遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 あけましておめでとうございます!!(白目)

 日本は新春を迎えましたが当作品内はまだまだ夏真っ盛りです!

 今年もご一読いただければ幸いです、よろしくお願いします!



TURN - 14 WILD BROTHER

 

「ほら、ルイくん……(くち)、開けて?」

 

「わぁ……先輩の……おっきい……」

 

 

 

 どこか恥ずかしそうに顔を赤らめ、横髪を耳に掛けながら、おずおずと口を縦に(ひら)くルイくん。ボクはその綺麗な口内に、ボクのホットドッグを(くわ)えさせる。

 

 ……違うから!! 変な意味じゃないから!!

 

 学園の購買部で美味しそうなホットドッグが売ってたから買ってきて、ルイくんと二人で中庭のベンチに座って食べてただけだよ! ちなみに今は昼休み。

 

 それにしても、小さな口で懸命にホットドッグをもぐもぐしているルイくんの姿は正に小動物。

 今となっては、こうしてルイくんに餌付けするのが毎日の日課になっている。だって可愛(かわい)いんだもん。

 

 

 

「もぐもぐ……ん……はぁ……おいしかったです」

 

「フフッ、それは良かった。いい子いい子」

 

「えへへっ」

 

 

 

 残さず咀嚼(そしゃく)して、ゴックンと飲み込んだルイくん。ご褒美に頭を撫でてあげると、嬉しそうにはにかんだ。サラサラな茶髪は触り心地が良くて、いつまでもなでなでしていたくなる。

 

 

 

「……僕……セツナ先輩に出会えて良かったです。『ランク・E』の僕なんかに優しくしてくれたの、先輩が初めてだったから…」

 

 

 

 ボクの真横にちょこんと座るルイくんが、ふとそんな事を呟いた。照れているのか目線は自分の足下に向いており、その横顔は、ほんのりと頬を染めていた。

 ……フラグ立ちまくりなんですけど、これなんてギャルゲー? 攻略しちゃっていい?

 

 そう、ルイくんはこの学園においては最下層のカースト --- 『ランク・E』に位置する生徒だった。

 

 ここ、デュエルアカデミア・ジャルダン校の生徒達は、決闘(デュエル)の実力の高い順に『A』~『E』の5段階のランクで、厳正に格付けをされるシステムになっている。

 当然ながら、それがそのまま決闘者(デュエリスト)としての強さの度合いを示し、各々の成績にも影響するので、非常に重要な要素(ファクター)なんだそうだ。

 

 聞くところに寄ると、ランクが低ければ低いほど周囲の風当たりは強くなり、特に最下位(ランク・E)ともなると、それだけでドロップアウト(落ちこぼれ)のレッテルを貼られ、白眼視されてしまうんだとか。

 昨日まで仲の良かった相手が、ランクが下がった途端に距離を置き始めて、友情が崩壊した事例も珍しくないらしい。校風が校風だから仕方ないのかも知れないけれど、ひどい話だ。

 

 

 

「こんなに可愛いルイくんを白い目で見るなんて」

 

「か…かわいいなんて、そんな……」

 

 

 

 恥ずかしがってるルイくんも可愛い。どうしよう、すごく抱き締めたい。

 

 けどその前に……そろそろ本題に入るとしようか。

 

 

 

「……それで、話したい事ってのは?」

 

「は、はい! 実は……その……」

 

 

 

 さっきまでのデレデレしていたルイくんの表情が、一気に緊張で強張ったのが見て取れた。

 

 授業中、ボクの端末にルイくんから、『折り入って相談したいことがあるんです』という内容のメッセージが送られてきたので、こうして昼休みの時間を利用して合流したわけだけど……

 

 もし『実は僕……女の子なんです!』とか告白されたりしたら、どんなリアクションを取るべきか。何にせよ、せっかく後輩が頼ってくれてるんだ。先輩らしく、しっかり彼をフォローしてあげないと! そんな心構えで、ボクはルイくんの言葉に耳を傾けた。

 

 

 

「僕……選抜試験に出てみたいなって……思ってて…」

 

 

 

 あ、全然違った。ごめんよルイくん。性別を疑ったりして。

 

 

 

「選抜試験に?」

 

