピラ数名を地面に叩き伏せ、一人の胸ぐらを掴んでいる五良。その顔には凶悪な表情が浮かんでおり…。

 

「じゃあこれからそこの商店通りのイナミ亭で飯を食え。免許は預かった…もし食いに行かなかったら殴りに行くぜ。寝てるときも安心すんじゃねぇぞ」

 

しぶしぶそれに従い、公園から立ち去っていくチンピラを見ながら、五良はよしと呟いた。

 

「よし、じゃねーわよ」

 

とそこに現れる凪。

 

「こんな事したら警察がおやっさんしょっぴくよ!馬鹿なんだからホントにもう!!」

 

「げ~、そうだったァ~~!!」

 

 

 

「チクショーめ、みそらーめん!」

 

「クソが、塩らーめんネギ増し!」

 

「ぶっ殺してやる、辛みそらーめん!」

 

店に入るなり一斉にカウンターに腰かけ、注文をよこしたのは先ほど五良に脅されたチンピラたちであった。これには流石の栄五も驚いたようである。

 

「なんでぇ、急に目つきの悪い若者どもが増えやがったな…五良も帰って来てねぇし、大変だこりゃ…」

 

「あのう…及ばないかもしれませんが、私に手伝わせていただけませんか?」

 

その時、名乗りを上げたのは一緒に居た金剛であった。

 

「アンタ、普通にも喋れんのかい…じゃあ頼むか…」

 

「ハイ!」

 

金剛はよく働いた。元から仕事はそつなくこなすタイプであり、それに何年も続けてきた仕事と同様だと思えば、何も思う事は無かった。

ようやく客の注文と料理運びも終わり、やがて客が帰り始める。無理やり脅されて来たものの、彼らにとって英語の作るラーメンはなかなか好評だったようだ。

 

「ようやくあのお客さんで最後ですね…」

 

最後に残った男は箸を置き、水を飲み干すと立ち上がってレジまで移動する。

 

「ありがとうございます、850円になります」

 

「払わねぇぜ」

 

しかし、その男は財布も取り出さずにそう言い放つ。

 

「兄さん、食い逃げかい?」

 

流石の栄五もこれは見逃さずに喰いかかった。

 

「今日ここに来た奴らみんな脅されて来たんだぜ。目つきのするでぇ鼻の尖がったヤツに、ここでラーメン食えって言われたんだ。それをケーサツにチクったらどうなるか…わかってんだろ?」

 

「そ、そりゃ本当の事ですかい?」

 

そう言いながら、栄五は心の中で五良を怒鳴りつけたい衝動に駆られていた。

 

「ま、バラされたくなけりゃこれからタダでラーメン食わせろや」

 

しかし、二人の間に悠然と金剛が割り込み、真っすぐに男の眼を見た。

 

「それは、私の知るところではないですね。貴方様には気の毒な事ですが、その事と無料でラーメンを提供し続けることの因果がわからないわ」

 

「なんだァ女、ぶっ殺すぞコルァア!」

 

「今放たれた言葉は脅しではありませんか?ならば私からも要求します。代金をお支払いください」

 

金剛と男はしばし睨み合う。しかし、金剛の変わらない表情とその言葉に押されたのか、男はきっちり代金分をレジに投げるようにして置き、悪態を付きながら帰っていった。

 

「申し訳ありません、食事の場で…」

 

「いいってこった、俺だってあんま気の長いほうじゃねぇからよ…。それにしても、ああいう対応うまいもんだな?」

 

「ええ、前の職場ではああいったお客様もたまに来ていたので…。それに私は働いて役に立って人に認められることが、居場所を作る方法だったのです…だから、私がここに居るためには死ぬ気で頑張らないと…」

 

そう、金剛は昔に艦娘だったころには深海棲艦と戦う事で自分を誇示し、その後は普通に働くことで人間社会に居場所を見出そうとし、再び艦娘になった後も今のように働いて居場所を得ようとしていたのだ。

 

「食いな」

 

とその時、栄五は金剛の前にラーメンを置いた。

 

「あんたによく似たのがウチにも居るぜ。自分の居場所を必死に守ろうとしやがってよ、何を一体焦ってるんだか…人にとって居場所ってのはショバ代なんて必要ないトコの筈なんだがな…あのバカは17年も経つのにまだそれがわかってねぇ。この前バイトを始めるって言った時も自分の居場所であるここを支えるためなんだろう…馬鹿だよなァ」

 

「それは…五良くんの事ですか?」

 

「…へへっ。ラーメン美味かったか?」

 

「はい!とても!」

 

「じゃあヤツより早くわかればいい。明日から入ってくれ、丁度五良も他のとこ行ってんだ」

 

「はい!!」

 

 

 

 

一方、その頃。場所は移り、神奈川に建つ芸能事務所。

 

「だーかーらー、ウチは絶対売れるで、な?だから…」

 

「と言ってもねぇ、養成学校も出てないのに元艦娘っていう肩書だけ使って芸能界に入ろうなんてダメだね」

 

「じゃあウチらのギャグ見せたるわ!面白ければ入れてもらうで!」

 

「ほう…」

 

