遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum - 作:箱庭の猫
コラボ回・後編です!
「ねぇ
大都市ジャルダンの一番街。都会の喧騒から離れた場所に佇む、寂れた廃工場を見上げながら、ボクは黒髪の女性に確認する様に問いかけた。
横に立って並んだ時に気づいたんだけど、この人、男のボクより背が高いんだよね。ちょっと悔しい。
「あぁ間違いない。この場所に精霊の気配を確かに感じる」
「俺達が街に放った精霊が、ここに奴が潜伏しているのを見つけ出してくれたからな。ようやく追い詰めたぜ」
刈り上げた短髪が精悍な印象を与える、ナイスガイのゴウさんが、
「……すごいや。精霊回収者って、そんなことも出来るんだね」
里香ちゃんとゴウさんは『精霊回収者』と呼ばれる人達で、デュエルモンスターズの精霊と、心を通わせる事が出来るらしい。その能力を駆使して精霊達に協力を仰ぎ、ボクらが追っているミイラ男……即ち、連続失踪事件の犯人の居どころを、突き止めたというわけだ。
「よし……行こう、二人とも。ここから先は何が起きるか分からない。用心してくれ」
「おう」
「うん」
「……セツナ、君をこんな危険に巻き込んでしまって、すまないと思ってる。あの時、もう少し早く駆けつける事が出来たなら……!」
あの時……ボクがミイラ男、もとい『カードの精霊』に襲われて、魂の半分を吸収されてしまった時の事を言ってるんだろう。里香ちゃんはそれに責任を感じているのか、握り締めた拳を震わせていた。
ボクは微笑んで、そんな彼女の背中を優しく叩く。
「ここに来てそんな水くさいこと言わないでよ里香ちゃん。言ったでしょ? 力になるって」
「セツナ……」
「それに……あのミイラ男を放っておくと、次はボクの大切な友達まで狙われるかも知れない。それだけは絶対に嫌なんだ」
「どうやら、腹は決まったみたいだな」
ゴウさんの言葉にボクは頷き、ホワイトタイプのデュエルディスクを左腕に装着する。これで戦う準備は整った。
「つーわけだ、里香よ。お前が変に気負う必要はねぇ。本人は見ての通り、やる気満々だぜ?」
「……そうか。ありがとう、セツナ。君の力、借り受ける!」
意を決してボク達3人は、工場の内部へと足を踏み入れた。
……打ち捨てられてから、どれだけの年月が経ったのだろう。街の開発から取り残された廃工場は、いつ倒壊してもおかしくない程に老朽化していた。
「何も……ない?」
「いや、気配はこの場所からは消えていな……」
『フフフフ……! ネズミがノコノコと
「「「!!」」」
どこからか響いた、男の不気味な声。聞き間違える筈もない……あいつだ!
