遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 ギリッギリ年内に間に合ったぞおおおおっ!!(大晦日)

 モタモタしてる間にVRAINSも終わってしまいましたが、来年から始まる新シリーズの『遊戯王SEVENS』が今から楽しみです! 主人公かわいい!!



TURN - 36 Good Luck

 

『センター・アリーナにお集まりの紳士淑女の諸君!! 選抜デュエル大会・本選──アリーナ・カップは楽しんでくれてるかっ!! いよいよお待ちかね、第3試合が、はーじまーるぞぉーーーッ!!』

 

 

 

 選抜デュエル大会・本選──『アリーナ・カップ』会場──センター・アリーナ。

 

 まだまだ疲れを見せないMC担当・マック伊東の、よく通る力強い声がマイク越しに鳴り渡り、オーディエンスを全力で(あお)り立てる。観客達も負けじと歓声を轟かせ、会場内の熱気は天井知らずに高まっていく。

 

 そんなお祭り騒ぎの()(なか)、学園の生徒限定で用意された客席の端に座る一人の女子生徒が、携帯端末を片手に顔を(しか)めていた。

 

 

 

「…………遅い! どこで道草食ってんのよセツナのヤツ! もう試合も始まるってのに!」

 

 

 

 この大会の出場者でもある、黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)だ。友人の総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)がトイレに行くと言って席を外したきり、かれこれ20分以上も戻ってこない事に業を煮やしていた。

 

 

 

「メッセージも電話も反応ないし!」

 

「腹でも(くだ)したんすかね?」

 

「ちょ、ちょっとケイちゃん!」

 

 

 

 アマネの前列の席に座っている男子生徒・(いち)()() ケイの発言を(とが)める様に、兄であるルイが弟の名を呼ぶ。

 

 

 

「だとしても電話も出ないってのは変だよね~?」

 

 

 

 そう口にしたのはアマネの隣で座席の(ひじ)掛けに頬杖(ほおづえ)をついている少女・()(づき) マキノだ。

 

 セツナは次の試合も観戦すると確かに言っていた。だと言うのに何の音沙汰も無いまま帰ってこないというのは、アマネ達にとってはどうも()(しん)に思えてならなかった。

 もし気が変わったり都合が悪くなったのなら、必ずその(むね)を連絡してくる筈だ。彼がそういう大事な連絡を(おこた)った事は、今まで一度もなかった(たまに寝坊はするが)。

 そう考えるからこそ、(みな)マキノの言葉にも説得力を感じていた。

 

 

 

「な……何かあったんですかね?」

 

 

 

 ルイが不安げに呟く。よほどセツナの安否を心配しているのか微かに声が震えていた。

 

 

 

「心配し過ぎだぜ兄貴! セツナの兄さんなら大丈夫だって!」

 

「う、うん、そうだよね。でも……」

 

「……私、セツナを探してくる」

 

 

 

 言うが早いかアマネは席を立つ。

 

 

 

「あたしも付き添うよー」

 

「あ、じゃあ僕も……」

 

「ううん、ルイくんとケイくんはここにいて。もしかしたら後でセツナがひょっこり戻ってくるかも知れないし」

 

「えっ、でも……」

 

「そういう事でしたら(あね)さん、俺と兄貴で行きやすよ。姉さん(がた)は選手なんですから、ライバルの試合は観といた方が良いんじゃ……」

 

「そのライバルに何かあったのかも知れないのに、ジッとなんかしてられないわ」

 

「まっ、セツナくんの事はお姉さん達にまっかせーなさいっ!」

 

「……分かりやした、気をつけてくだせぇよ」

 

「もし先輩が戻ってきたら連絡します」

 

「うん、お願い。じゃ、行ってくるわね」

 

「またね~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで時間は、アマネとマキノがセツナの捜索を開始する、その数分前まで(さかのぼ)る。

 

 この時、(くだん)のセツナ本人はと言うと、所謂(いわゆる)ピンチに直面していた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 金沢(かなざわ)くんに思い切り突き飛ばされ、ボクは背中を壁に打ち付けた。けっこう痛い。

 

 

 

「てめぇよぉ、マジで調子乗ってんじゃねーぞ、あ?」

 

 

 

 ドスを効かせた声で凄む金沢くん。すぐ側には彼といつもつるんでいる厚村くん、小森くん、平林くんの3人が、ボクを囲む様にして立っているので、逃げ道は無い。

 

 ボクは完全に袋のネズミというわけだ。平静を装ってはいるけれど、内心では正直、かなり困り果てていた。

 

 

 

(ツイてないな……まさかこんな目に遭うなんて)

 

 

 

 つい10分ほど前、トイレからセンター・アリーナの観客席に戻ろうとしたボクは、途中で運悪く彼らに捕まり、そのまま会場の外へ強制的に連れ出されてしまった。

 

 それも……わざわざこんな(ひと)()の無いところに。まぁ、()()()()()をするなら目立たない場所の方がやりやすいからなんだろうけど。

 

 ……何だか懐かしいな。ボクがアカデミアに転入した初日の朝、通学路でルイくんと初めて会った時も、似た様な状況だった。

 

