遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 ハーメルンに夜間モードがある事を、今さっき知りました(歓喜)



TURN - 26 Serpent's Bite

 

 選抜デュエル大会・予選2回戦。

 

 N-ブロックにてアマネが元・十傑(じっけつ)(わし)()を打ち破った頃──M-ブロックでは、()(づき) マキノが苦戦を()いられていた。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 マキノ LP(ライフポイント) 600

 

 

 

「フフン、アタイの実力、思い知ったかい?」

 

 

 

 蛇喰(じゃばみ) LP(ライフポイント) 3300

 

 

 

 マキノと相まみえているのは、明るく鮮やかな赤紫色の髪を腰まで伸ばした女生徒。

 女性としては長身でスタイルも良く、制服越しでも出るところはしっかり出ている(すぐ)れたプロポーションの持ち主。シャツのボタンを胸元まで大胆に開けているので、魅惑的な谷間が強調されている。

 キツめながら端整な面差しから受ける印象に(たが)わず、気が強く男勝りでサバサバした性格をしているのが見受けられた。

 

 

 

「うん、思い知った。さっすが次期十傑候補の一人……ジャバミン!」

 

「だからその変なアダ名はやめなっつってんだろい!! 蛇喰(じゃばみ)! 蛇喰 紫苑(アザミ)だよ!」

 

 

 

 口調も容姿も大人びているが、マキノと同い年である。

 

 

 

「え~? ジャバミン可愛いじゃんジャバミン」

 

「えぇい! だったらこうしようか! この決闘(デュエル)にアタイが勝ったら、二度とその名で呼ぶんじゃないよ!」

 

「むぅ~、それを言われちゃうと……」

 

決闘(デュエル)の上での約束は死んでも守る! それが決闘者(デュエリスト)(じん)()ってモンさね!」

 

「まっ、いいよー。要は勝てば良いんでしょ?」

 

「ライフがギリギリのくせして、ずいぶんと余裕じゃないのさ。だがこれでも吠え面かけるかい!! 魔法(マジック)カード・【スネーク・レイン】! 手札を1枚捨てて、デッキから爬虫類(はちゅうるい)族を4枚、墓地に送る」

 

「わざわざデッキのモンスターを減らした……?」

 

「今からアタイの真打ちを見せてやんよ──フィールドの【ナーガ】と、墓地の爬虫類族を全て除外し! 【邪龍(じゃりゅう)アナンタ】を特殊召喚!!」

 

「!」

 

 

 

 フィールドに、七つの頭を持つ巨大な(ヘビ)の魔物が現れる。

 真ん中の頭部だけは龍の姿をしており、その威容は見る者全てを(おのの)かせた。

 

 

 

【邪龍アナンタ】 攻撃力 ?

 

 

 

「わっ! なんかすごいの出てきた!」

 

「【邪龍アナンタ】の攻撃力・守備力は、除外した爬虫類族の数 × 600ポイントとなる。アタイが除外したのは全部で8体。よって【アナンタ】の攻撃力は──」

 

 

 

【邪龍アナンタ】 攻撃力 ? → 4800

 

 

 

「4800!?」

 

「これで仕舞いだよ! 【アナンタ】! 【アーク・マキナ】を喰っちまいなっ!!」

 

 

 

 七つ首の一本が(あぎ)()を開き、機械仕掛けの悪魔を丸飲みにするべく襲いかかる。

 

 

 

()(シン)アーク・マキナ】 攻撃力 100

 

 

 

「そう簡単にやられるもんか! 永続(トラップ)発動! 【強制終了】!」

 

「!」

 

「【アーク・マキナ】を墓地に送って、バトルフェイズを終了するよ!」

 

 

 

 【アーク・マキナ】が消え去り、捕食対象を失った大蛇(だいじゃ)の牙は何もない(くう)()む。

 

 

 

「ほう、しぶといねぇ。ならこいつはどうだい! 永続魔法・【黒蛇病(こくじゃびょう)】!」

 

「!?」

 

「【黒蛇病】はアタイのスタンバイフェイズ毎に、互いのライフに200のダメージを与える。しかもこのダメージは2回目以降、どんどん倍になっていくのさ!」

 

「っ……てことは……」

 

「もうアンタに猶予は残されてないって事さね!」

 

「……はは……ちょっとヤバイかも」

 