「は…はい……で、でも、やっぱり止めた方がいい……ですかね…? 僕、弱いから……出てもすぐ負けちゃうだろうし……」

 

 

 

 語尾がどんどん弱々しくなっていくルイくん。なるほど、そういうことか。

 

 確かに選抜試験こと『選抜デュエル大会』は、高等部の生徒であれば誰でも参加(エントリー)が可能で、ランクは関係ない。だからルイくんが学園側に申し出れば、それだけで簡単に参戦できる。

 ただ、踏み出す勇気がまだ足りなくて、誰かに背中を押してほしいんだ。

 

 となると、ボクが彼に言うべきことは……

 

 

 

「ルイくん、ボクは…」

 

「おいおい! 落ちこぼれのランク・Eが何か言ってやがるぜ!」

 

「選抜試験に出てみたいだぁ? ギャハハッ! 身の程を知れってんだ!」

 

 

 

 ボクの言葉は横から割り込んできた下品な笑い声に阻まれた。ボクとルイくんの和やかな時間を邪魔しやがって、このKY!

 

 誰だと思ってそちらを見れば、見知らぬ男子生徒が二人、座っているボクとルイくんを()(くだ)す様に立っていた。

 

 

 

一年(オレら)の中で一番弱いオメーが勝てるとでも思ってんのかよ!」

 

「あ…うぅ……」

 

 

 

 ……男子生徒の口振りから察するに、どうやら彼らはルイくんと同級生みたいだ。ルイくんは怯えて、すっかり縮こまってしまっている。

 こんな風に自分達よりランクの低い子を(おとし)める生徒は、学園のあちこちで何度か見てきた。その度に『皆もっと仲良くすれば良いのに』とか思いながらも、静観していたのだけれど。

 

 さすがに後輩が……友達が馬鹿にされているのを、黙って見過ごす事は出来ない。

 

 

 

「ねぇ、ちょっと今のは聞き捨てならな……ッ!?」

 

 

 

 立ち上がったボクの言葉が途中で止まったのは、目の前の男子生徒二人の背後に、より大きな人影が立っているのを目撃したからだった。

 いつの間にか現れた、巨人とも形容できそうな迫力を放つ大男は、何も気づいていない男子達の頭を真後ろから掴むと、いとも簡単に身体ごと持ち上げた。

 

 

 

「いっ、いてててっ!?」

 

「だ、誰だよ離せ!」

 

「……てめぇら……今なんつった?」

 

「「はぁ!?」」

 

「誰が落ちこぼれだってんだゴラァァァァアッ!!」

 

「「う、うわぁあああああっ!!!?」」

 

 

 

 大男は自身の身体を回転させ始めると、その遠心力を用いて、砲丸投げの要領で二人の男子生徒を軽々(かるがる)と投げ飛ばした。

 悲鳴を上げながら、空の彼方(かなた)へと消えていく二人。ボクとルイくんがポカーンとしながらそれを眺めていた時、フーッ、フーッ、と息を荒げていた大男が大声で叫んだ。

 

 

 

兄貴(・ ・)を馬鹿にする奴ァ! 俺が許さねぇっ!!」

 

「…………え? アニキ?」

 

「け、ケイちゃん!?」

 

 

 

 突如、大男が口にした『兄貴』という呼称。そして、そんな大男を『ケイちゃん』と呼んだルイくん。

 …………ボクの脳内で、通信制限を受けた端末(なみ)に遅い情報処理が(ようや)く終わり、合点がいった瞬間……ボクも、叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

「ええええええええええっ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ……先輩、紹介しますね。僕の弟の、(いち)()() ケイです」

 

「お、弟……」

 

「ちなみに中等部2年生です」

 

「14歳!? これで!?」

 

 

 

 ルイくんが教えてくれた通り、この大男とルイくんは、本当に実の兄弟らしい。

 

 弟くんの一番の特徴は、ツーブロックに刈り上げた、オレンジ色の短髪。また、何故だか不機嫌そうに仏頂面しているせいか、短い眉毛と鋭い目付きが強調されていて、近寄り難い雰囲気を纏っている。背丈は三つ年上のボクよりも高く、おおよそ180センチを越えている。ついでに言えば喋り声も、ボクやルイくんより低い。着ているシャツの半袖から伸びる両腕は、男二人を振り回せたのも納得(?)の太さ。中学生とは思えない程ガッシリとした、(たくま)しい身体つきと、ワイルドな外見を併せ持っていた。