 さて、どうやってこの窮地を切り抜けよう。残念ながらボクはケンカの腕はからっきし。4対1の殴り合いじゃ、万に一つも勝ち目は無い。

 

 

 

「いつもいつも女(はべ)らせてイチャつきやがってよぉ、ウザってぇんだよ」

 

「別にイチャついてるつもりはないんだけどね」

 

「舐めた口聞いてんじゃねーぞゴラァ!!」

 

 

 

 金沢くんがボクの胸ぐらを掴み上げる。

 

 

 

「わわっ、ちょ、暴力反対!」

 

「るっせーよ! 俺はなぁ、前からてめぇのそのスカした態度が気に食わなかったんだよ!」

 

「……だったらこんな乱暴な真似しないで、決闘者(デュエリスト)なら決闘(デュエル)で挑んできなよ」

 

「あぁ?」

 

「それとも……一度負けたボクに勝つ自信が無い?」

 

「……!!」

 

 

 

 我ながら分かりやすい挑発だと思う。でも肉弾戦──俗に言う、リアルファイト──が不得手なボクに残された打開策は、やっぱりどう考えても()()しかなかった。

 そもそも揉め事は全部決闘(デュエル)で解決するのがこの街の暗黙の了解だし。

 

 金沢くんだって不良である前にデュエルアカデミアの生徒だし、何よりデュエルが支配する街(ジャルダン)決闘者(デュエリスト)だ。この誘いには乗ってくる筈……!

 

 

 

「……へっ、良いぜ。やってやろうじゃねぇか」

 

 

 

 おぉ、ほら、やっぱり。何だかんだ言っても金沢くんも筋金入りの決闘者(デュエリスト)──

 

 

 

「なんて──なッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 いきなり服を引っ張られたと思ったら、ガラ空きの鳩尾(みぞおち)に、(ひざ)()りを叩き込まれた。

 

 

 

「うっ……かはっ!」

 

 

 

 横隔膜(おうかくまく)を突き抜ける重い衝撃に一瞬、息が止まった。立っていられなくなって地面にうずくまり、何度も咳き込みながら耐え難い痛みに悶え苦しむ。

 

 そんなボクを見下ろして4人はゲラゲラ笑うけれど、苦痛のあまり気にする余裕も無い。

 

 

 

「ギャッハッハッ! いい気味だぜ!」

 

「おいケンちゃん、顔とか目立つとこは狙うなよ?」

 

「そーそー、(あと)残ったらメンドーじゃん?」

 

「こいつには()()()()()(けん)してもらうんだからな」

 

(っ……?)

 

 

 

 今、小森くん、なんて言ったの……? ボクが棄権って……

 

 

 

「分かってらぁ。おら、こっち向けよ」

 

「くっ!」

 

 

 

 呼吸困難に陥り悶絶しているボクの髪を、金沢くんが(わし)(づか)みして引っ張り上げる。

 頭だけ無理やり上向きにさせられ、しゃがんでこちらを見下ろしている金沢くんと目が合った。

 

 

 

(あぁもう……せっかく気合い入れて髪セットしたのに)

 

「くくくっ、ひでぇ顔だぜ。ざまぁねぇなぁ、期待のダークホース様よぉ?」

 

「っ……良いの……? こんな、事して……ボクが学園側に告げ口したら……一発でアウトだよ?」

 

「はぁ? ──ギャッハッハッハッ!! てめぇホントに自分の立場が分かってねぇんだな?」

 

「……?」

 

「おうオメーら、始めんぞ」

 

 

 

 その金沢くんの言葉を待ってましたとばかりに、他の3人がニタリと()んで一斉にボクに襲い掛かってきた。

 

 

 

「うわっ!?」

 

 

 

 抵抗する暇も無く身体を(あお)()けに倒され、ボクは地面に大の字になる。

 

 

 

「おら、暴れんじゃねぇよ」

 

「何す──むぐっ!?」

 

 

 

 厚村くんの大きい手で口を塞がれる。両腕は厚村くんと平林くんに抑えつけられて動かせなくなった。体重もしっかり掛けられてるし、ボクの腕力ではどう()()いても振り(ほど)けそうにない。

 

 

 

「俺らが口封じしねぇと思ったかよ」

 

 

 

 金沢くんがそう言って立ち上がり、ポケットから端末を取り出したのを見て、ボクは猛烈に嫌な予感がした。

 

 

 

「くくくっ、今日からてめぇは俺らの()(れい)になんだよ」

 

(な、何するつもり……)

 

「お~っし、撮影準備完了~。いつでも良いぞ」

 

「おう」

 

 

 

 金沢くんの口振りからして、端末のカメラモードを起動してボクに向けているのは明らかだ。

 

 

 

「へへっ、そんじゃ大人しくしてろよ~」

 

「──っ!?」

 

 

 

 直後、一人だけ手の空いていた小森くんが、いきなりボクのズボンのベルトに手をかけて外し始めた。

 ゾッと()(すじ)()(かん)が走る。

 

 

 

(ちょ、それは本気でシャレになんないって……!!)