「さらにエンドフェイズに【アナンタ】の効果発動! フィールドのカード1枚を破壊する! 【強制終了】を破壊!」

 

「うっ!」

 

 

 

 厄介な防御(ふだ)は手早く処理。次期十傑候補に選ばれるだけあって、無駄の無い周到なプレイングだ。

 

 

 

「ターン終了(エンド)だ。いよいよ年貢の納め時ってヤツだね!」

 

 

 

 これでマキノの場は、モンスターも伏せカードも無い完全なガラ空き状態。しかも手札はたったの1枚。

 一方、蛇喰は手札こそ(ゼロ)だが、場には最強クラスの攻撃力を得た上級モンスター・【邪龍アナンタ】と、毎ターン互いのライフを削る永続魔法・【黒蛇病】を揃え磐石の態勢。

 ジリジリとマキノを崖っぷちに追い詰めていた。

 

 

 

「まだ勝負はこれからだよ! あたしのターン、ドロー!」

 

(──! …………)

 

「…………ターンエンド」

 

 

 

 ポツリと落ち込んだ声で小さく紡がれた終了の宣言。

 何のアクションも起こさなかった。いや、起こせなかったのか。

 両腕を力なく下げ、目を閉じて(うな)()れているマキノの姿は、普段の天真爛漫な彼女からは想像もつかない。

 劣勢を打開できるカードを引き当てられず、戦意喪失してしまったのであろう事は、蛇喰はもちろん観客達にも(よう)()に見て取れた。

 

 

 

「……恥じる事はないさ。アンタはここまでよく(たたか)った。時には(いさぎよ)く諦めるのも、また美徳さね」

 

「……」

 

「アタイのターン! そぉら、【黒蛇病】が身体を(むしば)むよ」

 

「うぅ……っ!」

 

 

 

 マキノ LP 600 → 400

 

 蛇喰 LP 3300 → 3100

 

 

 

「安心しな、今楽にしてあげるよ!」

 

 

 

 蛇喰の双眸(そうぼう)が見開かれ、眼光が獲物を捉えた蛇の様にギラつく。

 

 

 

「【アナンタ】でダイレクトアタック!!」

 

 

 

 襲い来る邪龍。喰われれば言うまでもなくオーバーキルは必至。

 しかしマキノは瞑目(めいもく)を維持し、()(じろ)ぎひとつしない。覚悟を決めたのか。はたまた蛇に(にら)まれた(カエル)のごとく、恐怖で動けないのか。

 いずれにせよ、伏せ(リバース)カードすらセットしていないマキノには、もはや(あらが)(すべ)などない。せめて1枚でも伏せておけばブラフにもなっただろうが時すでに遅しだ。

 

 この決闘(デュエル)はもう終わった。観客の誰もがそう悟った。

 

 大蛇は眼前の無抵抗な少女を格好の餌と見定め、容赦なく鋭い牙を剥く。観戦していた他の女子生徒の中には、(むご)たらしい光景が広がるのを予感してか、反射的に顔を逸らす者も数名いた。

 すでに勝利を確信し、蛇喰の口元は薄く笑んでいる。そのまま【アナンタ】の牙がマキノを()(じき)に──

 

 

 

 ──する、筈だった。

 

 

 

「な~んちゃって♡」

 

 

 

 悪戯(いたずら)っぽく舌を出し、ピースをして、ウィンクまで決めるマキノ。

 小悪魔を思わせるその(ちゃ)()()たっぷりな振る舞いは、明らかに邪龍に捕食されるのを、ただ静かに待っていた哀れな餌のものではなかった。

 

 

 

「手札から【速攻のかかし】を捨てて、効果発動!」

 

「!?」

 

 

 

 突如、両手に木の棒を握った()()()の形をした機械が飛び出し、マキノを(かば)う様に【アナンタ】の前に立ちはだかる。

 

 

 

「ダイレクトアタックを無効にして、またまたバトルを強制終了だよ!」

 

 

 

 【アナンタ】はプレイヤーの盾となった【速攻のかかし】を粉々に噛み砕いて破壊したが、肝心のマキノは取り逃がす結果となり、口惜しそうに首を引っ込めた。

 

 

 

「へへーん、あたしを食べようだなんて十年早いぞ☆ バイバ~イ!」

 

「チィッ! 本当にしぶとい……!」

 

(マズイね……このままターンを終わらせちまうと、【アナンタ】の効果でアタイのカードを破壊する羽目になっちまう。【黒蛇病】は残しといた方が良いしな……仕方ない!)

