イナミ艦隊   作:ねっぷう

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第6話 「イナミ艦隊結成」

「ちわーす」

 

横須賀鎮守府の控室に、学校帰りの五良と凪が足を運ぶ。

 

「どうも」

 

一足先にここへ来て雑誌を読んでいた叢雲が顔も上げずに一言声をかけた。

 

「今日は庭の掃除もお願いできるかしら?そろそろあっちの方もやらなきゃいけないんだけど」

 

「あぁ、庭だァ?」

 

五良は面倒臭そうな顔をしながらそう言い、この鎮守府の敷地内の様子を思い出していた。

確かに、放置されている使われてるのかどうかも分からない車を囲うように生えた背の高い雑草、デコボコした駐輪場、外に有る水道…。それらを見れば、何故今までやらなかったのかと疑問を感じるほどだ。

 

「そうそう、整備士の岩倉さんと一緒にやってね」

 

「岩倉さん?」

 

凪がそう尋ねる。

 

「あら、会ったコトないかしら?まあ当然ね…いつもは工廠の方に居るし…」

 

 

 

「こんにちわ」

 

いざ庭に出た五良と凪の前に立っていたのは、大人しそうな顔をしている痩せた中年男性だった。緑色の作業着に身を包んでおり、眼鏡の奥の細い目でこちらを見つめている。

 

「うす…アンタが…」

 

「叢雲さんから話は聞いているんだね。僕は岩倉俊雄(いわくら としお)…工廠の方で艤装の整備をやってるんだ。といっても、今はあんまりやってないんだけどね」

 

鎮守府の艦娘の消失に伴い、艤装の手入れや整備、工廠の設備担当の民間従業員は仕事の減少に苛まれていた。

 

「はぁ…。って、なんでお前がいんだよ?」

 

「えー、いいじゃない!私だって暇なんだもん」

 

「うるせぇな!付き合うオトコいっぱいいるんだろ、暇なんかねぇじゃねぇか!」

 

「ははは、いいじゃないか。人が多い方が早く終わるよ」

 

三人はまず、駐車場の草刈りから始めた。草の独特な匂いが鼻を突くようになったころ、ふと五良は岩倉に声をかける。

 

「岩倉サンはなんで…ここで働いてるんスか?」

 

岩倉は手を止めることなく話した。

 

「まぁ言ってしまえばお給料が良いからだよね。あの賀上さんには本当によくしてもらっている…アルバイトの君にも、それなりのお金をくれるだろう」

 

「あのオジサンが~?」

 

凪が思わずそう呟く。

 

「ははは…藤廣くんは分からないかもしれないが、あの人は誰にも知られない所で何か頑張ってる、そんな人なんだ」

 

「へぇ…」

 

「さ、後はこの草を片付けて終わりにしようか。また今度、駐輪場にもアスファルトを敷くみたいだからね」

 

 

整備士の岩倉と出会ったその日は無事に庭の掃除を終え、二人は帰路へと向かった。

その翌日…。

 

「だーからねー、その叢雲さんは強かったんだって」

 

「本当かー?」

 

横須賀鎮守府の門前で、大きな荷物を抱えて建物を見上げながら話をしている二人の少女が居た。黒髪の帽子を被った方は駆逐艦のCMS…暁といい、もう片方の長い緑髪の方が同じく駆逐艦のSMCの長月といった。

 

「ええ、本当よ。私が見てる前で、DSみたいなバケモノを槍でズバッっとね…」

 

どうやら、暁は先日、この鎮守府の叢雲の戦いを目撃していたらしい。

 

「すっごいカッコよかったわ~!だからあの人と同じ場所に行けば、私だって強く素敵に成れるはずだわ。あ、でも倒したと思ったDSは実はまだ生きてて…お爺さんに襲い掛かるのよ…それで」

 

話していた暁は後ろに何かの気配を感じて振り向くと、そこにはしゃがんで真剣な顔で暁の話を聞く五良の姿が有った。イナミ亭の出前を運んでいる途中のようで、後ろには出前用の金属の箱が置かれていた。

