遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 筋肉は全てを解決してくれる(至言)



TURN - 38 CHIKARA is POWER

 

 選抜デュエル大会・本選──『アリーナ・カップ』の1日目。

 

 午前中の4試合が全て終了し、残すは午後の4試合のみとなった。

 今はその合間のランチタイムという事で、ボクら生徒は平時と変わらず、学園内の大食堂に集まって昼食を()っている。

 

 午後の最初の試合──第5試合目がボクの出番だ。それに備えて、午前中の()()決闘(デュエル)さえしてないのに消耗した体力を回復する為にも、しっかり食べてエネルギーを補給しておこう。

 

 アマネ、マキちゃん、ルイくんの3人にボクも同席して、お馴染みの4人組で食卓を囲み、談笑を交えつつ食事を楽しんでいた。

 ケイくんは中等部の生徒なので、中等部用の食堂に行ってる為、不在。

 

 『勝つ』という願掛けも兼ねて注文したカツカレーのトンカツを頬張っていると、アマネの(はし)が止まっている事に気づいた。

 

 

 

「アマネどうしたの? もしかして食欲ない?」

 

「あ、ううん。そういうわけじゃないんだけど……もうすぐ試合だって思うとちょっとね……」

 

「アマネたんでも緊張するんだね~、珍しい~。あたしがセツナくんに(なら)って、ハグでリラックスさせたげよっかぁ? グフフフ」

 

「絶対ハグだけで済まない気がするから遠慮するわ」

 

 

 

 両手の指をワキワキと動かしながらジリジリ迫り来るマキちゃんをいなして、アマネはトマトで煮込んだ鶏肉(とりにく)を箸で摘まんで口に運ぶ。美味しそう。

 

 

 

「……セツナもマキちゃんも、そんな呑気にしてて良いの?」

 

「「 ? 」」

 

「私達全員、これから『十傑(じっけつ)』と闘うのよ。ビビってるよりはマシなのかも知れないけど、少しは気を引き締めといた方が良いんじゃない?」

 

 

 

 アマネの最もな意見に、ボクは咀嚼(そしゃく)していたライスを飲み込んでから答える。

 

 

 

「うーん、それは言えてるけど、ご飯の時くらいはねぇ?」

 

「そうそう、アマネたんも今から気ぃ張ってたら本番の前に疲れちゃうよ~?」

 

「……まぁいいわ」

 

 

 

 早々(はやばや)と話を区切って、アマネは最後の鶏肉を食べ終えた後、紙パックのトマトジュース(200ml)を飲み干した。

 アマネの好物はトマトと血の滴る肉類で、ニンニクが苦手らしい。吸血鬼かな?

 

 

 

「ごちそうさま。私デッキの調整してくるから」

 

「あ、うん。また後でね」

 

「行ってら~」

 

 

 

 席を立ち、トレーを持って食器の返却に向かうアマネを見送ると、ルイくんが呟いた。

 

 

 

「なんだか……ピリピリしてましたね、アマネさん」

 

「アマネたんは去年の選抜試験、十傑に負けて予選落ちしてるからね~。本気でプロを目指してるあの子にとっては、越えなきゃいけない壁にぶつかってるって感じかな~?」

 

「そうだったんですか……」

 

「まっ、そういうあたしはその1個前の試合で、アマネたんに負けたんだけどさ」

 

「えっ、そうなの!?」

 

「うん。だからあたしにとって今年の選抜試験は、アマネたんにリベンジするチャンスでもあるんだよね」

 

 

 

 ボクがカナメにリベンジするのと同じ理由か。

 

 

 

「あ、もちろんセツナくんとも決着つけるつもりだから覚悟しといてね~?」

 

「望むところだよ。ボクもマキちゃんやアマネと闘いたいし、今日はみんな絶対に勝とうね!」

 

「てわけで、あたしも験担(げんかつ)ぎにカツいただきま~す!」

 