 

 

 

 もうさすがにここまで来たら、これから何をされるのか、彼らが何を企んでるのかなんて、嫌でも想像がつく。

 さっき小森くんが言ってた『棄権』がどうこうってのも、ボクを(おど)してアリーナ・カップを辞退する様に仕向ける腹なんだろう。

 

 

 

「ん"んーっ!!」

 

 

 

 何にせよこのままじゃマズイ! ボクは両足をバタつかせて必死に抵抗する。

 

 

 

「いって! このヤロ、暴れんなっつの!」

 

 

 

 こんな状態じゃ自力での脱出は無理だ。どうにかして助けを呼ばなくちゃ……!

 

 

 

「おい! 大人しくしねぇと一ノ瀬も同じ目に遭わせんぞ!」

 

「!?」

 

(っ……ダメだ、ルイくんや他のみんなまで巻き込むわけには……!)

 

「……っ」

 

「ははっ、友達想いだねぇ。そうそう、良い子にしてりゃあすぐに終わっからよぉ、へへへっ」

 

 

 

 再び小森くんの手でベルトがカチャカチャと音を立てて緩められ、ついに完全に外されてしまう。

 

 

 

総角(アゲマキ)ィ……お前ホント可愛いなァ……こいつでお前を世界の人気者にしてやるぜ!」

 

 

 

 金沢くん何わけの分からないこと言ってるの……!?

 

 

 

「さぁ~て、楽しい楽しい撮影会の始まりだぜー!」

 

 

 

 いよいよ小森くんはボクのズボンのウエスト部分に両手を掛ける。

 このまま彼らの良い様にされるしかないのか……! ボクは目をギュッと強く(つむ)って、身体を(こわ)()らせる事しかできなかった。

 

 そしてそのまま勢いよくズボンがずり下ろされ──

 

 

 

「ぐぎゃっ!?」

 

 

 

 ……? 何? 今の声……

 ボクがうっすら目を開いた瞬間、状況は一変した。

 

 

 

「あ? ──!? なっ、て、てめぇは……ぶべらっ!?」

 

 

 

 今まさにボクのズボンを脱がそうとした小森くんが後ろへ振り向いた途端、その顔面に誰かが蹴りを入れて彼を吹っ飛ばしたのが見えた。

 

 事態が全く飲み込めないけど、とりあえず視線を上方に移す。そこでボクの双眸(そうぼう)は驚愕で見開かれた。

 

 

 

「キサマら……神聖なアカデミアの地で何をやっている?」

 

 

 

 炎を思わせる()(れん)の髪に、こちらを射抜く様に見下ろす鋭い赤眼(せきがん)

 見間違える筈もない……彼はボクが選抜試験の予選で闘った相手──

 

 

 

豪炎(ごうえん)()……くん……?)

 

「お、お前は!? 次期十傑(じっけつ)候補の……!」

 

「ご……豪炎寺 龍牙(りゅうが)!?」

 

「ぐっ……おい何ボサッとしてんだてめぇら! とっととそいつをぶちのめせ!!」

 

 

 

 予想だにしなかったであろう人物の乱入に厚村くんと平林くんが狼狽(うろた)えていると、何故か地面に倒れていた金沢くんが起き上がり、二人に指示を出した。

 

 どうやらボクが目を閉じていた一瞬の間に、豪炎寺くんが金沢くんを襲撃したらしい。あの「ぐぎゃっ」って声はその時のものだろう。

 

 

 

「お、おうっ!」

 

「てめぇ舐めてんじゃねーぞっ!!」

 

 

 

 二人がボクを解放して豪炎寺くんに殴りかかる。何だか知らないけど助かった。今の内にボクも起きよう。

 

 

 

「っらぁ!!」

 

 

 

 先に厚村くんが殴りつけようとする。けれども、

 

 

 

「ふん……」

 

 

 

 豪炎寺くんはそれをいとも簡単に(かわ)して──

 

 

 

(のろ)いわっ!!」

 

「っ!? ごっ、はぁ……!」

 

 

 

 無防備となったボディにカウンターパンチを打ち込んだ。モロに入ったのか巨体の厚村くんがワンパンでノックアウトされる。

 つ、強い……! 素人目にも相当ケンカ慣れしているのが(わか)る、無駄な動きの無い身のこなしだ。

 

 

 

「死ねやぁ!!」

 

「──! 危ないっ!」

 

 

 

 ボクはとっさに声を上げた。平林くんが豪炎寺くんの背後から飛びかかるのが見えたからだ。

 

 

 

「馬鹿め」

 

「もがっ!?」

 

 

 

 ところが豪炎寺くんはとっくに気づいていたらしく、当たり前みたいに平林くんの顔を片手で鷲掴みして奇襲を阻止した。

 

 

 

「不意討ちならもう少し気配を消すんだな」

 

「ひっ……!」

 

 

 

 そのまま近くの壁に平林くんの頭を容赦なく思いっ切り叩きつけた。うわ、痛そう。すごい音したよ今。

 

 

 

「おげっ……!」

 

 

 

 豪炎寺くんが手を離すと、平林くんの身体はズルズルと力なく崩れ落ちていった。白目を剥いてるけど気絶してるだけみたいだ。良かった生きてた。

 壁は今の一撃で大きく陥没(かんぼつ)してしまい、深い穴ぼこが衝撃の強さを物語っている。これ下手したら死んでるって。

 