 

 

 

「ごめん、失礼を百も承知で言ってしまうけど……あんま似てないね……」

 

 

 

 色白で華奢な兄・ルイくんと、筋肉質な弟・ケイくん。二人の共通点を挙げるとすれば……緑色の瞳くらいしか見当たらなかった。

 

 

 

「あはは……よく言われます。ケイちゃんは父方に似ちゃったみたいで…」

 

 

 

 ボクは心の中で密かに『母方、グッジョブ!』と叫んだ。

 

 その時、突然ケイくんのゴツイ手が、ボクの胸ぐらを乱暴に掴み上げた。

 

 

 

「てめぇそりゃ兄貴を馬鹿にしてんのか? あぁん!?」

 

「ぐえぇ……助けてルイくん」

 

「だ、ダメだよケイちゃん! 離して!」

 

 

 

 さすがに、お兄さんの言葉は聞き入れるのか。ケイくんはルイくんの制止にすんなり従ってボクを離してくれた。こ、殺されるかと思った……

 

 

 

「大丈夫ですか? セツナ先輩…」

 

「あ、あぁうん、大丈夫。ありがとうルイくん」

 

「セツ…? ……そうか……こいつが……」

 

「?」

 

「最近、兄貴が嬉々として話す『セツナ先輩』ってのァ、てめぇのことか!」

 

 

 

 眉間に(しわ)を寄せ、強面を更に(いか)つくしてボクを睨むケイくん。怖ええええええっ!?

 

 

 

「上等だ! 俺と決闘(デュエル)しろ! 兄貴が認めた男がどれほどのもんか、この俺が見定めてやる!」

 

「また随分と急展開だね……」

 

「セツナくーん!」

 

「騒がしいわね、何してるの?」

 

「あぁ、アマネ。それにマキちゃん」

 

 

 

 おぉ。お馴染み美少女コンビの二人が参られた。

 

 

 

「あー、実は今から決闘(デュエル)する流れになったっぽくてね…」

 

「誰と?」

 

「ルイくんの弟くんと」

 

「弟って……誰?」

 

「彼」

 

「…………うそぉ?」

 

 

 

 アマネはケイくんを一瞥すると、赤い瞳を丸くして驚嘆した。まぁ無理もないか。

 

 

 

「おい早く構えやがれ! どっちが兄貴に相応しいか、白黒つけてやろうじゃねーか!」

 

 

 

 すでにデュエルディスクを着け終えたらしいケイくんが、声を荒げて急かす。

 すると、マキちゃんが何やら興奮し始めて……

 

 

 

「お? おぉ!? これは一人の男の子を巡っての修羅場ってヤツかな~? 勝った方が意中の人をゲットできる……良いねぇ~! あたしそういうの大好きだよ!」

 

 

 

 何その薄いブックスが厚くなる展開。

 

 ていうか、ルイくんもどうして赤面してるのかな!?

 

 

 

「てめぇなんかに兄貴は渡さねぇ! 来い!」

 

「ややこしくなる言い方はやめて!?」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 ケイ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「俺から行かせてもらうぜ! 【剣闘獣(グラディアルビースト)ラクエル】を召喚!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ラクエル】 攻撃力 1800

 

 

 

「さらに手札からフィールド魔法・【剣闘獣(グラディアルビースト)(おり)-コロッセウム】を発動!」

 

「!」

 

 

 

 地響きと共に地形が造り変えられていき、フィールドは広大で神秘的な、円形の闘技場へと一変した。

 

 

 

「おおぉ、すごい! コロシアムだ!」

 

此処(こ こ)は誇り高き剣闘士(グラディエーター)達が、魂を賭けてぶつかり合う戦いの場! 全力で行くぜ…! 俺とお前……どちらかが吹っ飛ぶまで!!」

 

「ケイちゃん、今日も絶好調だね……」

 

 

 

 ルイくんが苦笑を交えつつ独りごちた。どうやら弟くんの熱血漢ぶりは、平常運転のようだ。

 

 

 

「俺はカードを2枚伏せてターン終了だ!」

 