「あーっ!? ボクのトンカツなのにーっ!」

 

「ほら、あたしのエビフライあげるから交換(トレード)しよ♪」

 

(しっ)()だけじゃん!」

 

 

 

 そんなこんなで(なご)やかな時間はあっという間に過ぎ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──いよいよアリーナ・カップの後半戦が始まろうとしていた。

 

 

 

総角(アゲマキ)選手、間もなく出場の時間です。入場口前にて待機をお願いします」

 

「はーい」

 

 

 

 スタッフさんに呼ばれたのでソファーから立ち上がる。

 

 

 

「セツナくんがんばー!」

 

「負けるんじゃないわよ」

 

 

 

 アマネとマキちゃんのエールにVサインで答えて、ボクは控え室を出る。

 

 

 

「行ってくるね!」

 

 

 

「……ワニ嬢ちゃ~ん、声かけとかなくて良かったんですかぁ~?」

 

「よよよ余計なお世話ですわっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『諸君ッ!! しっかりと昼飯は済ませてきたかーっ!? 間もなく選抜デュエル大会・本選! アリーナ・カップ1日目の後半戦を始めるぞぉーッ!!』

 

「「「「 おおおおおおおおおおっ!!!!!! 」」」」

 

 

 

 実況を担当するマック伊東さんのマイクを介した大声と、お腹を満たして元気いっぱいになったのだろう観客の皆さんの前半に劣らない大歓声が、入場口で合図を待つボクの鼓膜を叩く。

 

 

 

(……さすがに緊張してきたな……)

 

 

 

 心臓が強く脈打つ。ボクは深呼吸すると左腕にデュエルディスクを取り付け、決闘王(デュエル・キング)リスペクトで腰のベルトに付けた黒いケースから引っ張り出したデッキを、それにセッティングした。

 

 

 

『それでは第5試合の出場者の紹介と行こう! みんな拍手で迎えてくれっ! まずは今年の新人(ルーキー)の中でも注目度ナンバーワン! 聞いて驚け! なんと今年この学園に転入してきたばかりでありながら、アリーナ・カップ出場を果たした期待の新星だッ! 2年・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)ァァーッ!!』

 

「たはは……そんな大層なもんじゃないって」

 

 

 

 スモークに焚かれた道を落ち着いた足取りで歩き、大観衆の前に姿を見せた途端──爆竹みたいにけたたましい拍手の音と、より熱量を増した歓声がボクを出迎えた。

 

 

 

「っ……!」

 

(すごっ……こんな中で決闘(デュエル)するのか……!)

 

 

 

 当たり前だけど、のしかかってくる重圧(プレッシャー)は予選とは比べ物にならない。身も心も揺さぶられて頭が真っ白になりそうだ。

 

 固唾を飲んで、胸に手を当てて、出来る限り気持ちを乱さない様に(つと)めながら、ボクは何とか中央に待つ決闘(デュエル)フィールドまで到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セツナが入場し、決闘(デュエル)フィールドに立つ姿を、場内3階席の通路から黒髪の青年が静かに見下ろしていた。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 鷹山(ヨウザン) (カナメ)

 

 この街(ジャルダン)では言わずと知れた、『学園最凶』の異名を取る天才決闘者(デュエリスト)

 

 そんな彼に、一人の生徒が歩み寄り声をかけた。

 

 

 

「アンタが他の奴の試合を観るなんて珍しーじゃねぇのよ?」

 

「……狼城(ろうじょう)か」

 

 

 

 髪が灰色の(よう)姿()端麗(たんれい)な青年。

 

 名は、狼城(ろうじょう) (アキラ)

 

 カナメと同じく、ここ、デュエルアカデミア・ジャルダン校が、トップクラスの実力を有する決闘者(デュエリスト)だと認めた、十名の生徒にのみ授与される一流の証──『十傑』の称号を持つ最上級生にして、去年の選抜デュエル大会・第3位という功績を収めた傑物(けつぶつ)である。