 ボクは立ち上がっていそいそとベルトを締め直す。小森くんを一瞥(いちべつ)すると、グラサンが無惨に粉砕していて、鼻血を出しながら伸びていた。あらら、こっちもダメそうだ。

 

 

 

「豪炎寺くん……どうしてここに?」

 

「会場の中でキサマがこいつらと一緒にいるのを見かけただけだ。妙だと思って後を()けてみれば案の定だったな。全くこの程度の連中に手も足も出ないとは情けない」

 

「うっ、手厳しい……ケンカは苦手なんだよ」

 

「さて……残るはキサマか」

 

「なっ……なっ……!」

 

「安心しろ、キサマは決闘(デュエル)(ほうむ)ってやる。この俺が直々(じきじき)にな」

 

 

 

 豪炎寺くんは左腕に、自身の髪とお揃いの真紅に塗られたデュエルディスクを装着した。

 

 

 

「どうした、かかって来るがいい。俺を口止めする最後のチャンスだぞ?」

 

「くっ……クソッタレがぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 セツナの危機に現れた豪炎寺が金沢と決闘(デュエル)を開始した頃──

 

 センター・アリーナ内でも、新たな闘いの幕が上がろうとしていた。

 

 

 

『さぁ選手入場だっ! この学園に、延いてはこのジャルダンの街に、この男の名を知らぬ決闘者(デュエリスト)がいるだろうか!? そう! その男こそ! ()の学園〝最凶〟・鷹山(ヨウザン) (カナメ)唯一(ゆいいつ)匹敵する、もうひとつの学園〝最強〟!! IQ(アイキュー)200の頭脳と天性の決闘(デュエル)センスを兼ね備えた、まさに百年に一人の天才──九頭竜(くずりゅう)! 響吾(キョウゴ)だぁーーーッ!!』

 

 

 

 大手のプロリーグと遜色ない規模を誇るドームの、中心部を占める大舞台。

 そこに立つ、紫色の髪と瞳に褐色の肌が特徴的な、180センチは優に超えた長身の青年を、大歓声が歓迎する。

 

 制服はだらしなく着崩し、ネクタイを巻いてすらおらず、スラックスのポケットに両手を突っ込んでいる(たたず)まいは(はた)から見れば悪印象であり、外見だけで判断するなら、およそ善良な生徒とは思えない。

 

 彼こそが実況の紹介にあった通り、ジャルダンの生ける伝説・鷹山 要と双璧(そうへき)を成す希代の逸材(いつざい)

 

 〝最凶〟に並ぶ〝最強〟──九頭竜 響吾である。

 

 顔立ちは本人の言わずと知れた凶暴性を可視化させた様な強面(こわもて)だが、しかしパーツの一つ一つが高い水準で構成され、美しく整っている。

 その(いか)めしい風貌ながら端整なルックスが大画面のモニターにクローズアップされると、女子生徒や観客の女性達から黄色い声が沸き上がった。

 (てん)()の才能に加えて容姿まで秀麗(しゅうれい)。もはや『神に選ばれた人間』と言っても過言ではない。

 非の打ち所があるとすれば、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)()とする気性の荒さぐらいか。果たして何人の観衆が『天は()(ぶつ)を与えず』ということわざを、否定したくなった事だろう。

 

 だが……どれほど熱のこもった声援も、九頭竜当人の心には……

 

 ──ただ、(むな)しく響くだけだった。

 

 

 

「……ケッ、くだらねぇ」

 

(どいつもこいつも二言(ふたこと)目には鷹山を引き合いに出しやがって……今に見てやがれ。ジャルダンの頂点は二人もいらねぇって事を、今年こそてめぇらに知らしめてやる!)

 

『そしてその学園最強に対するは! 今年でアリーナ・カップ2年連続出場となる秀才! IQ180の頭脳派決闘者(デュエリスト)()() 和正(かずまさ)ッ!!』

 

「ふん……」

 

 

 

 次に名を呼び上げられたのは深緑色の髪を短く切り揃え、細いフレームのメガネを掛けた痩身(そうしん)の男子生徒。

 制服を一切の乱れもなくきちっと着用しており、時折メガネのブリッジを指先でクイッと押し上げ、位置を調整する仕草と相まって、九頭竜とは正反対の真面目で理知的な雰囲気を(かも)し出している。

 

 

 

「つくづく不愉快な事だ。貴様の様に()(ぼう)な人間が、知能指数ではこの私より(すぐ)れているというのだからな」

 

「あぁ?」

 

「だが決闘(デュエル)における知略では、私は貴様を遥かに凌駕している。この試合でそれを証明してみせよう。──九頭竜 響吾。学園最強の看板は、今日限り下ろしてもらう」

 

 

 

 強気に宣戦布告し、壬生はメガネを再び押し上げた。

 

 

 

「……ハッ、ゴチャゴチャうるせぇな。てめぇなんざ()()から眼中にねぇんだよ。()(たく)並べてる暇があんならとっとと構えろ、すぐに撃ち殺して終わらせてやる」

 