 

「アタイはカードを1枚伏せる。そしてエンドフェイズ。【アナンタ】の効果で、この伏せカードを破壊する」

 

 

 

 伏せられた(トラップ)カード・【ダメージ(イコール)レプトル】が、即座に破壊される。

 【邪龍アナンタ】のカード除去効果は、必ず発動する強制効果。(ゆえ)に今回の様に、状況次第では自分のカードを破壊しなければならなくなるという欠点がある。

 

 

 

「あたしのターンだね」

 

「今更どうしようってんだい? アンタのターンが終われば、アタイのターンで【黒蛇病】のダメージが2倍になって、どの道アンタのライフは尽きるんだよ」

 

 

 

 そう、マキノの残りライフは400。【黒蛇病】が次に与えるダメージもピッタリ400。

 このターン中に【黒蛇病】を退(しりぞ)けでもしない限り、間違いなくマキノに次のターンは無いのだ。

 運よくそれを対処できたとしても、今度は【邪龍アナンタ】の攻撃が待ち構えている。壁モンスターを出せなければ、結局は敗北を()けられない。

 

 詰まるところ、ただ1ターン延命しただけに過ぎず、戦況は依然として絶望的。

 

 だがマキノは……──それでも笑う。

 

 

 

(アマネたんやセツナくんなら、絶対に諦めないよね……だったら、あたしだって負けてらんない!)

 

「行くよ! ──ドローッ!!」

 

「……! まさかまだ勝つ気でいるってのかい? 不可能だよそんな事は!」

 

「……あたしにも、まだツキがあるみたいだよ」

 

「!」

 

「デッキの上から10枚を裏側表示で除外して、【強欲で貪欲な壺】を発動! カードを2枚ドロー!」

 

「この土壇場でドロー増強かい! 大した引きじゃないのさ……!」

 

 

 

 新たに引いた2枚のカードを確認した途端、ニカッと歯を見せてマキノは笑った。

 

 

 

「この決闘(デュエル)……あたしの勝ちだよジャバミン!」

 

「なにィ!?」

 

魔法(マジック)カード・【死者蘇生】! 墓地の【スロットマシーン】を復活!」

 

 

 

 コイン作動式の賭博用ゲーム機型ロボットがフィールドに帰還し、再起動を果たす。

 

 

 

【スロットマシーンAM(エーエム)(セブン)】 攻撃力 2000

 

 

 

「装備カード・【重力砲(グラヴィティ・ブラスター)】を【スロットマシーン】に装備! このカードは1ターンに一度、装備モンスターの攻撃力を400アップできる!」

 

 

 

【スロットマシーンAM-7】 攻撃力 2000 + 400 = 2400

 

 

 

「たかが2400が何だって言うのさ。【アナンタ(こっち)】は倍の4800だよ!」

 

「チッチッチ、甘いよジャバミン。【重力砲(グラヴィティ・ブラスター)】を装備したモンスターがバトルする時、相手モンスターの効果は無効になる!」

 

「なっ──!?」

 

 

 

 装備カードによってグレードアップした【スロットマシーン】の右腕部分の大砲が、【アナンタ】に照準を合わせる。

 

 

 

「つまり! 効果が無効化された【アナンタ】の攻撃力は──(ゼロ)!」

 

 

 

【邪龍アナンタ】 攻撃力 4800 → 0

 

 

 

「バカな!?」

 

 

 

 【アナンタ】の様に元々の攻撃力、及び守備力が決まっていない──『?』と表記されている──モンスターは、自らの効果でその能力値を調整する。

 すなわち()()の無効化は、モンスター自身の無力化と同義。

 

 

 

「いっけーっ!! 【スロットマシーン】で【アナンタ】を攻撃! 『プラズマ・レーザー・グラヴィティ・ブラスト』!!」

 

 

 

 砲口から、強力な重力波を伴った高圧電力の塊が射出された。

 

 

 

「くそっ……!」

 

(止められない……! だが【アナンタ】が破壊されても、アタイのライフはまだ残る! このターンさえ凌げば【黒蛇病】の効果で──)