「……良いね、ボクもテンション上がってきたよ……! ボクのターン! ……それじゃあ、ボクは魔法(マジック)カード・【スター・ブラスト】を発動! このカードはライフを500ポイント支払う(ごと)に、手札のモンスター1体のレベルを1つ下げる。ボクは2000ポイント払う!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 2000

 

 

 

「いきなりライフを半分にしただと…?」

 

「これで、手札にある【トライホーン・ドラゴン】のレベルは、4つ下がってレベル4! リリース無しで召喚できるようになったよ!」

 

「!」

 

「さぁ出ておいで、【トライホーン・ドラゴン】!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「で、でけぇ…!」

 

「バトル! 【トライホーン】で【ラクエル】を攻撃!」

 

「ッ! そうはさせねぇ! (トラップ)発動! 【ディフェンシブ・タクティクス】!」

 

 

 

 ラクエルを護るべく張られた強固な防御壁(バリアー)によって、トライホーン・ドラゴンの攻撃が弾かれてしまう。

 

 

 

「ラクエルの破壊を無効にし、戦闘ダメージを(ゼロ)にする!」

 

「あらら、防がれちゃったかー……」

 

「さらにこの瞬間、ラクエルの効果が発動!」

 

「ッ!」

 

「【剣闘獣(グラディアルビースト)】は戦闘を(おこな)ったバトルフェイズ終了時、デッキの中の新たな【剣闘獣(グラディアルビースト)】と入れ替わる事が出来る! 俺は【ラクエル】をデッキに戻し、【ムルミロ】を守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ムルミロ】 守備力 400

 

 

 

「ここでフィールド魔法・【コロッセウム】の効果!」

 

「!」

 

「【コロッセウム】はデッキからモンスターが召喚される度に、カウンターを乗せる! そしてカウンター1個につき、【剣闘獣(グラディアルビースト)】の攻撃力を100アップする! たった今【ムルミロ】の特殊召喚に成功した事で、まず1つ目だ!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)の檻-コロッセウム】 カウンター × 1

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ムルミロ】 攻撃力 800 → 900

 

 

 

「まだまだァ! 2枚目の伏せ(リバース)カードを発動! 【ハンディキャップマッチ!】 その効果でデッキから、【剣闘獣(グラディアルビースト)エクイテ】を特殊召喚だ!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)エクイテ】 攻撃力 1800

 

 

 

「これにより【コロッセウム】に、2個目のカウンターが乗る!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)の檻-コロッセウム】 カウンター × 2

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ムルミロ】 攻撃力 900 → 1000

 

剣闘獣(グラディアルビースト)エクイテ】 攻撃力 1800 → 2000

 

 

 

「モンスターが2体に増えた……」

 

「これで終わりじゃねぇぞ…! 【ムルミロ】が【剣闘獣(グラディアルビースト)】の効果で特殊召喚された時、フィールド上のモンスター1体を破壊する!」

 

「うげっ! そうなの!?」

 

「消し飛べ! トライホーン・ドラゴン!」

 

 

 

 【ムルミロ】が発射した水流の砲撃が直撃して、【トライホーン・ドラゴン】が早くも消滅する。わざわざ【ラクエル】よりステータスの低い【ムルミロ】を呼んだのはこの為か…!

 

 

 

「ほえー。自分のライフを大幅に削ってまで上級モンスターを呼び出した、セツナくんも凄いけど……」

 

「うん……それを一瞬で破壊した彼……ルイくんの弟も、流石(さすが)ね」

 

「…………」

 

 

 

 ……? 気のせいかな、マキちゃんとアマネの解説を聞いてたルイくんが、うつむいて暗い顔をしたのが目に入った。

 おっと、今は決闘(デュエル)に集中しなきゃ。ボクの場に現在、モンスターは居ない。このまま自陣を(から)にしておくのはマズイ…!

 

 

 

「やるね……なら! ボクは手札から【復活の福音(ふくいん)】を発動! 墓地の【トライホーン】を蘇生させてもらうよ!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「チィッ! しぶてぇ野郎だ……!」

 

「あとはカードを2枚伏せて、っと。これでターン終了(エンド)だよ」

 

「俺のターン!」

 

(……確かに兄貴の言ってた通り、少しはやるみてぇだな……だがこんなもんじゃねぇぜ……! 俺の【剣闘獣(グラディアルビースト)】デッキの真の恐ろしさ、見せてやる!)