「っ……! 言ってくれるな不良()(ぜい)が。今に後悔させてやろう……その(おご)りが貴様の敗因となるのだ!」

 

『共に明晰な頭脳を持つキレ者同士! この知能戦を制するのは果たしてどちらなのか!? それでは第3試合、イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 4000

 

 壬生 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「私のターン! 私は魔法(マジック)カード・【(しん)()(ほどこ)し】を発動! デッキからカードを3枚引き、手札から【森羅】を含む2枚のカードをデッキの一番上に置く! 私が置くのは1枚目が【森羅の()()り ピース】、2枚目が【森羅の(かげ)(ほう)() ストール】!」

 

「……」

 

「さらに手札からフィールド魔法・【森羅の霊峰(れいほう)】を発動!」

 

 

 

 フィールドの景色が辺り一面に草木の叢生(そうせい)する樹海へと変わり、壬生の背後には日本三霊山の一角を彷彿(ほうふつ)とさせる神々(こうごう)しい高山(こうざん)屹立(きつりつ)する。

 

 

 

『おぉーっと壬生選手、開始早々フィールド魔法を展開! いきなり飛ばしていくぅーっ!』

 

「【森羅の霊峰】の効果! 1ターンに一度、自分のメインフェイズに、手札または自分フィールドの植物族モンスター1体を墓地へ送り、デッキから【森羅】と名のつくカード1枚を選択し、デッキの一番上に置く事ができる! 私は手札の【森羅の隠蜜(おんみつ) スナッフ】を墓地に送り、デッキの中の【森羅の葉心棒(ようじんぼう) ブレイド】を一番上に置く!」

 

(……チマチマとデッキ操作しやがって……何する気だ? 単に欲しいカードを呼び込んでるだけじゃなさそうだが……)

 

「ここで【スナッフ】の効果発動! このカードが手札、フィールドから墓地へ送られた場合、自分のデッキの一番上のカードをめくり、それが植物族だった場合は墓地に送る!」

 

「──! ハッ、なるほどな……そういう事かよ」

 

「ほう……早くも私の狙いに気づいたか。その洞察力は誉めてやろう。私がめくったカードは当然──植物族モンスター・【森羅の葉心棒 ブレイド】! このカードはカード効果でデッキからめくられ、墓地に送られた場合、手札に加える事ができる! そして【ブレイド】を通常召喚!」

 

 

 

【森羅の葉心棒(ようじんぼう) ブレイド】 攻撃力 1900

 

 

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンを終了する」

 

『壬生選手、実にトリッキーな動きで盤面を整えた! さぁこれに対し九頭竜選手はどう打って出るのか!? 注目の九頭竜選手のターン!!』

 

「俺のターン。──【ツインバレル・ドラゴン】召喚!」

 

 

 

 神聖な山の(ふもと)に樹木が茂り連なる自然豊かな大地には似つかわしくない、拳銃(ピストル)型の頭部を持つ機械の龍が現れる。

 

 

 

【ツインバレル・ドラゴン】 攻撃力 1700

 

 

 

「こいつが召喚された時、相手のカード1枚に2発の弾丸を撃ち込む。2発とも当たれば成功だ、そのカードを破壊する」

 

 

 

 【ツインバレル・ドラゴン】の銃身に弾丸が装填(そうてん)される。

 

 

 

「ふん、早速お得意のギャンブルか……いつ見ても貴様の戦法は理解に苦しむな。決闘(デュエル)は99%の知性が勝敗を決する。運が働くのはたった1%に過ぎん! 運に勝負を預けるなど、私に言わせれば愚の骨頂!」

 

「運に預けるだぁ? 何ズレたこと言ってやがる」

 

 

 

 そして上下二連の銃口を【森羅の葉心棒 ブレイド】に突きつけ──

 

 

 

「俺が外すわけねぇだろ」

 

 

 

 2発の銃弾を発砲。狙い通りの弾道を描き、標的となった森の戦士に見事命中した。

 

 

 

「ぐおっ!? 馬鹿な……!」

 

『九頭竜選手、一か八かのギャンブル効果を当たり前の様に当ててきたぁーッ!!』

 

「勘違いしてるみてぇだから1つ教えといてやる。運なんてのは頼るモンじゃねぇ、引き寄せるモンだ。自分(てめぇ)の意のままにな」

 

「おのれ……! マグレで当てた程度で良い気になるなよ! 【森羅】モンスターが墓地へ送られた時、手札から【森羅の賢樹(けんじゅ) シャーマン】を特殊召喚できる!」

 

「!」

 

「現れろ! 【森羅の賢樹 シャーマン】!!」

 

 

 

 召喚されたのは高々と(そび)え立つ巨木。その幹には、繁茂する枝葉と同じ緑色の立派な髭を生やした、荘厳(そうごん)な表情の顔があり、鼻には丸メガネらしき物を掛けている。

 

 

 

【森羅の賢樹(けんじゅ) シャーマン】 攻撃力 2600

 

 

 

『なんと! 開始2ターン目にして早くも壬生選手のエースモンスターが登場だぁーッ!! 九頭竜選手ピーンチ!』

 

「フフッ、礼を言おう九頭竜。貴様のおかげで私のデッキの切り札(エース)を召喚できた」

 