 

「手札から【リミッター解除】を発動!」

 

「!?」

 

 

 

【スロットマシーンAM-7】 攻撃力 2400 → 4800

 

 

 

「こ、攻撃力、4800だって!?」

 

「【アナンタ】と同じ攻撃力で、お返しだよ!!」

 

 

 

 機体の安全装置を解除した事で、【スロットマシーン】の撃ち放ったレーザー砲の出力は最大となり、威力が倍増する。

 ……が、やはり反動もまた大きく、掛かる負荷に耐え切れず砲身に()(れつ)が走っていた。

 

 それは限界(リミット)を越えたパワーを発揮できる代わりに、代償としてターン終了時に自爆してしまう、(まさ)に片道切符の特攻。

 

 自らの命と引き換えに放たれた光線は邪龍の七股に分かれた(けい)()穿(うが)ち、バラバラに粉砕した。

 

 

 

「くっ……うあああああっ!!」

 

 

 

 蛇喰 LP 0

 

 

 

「やったー!! 逆転勝利ーッ!!」

 

 

 

 軽快に飛び跳ね、くるくると身体を回転させ、勝利の喜びを全身で表現するマキノ。ライフをギリギリまで削られてからの一発逆転。決闘者(デュエリスト)にとって、これほど気持ちの良い勝ち方もない。

 

 

 

「……チィッ! アタイも焼きが回ったね」

 

 

 

 悔しげに歯噛みしつつも、蛇喰は勝者に歩み寄り、そっと手を差し出す。

 

 

 

「あそこから引っくり返すたぁ、やるじゃないか。完敗だよ」

 

「ありがとう。良い決闘(デュエル)だったね、ジャバミン!」

 

「……フッ、負けちまったもんは仕方ない。好きに呼ぶが良いさね」

 

 

 

 マキノは(こころよ)く蛇喰の手を取り、固い握手で互いの健闘を称え合った。

 ……そして、その手が()かれた次の瞬間──

 

 

 

「た・だ・しっ!」

 

「むぎゅうっ!?」

 

 

 

 蛇喰がマキノの頭に腕を回して、強引に抱き寄せた。彼女の豊満な胸がマキノの顔に押し当てられる。

 

 

 

「むぐぐぐ……くるちぃ……!」

 

「フフフッ、アタイに勝ったんだ。次でコケたりしたら承知しないよ?」

 

「むっ! 負けにゃいもーん!」

 

(本選でアマネたんと決着つけるまではねっ!!)

 

 

 

 観月 マキノ・予選2回戦──突破!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セツナ、アマネ、マキノの3回戦進出を皮切りに──

 

 各会場の2回戦の試合プログラムは着々と進行していった。

 

 

 

 第5決闘(デュエル)フィールド──E-ブロック・2試合目。

 

 

 

「──【(おう)()ワンフー】でダイレクトアターック!!」

 

「うわぁーっ!?」

 

「ニハハハーッ! オイラの勝ちー!」

 

 

 

 十傑・虎丸(とらまる) ()(すけ)・予選2回戦──突破!!

 

 

 

 第8決闘(デュエル)フィールド──H-ブロック・2試合目。

 

 

 

「覚悟はよろしくて?」

 

「うぅ……!」

 

「バトル! 【スパウン・アリゲーター】で、【ゴブリン突撃部隊】を攻撃!」

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 2200

 

【ゴブリン突撃部隊】 守備力 0

 

 

 

「【ライオ・アリゲーター】の効果で、貫通ダメージを受けてもらいますわ!」

 

 

 

- スピニング・イート!! -

 

 

 

「どわぁあーっ!!」

 

「お嬢様の圧勝だ!」

 

「さすがは鰐塚(わにづか)お嬢様!!」

 

「フフッ、口ほどにもなくてよ」

 

(セツナさんは必ず本選まで勝ち上がってきますわ。そこであの時の再戦を……そして、ワタクシが勝った(あかつき)には、こ、ここ、告白──)

 

「はうぅっ!?」

 

「……おい広瀬、お嬢様がまたいつもの発作を……」

 

「あぁ……突然赤面なされたかと思えば、あの様に取り乱し始めてしまわれている……一体どうなさったと言うのか……」

 

 

 

 十傑・鰐塚(わにづか) ミサキ・予選2回戦──突破!!