『しかも
「ッ……! それって、ボクのこと?」
「どこだ!! コソコソと隠れてないで出てこい!!」
里香ちゃんが声を張る。すると何の前触れも無く、虚空に電流が発生して周囲に火花を散らした。そして、その激しい雷電の中から、黒い
「出やがった……!」
『フフフッ、待っていたぞ、忌まわしき精霊回収者ども』
「待っていた? どういう意味だ!」
「こういう意味よ、里香」
「!?」
錆び付いた鉄骨階段を、ヒールの足音を鳴らしながら一段ずつ降りてきたのは、髪と瞳が緑色で、里香ちゃんに負けず劣らずの美貌を誇る少女だった。
「なっ……! お前は……
「ハァ~イ。お久しぶりね、マイスイートエンジェル」
「その気色悪い呼び方はやめろ、何故ここに?」
「何故? 決まっているでしょう? 全ては
「美少女コレクション?」
「セツナは気にしなくていい」
「私はどうしたら貴女を私のモノに出来るのか、ずっと考えていた……そしたらこの精霊が『契約』してくれたわ。
「-! なん……だと……」
「この街は良いわね、どこもかしこも
「俺達はまんまと誘い込まれたってわけか……!」
「バカな事を……『悪霊』と契約するなど……それがどれほど危険な事か、分かっているのか!?」
「悪霊?」
「そういやセツナには説明してなかったな。奴の様に、人間や他の精霊に危害を加える精霊を、俺達は『悪霊』って呼んでるのさ」
悪い精霊だから悪霊か、なるほど。
「あら、悪霊もなかなか役に立つものよ? こんな極上の獲物が手に入ったんだから」
西野 万里と呼ばれた少女が指をパチンと鳴らした。すると──
「!?」
天井から、鎖で拘束された女の子が何人も吊るされてきた。みんな意識を失っているのか反応が無い。着ている服は、デュエルアカデミア・ジャルダン校の制服だった。という事は……
「失踪事件の被害に遭った学園の生徒って、あの子達のことだったんだ……!」
「ウフフ、ジャルダンのデュエルアカデミアは美少女の宝庫だと聞いてたけど本当ね。よりどりみどりだわ~」
「このガチレズが」
「そんな顔しないで里香、すぐに貴女も仲間に入れてあげるわ。さぁ悪霊よ! 奴らを蹴散らしなさい!!」
『私に命令するな人間。言われるまでもない』
ミイラ男がコートを脱ぎ捨て、包帯を取り去り、ついに正体を現した。
「!」
その姿には見覚えがあった。スキンヘッドでスコープにガスマスク。このモンスターは、まさか……!
「サイコ・ショッカー!?」
『フフフッ、いかにも。私の名は……【
「よりにもよって、こんな厄介なモンスターが相手とはな……!」
『さぁ
「ッ……ここは私が行く!」
「ちょっと待って!」
先んじてデュエルディスクを構えた里香ちゃんを止め、ボクは彼女の隣に立つ。
「サイコ・ショッカー。この
『なに?』
「ライフポイントは二人合わせて4000。フィールドも共有する。これなら文句ないでしょう?」
『……良いだろう。二人まとめて、我が復活の糧にしてくれる!』
「セツナ……」
「サポートは任せて、里香ちゃん」
「あぁ! 私達の力で、奴を粉砕する!」
「「『
セツナ ×
サイコ・ショッカー
『私の先攻!』
サイコ・ショッカーの前面に、5枚のカードが
『私は【人造人間7号】を召喚!』
【人造人間7号】 攻撃力 500
『カードを3枚伏せ、ターンを終了する!』
ターンがボクに移る。
「ボクのターン、ドロー!」
「セツナ、これはカードの精霊と魂を賭けた、いわば『闇のゲーム』だ。気を抜くなよ」
「分かってるよ、ゴウさん」
この
こんなの、ボクのキャラじゃないんだけどな……
(でも……なんでだろ。こんな時にボクは……)
「……なぁ、セツナ。私の勘違いだったら非常に申し訳ないが……もしかして、この状況を楽しんでないか?」
「あっ、バレた?」
「やっぱりか……顔がニヤけてたからな」
あちゃー、
「……そりゃあ別に余裕こいてるわけじゃないよ、でも……ずっと伝説上の生き物だと思ってた『カードの精霊』を生で見れて、しかも
「セツナ……」
「ははっ、おもしれぇ奴だ。チャラい
「……フッ、そうだな。それでこそ頼り甲斐がある」
ボクは赤メガネを外して集中モードに突入する。絶対に負けるわけには行かないからね、最初から全力全開だ!