 

「…間に合った?」

 

「…え、ええ…もう一度槍で斬って…」

 

「知らねぇ。でも結局アイツは勝ったんだろォ?」

 

更に五良の後ろに居たのは、バイクにまたがる茶髪の女であった。恐らく高校生と見られる制服のスカートに、ブラウスの上には黒いライダージャケットを羽織っている。その顔つきと風貌からかなりガラの悪い印象を受ける。

 

「誰だテメー、うるせぇモンに乗りやがって」

 

「もう忘れたのかよ、ダセー奴だ」

 

「ワリィな、つまらん女の顔なんざ覚えてもいられなくてよ」

 

「そうかよ、お前と決着が付いたら面白そうだぜ」

 

睨み合う両者を見て、長月がボソッと呟いた。

 

「摩耶…だ…」

 

 

 

「おっ、いたいた。凪ちゃーん」

 

「今日の放課後俺らと駅前行かねぇ?」

 

五良と凪の通う、昼休みの南高校。

その食堂で、不良風の男子二人に絡まれる凪。

 

「何よー、私は彼氏いるからパスー。三組のみさきちゃんでも誘えば?」

 

凪は面倒くさそうに素っ気ない態度でそう返す。

 

「ちぇ、きっついよなぁ」

 

「そういえば、五良いねぇ?」

 

「なんで?どうしたのよ?」

 

「イヤ…転校してきた奴が生意気でよ…」

 

 

『へ…いいぜ、俺に手を出してもよ。でも覚えときな…俺ァあのマヤさんのグループのモンだぜ…』

 

彼らと廊下で揉めた転校生の男子は挑発するようにそう言った。それに対して、彼らは眉をひそめながら唾をのんだ。

 

『ま、マヤ…?東高の…あのマヤかよ…』

 

『そうだぜ…他県の暴走族潰して、大学の不良共20人病院送りにしたっていうな。くっくっく、おっかねぇぞ…』

 

 

「ふーん、で、その転校生を五良にやっつけさせたいのね」

 

「だって五良(アイツ)、この前マヤと喧嘩したんだろ?それに五良の奴、俺らが困った顔すっとすぐ喧嘩引き受けてくれるしよ」

 

不良の同級生は悪そうな笑みを浮かべながらそう言った。

 

「でもアンタら五良とは遊ばないよね」

 

「たりめーだろ、あんなヤベェのダチじゃねぇしよ」

 

「あ…そ。でも五良ならいないよ、アイツいつも昼休みは家の手伝いしてるし」

 

「けっ、あんな暴力ヤローが小遣い稼ぎかよ。せっかくおだてて使ってやろうと思ったのに…」

 

「あ、ちょいまち」

 

「あん?」

 

ぼそぼそと悪態を付きながら立ち去ろうとする二人を凪が呼び止める。何かと思い、彼らが振り向いた瞬間…。

バキャ

凪が投げ飛ばした椅子が二人に激突し、二人は後ろへ倒れ込んだ。

 

「あっごめーん、手が滑っちゃった。…まったく、あのバカ!」

 

 

 

場所は戻り、横須賀鎮守府前。

 

「先週、港の辺でダチが金取られたってよ…」

 

「おかしいな…金払いてぇって言ったのァ奴らだぜ」

 

その瞬間、バイクから降りた摩耶のパンチが五良の顔面へ直撃する。しかし、五良も負けじと足を延ばし、その足先が摩耶の腹へヒットする。

 

「テメェ、誰だコラァ!」

 

「何だと稲見五良、忘れたとは言わせねぇぞ!アタシはテメェにやり返すためにここへ来たんだからなぁ!」

 

摩耶は五良の顎を蹴り上げ、そのまま襟ぐらを掴み、地面へ叩き伏せる。

 

「何だって…!」

 

「教えてやるよ…もう2か月も前だ…お前とアタシは駅前で揉めたよなぁ!?驚いたぜ、このアタシと殴り合える人間が居る

 