 

 

 

「そんなにあのメガネのルーキーちゃんが気になんの?」

 

「あぁ……まぁな。あの男は面白い決闘(デュエル)をする」

 

「ふ~ん? アンタがそこまで注目するたぁね……んじゃ、オレもお手並み拝見させてもらおっかな?」

 

 

 

 そしてセツナに注目しているのは彼らだけではない。

 

 同じ頃、メディア関係者専用の撮影フロアでは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た来た! 来ましたよ(はや)()先輩! 総角くんです!」

 

「うるせぇぞ(あら)()。はしゃぎ過ぎだ」

 

「だって私、総角くんがタイプなんですよ~! めちゃくちゃ可愛くないですか!?」

 

「男に男が可愛いかどうかなんて分かるか。……つうかお前、朝校門通った時いただろ、そいつ」

 

「えっ、ウソッ!? どこに!? 全然気づかなかった悔し~~~っ!」

 

「お前な……」

 

(だがまぁ確かに……あの〝学園最強〟・九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)に勝ったっつう転入生の事は俺も気になってたからな……どんなもんか、見せてもらうとするか)

 

「私のジャーナリストとしての勘が告げています。総角 刹那くん……彼は要チェックです!」

 

「新人が何いっちょ前に言ってんだかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そしてその対戦相手はぁーっ! 人呼んで剛力無双!! どんな時でも(チカラ)で全てを押し通す! ジャルダンで最も力技を極めた筋肉モリモリマッチョマン!! 3年・十傑! 熊谷(クマガイ) (リキ)()ォォーッ!!』

 

 

 

 向こう側に見える入場口を、噴出したスモークが覆い隠す。その煙幕から、スキンヘッドの大男が抜け出てきた。

 

 ゴツい身体つきで上背(うわぜい)は2メートル以上あるだろう巨漢が大股で歩いてくる。

 1つ気になるのは……昨日、トーナメント抽選会で初めて会った時はタンクトップ一丁だったのに、今は普通に制服を着ている事だ。体格のせいか、だいぶピッチピチだけど。

 

 

 

「ガッハッハッ! お前さんと闘うのを楽しみに待っとったわい! よろしくな総角(アゲマキ)よ!」

 

「セツナで良いよ。こちらこそよろしくね、熊谷くん」

 

 

 

 熊谷くんと握手。ボクのより一回り大きい手に握り潰されるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、一瞬『ミシッ』て言った程度で骨は無事だった。ちょっと痛かった。

 

 

 

「ふい~~~っ。全く、この制服っちゅうもんはどうにも着苦しいわい」

 

「?」

 

 

 

 おもむろに息を大きく吸った熊谷くん。すると次の瞬間──

 

 

 

「ほおぉぉぉぉぁぁぁああああ"あ"あ"あ"っ"!!!!!!」

 

「!?!?!?」

 

 

 

 ()(たけ)びを上げ始めた熊谷くんの巨体をピッチリ包んでいたシャツとブレザーのボタンが(はじ)け飛び、()()はビリビリと張り裂け、破れていく。

 

 やがて制服は(こま)()れになり、筋肉の(カタマリ)と化した上半身が(さら)け出された。

 ラリアットしたら人の首なんて一発でへし折れるんじゃないかってぐらい膨張した太すぎる腕や、バッキバキのシックスパックに割れた腹筋と分厚い胸板を、惜し()もなく衆目に見せつけている。

 

 

 

(き、筋力で服を破くって……どこの暗殺拳法の使い手!?)