「さぁ行くよ! ボクは手札から
【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500
「そして【ミンゲイドラゴン】を通常召喚!」
【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 200
『2体のモンスターを揃えたか……』
「これで終わりじゃないよ。
『!』
「フィールドの2体のドラゴンをリリースして、現れろ! 【ラビードラゴン】!!」
白い体毛と長い耳を持つ巨大なドラゴンがフィールドに飛来した。
【ラビードラゴン】 攻撃力 2950
『ほう?』
「凄い……これがセツナのエースモンスターか……!」
「こんな序盤から呼び出せるとは、里香の見立て通り、ただ者じゃねぇぜ」
「てへへ」
里香ちゃんとゴウさんの感嘆の言葉を受けて、ボクはつい頬が緩むのを感じた。いかんいかん気を引き締めなくては。メガネ外した意味がない。
「行くよ! 【ラビードラゴン】の攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」
ラビードラゴンが口から放った光線が敵モンスターに迫る。
──その時、サイコ・ショッカーが動いた。
『【人造人間7号】をリリースし、【死のデッキ破壊ウイルス】を発動!』
「なっ!?」
『相手フィールドと手札にある、攻撃力1500以上のモンスターを全て破壊する!』
ラビードラゴンの身体がウイルスに侵食されていき、最後は粉々に破壊されてしまった……!
「ラビードラゴン!?」
『フフフッ、せっかく召喚したのに残念だったな。さぁ、手札を確認させてもらおうか』
「くっ……」
やむを得ず、手札を公開する。
今のボクの手札は、【トレード・イン】、【ガード・ブロック】、【ラヴァ・ドラゴン】の3枚。
『フフッ、【ラヴァ・ドラゴン】は攻撃力1600。墓地に捨ててもらおう』
「ッ……」
『【死のデッキ破壊ウイルス】の効果により、貴様はデッキから攻撃力1500以上のモンスターを、3枚まで破壊できる。どうする?』
「…………」
墓地にモンスターを送っておけば、回収する手はいくらでもある。ここは……
「ボクはこの3枚を墓地に送るよ」
デッキの中から【暗黒の
「……カードを1枚セットして、ボクはターン
言わずもがな、この伏せカードは
お次は里香ちゃんのターン。
「私のターン、ドロー!」
「里香ちゃん! ボクのカード、遠慮なく使って!」
「ありがたく使わせてもらう! 墓地の【ミンゲイドラゴン】の効果! 私達の場にモンスターがいない事で、スタンバイフェイズに墓地から特殊召喚できる!」
ボクのディスクの
【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 200
「そして【ミンゲイドラゴン】は、ドラゴン族をアドバンス召喚する場合、2体分のリリース要員として扱える。【ミンゲイドラゴン】をリリース!」
【ミンゲイドラゴン】が光の渦に飲み込まれる。来るか、里香ちゃんのエースモンスター!
「現れろ! 雄々しくも美しく輝く
右の眼には赤、左の眼には
【オッドアイズ・ドラゴン】 攻撃力 2500
『精霊……!』
「そうだ! このドラゴンこそ私の精霊! かけがえのない、家族だ!」
デュエルモンスターズが家族かぁ。確かに【オッドアイズ】と里香ちゃんの間には、固く結ばれた強い『絆』を感じる。
「バトル! 【オッドアイズ】でサイコ・ショッカーに
『
「!?」
二つの筒が空中に出現し、その内の一つ、こちらから見て左側の筒に、【オッドアイズ】の放った
『【オッドアイズ】の攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを貴様に与える!』
「里香ちゃん危ない!!」
「っ……! 手札から速攻魔法・【
4枚の板が付いた鉄製のリングが里香ちゃんの前で回転を始め、反射された炎を受け止めて里香ちゃんを守ってくれた。
「ふう……なんとか
『私のターン!』
「……なかなかやるじゃねぇか、あの悪霊……里香とセツナの二人がかりをものともしてねぇ」
「フフン、当然よ。より精霊力の強い悪霊を選んで呼び覚ましたんですもの」
『ドロー! ……フフフフッ! ついに我が復活の時が来たようだな!!』
「!」
「まさか……!」
『私は【人造人間-サイコ・ジャッカー】を召喚!』