 

「魔法発動! 【剣闘訓練所(グラディアルトレーナー)】! デッキから【剣闘獣(グラディアルビースト)アンダル】を手札に加え、そのまま通常召喚する!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)アンダル】 攻撃力 1900 → 2100

 

 

 

 こっちには攻撃力で遥かに(まさ)る【トライホーン】がいるのに、わざわざ下級モンスターをサーチして攻撃表示…? 何か企んでるのかな……

 

 

 

「【剣闘獣(グラディアルビースト)】は決められたモンスターをデッキに戻すことで、【融合】カード無しで融合召喚できる!」

 

「なっ…! 【融合】を使わないで融合!?」

 

「俺は【剣闘獣(グラディアルビースト)アンダル】と、【ムルミロ】、【エクイテ】の3体を融合!!」

 

 

 

 ケイくんの指定したカード3枚がデッキに戻り、ディスクの機能で自動的にシャッフルされると同時に、3体の【剣闘獣(グラディアルビースト)】が渦を巻く様に一体化していく。

 

 

 

彷徨(さまよ)える(いにしえ)の剣闘士の亡霊どもよ。忠義の元に一つとなりて、怒れる『暴君』を呼び覚ませ! 融合召喚!! 来い! 【剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】!!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】 攻撃力 2800

 

 

 

 コウモリを彷彿とさせる、六枚の翼を雄々しくはためかせ、紺色の鎧をその巨躯に纏った獣人が地上に降り立った。

 

 【融合】魔法カードを必要としない融合召喚……! これまでの『融合』の常識を覆す斬新な召喚方法に、ボクは驚きを隠せなかった。

 

 

 

「【コロッセウム】の効果で、攻撃力アップ!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】 攻撃力 2800 → 3000

 

 

 

「ヤバッ、忘れてた……!」

 

「行くぜぇ……バトルだっ! 【ネロキウス】で【トライホーン・ドラゴン】を攻撃! ねじ伏せろ、『ティラニカル・アトロシティ』!!」

 

「! トラップ発……ッ!?」

 

 

 

 伏せておいたリバースカードを(とっ)()に発動しようとしたら、表側表示になる筈のカードの動作が途中で止まってしまった。何、また故障!?

 

 

 

「無駄だぁ! 【ネロキウス】の攻撃に対して、魔法(マジック)(トラップ)は発動できない!」

 

「あっ、そういうことか。故障じゃないみたいなら良かった……って、良くはなぁーーーい!?」

 

 

 

 (トラップ)で防ぐ事も(まま)ならず、【ネロキウス】の殴撃が、【トライホーン】を確実に捉えた。

 

 

 

「おっしゃあっ! 今度こそ【トライホーン】撃破ッ……あ?」

 

 

 

 ……戦闘に負けて墓地に行ったと思われたけど、まだ、トライホーンは破壊されていなかった。

 仕留めたかに見えた敵モンスターが、未だ場に留まり続けている状況に戸惑ったのか、ケイくんは激昂する。

 

 

 

「な、なんで【トライホーン】がまだ生きてやがる!?」

 

「……悪いね。墓地から【復活の福音】を除外して、【トライホーン】の破壊を無効にさせてもらったよ」

 

「!? どういうことだ! ネロキウスの効果で魔法は発動できねぇ筈だ!」

 

「この効果は『発動』ではなく『適用』だから、ネロキウスの効果に関係なく使えたってわけ」

 

(まぁ、ボクのライフは普通に減るけどね……)

 

 

 

 セツナ LP 2000 → 1850

 

 

 

「上手い事するわね、セツナの奴」

 

「くそっ、往生際の悪ィ……! 俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

「ボクのターン!」

 

 

 

「あの子すごいね~。セツナくん相手に圧してるよ~」

 

「……ケイちゃんは入学したての頃から頭角を表してましたから……今じゃもう、ランクも『B』まで上がってるんです」

 

「えっ! 中等部でもう『ランク・B』!?」

 

 

 

 ルイくんの言葉にマキちゃんは仰天して、アマネは感心した様子で「へぇ~」っと呟いた。

 ランク・Bって言ったら、高等部の生徒であるアマネやマキちゃんと、ほぼ同格の実力という事だ。確かにそれは凄い。

 