 

『きッ、強烈なデモンストレーションだッッ!! これ見よがしの逆三角形ッッ!! 強さとは力だッッ! 強さとは筋肉だと言わんばかりの!! 剛力無双……否、もはや怪力無双! こんな怪力は見たことがないッ!!』

 

 

 

 これがしたくてわざわざ制服を着てきたのか……こんな威嚇の仕方されたら野生の(クマ)だって逃げ出しそう。

 

 

 

「さぁ~て……おっ(ぱじ)めようかのぉっ!」

 

「あはは……お手柔らかにね」

 

 

 

 デュエルディスクの決闘(デュエル)モードを()()にする。まさか半裸のマッチョと向かい合う日が来るとは思わなかったよ。

 

 

 

『試合開始前から早くもプレッシャーをかける熊谷選手! 十傑の一角として、ニューフェイスに年季の差を見せつけるのか!? それともスーパールーキー総角選手が古豪に引導を渡すのか!? 注目の一戦、刮目して見よ! イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 熊谷(クマガイ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「どれ、先攻は後輩に譲ってやるとするかの。どっからでもかかってきんしゃい!」

 

「それじゃあ先輩の厚意に甘えさせてもらおうかな、ボクのターン!」

 

 

 

 十傑と闘うのは久々だ。会場の熱に浮かされてるのか不思議とテンションが上がるのを感じる。

 

 

 

「最初から飛ばしていくよ! ボクは魔法(マジック)カード・【予想GUY(ガイ)】を発動! デッキから【暗黒の竜王(ドラゴン)】を特殊召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「さらに【ポケ・ドラ】を召喚!」

 

 

 

【ポケ・ドラ】 攻撃力 200

 

 

 

「この子が召喚に成功した時、デッキから【ポケ・ドラ】を手札に加える! そして【ドラゴニック・タクティクス】発動! 2体のドラゴンをリリースして──デッキから【ラビードラゴン】を特殊召喚!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

『総角選手、魔法(マジック)カードを駆使して先攻1ターン目からエースモンスターの召喚に繋げたぁーッ!! (じつ)に堂々たる立ち振舞い! とてもアリーナ・カップ初出場とは思えないっ!』

 

「今日もよろしく頼むよ相棒。ボクはカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「ほほぉ、やりおるわ。さすが九頭竜の奴を倒しただけはあるのぉ。ワシのターンじゃ、ドロー!」

 

 

 

 こっちは準備万端。さて、熊谷くんはどんな決闘(デュエル)をするのかな?

 

 

 

「ワシは【モンク・ファイター】を召喚じゃい!」

 

 

 

【モンク・ファイター】 攻撃力 1300

 

 

 

「さらに【モンク・ファイター】をリリースし、【マスターモンク】を特殊召喚じゃあっ!!」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 1900

 

 

 

 (たくま)しい体格をしたハンサムな青年が、ムキムキのおじいちゃんに急成長を遂げた。だけど思ったほど攻撃力の高いモンスターは出してこないな……

 

 

 

「手札から魔法カード・【一騎加勢】を発動!」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 1900 + 1500 = 3400

 

 

 

(いやそんな事なかった!?)

 

「まだじゃ! ワシは【マスターモンク】に、【伝説の黒帯(くろおび)】を装備! そしてバトル! 【マスターモンク】で【ラビードラゴン】を攻撃じゃっ! 『マスター・ドロップキック』!!」

 

 

 

 黒帯を腰に巻いた老練の格闘家が、両足で【ラビードラゴン】に飛び蹴りを食らわせて粉砕した。

 

 

 

「うぐっ……!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3550

 

 

 

「ガッハッハッ!! 決闘(デュエル)とは(ちから)! 力こそパワー!! パワーでワシに勝とうなど、百年早いわっ!」

 

「力こそパワーて……同じじゃん」

 

 

 

 脳筋(のうきん)もここまで極まれば下手な戦術より驚異的だね……

 

 

 

「ここで【マスターモンク】に装備した【伝説の黒帯】の効果! 装備モンスターが戦闘で破壊した相手モンスターの、守備力分のダメージを与える!」

 

「!? うわぁっ!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】を撃退したあと、【マスターモンク】はそのままボクの前に着地して、強烈なキックでボクを蹴り飛ばした。蹴られるのはこれで2回目だ、暴力反対!