なんてな…あの時は警備員に止められたが、アタシの気は治まらねぇ…だから今日こうしてここまで来たんだ!」

 

転がるようにして摩耶の腕を振り払う五良。そしてその顔を思いきり殴りつけた。

 

「あの時の女かよ、テメェ!」

 

「おらぁぁああああ!」

 

「うわぁ、やばいよやばいよ…」

 

「ちょっと中の人呼んでくる!」

 

殴り合う二人を見た長月が人を呼ぼうと建物の中へ入っていく。

 

 

 

「な…なんでテメェはアタシの足元に…這いつくばらねぇんだ…?」

 

「う…るせぇ…俺ァ嫌な女なら殴るからな…テメェみてぇなムカつく女相手にナメられてやれねぇんだよ…」

 

もう二人とも完全に満身創痍の状態で、鼻や口から血を垂らし、顔も腫れあがっている。意識も朦朧としている。二人とも、これ以上の喧嘩は不可能だろう。しかし、双方ともコイツにだけは負けないという意地によって立たされていた。

 

「どーした、来いよオラ。今日は最後までやんぞ」

 

「オメェから来いよコラ」

 

「「ああああああ!!」」

 

二人は同時に声を上げ、拳を振り上げる。が、しかし…二人の間に飛び込んできた二本の白い腕が、それぞれ五良と摩耶を思いきり引っ叩いた。あまりの衝撃に、二人は後ろへ大きく吹っ飛んだ。

 

「まったく、何やってんだかアンタ達は」

 

倒れた二人を軽々と肩に担ぐのは、叢雲であった。そのまま叢雲は建物の中へ戻ろうとする。

その様子を恐る恐る見ていた暁と長月だったが、しばらくすると意を決したように叢雲を引き留めた。

 

「あのっ…すみません!」

 

その声を聞いた叢雲はゆっくりと振り向き、二人を見下ろす。

 

「私たち、ここの鎮守府が艦娘を募集してるって聞いて…CMS特別部から来たんです!」

 

「どうか私たちをここで雇ってくださいっ!」

 

 

 

その日の夕方。学校から帰った五良と凪は、いつものように横須賀鎮守府へと訪れていた。控えの部屋に入ったとたん、そこは普段と大きく雰囲気が変わっていた。

何というか…賑やかすぎる。

 

「遅かったやないか、五良!」

 

そう手を振りながら言って来たのは、この間鎮守府に入って来たばかりの軽空母龍驤であった。

 

「こりゃ…一体どうしたんだ?」

 

「ホント、集まっちゃってどうしたのよ?」

 

二人は思わずそう声を漏らす。すると、壁に寄りかかっていた叢雲が言った。

 

「嬉しいお知らせよ。賀上司令から言われた、アンタの艦隊編成…もう終わったわ」

 

「終わった…?」

 

「そう、終わったのよ。だって、とりあえず6人揃ったんだから」

 

そう言われてようやく部屋を見渡して気が付いた。真ん中に置いてある大きな机を囲うように、叢雲を含めた6人が部屋に揃っていた。金剛と龍驤の他に、見慣れない少女が二人…。

 

「あ、私は暁よ。今日ここにやって来たの」

 

「長月だ。暁と同じく、だ。よろしくな」

 

「へ~、かわいい~!」

 

凪が二人を見るなりそう呟いた。

 

「って、オイオイオイ、ちょっと待てや…な、なんでその女が居るんでぇ…?」

 

五良が部屋の隅を睨む。その先には、頬やおでこにシップを貼った摩耶が立っていた。

 

「ハハハハ、何か面白そうなことやってるそうじゃねぇか、お前。でもよ、勘違いすんなよ…」

 

摩耶はズカズカと五良の元へ近寄り、その顔をグイッと近くへ寄せる。

 

「アタシがこの艦隊に入ったのは慈善とかじゃあねぇ…お前の近くに居れば、いつでもお前をぶっ殺せるからな…」

 