 

 

 

 第2決闘(デュエル)フィールド──B-ブロック・2試合目。

 

 

 

「撃ち殺せ──【リボルバー・ドラゴン】!!」

 

 

 

- ガン・キャノン・ショット!! -

 

 

 

「ぐあああああっ!?」

 

「つ、強ぇ……圧倒的……!」

 

「これが学園最強……九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)……!」

 

「一時は例の転入生に負けて失墜も危ぶまれたが……実力で権威を取り戻したな……!」

 

 

 

「……ケッ、他愛もねぇ」

 

(今年が最後の大会だ……今度こそ鷹山(ヨウザン) (カナメ)を、この手で倒す!! ついでに俺に土を付けやがった、あの忌々(いまいま)しいクソガキもな!)

 

 

 

 十傑・九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)・予選2回戦──突破!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして続く3試合目──

 

 

 

「……そろそろ時間ね。ンフッ、楽しみだわ」

 

 

 

 C-ブロック会場・第3決闘(デュエル)フィールドにて、新たな十傑の一角が動き出そうとしていた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっほーセツナだよ。なんだか久しぶりだね。

 

 ボクは今、ルイくんとケイくんと一緒に第3決闘(デュエル)フィールドに向かっているところだよ。

 これからそこで、ボクとアマネのクラスメートのコータの試合が始まるんだ。せっかくだから応援しに行こうと思ってね。

 

 ちなみにさっきまではB-ブロックの九頭竜くんの決闘(デュエル)を観てたんだ。会場が近かったからさ。数ヶ月ぶりに顔を見た気がするけど、相変わらず強かったね、彼。そして相変わらずのイケメンだったね。

 

 

 

「…………ん? アレって、コータ?」

 

 

 

 お目当ての会場に到着すると、入場口の前で何やら立ち尽くしている黄色の髪の男子生徒を発見した。コータだ。どうしたんだろう?

 

 

 

「ヤベーよ……ヤベーよヤベーよ……!」

 

 

 

 ……まるで某リアクション芸人みたいに「ヤベーよヤベーよ」と繰り返してる。とりあえず声をかけてみよう。

 

 

 

「何がヤバいの?」

 

「どうおわぁっ!? な、なななんだ総角(アゲマキ)か!! おお(おど)かすんじゃねーよっ!!」

 

「いやそんなに驚くかってこっちもビックリしたよ。どうしたの?」

 

「へっ!? やや、べ、別に何でもねーぜ!? 次の相手が十傑だからビビってるとか、そんな事は断じてねぇぜ!?」

 

「……あー、うん。なんかもういろいろ(わか)っちゃったよ」

 

「ッスね」

 

「ですね……」

 

 

 

 コータは嘘がヘタっと。んで、運悪く十傑に当たってしまって、緊張とプレッシャーでガクブル状態というわけか。

 ボクは彼の肩にポンッと手を置いて微笑みかける。

 

 

 

「大丈夫だよ、コータの強さはボクが一番よく知ってる。自信もって」

 

「俺お前に負けっぱなしだけどな」

 

「なんならハグしてあげよっか? リラックスできるおまじない」

 

「やめろ気色(ワリ)ィッ!!」

 

 

 

 さぁボクの胸に飛び込んでおいでと言わんばかりに両腕を広げたのに全力で拒否られた。ルイくんなら喜んで抱き着いてくるんだけどな。ちょっとショック。

 

 

 

「セツナの(あに)さん、さっきから逆効果ですぜ」

 

「ごめんごめん。それで? 相手は十傑の何て人?」

 

「……蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()。イロモノ揃いの十傑ん中でも、特にぶっ飛んだ奴だ……!」

 

「あら、アタシの名を呼んだかしら?」

 

「!」

 

 

 

 ()()()()()が聴こえ、振り返ると……そこには長身(そう)()()()()が立っていた。

 

 やや長めな紺色(こんいろ)の髪。くっきり二重(ふたえ)(まつ)()の長い切れ長の眼。その中に浮かぶ濃紺(のうこん)(ひとみ)。鼻筋も通っていて肌も白い。同じ男ながら、綺麗な人だなぁと素直に思った。

 

 ──そう、男なのだ。どこからどう見ても男なのだ。着ている制服だって男子のそれだし。

 なんだけど…………

 

 

 

「あらあら、どうしたのよ、皆して固まっちゃって。()()()の美しさに()()れちゃったのかしら? ま、突然こんな()()に声をかけられちゃ、無理もないわね」

 

 

 

 喋り口調がモロに女性なんだ。もしや、これが俗に言う、オカマ!? オネエ系というやつか!?