【人造人間-サイコ・ジャッカー】 攻撃力 800
『そして効果発動! このモンスターをリリースする事で、デッキから【人造人間】と名のつくモンスターを1枚、手札に加える事が出来る! 私は【サイコ・ショッカー】を手札に!』
「アレは、サイコ・ショッカー自身のカード!?」
「セツナ、気をつけろ……!」
『【サイコ・ジャッカー】の効果はまだある。相手の場に伏せられている
「なっ!?」
ボクが前のターンにセットしておいた、1枚の
『フフフッ、やはり【ガード・ブロック】を伏せていたか。それこそ私の狙い通り!』
「っ! どういうこと……?」
『この効果で確認したカードの中に
「「!!」」
しまった、よかれと思って
【サイコ・ショッカー】のカードが表になった途端、そのカードから再び電流が発生して辺り一面に放電する。眩しくてまともに目が開けられない。
『出でよ! 【人造人間-サイコ・ショッカー】!!』
今までプレイヤーとして立っていたサイコ・ショッカーが、今度はフィールドに……モンスターカードゾーンに姿を現していた。
【人造人間-サイコ・ショッカー】 攻撃力 2400
『フフフフフ……』
「ついに【サイコ・ショッカー】が……復活した……!?」
「いや……まだ私達の魂は吸収されていない。つまり完全な復活ではない」
『その通り! 貴様らの魂を取り込む事で、私の復活は完了する! 効果発動、トラップ・サーチ!!』
サイコ・ショッカーの目元に付いているスコープから赤いレーザーが射出され、セット状態に戻っていた【ガード・ブロック】のカードに命中した。すると【ガード・ブロック】は発動できなくなってしまう。
『残念だったな。この私、【サイコ・ショッカー】が場にいる限り、全ての
「くっ……だがそれはお前も同じ事だ! それに、私の【オッドアイズ】の方が攻撃力は高い!」
『それはどうかな? 私は手札から【電脳増幅器】を、私自身に装備!』
ヘルメットみたいな形状の機械がサイコ・ショッカーの頭部に装着された。
『これにより、私は【サイコ・ショッカー】の効果に影響されず、
ボクらだけが
『
里香ちゃんの手札は4枚。って事は、800ポイントアップか。
『おおおオオオオッ……! 我が力の増幅を感じるゥゥッ……!!』
【人造人間-サイコ・ショッカー】 攻撃力 2400 + 800 = 3200 守備力 1500 + 800 = 2300
「攻撃力が【オッドアイズ】を越えてきたか……!」
『バトルだ! 私自身で【オッドアイズ・ドラゴン】を攻撃!
サイコ・ショッカーの掌から撃ち出された球状のエネルギー弾が、【オッドアイズ】をいとも容易く粉砕した。
「【オッドアイズ】!! うあっ!」
「うぅ……!」
凄まじい衝撃波……! サイコ・ショッカーが発動した【死のデッキ破壊ウイルス】の効果で、このターンはボク達にダメージは無いけれど、それでもここまでの威力だなんて、これ直撃したらヤバいんじゃない……!?
『ターン終了! エンドフェイズに私の
【人造人間-サイコ・ショッカー】 攻撃力 3200 → 2400 守備力 2300 → 1500
「っ……ボクのターン、ドロー!」
【サイコ・ショッカー】……
ひとたび召喚に成功すれば、それだけで場を制圧できる程の力を持つ凶悪なモンスター。ボクが過去に
なんて、懐かしんでる場合じゃないや。現状あのモンスターを
「ボクは……1枚カードを伏せて、ターンエンド!」
『フッ、モンスターも呼べないとはな』
「ごめん、里香ちゃん」
「気にするなセツナ、私に任せろ! 私のターン!」
(……よし、これなら!)
「
『なに!? そのカードは!?』
「発動!」
魔力を込めた矢がサイコ・ショッカーに装備されている【電脳増幅器】に突き刺さり、破砕した。
『ぐっ、ぐああああああっ!!!?』
「この効果で
「しめた! 【電脳増幅器】がフィールドを離れれば、
サイコ・ショッカーは断末魔の叫び声を上げながら、瞬く間に消滅した。
「やったか?」
「里香ちゃん、それフラグ」
『まだだぁ……! 私は
「きゃあ!? な、なによこれ! 何をするのサイコ・ショッカー!?」
「西野!?」
サイコ・ショッカーの声が聴こえたと思ったら、後ろで観戦していた緑髪の少女に異変が起きた。彼女の身体を霊魂の様なものが取り巻いていたんだ。
「あの悪霊まさか、あの女に取り憑いて……!?」
ゴウさんが言った。精霊って人間に憑依できるの!?