 

 

 

 セツナ LP 3550 → 650

 

 

 

「じゃがこれで終わりではないぞぉ! 【マスターモンク】は一度のバトルで2回攻撃が出来るんじゃ!」

 

「ウソぉ! そんなのアリ!?」

 

「あっけないもんじゃったのぉ。トドメじゃ【マスターモンク】! セツナに直接攻撃(ダイレクトアタック)ッ!!」

 

『この攻撃が決まれば終わりだぁーッ!!』

 

「っ……(トラップ)発動! 【カウンター・ゲート】!」

 

 

 

 ゲート状のバリアが出現して、【マスターモンク】の追撃を(さえぎ)ってくれた。

 

 

 

「ほぉ、防ぎおったか」

 

「ふう、危ない危ない……【カウンター・ゲート】はダイレクトアタックを無効にした後、デッキから1枚ドローして、それがモンスターだったら攻撃表示で通常召喚できる。ドロー!」

 

(……おっ)

 

 

 

 【命削りの宝札】を引いた。モンスターではなかったけど十分ありがたいカードだ。

 

 

 

「……何も出さんところを見ると、召喚できるモンスターは引けなかった様じゃな。ワシはカードを2枚伏せてターンエンドじゃ! 【マスターモンク】の攻撃力は元に戻る」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 3400 → 1900

 

 

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 にしても厄介なモンスターだな……2回も攻撃できる上に【伝説の黒帯】の効果で守備モンスターを破壊してもダメージを与えてくる……何とかして退(しりぞ)けないと!

 

 

 

(今ドローしたのは【竜の転生】……これを使えば!)

 

「ボクは【ポケ・ドラ】を召喚!」

 

 

 

【ポケ・ドラ】 攻撃力 200

 

 

 

「その効果でデッキから3枚目の【ポケ・ドラ】を手札に──」

 

「させぬわっ! カウンター(トラップ)・【見切りの(ごく)()】! 相手の墓地にあるカードと同名のカード効果を相手が発動した時、それを無効にし破壊する!」

 

「っ!?」

 

 

 

 【ポケ・ドラ】が破壊されサーチ効果も封じられた。ボクが2体目を召喚するのは読まれてたってわけか……!

 

 

 

「何をするつもりじゃったか知らんが、ワシに小細工は通用せんぞ」

 

「みたいだね……ならボクはカードを2枚伏せて、魔法(マジック)カード・【命削りの宝札】を発動! 手札が3枚になるようドローする!」

 

 

 

 一気に3枚の手札を補充。引き換えに相手は発動ターン中ダメージを受けず、自分は特殊召喚ができなくなるから、ボクはこのターンもうモンスターを出せないけれど、問題はない!

 

 

 

「ボクは、もう2枚カードを伏せてターンエンド! このエンドフェイズに【命削りの宝札】の効果で、ボクは手札を全て捨てる。と言っても、1枚しかないけどね」

 

『これで総角選手の場には4枚の伏せカード! モンスターはいないが迂闊には踏み込めない布陣となった! さぁどうする熊谷選手!』

 

「ふん、面白い。ワシのターン、ドロー! バトルじゃ! 【マスターモンク】でダイレクトアタック!」

 

欠片(カケラ)も躊躇してない!?」

 

「ワシが伏せカードなんぞにビビると思ったかぁ! 今度こそ(しま)いにしちゃる!」

 

「いいや、まだだよ! 速攻魔法・【銀龍の轟咆(ごうほう)】を発動! 墓地から【ラビードラゴン】を復活!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「なんじゃとっ!? おのれ……バトルは中止じゃ! ワシはこのままターンエンド!」

 

(よし、今がチャンスだ!)