 

が、しかし…。

 

「う~ん、こんなはずじゃなかったんやけどなぁ」

 

元艦娘である龍驤は金剛と同じく人間社会に溶け込もうとしており、もう何年もこうして芸人への道を歩もうとしているが…今回のように、なかなか上手く行かないようである。元艦娘という事をネタにして売り出せばイケると思っていたが、どうやらもう世間的にも艦娘なんぞ誰も興味が無い、らしい。

 

「当たり前じゃない、アンタさぁ~」

 

龍驤の横でそう言っているのは、細長い顔をした女性だった。

 

「なんやアケミ、また別のとこ行ってみればええやん」

 

「でも行くとこ行くとこアンタの所為で全部だめだったでしょ~!」

 

「ま、まぁまぁ…」

 

「大体、アタシはピン(一人)でやってくつもりだったの!ちゃんと養成学校だって出たし、後は小さい下積みでもやってけば自然と食っていけるハズだったのに…」

 

「あのな?ウチだって今まで何度も失敗してきたねん。でもウチはアケミを見た時に直感で思ったんや!コイツと二人でする漫才なら絶対ウケるってな!!」

 

龍驤は野望に燃えるような眼でそう叫んだ。しかし、アケミは静かに言い返す。

 

「でも何だっけ、さっきアンタがやったやつ。『ウチのギャグが寒いって?なら凍死しないために闘志を燃やさねば~』って、アレはさすがに無いでしょ…」

 

「う、うるさいなっ!これからもっといいのを考えていけばええやろ!」

 

「とにかくアタシはもう誰とも組まずに予定通りピンでやってくからね!じゃあ!」

 

アケミはくるりと向きを変え、カバンを背負いなおすと反対側へ向けてさっさと歩き去ってしまう。

 

「待ってくれ~、相方がおらんと漫才で名を馳せるっちゅうウチの夢が~!」

 

龍驤が小さな声で呼びかけても、アケミの後ろ姿は夕焼けの中にどんどん小さくなっていった。

途方に暮れた龍驤は一人歩き、商店通りの近くの公園のベンチに座りながら缶ジュースを飲み、おもむろに遊んでいる子供たちを眺める。

 

「はぁ、上手くいかんもんやな。やっぱウチの然るべき場所で学んどくべきだったか…?ま、ウチら艦娘はもう捨てられた身や…今更、夢なんて馬鹿らしいのかもなぁ」

 

飲み終わった缶をゴミカゴへ向けて投げてやる。缶がカゴに入るその瞬間…突然大きな音が響いた。

 

「な、何や!?」

 

龍驤は思わず耳を塞ぐ。辺りには砂ぼこりが舞っており、何かが上から降ってきたようだ。

 

「沈みなさいっ!!」

 

それを追うようにその場へ現れたのは、銀色の長い髪の毛をはためかせる叢雲であった。両手にはドリルの槍と銀色の槍が握られており、起き上がった黒い生物は、龍驤にとって見覚えがあった。自分が艦娘として戦っていたころに何度も見た「軽巡ト級」に似ており、それに地上で走り回れる足がついたような外見であったからだ。

 

「あれは…深海棲艦と艦娘か?なしてこんな所で…!」

 

別の基地出身であり、つい最近ここの辺りへやって来た龍驤にはこの状況が掴めなかった。普通、艦娘と深海棲艦は海で戦うモノだ。それがこんな町中、それも公園で戦闘を繰り広げるなど…。

あの艦娘も敵も艤装は付いてないようだが…

 

「ギャエエエエ!!」

 

すると、その深海棲艦のような怪物は口を開き、周りで逃げ惑う子供たちに顔を向けた。そして一直線に子供の元へ駆け出して行き、大きく開いた口を近づける。

 

「アカン、あぶな…!」

 

思わず龍驤もその場へ走り出そうとしたとき、先ほどから戦っていた叢雲が咄嗟に敵と子供たちの間へ割り込んだ。腕を差し出し、敵は勢い余って叢雲の腕に噛みついてしまう。平たい歯が食い込み、敵がそれを抜こうとする隙を縫って、叢雲は二本の槍を敵の胴体へ突き刺して貫いていた。

怪物はうめきながらその場へ崩れ落ち、倒れ込んだ。そして氷が溶けるようにジュワっと液体になり、やがて蒸発し消えていった。

 

「…何してるの、早く行って」

 

叢雲は無愛想な態度で子供たちにそう言う。子供たちは逃げ出し、叢雲はそれを確認すると今度は龍驤へ目を向けた。冷や汗をぬぐう龍驤を見ると、すぐに腕を抑えながら歩き去っていった。

 

「…何の艦娘かは分からんかったけど、いいなぁ…」

 

叢雲の容姿は一般的に知られている艦娘叢雲とは背丈や体格が異なるため、別の基地出身の龍驤にはどの艦娘かは判別することができなかった。

龍驤は先ほどまで敵が有った場所を見やる。もうそこには黒いシミしか残されていなかった。

 

「仕方ないなぁ、夢の代わりに居場所でも見つけてみようか…」

 

夕焼けの中、小さな影が走り出した。

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