少女──万理ちゃんで良いかな──万理ちゃんは、為す術もなくサイコ・ショッカーに精神を乗っ取られて、一度ガクンと
「フッ……フフフフ……さぁ、
西野(サイコ・ショッカー) LP 4000 → 3500
「……完全に悪霊に憑かれたか……西野のバカ。だから言ったんだ」
「里香ちゃん、アレって何とか出来ないの?」
「恐らく……悪霊の復活が不完全な今なら、まだ救い出せる可能性はある」
「つまり、この
「そういうこと。感謝しろよ西野、ひとつ貸しだ!」
まさか事件の主犯格まで助ける事になるとは。
「私のターン、ドロー! 【命削りの宝札】を発動! さらに3枚ドローする!」
(……フフフッ)
「私はカードを3枚伏せてターンエンドだ!」
また3枚の伏せカードか。ようやく反撃の
「ボクのターン! ……よし! 【フェアリー・ドラゴン】召喚!」
【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 1100
「伏せカードは怖いけど、ここは攻める! 【フェアリー・ドラゴン】で
「永続
「ッ!」
【フェアリー・ドラゴン】の攻撃は止まらない。そのまま万理ちゃんにダメージを与えた。
「ぐっ……!」
西野(サイコ・ショッカー) LP 3500 → 2400
「この瞬間、【デスカウンター】の効果が発動! 【フェアリー・ドラゴン】を破壊する!」
「!」
【デスカウンター】のカードから発射された光線に撃ち抜かれて、【フェアリー・ドラゴン】は消し飛んでしまう。
「っ……【フェアリー・ドラゴン】……!」
「やはり一筋縄ではいかないか。私のターン、ドロー!」
(……
「私はカードを1枚伏せて終了だ!」
「ならば私のターン! 手札から【マジック・プランター】を発動! 【デスカウンター】を墓地へ送り、カードを2枚ドロー! さらに罠カード・【貪欲な
万理ちゃんの墓地から【人造人間-サイコ・ショッカー】、【人造人間-サイコ・ジャッカー】、【死のデッキ破壊ウイルス】、【
「そして私は【人造人間-サイコ・リターナー】を召喚!」
【人造人間-サイコ・リターナー】 攻撃力 600
「今度はこちらの
小柄な人造人間が、体格に見合ったサイズのエネルギー弾を撃ち放つ。
「させないよ!
今の今まで【サイコ・ショッカー】のせいで使えなかった防御札を、ようやく発動できる。これで──
「かかったな! それを待っていた!」
「!?」
「
「機械族で闇属性でレベル6って、まさか……!?」
「そうだ、私が呼び出すのは当然──」
【人造人間-サイコ・ショッカー】 攻撃力 2400
「また出たか……【サイコ・ショッカー】……!」
里香ちゃんが忌々しげに呟く。最初に【貪欲な瓶】で【サイコ・ショッカー】をデッキに戻したのはこの為か。それにしても、サイコ・ショッカーが場に出たのに万理ちゃんが正気に戻らないって事は、
「【サイコ・ショッカー】の効果により、
「しまった……!」
【ガード・ブロック】が無効となり、里香ちゃんが伏せてくれていた【レインボー・ライフ】も使用できなくなった。そして
「うぐっ……!」
「里香ちゃん!?」
セツナ × 里香 LP 4000 → 3400
「だ、大丈夫だ、これくらい…… ──ッ!?」
「! ぼ、ボク達の身体が!?」
ライフポイントが減った途端、ボクの身体の一部が綺麗さっぱり消失してしまった。里香ちゃんも同様だ。
「フフフッ、ライフポイントは600マイナス。その600ポイント分の肉体が、私の復活の為の生け贄となったのだよ」
「……っ……ライフが
そんな死に方は、死んでも御免こうむる。
「まだ私の攻撃は残っている!