 

「ボクのターン、ドロー! バトル! 【ラビードラゴン】で【マスターモンク】を攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

「やらせはせん! 永続(トラップ)発動! 【()(こう)格闘(かくとう)()】!」

 

「!」

 

「【マスターモンク】は戦闘では破壊されず、相手モンスターの効果も受けん!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】がさっきやられたお返しと言わんばかりに全力で(はな)った光線を、【マスターモンク】は両腕を交差させた体勢で受け止めた。

 

 

 

「そう来たか……でもダメージは受けてもらうよ!」

 

「チィッ!」

 

 

 

 熊谷 LP 4000 → 2950

 

 

 

 本当はこのターンで畳み掛けたかったけど……しょうがない!

 

 

 

(トラップ)カード・【竜の転生】! 【ラビードラゴン】を除外して、墓地から【トライホーン・ドラゴン】を特殊召喚!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「ぬっ! そうか……【命削りの宝札】で捨てたのはこやつじゃったか!」

 

「大正解。【トライホーン】、【マスターモンク】を攻撃だ! 『イービル・ラセレーション』!!」

 

 

 

 悪魔の竜が鋭い爪を振るい、三日月の形状に(かたど)られた衝撃波を飛ばす。捨て身で全て受け切る【マスターモンク】。だけど熊谷くんにも斬撃は届いた。

 

 

 

「ぐぬうぅぅぅっ!!」

 

 

 

 熊谷 LP 2950 → 2000

 

 

 

「ボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

『ライフ差はまだ熊谷選手に()があるが、徐々に総角選手が追い上げてきた! このまま押し切れるかーっ!?』

 

(どうかな……十傑がこのまま黙ってるとは思えない……!)

 

「……クックックッ……ガッハッハッハッ!! 面白くなってきたわっ! それでこそワシも──闘い()()があるっちゅーもんじゃ!」

 

 

 

 ──! 目付きが変わった……やっぱり本番はここからか!

 

 

 

「行くぞぉ! ドゥオロォーッ!!」

 

「!」

 

「──手札から魔法発動! 【ゴッドハンド・スマッシュ】! バトル! 【マスターモンク】で【トライホーン・ドラゴン】を攻撃ィ!」

 

「攻撃力はこっちの方が高いのに攻撃!? っ……迎撃だ【トライホーン】!」

 

 

 

- イービル・ラセレーション!! -

 

 

 

()オオオオオッ!! 耐えろ【マスターモンク】!!」

 

 

 

 熊谷 LP 2000 → 1050

 

 

 

「【孤高の格闘家】の効果により【マスターモンク】は破壊されん! そして! ここで発動した【ゴッドハンド・スマッシュ】の効果! このターン、【マスターモンク】とバトルしたモンスターを、ダメージステップ終了と同時に破壊するッ!!」

 

「なっ──!?」

 

 

 

 【マスターモンク】は『イービル・ラセレーション』を力ずくで突破し──

 

 

 

「叩き込めっ! 『ゴッドハンド・スマァァァッシュッ』!!」

 

 

 

 そのまま【トライホーン】との間合いを詰め、渾身の正拳を炸裂させた。

 

 

 

「【トライホーン】!?」

 

「さぁ、【マスターモンク】には二度目の攻撃が残っとるぞ! こいつを(かわ)せるかっ!?」

 

「うっ……」

 

 

 

 あの~、おじいちゃん……殺気を放ちながら拳をボキボキ鳴らすの()めてくれる? 怖いから。

 

 

 

「観念せぇぇぇっ!! 『マスター・パンチ』!!」

 

「──ボクはカナメと闘うんだ……こんなところで負けられない! (トラップ)発動! 【副作用?】!」

 

「なぬっ!? なんじゃあそのヘンテコなカードは!?」

 

「相手に1枚から3枚まで、任意の枚数ドローさせて、1枚につき2000ポイント回復するカードさ。さぁ好きなだけ引きなよ熊谷くん!」

 

小癪(こしゃく)なカードを使いおる……ならワシは1枚ドローじゃ!」

 

(ですよねー!)