 

 

 壬生はしてやったりと言いたげに得意気な笑みを浮かべると、またもやメガネを押し上げる。

 

 

 

「ケッ、いちいち()(ざか)しいんだよ。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「この瞬間! 【森羅の霊峰】の効果発動! 相手のエンドフェイズにデッキの一番上をめくり、植物族なら墓地へ送る!」

 

「……! チッ、確かてめぇのデッキの一番上は……」

 

「そうだ、私がめくったカードは【森羅の施し】によって手札からデッキの上に置いた──【森羅の影胞子 ストール】! このカードがデッキからめくられ墓地に送られた場合、魔法(マジック)(トラップ)ゾーンのカード1枚を破壊する! 対象は当然、貴様の伏せカードだ!」

 

 

 

 笠が燃えている赤い(たけ)のモンスターが飛び出し、九頭竜の場に伏せられたリバースカード目掛けて大きな火の玉を放ち、爆砕した。

 

 

 

『あぁーっと! これは驚くべき展開だっ! 九頭竜選手の伏せカードが破壊され、場にはモンスター1体のみ! 対して壬生選手の場には最上級モンスター! よもやあの学園最強が圧されているとでもいうのか!? 壬生選手、反撃のチャンス到来──…………えっ?』

 

 

 

 瞬間、マック伊東は我が目を疑った。

 

 それもその筈。【ストール】の火球が伏せカードを吹き飛ばした事で立ち込めた爆煙が晴れた時……

 

 そこにはいつの間にか、頭部と両腕に巨大な回転式拳銃を装備した、黒鉄(くろがね)の龍が姿を現していたのだから。

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

「なっ、なにっ!? 【リボルバー・ドラゴン】だと!? どういう事だ!!」

 

「……くくっ」

 

 

 

 これには壬生も驚きを隠せず狼狽する。一方で九頭竜はほくそ笑み、したり顔でタネを明かし始めた。

 

 

 

「かかったな! てめぇが破壊したのは(トラップ)カード・【やぶ蛇】! こいつは相手の効果で破壊か除外された時、デッキからモンスターを呼び出せるのさ!」

 

「!!」

 

「【ストール】をデッキの上に仕込んだ時から、てめぇの考えてる事なんざお見通しなんだよ!」

 

「わ、私の戦略を……逆手に取ったというのか……!?」

 

「くくくっ、礼を言うぜ。てめぇのおかげで俺も切り札を召喚できたんだからな」

 

「ぐっ……!」

 

『さ、さすがは九頭竜選手! 転んでもタダでは起きないーっ!』

 

 

 

 九頭竜の攻撃を止め、一気に勝負の流れを掴もうとした矢先に、エースモンスターの召喚を許してしまった。

 自分の戦術を逆に利用された屈辱に、壬生は奥歯を噛み締める。

 

 

 

(やってくれるな九頭竜め……だが私には次の手がある!)

 

「その程度で私を出し抜いたなどと思うなよ! 私のターン、ドロー! フィールド魔法・【森羅の霊峰】の効果により、手札から【ピース】を捨て、デッキの中から【森羅の水先(みずさき) リーフ】を一番上に置く!」

 

「……」

 

「そして【シャーマン】の効果を発動! デッキの上をめくり、植物族であれば墓地へ! 当然めくるのは【リーフ】! こいつがこの条件で墓地に送られた場合、モンスター1体を破壊する! 消え去れ【リボルバー・ドラゴン】!!」

 

「!!」

 

 

 

 頭が葉の形をしたモンスターが発射した水鉄砲を浴びて、【リボルバー・ドラゴン】は消滅してしまう。

 

 

 

「チッ……」

 

「せっかく呼び出した貴様のエースも(はかな)い命だったな。バトルだ! 【シャーマン】で【ツインバレル・ドラゴン】を攻撃! 『ウィップ・オブ・シルバン』!!」

 

 

 

 大木は地に張り巡らせた太い根を触手の様にうねらせ、銃器の竜を刺し貫き破壊した。

 

 

 

 九頭竜 LP 4000 → 3100

 

 

 

『決まったぁーッ!! 先制は壬生選手ッ!!』

 

「どうだ九頭竜! 私は貴様の様に運に頼りなどはしない! 知力を駆使し、策を張り巡らせ、着実に、確実に勝利を掴む!」

 

「……誉めてやるぜ、この俺にかすり傷を負わせられた事はな」

 

「ほざけっ! 私はこれでターンエンドだ!」

 

「良いのか? 本当に。それがてめぇのラストターンになるんだぜ?」

 

「なんだと……!?」

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

(ふん、私の動揺を誘っているのか? だが仮に貴様が【シャーマン】を破壊できたとしても、私の場には【森羅の恵み】が伏せてある。これを使えば──)

 

 

 

 瞬間──

 

 

 

「!?」

 

 

 

 一筋の閃光が壬生の足下に伏せられたカードを撃ち抜いた。

 

 

 

「なにっ!?」

 

(伏せカードが破壊された!?)