「あぁ?女如きが大層な口きいてくれるじゃねぇか、ゴキゲンだな」

 

「はいはい、喧嘩は後にして!」

 

一気に間に火花を散らせる二人を、叢雲が制する。

 

「さて…この6人で艦隊を結成するわけね」

 

「でもー、名前とか決めた方がいいんじゃないデスカ?」

 

と、金剛が手を上げて言う。

 

「おおそうだな…名前か、ええっと…」

 

「…イナミゴロウが作った艦隊だから、『イナミ艦隊』っていうのはどうかしら?」

 

悩む五良に叢雲がそう言った。それを聞いたメンバーと凪はいいじゃないと言った風に頷いた。

 

「イナミ艦隊か…まぁそれでいいかもな」

 

「決まりね。ご存知の通り、このイナミ艦隊は陸でも半永久的に活動可能な新型深海棲艦、通称”辿異種(てんいしゅ)”に対抗するために編成されたわ。もちろん海上でしか使用できない艤装ではなく、それぞれに支給されている近接戦闘用武器型艤装で戦う事になる…せいぜい頑張りなさい」

 

叢雲の言葉を聞いた一同が、皆一斉に五良を見た。羨望の眼、期待の眼、不安の灯火を揺らす瞳、闘志に満ちた眼…それぞれの思惑の視線が五良へと刺さるように向けられている。

 

「えっと、オホン…これをもって、俺が作った…いや作ったって言うか集めたって言うか」

 

「もー、アンタらしくいつもみたいに言えばいいでしょー!?」

 

言葉に詰まる五良を見かねた凪が、その背中をバシーンと叩いた。

 

「…じゃあ、イナミ艦隊結成だ!気張れよテメェら!!」

 

その五良の声と、それに続く艦娘たちの歓声を、ひっそりと耳を澄ましてドアの向こうから聞いている…賀上司令は、天井の隅を見やると、その場を後にするのだった。

 

 

 

イナミ艦隊編 完  to be continued…

 

 

 

 

…どうも皆さん。ここまでお読みいただきありがとうございます。

これから、五良率いるイナミ艦隊の戦いが始まるのです。そこで、傍観者であるこの私がイナミ艦隊とそのメンバーについて、少し説明を加えてみたいと思います。

 

まず、艦隊メンバーから叢雲。彼女は生体人造人間素体のモデルから戦闘能力まで一般的な駆逐艦叢雲とは大きくかけ離れており、それ故か「伝説の駆逐艦」としての異名で知られている様子。

 

お次、金剛。彼女は「第二次硫黄島決戦」という先の深海棲艦との最終決戦を生き延びたが、姉妹を失った事により自棄になり人間社会でつつましく暮らすことに。しかし、五良や叢雲との関わりを通じて再び闘う事を決意する。

 

続いて龍驤。昔から日本のお笑いに興味のあった彼女は昔所属していた基地から追い出されると同時に芸人への道を進もうとするが上手くゆかず…。夢ではなく居場所を探すため、彼女もまた再び戦う決意を固めるのです。

 

二人まとめて紹介いたします、暁と長月。二人は「CMS特別部」という組織に所属していましたが、伝説の駆逐艦叢雲の戦いぶりをその目で見、彼女に憧れて移転を希望。

 

最後になります、摩耶。所属していた鎮守府から離れた彼女は五良たちの通う南高校と隣の東高校に通い、不良として君臨するようになるが…五良との喧嘩が引き分けになったことにより、いつでも彼の寝首を掻けるように艦隊への入隊を希望。

 

さ、そんなイナミ艦隊がこれより戦うのは、陸上への進出を果たした新型深海棲艦…だけなら良いのでしょうが、残念ながらそうは参らないのです。

第1章、「イナミ艦隊の章」が終了しました次は、「海を巡りて廻る章」となります。

では…次回まで、またしばらく間を置かせていただきまする。

 

 




はい。
あ、お気に入りや感想を待っているのでぜひお願いしますよ。
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