 

 

 

 セツナ LP 650 → 2650

 

 

 

 ライフを回復した直後に【マスターモンク】がボクを殴りつける。

 

 

 

「ぐうっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 2650 → 750

 

 

 

「全くしぶといのぉ。ワシはカードを1枚伏せてターンエンドじゃ!」

 

(礼を言わせてもらうぞいセツナよ……お前さんのおかげで良いカードを引けたわい!)

 

「ボクのターン……」

 

 

 

 今更ながら、十傑って強いな、やっぱり。いよいよ崖っぷちに追い詰められた……

 手札(ゼロ)、場にはモンスターもいないし、魔法・(トラップ)ゾーンに伏せてある2枚のカードは、相手の攻撃を()めるタイプの効果じゃない。

 

 ──このターンが勝負どころだ!

 

 

 

「行くよ熊谷くん……」

 

 

 

 ボクは──メガネを外して、カードをドローする構えに入る。

 

 

 

「──!?」

 

(な、なんじゃ……! この、刺す様な気迫は……!?)

 

「ドローッ!!」

 

 

 

 ……この魔法カードは……!

 

 すっっっごく良いタイミングで来てくれたねッ!!

 

 

 

「手札から魔法(マジック)カード・【闇の量産工場】発動! 自分の墓地にある通常モンスターを2枚、手札に戻す! ボクは【トライホーン・ドラゴン】と【暗黒の竜王(ドラゴン)】を手札に! そしてリバースカード・オープン! 魔法(マジック)カード・【トレード・イン】!」

 

「!」

 

「手札のレベル8モンスター・【トライホーン】を再び墓地に送って、カードを2枚ドローする!」

 

 

 

 実を言うと【トレード・イン】は初手から握っていて、【命削りの宝札】を発動する前に【竜の転生】と一緒に伏せておいたんだ。やっと使えたよ。

 

 

 

「……ボクは【暗黒の竜王(ドラゴン)】を召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「熊谷くん。このドラゴンが君を倒す!」

 

「ほおぉっ! 抜かしおるっ! やれるもんならやってみぃ!」

 

「勝負だ! まずは手札から速攻魔法・【鈍重(どんじゅう)】を発動! 【マスターモンク】の守備力分、攻撃力をダウンする!」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 1900 - 1000 = 900

 

 

 

「小僧ッ……!」

 

「さらに装備カード・【進化する人類】を【暗黒の竜王(ドラゴン)】に装備! 自分のライフが相手より少ない時、装備モンスターの元々の攻撃力は2400になる!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500 → 2400

 

 

 

「これで攻撃が通ればボクの勝ちだ。バトル! 【暗黒の竜王(ドラゴン)】で【マスターモンク】を攻撃! 『炎のブレス』!!」

 

 

 

 暗闇(くらやみ)に生息する竜の王が口から炎を吐き出した。さぁどう出る!?

 

 

 

「甘いわあっ!! 言った筈じゃっ! パワーでワシに勝つのは百年早いとっ!! (トラップ)発動! 【ライジング・エナジー】!」

 

「!!」

 

「手札を1枚捨て、このターンのみ、モンスター1体の攻撃力を、1500ポイントアップする! ワシは手札から2枚目の【マスターモンク】を墓地に捨て、フィールドの【マスターモンク】をパワーアーップ!!」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 900 + 1500 = 2400

 

 

 

『これで両者の攻撃力は互角だぁーッ!! しかし……!』

 

「そうじゃ! 永続(トラップ)・【孤高の格闘家】の効果で、【マスターモンク】は相討ちでも破壊されん! 破壊されるのは【暗黒の竜王(ドラゴン)】だけじゃ!」

 

「……!」

 

「そうなれば【マスターモンク】に装備した【伝説の黒帯】の効果が発動し、お前さんのライフは尽きる! この決闘(デュエル)……ワシの勝ちじゃあっ!!」

 

 

 