 

 

「……高等部に進学しても、未だに最底辺(ランク・E)の僕なんかとは……比べ物にならないくらい凄いんです、ケイちゃんは……」

 

「兄貴ッ!!」

 

「!」

 

 

 

 次第に声を震わせ、目元に涙が潤み始めたルイくんを激励(げきれい)する様に、弟のケイくんが叫んだ。

 

 

 

「兄貴ッ! そんな情けねぇこと言わないでくれよ! 兄貴は弱くなんかねぇ! 俺が保証する!」

 

「ケイちゃん……」

 

「……そうだよ、ルイくん。君は弱くなんかない。ボクもそう思う」

 

(だってルイくんは……)

 

 

 

 ---思い返せば、初めて会った時のルイくんと今のルイくんには、一つだけ決定的な違いがある。ボクも最近気づいた事なんだけどね。

 

 プライベートでも何度も遊ぶくらい仲が良くて、一緒にいる機会が多かったから、よくルイくんはボクの決闘(デュエル)を横で観戦していた。

 

 まだ知り合って間もない頃は、ボクが何かコンボを決めたり勝利したりすると、「すごいですセツナ先輩!」って誉めてくれたりもしたけれど、近頃はそれと同時に、また違った目でボクを見る様になっていた。もちろん良い意味で。

 

 その瞳に宿るのは……『戦意』。

 

 純粋に慕う相手に向けていたルイくんの眼差しは、いつしか、好敵手(ライバル)を見る眼に変わっていた。

 

 

 

(……そんな眼が出来る決闘者(デュエリスト)が、弱いわけがないよ)

 

「行くよ! リバースカード・オープン! 【タイラント・ウィング】!」

 

「!!」

 

 

 

 前のターン、【ネロキウス】の効果に妨害されて使えなかった(トラップ)を、ここで使用する。【トライホーン】の背中に光輝く両翼が生成された。

 

 

 

「トライホーンに装備して、攻撃力を400ポイントアップ!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850 + 400 = 3250

 

 

 

「攻撃力が【ネロキウス】を越えやがった……!」

 

「この子もやられっぱなしは(しゃく)みたいでね。だから、お返しさせてもらうよ! 【トライホーン】で【ネロキウス】を攻撃!」

 

 

 

 爪を構え、咆哮を轟かせながら、今度は【トライホーン】が【ネロキウス】に逆襲する。同じ『暴君』の名を冠する翼を(ひるがえ)して。

 

 

 

「そんな攻撃などぉォォーッ!! 【ネロキウス】を対象に、速攻魔法・【剣闘獣(グラディアルビースト)の底力】を発動ォ! ネロキウスの攻撃力を、さらに500ポイントアップするっ!!」

 

 

 

 ケイくんも負けじと雄叫びを上げて対抗した。ネロキウスが彼の気合いに呼応する様に力を(みなぎ)らせ、自らの攻撃力を上昇させる。

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】 攻撃力 3000 + 500 = 3500

 

 

 

「セツナのドラゴンの攻撃力を、さらに上回った……!」

 

「どうだっ! これで終わりだぁああっ!!」

 

 

 

「…………フフッ」

 

「!?」

 

(な……何を笑ってやがる……!?)

 

「すごいよケイくん、ここまでやるなんて。でもこの勝負は……ボクの勝ちだ! (トラップ)カード発動! 【奇策】!!」

 

(!! 2枚目の(トラップ)……! 【奇策】だと!?)

 

「手札のモンスターカード1枚を墓地に送り、そのモンスターの攻撃力分、対象モンスターの攻撃力を下げる! ボクは【ラビードラゴン】を墓地へ!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】 攻撃力 3500 - 2950 = 550

 

 

 

「ね、ネロキウスの攻撃力が……!」

 

「切り裂け、【トライホーン・ドラゴン】!! 『イービル・ラセレーション』!!」

 

 

 

 悪魔の竜の強靭な爪が、暴君の体躯を容赦なく引き裂く。今まで一方的に攻撃を受けてきたせいで、最高値まで溜まったフラストレーションを、その一撃に全て込めて爆発させた様にも見えた。

 

 

 

「ぐうぅぅぅっ……!!」

 

 

 