 

 

 

「な、なんであんたがここに……!」

 

 

 

 コータが戸惑いを隠せない様子で問いかける。

 

 

 

「変な質問ね。今からここで試合するんだから当然でしょう? 見たところ、アナタが対戦相手みたいね。ランク・Cなんかが相手じゃ正直あんまり(たぎ)らないけれど……可愛がってあげる」

 

(~~~~~ッ!!!?)

 

 

 

 ……きっと今コータ、服の下は凄い鳥肌なんだろうな。

 

 

 

「そ・れ・よ・り」

 

「っ!」

 

 

 

 こ、今度はこっちに近づいてきた!? この手の人種に偏見は無いけど何故だか警戒してしまう……

 

 

 

「アナタが噂のセツナちゃんね?」

 

「セ、セツナちゃん? うん、そうだけど……」

 

「ビックリ~、こんな子があのキョーゴちゃんを倒しちゃうなんて。アナタって有名人よ」

 

「ちょ、顔が近い……!」

 

(キョーゴちゃん? あぁ九頭竜くんか……)

 

「にしても……ふぅん? 近くで見ると、けっこう童顔で可愛いわねぇ。……タイプよ♡」

 

「ギョッ!」

 

 

 

 ゾゾゾゾーっと背筋に(さむ)()が走った。数秒前のコータの気持ちが痛い程よく分かったよ。

 

 

 

「アタシの事は気軽に『ヨウカちゃん』って呼んで。本選でアナタと会えるのを楽しみにしているわ。じゃあね、セツナちゃん」

 

 

 

 去り際にウィンクを送って、彼女……ではなく、彼は、入場口の奥へ優雅な足取りで消えていった。なるほど、確かにぶっ飛んだ人だった。

 

 

 

「驚いた……本当にいるんだね、あぁいう()()って」

 

(あに)さん、完璧に目ぇつけられちまいましたね」

 

「怖いこと言わないでよケイくん」

 

 

 

「っ……ちっくしょう、あのオカマ野郎……! 俺なんか眼中にねえってか!」

 

 

 

 壁を殴り、(あなど)られた悔しさをぶつけるコータ。

 

 

 

「あわわ、お、落ち着いてくださいぃ……」

 

「そうですぜ川陽(せんよう)センパイ! 当たってても始まらねぇ!」

 

「けどよぉ……!」

 

「──何してるのよ皆? そんなとこで(たむろ)して」

 

「おー、アマネにマキちゃん」

 

「やっほー!」

 

 

 

 次にやって来たのは、お馴染み仲良し美少女コンビだ。二人とも無事に勝ち進んだらしい。

 

 

 

「アマ──あ、いや、黒雲さん!?」

 

「ボクが呼んだの。一緒にコータを応援しようって」

 

「そういう事。頑張ってね、川陽くん」

 

「……ッ!!」

 

(アマネさんが……俺を応援してくれてるうううううううっ!!!!)

 

「やります!! 俺! 絶対に勝ってみせますよ!! どおりゃあぁぁぁぁっ!! 待ってやがれオカマ野郎ォオオオオオッ!!!」

 

 

 

 コータは急に元気になったかと思うと、叫びながら会場内へと全速力で突っ走っていった。凄まじい切り替えの早さだね、ボクも見習おう。

 

 

 

「アマネたんがやる気スイッチ押したおかげで、すごい気合いだね~」

 

「何の話?」

 

「まぁ何はともあれ元気になったみたいで良かった。ボク達も観客席に行こっか」

 

 

 

 





 マキちゃん小悪魔全開!!

 男勝りな姉御肌と、男の身体に生まれた乙女が同時に登場する、ある意味濃い(?)回になりました(笑)

 そして名前だけはやたら出てた九頭竜くんも、久々にちょこっと再登場でした!
 虎丸くんや鰐塚ちゃんも相変わらずでしたね、なんだか懐かしい気持ちです(*´∀`)

 次回はコータ vs オネエ! デュエルスタンバイ!
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