 

魔法(マジック)カード・【ナイト・ショット】。相手のセットした()(ほう)(トラップ)カード1枚を破壊する。この効果に対しててめぇは対象のカードを発動できねぇ」

 

「くっ……」

 

「これで目障りな伏せカードは消した、心置きなくてめぇを撃ち殺せるぜ。手札から【シャッフル・リボーン】発動。よみがえれ──【リボルバー・ドラゴン】!」

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

「またそいつか……だが【シャッフル・リボーン】で特殊召喚したモンスターは効果が無効となり、エンドフェイズに除外される」

 

「よく知ってるじゃねぇか。正解の褒美におもしれぇモンを見せてやるよ。魔法(マジック)カード発動! 【融合(ゆうごう)】!」

 

「!」

 

「【リボルバー・ドラゴン】と手札の【ブローバック・ドラゴン】を融合! 現れろ、レベル8──【ガトリング・ドラゴン】!!」

 

 

 

 起動せしは見るからに凶悪な巨体の兵器。長く伸びる頭部と両腕には、その名の通り複数の砲身が環状に並ぶ回転式の機関銃──通称・ガトリング砲を備え付けた竜と思わしき頭を持ち、三つ首の様相を呈している。

 

 

 

【ガトリング・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

「っ……なんと禍々(まがまが)しい……!」

 

「くくくっ……さぁ、今から死ぬか生きるかのスリリングなギャンブルを始めようじゃねぇか」

 

「!?」

 

「【ガトリング・ドラゴン】の効果発動! 1ターンに一度、3回コイントスを(おこな)い、(オモテ)が出た数だけフィールドのモンスターを破壊する! 頭の良いてめぇなら、この意味が(わか)るだろ?」

 

「……! まさか、貴様……!」

 

「そうよ──【ガトリング・ドラゴン】の破壊効果は強制効果……そして今、フィールドには俺とてめぇのモンスターが1体ずつ。つまりこの状況で表が2回以上出た場合、こいつ自身も消し飛ぶってわけさ」

 

「正気か貴様!? よもや表が出るのを1回のみに(とど)められるつもりでいるのか!? そんな思い通りに行く筈など──」

 

「言ったろうが、俺が()()()()()()ってよ。行くぜ……てめぇのモンスターだけが死ぬか、あるいは2体とも仲良くくたばるか、それとも全部(ハズレ)で両方生き残るのか……運命のコイントスだ!」

 

 

 

 九頭竜のデュエルディスクの画面に表示された3つのコインが一斉に跳ね上がり、着地すると二、三度バウンドしながらクルクル回る。

 

 

 

(狂っている……正気の沙汰ではない……! 普通そこまで自分の運を信じ切れるものなのか……!?)

 

「…………」

 

 

 

 実況さえも固唾を飲んで沈黙し、場内に緊張が走る中──コイントスの結果が発表される。

 

 

 

「……表1つ、裏2つ。──()()()だ」

 

「──!? ばっ、ば……馬鹿なぁーっ!?」

 

 

 

 【ガトリング・ドラゴン】の右腕の機関砲が火を吹いた。間断なく鳴り続けるけたたましい銃声と共に幾百(いくびゃく)の弾丸が高速で連射され、大樹を無惨にも穴だらけにして撃破する。

 

 

 

『す、凄まじいぃーッ!! 九頭竜選手、宣言通り奇跡的な確率を引き当てたぁーッ!! この男は、運さえも自在に操れるというのかっ!?』

 

「終わりだな、インテリ野郎」

 

「ぐっ……!」

 

「バトルだ! 【ガトリング・ドラゴン】で直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『ガトリング・ショット』!!」

 

 

 

 3本の首が全て、壬生に砲口の束を向け、大量の銃弾を斉射する。

 

 

 

「この瞬間、速攻魔法発動! 【リミッター解除】!」

 

 

 

【ガトリング・ドラゴン】 攻撃力 2600 → 5200

 

 

 

(こ、攻撃力、5200だとっ!?)

 

「ぐわあああああっ!!」

 

 

 

 威力を倍増させた鉛弾のシャワーを全身に浴びてしまう壬生。満タンだったライフポイントは、一瞬にして底をついた。

 

 

 

 壬生 LP 0

 

 

 

『決まったァァーッ!! 九頭竜選手のワンショットキルが炸裂ぅーッ!! 勝者(ウィナー)・九頭竜 響吾!! 準々決勝進出決定ーッ!!』

 

「ま……負けた……この私が……」

 

(私の計算が……私の知略が……『運』などと言う不確定要素に敗れたというのか……!)