-
敵の標的は、またもや里香ちゃんだ。ボクは考えるより先に、身体が動き出していた。
「ッ!!」
「セツナ!?」
里香ちゃんの前に立ち、両腕をこれでもかと言うくらいに広げて、彼女の盾となる。相当なダメージを食らう事を覚悟して、歯を食い縛った。
そのまま【サイコ・ショッカー】が放ったエネルギー弾が、ボクに直撃する──
「里香!!」
──寸前、ボクの視界に、別の人影が飛び込んできた。横から現れた人影の正体は──ゴウさんだった。彼はボクと同じ様に両手を目一杯に広げ、次の瞬間、サイコ・ショッカーの攻撃を、その大きな背中で受け止めた。
「ぐあぁぁあっ!!」
「ゴウ!!」
「ゴウさん!?」
苦悶の表情を浮かべつつも決して倒れず、上級モンスターの悪霊の一撃を、一身で受けきったゴウさん。攻撃が止むと、ボクは慌ててゴウさんの身体を抱き止めて支えた。
「ゴウさん大丈夫!? しっかりして!」
「がはっ! ……へっ、心配すんな……精霊回収者ってのは、精霊力に対してある程度……耐性があるもんだ……!」
「だからって悪霊の攻撃を生身で受ける奴があるか! 全く無茶をして……」
「里香、その言葉は、うぐっ……! セツナの方に言ってやってくれねぇか?」
「もういい喋るな……安静にしてろ」
瀕死のゴウさんを床に寝かせた後、里香ちゃんは立ち上がって万理ちゃんに視線を向けた。正確には、万理ちゃんの中に宿っているサイコ・ショッカーを見ているのだろう。その眼には怒りが感じられた。
「よくも私の相棒を傷つけてくれたな……貴様は絶対に許さない!!」
「ふん。闘いの
「「っ……!!」」
セツナ × 里香 LP 3400 → 1000
ゴウさんがボク達を守ってくれたおかげで実際にダメージを受ける事は無かったけれど、二人で共有しているライフが一気に減少したのは事実。もうすでに里香ちゃんとボクの身体は、大部分が
「フフフフッ! 貴様らに更なる絶望を与えてやろう! 【サイコ・ショッカー】を墓地へ送る!」
「!」
「見るがいい! これぞ我が最強の進化形態! 【人造人間-サイコ・ロード】!!」
【人造人間-サイコ・ロード】 攻撃力 2600
新たに召喚されたのは、まさに【サイコ・ショッカー】の進化形と言うべき異様の存在だった。6本のコードらしき物が背中から伸びていて、
「この土壇場で、またとんでもないのを出してくれたね……」
「怯むなセツナ。どうにか私のターンまで繋げてくれ。後は私がやる」
「里香ちゃん……」
「……分かったよ。ボクのターン! ドロー!」
引いたカードを見て、ボクは微笑んだ。
「きっと来てくれると思ってたよ! 手札から【トレード・イン】を発動! 手札の【トライホーン・ドラゴン】を墓地に送って、カードを2枚ドロー! ……魔法カード発動、【黙する死者】! 墓地の【ラビードラゴン】を、守備表示で蘇生!」
【ラビードラゴン】 守備力 2900
「守備力2900か……壁モンスターを立てて時間を稼ぐつもりか?」
(だが無駄な事だ。【サイコ・リターナー】は
「カードを1枚伏せて、ターンエンド。──
「あぁ! 私のターン、ドロー!」
(……来たか……!)
「魔法発動! 【禁じられた聖杯】! モンスター1体の攻撃力を400ポイントアップし、効果を無効にする! 対象は【サイコ・ロード】!」
「ぬうっ!?」
【人造人間-サイコ・ロード】 攻撃力 2600 + 400 = 3000
「これで、
「うん!