 ケイ LP 4000 → 1300

 

 

 

「くっ……だが! ネロキウスは戦闘では破壊されねぇ!」

 

「それで良いんだよ」

 

「なに?」

 

「【タイラント・ウィング】の二つ目の効果! 装備モンスターはもう一度モンスターに攻撃できる!」

 

「も、もう一度って事は……まさか!?」

 

 

 

 トライホーンに装備された翼の光が更に強まった。対して、ネロキウスの武装する頑丈な鎧は、先のトライホーンの攻撃で亀裂が走り、半壊している。

 

 

 

「セツナ先輩……やっぱりすごい……!」

 

(いつもそうだった……先輩は相手がどんなに強敵でも臆さないで、どんなに追い詰められても諦めないで……最後には必ず、相手の上を行く戦術を繰り出して、勝ってきた……! こんなすごい人に僕の全力が……僕の決闘(デュエル)が、どこまで通用するのか……!)

 

「ッ……!」

 

(やってみたい……(たたか)ってみたい……! 先輩と!!)

 

 

 

 ……ルイくんの目が変わった。少し前までの自信喪失した弱気な目じゃない。覚悟を決めた……闘志に満ちた、いい眼をしていた。

 ボクは内心それが嬉しくて、つい笑みを溢した。何だかんだで、ルイくんも立派な決闘者(デュエリスト)なんだよね。

 

 

 

「さぁ、チェックメイトだ! 【トライホーン・ドラゴン】!! 【ネロキウス】に最後の攻撃!」

 

 

 

- イービル・ラセレーション!! -

 

 

 

 相手が弱体化した好機を逃さず、トドメの追撃! ネロキウス自身は破壊されなかったけど、衝撃で砕け散った鎧の残骸がケイくんに降りかかり、超過ダメージとなって彼を襲った。

 

 

 

「うっ……うがああああああああっ!!!」

 

 

 

 ケイ LP 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、完璧に負けちまったぜ……。悔しいが……兄貴が認めるだけあって強ぇな、アンタ」

 

「セツナって呼んでくれると嬉しいな。楽しかったよ、ありがとう」

 

「だが今度は負けねぇからな! 覚えてやがれ!」

 

 

 

 お互いの健闘を称えて、ケイくんと固い握手を交わす。改めて触れると、すごく大きい手なのが分かった。

 

 

 

「さて……」

 

「……!」

 

 

 

 ボクは振り向いて、ルイくんと顔を合わせる。いつものルイくんなら恥ずかしがって視線を逸らしちゃうんだけど、---そこも可愛いんだけど---今は、揺らぐことなく真っ直ぐに、ボクの目を見つめていた。あれ、おかしいな、なんかボクの方が照れてきたぞ?

 

 

 

「答えは出たみたいだね、ルイくん」

 

「……はい……!」

 

 

 

 小さく、でも、しっかりと頷くルイくん。迷いはもう、無いみたいだった。

 

 

 

「僕……参加します! 選抜デュエル大会に……! そこで、セツナ先輩と……闘いたい!!」

 

「……ずっと、その言葉を待ってたよ、ルイくん」

 

 

 

「あ……兄貴ィィィィィッ!!」

 

 

 

 うわっ、ビックリした。ルイくんの決意表明に心打たれたのか、ケイくんは滝のような涙を流して歓喜していた。暑苦しいけど、こういうノリは嫌いじゃない。

 

 ボクは右の拳をルイくんの前に差し出す。ルイくんは数秒間キョトンとしていたけれど、ボクの意図を察したのか慌てて自分も右手を握った。フフフッ、慣れてない仕草が何とも愛くるしい。

 

 

 

「その時は全力で決闘(デュエル)しよう。楽しみにしてるね!」

 

「はい!」

 

 

 

 そうしてボクとルイくんの拳が、コツンと合わさった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、セツナくんが勝ったって事は、ルイちゃんはセツナくんのモノになったって事で良いのかな?」

 

「「 マキちゃん静かに 」」

 

 

 

 





 新年最初の『チェックメイト』!!セツナがルイくんをひたすら愛でる回でした。

 なお、選抜デュエル大会編は、20話から開始する予定です!

 次回はアマネとセツナの絡みをゆるーく書いていこうかなと思っております( *´ω`)
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