 

「そのご自慢の脳みそにしっかりと刻み込んどけ。──俺が〝最強〟だっ!!」

 

「っ……!」

 

(九頭竜 響吾……こいつは……計算外の男だ……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……()しくも同じタイミングで、会場外にて行われていたこちらの決闘(デュエル)も決着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ、ひぃぃ~っ!」

 

 

 

 金沢 LP(ライフポイント) 500

 

 豪炎寺 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「キサマにも決闘者(デュエリスト)としてのプライドが欠片(カケラ)でもあるのなら! (いさぎよ)く散れぇ!!」

 

 

 

黒炎弾(こくえんだん)!! -

 

 

 

「ほぎゃあああああっ!?」

 

 

 

 金沢 LP 0

 

 

 

 豪炎寺くんのエースモンスター・【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】の攻撃が、金沢くんを焼きつくした。

 さすが次期十傑候補『筆頭』。いつ見ても惚れ惚れする強さだ。

 

 

 

「ふん、他愛もない」

 

「ありがとう豪炎寺くん。本当に助かったよ」

 

 

 

 もし彼に助けてもらわなかったら本気で大会を辞退するハメになっただろうし、下手したら人生が終わるところだったかも知れない。うぅ、想像しただけでまた鳥肌が。

 

 

 

「勘違いするな。俺は俺を倒した男がくだらない形でアリーナ・カップから消えるのが許せなかっただけだ。そうでなければ誰がキサマなど」

 

「あはは……借りが出来ちゃったね」

 

「こんな事は一度きりだ。次は無いと思え」

 

 

 

 それだけ言い残すと、豪炎寺くんは先に帰っていった。

 

 

 

「……じゃ、ボクも戻ろっか。いってて、あーもう……思っきし蹴ってくれちゃって」

 

(……あっ)

 

 

 

 まだ痛む(ふく)()を抑えつつセンター・アリーナに戻ろうとした時、ボクはとても大変な事を思い出した。

 

 すぐさまポケットにしまっていたスマート端末を引っ張り出す。

 画面には何件もの着信とメッセージ受信の通知が表示されていた。全部アマネからだ。

 

 

 

「ヤバイ……どうやってごまかそう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……『端末をトイレに忘れて、女の子と話し込んでた』、ですってぇ~……っ!?」

 

「う、うん……ソーナノ」

 

 

 

 腕を組んで仁王立ちしているアマネの前で、ボクは何故か正座させられて冷や汗をダラダラ流していた。

 まさか男に集団で襲われました、なんて言えるわけもないので、口から出任せで適当な弁明をしてみた結果がこれです。

 アマネは口角は上がってるけど目が笑ってない。完全にお怒りだ。

 

 

 

「なーんだ、心配して損した~」

 

 

 

 アマネと一緒にボクを探してくれていたマキちゃんは、頭の後ろで両手を組みながら呆れ顔でため息混じりにそう言った。

 

 

 

「アンタねぇ! 試合前だってのに気が抜けてんじゃないの!? どんだけ心配したと思ってんのよ! アンタのせいで九頭竜の試合も見逃しちゃうし!」

 

「本当に悪かったって~。反省してるから、このとおり。ね?」

 

 

 

 手を合わせながら眉は八の字に下げて謝るボク。女の子に嘘をつくのは忍びないけど、本当の事を話してまた面倒事に発展するのは避けたいし、今回ばかりは仕方がない。

 

 というかマズイ、そろそろ両足の感覚が無くなってきた……

 

 

 

「上目遣いやめろ! それで許されるのはルイくんだけ!」

 

「うっ、それは激しく同感」

 

「ハァ……まぁ無事に見つかったからもういいわ、さっさと戻るわよ」

 

「セツナくん、あとでジュース(おご)ってね~♪」

 

「うん……心配かけて本当にごめんね。探しに来てくれてありがとう、二人とも」

 

「……別に……友達なんだから当然でしょ」

 

「おっ! アマネたんのデレいただきました~!」

 

「うっさい! デレてない!」

 

 

 

 マキちゃんに茶化され、ムキになって否定するアマネだけど、ほんのり顔が赤らんでいる様に見えた。

 本当、良い友達に恵まれてるな、ボクは。

 

 

 

「ほら行くわよ! ルイくんとケイくんもアンタのこと心配してたから、ちゃんとお礼言っときなさいよね!」

 

「うん、分かっ──たッ"!?」

 

「「?」」

 

 

 

 立ち上がろうとした途端、ふくらはぎに(にぶ)(しび)れが走り、上半身が前のめりに倒れ込んだ。あ、足がジンジンして力が入らない……これはもしや……!

 

 

 

(お、遅かったかぁ~っ!)

 

「およ? もしかして足痺れた?」

 

「セツナ……つくづくアンタは()()を呆れさせる天才ね……」

 

「ご、ごめん、ヘルプミー……」

 

「つついてあげよっか? うりうり!」

 

「ちょ、待っ!? それダメ──アァ~~~~ッ!!」

 

 

 

 マキちゃんはオモチャを見つけた子供みたいに目をキラキラ輝かせて、ケラケラ笑いながらボクのふくらはぎを指でつついて遊び出すのであった……

 

 

 

 





 超久しぶりの九頭竜のデュエルでした! いろいろと懐かしかったです。

 あと金沢が使った例のセリフ、ガマンできなくて入れてしまいました(笑)

 そう言えばリンク召喚もろくに知らない頃にこの小説を書き始めたんでしたっけ。あの頃と比べたら少しは上達してると良いな(*´ω`*)

 さてさて来年からは新ルールの『ラッシュデュエル』とやらが導入されるらしいのですが、今度はどうなるのでしょうか。とりあえず作者はアニメのキャラデザがすでに好みなので放送が待ちきれないです!

 来年もきっと遅筆かもですが気が向いた時にでもご一読いただければ幸いです。皆さま、よいお年を!
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