「なに!?」
【オッドアイズ・ドラゴン】 攻撃力 2500
「おのれ……【ラビードラゴン】を蘇生させたのはこいつを呼び出す為か……だが! 攻撃力では【サイコ・ロード】に遠く及ばん! わざわざ貴様が強化してくれたからなぁ! フハハハッ!」
「それはどうかな?」
「……なんだと?」
ここでボクは、1枚の伏せカードを発動する。それは、最初に【サイコ・ショッカー】を召喚された次のターンから、ボクがずっと伏せていた
「リバースカード・オープン! 【燃える闘志】!!」
「!?」
「この
【オッドアイズ・ドラゴン】が、その身に紅蓮の炎を纏い、闘争心を燃え上がらせる。
「バトル! 【オッドアイズ】で【サイコ・ロード】を攻撃!」
「はっ、攻撃だと? 精霊回収者と言えど、所詮は愚かな人間か! 返り討ちにしろ【サイコ・ロード】!」
-
前身である【サイコ・ショッカー】の技よりも、格段に威力の増した高圧エネルギーの塊が、【オッドアイズ】に向けて放たれる。 ──しかし里香ちゃんは不敵に笑った。
「【燃える闘志】の効果! 相手フィールドに元々の攻撃力よりも高い攻撃力のモンスターが存在する時、ダメージステップの間、装備モンスターの攻撃力を倍にする!」
「なっ……ま、まさか!」
「そう、【サイコ・ロード】は【禁じられた聖杯】の効果で、攻撃力が上がっている。よって【オッドアイズ】の攻撃力は倍!」
【オッドアイズ・ドラゴン】 攻撃力 2500 → 5000
「攻撃力……5000だと!?」
「今、目を覚まさせてやるぞ西野! 行け! 【オッドアイズ・ドラゴン】!! その二色の眼で、捉えた全てを焼き払え!!」
- スパイラル・フレイム!! -
二色の眼を光らせ、【オッドアイズ】は渦巻く炎を口から放つ。迫り来るエネルギー弾を貫き、かき消して、炎は【サイコ・ロード】を跡形も無く粉砕した。
「うおおおおおっ!?」
西野(サイコ・ショッカー) LP 2400 → 400
「【オッドアイズ】が戦闘でモンスターを破壊した時、元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える! 『リアクション・フォース』!!」
追撃にしてトドメの一撃を受け、万理ちゃんの身体が吹き飛ばされる。
「うぐあああああああっ!!!!」
西野(サイコ・ショッカー) LP 0
「私達の勝利だ!!」
「やった! 勝った!」
「へへっ、やりやがった……さすがだぜ、二人とも」
「これで悪霊に奪われた人々の魂も解放されて、消えた住民達も戻ってくる筈だ」
「ほっ……良かった」
里香ちゃんの言葉にボクが胸を撫で下ろして安堵していると、里香ちゃんは床に落ちていた1枚のカードを拾い上げた。
「それ……【サイコ・ショッカー】のカード?」
「……回収、完了」
カードの精霊か……タッグで挑んでも手こずる程の強敵だったけど、なんだかんだで振り返ってみれば、楽しい
「さて……とりあえず、あの子達を下ろしてあげなくちゃ。いつまでもあのままじゃ、かわいそうだし」
「そうだな」
「ふう……セツナ、この子で最後だ」
「ありがとう里香ちゃん。みんな怪我は無いみたいだね」
全員を助け出して命に別状はない事も確認した。これで一安心だね。後はセキュリティに連絡すれば何とかしてくれるでしょう。
ちなみに万理ちゃんはどうしたかと言うと、里香ちゃんがふん縛って床に転がしてあります。
「にしても……あの女が言ってた通り、ジャルダンの女学生ってのは上玉が揃ってんなぁ。起きた子から順にナンパしてやりたいぜ」
「今日くらいは控えろ、フェミニスト」
あ、ゴウさんってそういうキャラなの?
「冗談だって。おし、セキュリティには俺から連絡しとく。まぁ事情聴取とかメンドクセーから、俺達はトンズラするけどな」
「そっか。じゃあボクも帰……あ……あれ?」
立ち上がって歩き出そうとしたら、急に身体の力が抜けて尻餅を突いてしまった。
「ど、どうしたセツナ!? 大丈夫か!」
里香ちゃんが心配そうに駆け寄ってくれる。次の瞬間、ぐぅ~っと、腹の虫が盛大に鳴った。
「…………お腹が空いて力が入らない……」
「……」
「……」
そう言えば今日の昼から何も食べてないんだった。緊急事態でそれどころじゃなかったのと、
「……フッ、セツナ。腹が減るって事は、君の魂が肉体に帰ってきた証拠だ」
「……あははっ、なら良かった」
「やっぱり面白い奴だな、お前は」
ボク達3人は、くたびれた様子で笑い合った。
セキュリティが廃工場に到着して、軟禁されていた女の子達を救出していくのを、ボク達は離れた場所で見守っていた。たぶん今ごろ万理ちゃんは逮捕されてるのかな。今回の大騒動の引き金となった張本人だからね。
何にせよ今夜からは枕を高くして眠れそうだ。
「やれやれ、やっと終わったな。行こうぜ、里香」
「……あぁ」
二人とも、もう行っちゃうみたいだ。悪霊を回収し終えて事件を解決したから、
「里香ちゃん、ゴウさん。本当にありがとう。二人のおかげで街は救われたし、ボクも死なずに済んだよ」
「こちらこそ感謝するよセツナ。君の協力が無ければ、きっと勝てなかった」
「短い間だったけど、一緒に
きっと、もう会えないかも知れない。
「あぁ……さよな──」
「オーーーホホホホホッ!!」
「「「!!!?」」」
誰だこのちょっと感動的な別れのシーンのムードを邪魔する、甲高い笑い声の主は!?
「あっ……! 西野!?」
「ウフフ、また会ったわね。マイスイートエンジェル!」
「だからその不愉快な呼び方はやめろー!」
「あの女、あんな目に遭ってまだ懲りてねぇのか」
「ていうか、どうやってあの縄を抜けたの?」
「里香。今回は不覚を取ったけれど、次こそは貴女を私色に染めてアゲル。じゃ~ね~~~!」
万理ちゃんは里香ちゃんに投げキッスをぶつけて、忍者の様な軽やかな身のこなしで退散していった。さっきまで悪霊の操り人形にされてたのに元気な人だね。
「里香ちゃん、なかなか熱心なファンがついてるね」
「違う。アレは粘着質なストーカーだ」
ため息をついて肩を落とす里香ちゃん。ほんと、さっきまでの空気がぶち壊しだ。……まぁでも、しんみりするのは好みじゃなかったから、むしろ感謝するべきかな?
「じゃあ改めて……
「……フフッ、そうだな。また会おう、セツナ」
「次はお前と
「うん!」
二人は爽やかな笑顔を残して立ち去っていく。
さぁ、ボクも帰ろっか。ボクらの街へ!
──ジャルダンの街を恐怖と混乱に陥れた連続失踪事件は、こうして幕を閉じた。
翌日のニュースによると、廃工場で保護されたアカデミアの生徒達を初め、今までに被害に遭った行方不明者が次々と発見され、無事に家族との再会を果たしたらしい。
犯人は最後まで見つからなかったみたいだけど、それ以降、新たな被害者は出ておらず、数日後には事件は完全に風化していった。
まぁ犯行が突然ピタリと止んだのは、その犯人が
全ての真相を知っているのは、ボクと、二人の
──また会おう、セツナ。
「うん。……きっと、また会えるよね」
長らくお待たせしてしまいました! コラボ編、これにて完結です!!
yunnnさん、改めてコラボのお誘いありがとうございました!!