 弱体化していた【マスターモンク】がパワーを増幅させ、拳圧(けんあつ)で炎を押し返しながら【暗黒の竜王(ドラゴン)】目掛けて突っ込んでくる。

 

 それを見てボクは……

 

 

 

 ──上唇(うわくちびる)(はし)をペロッと舐めて、笑った。

 

 

 

「君ならそう来ると思ったよ!」

 

「なぬっ!?」

 

「ボクはこの瞬間を待ってたんだ! (トラップ)発動! 【燃える闘志】! このカードを【暗黒の竜王(ドラゴン)】に装備する!」

 

「も、【燃える闘志】じゃとっ!?」

 

「相手フィールドに元々の数値より攻撃力が上がってるモンスターがいる場合、装備モンスターの()()()攻撃力は、倍になる!」

 

 

 

 【暗黒の竜王(ドラゴン)】の元々の攻撃力は、装備した【進化する人類】によって、2400に()()()()()()()。つまりそれが2倍になったら──

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 2400 → 4800

 

 

 

「よ、4800じゃとぉぉおっ!?」

 

「チェックメイトだッ!!」

 

 

 

 勢力を増した炎が【マスターモンク】の拳圧に()り勝ち、そのまま熊谷くんもろとも飲み込んだ。

 

 

 

「ぬあああぁぁぁぁあっ!!」

 

 

 

 熊谷 LP 0

 

 

 

『決まったァァーッ!! ウィナー・総角 刹那ッ!! 準々決勝、進出ぅーッ!!』

 

「ふう~……勝ったぁ」

 

 

 

 勝てた喜びを噛み締めると同時に、安堵のため息が漏れる。

 

 もし熊谷くんが【ライジング・エナジー】じゃなくて、普通に攻撃を妨害する(トラップ)(なん)かを仕掛けてたら、十中八九ボクが負けてた。

 きっと熊谷くんの事だからコンバットトリックを狙ってくるだろうと踏んだのが的中して本当に良かった。

 

 

 

「こ、このワシが力負けするとは……っ。……フッ……ガァーッハッハッハッ!! 参った! ワシの完敗じゃ!」

 

「対戦ありがとう、熊谷くん。楽しかったよ」

 

「おうっ! 最高の決闘(デュエル)じゃったわ、ありがとのぉ!」

 

 

 

 熊谷くんともう一度、固い握手を……交わすのはちょっと怖かったので、なるべく力を抜いてもらう様お願いしてから手を握り合った。なのにまたボクの右手が(きし)む音がしたんですがこれは一体。

 

 何はともあれ、これで決勝まで一歩前進だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、マジでリキオに勝っちゃったよ。やんなぁ、あいつ」

 

 

 

 上階にてセツナの試合をカナメと共に観戦していた狼城が、感心の(こも)った(こわ)()で勝者を称賛した。

 

 

 

「それにアンタの言ってた通り、おもしれー決闘(デュエル)するじゃん。──()()()()()()()()()()()……なぁ、カナメ?」

 

「……まだだな」

 

「ん? なんか言ったか? ……って、おーい。んだよ、もう帰っちまうのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早瀬先輩! 総角くん勝ちましたよ~!」

 

「だからはしゃぐな、みっともねぇ。見れば分かるっての」

 

(まさかこれほどの奴がいたとはな……なんで今まで無名だったんだ?)

 

「……こいつは新井の言う通り、要チェックかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セツナくん勝ったみたいだね~」

 

「そうね。まぁあいつが負けるなんて思ってなかったけど」

 

(次は私の番……勝てば明日、セツナと闘える……)

 

「……アマネたん?」

 

(去年の二の舞には絶対にならないわ……例え、相手が十傑だろうと──必ず勝ってみせる!)

 

 

 

 





 当初の予定では……

 作者「ラストターンは【ライジング・エナジー】に【あまのじゃくの呪い】をチェーンさせて逆転させよう」

 遊戯王wiki「【あまのじゃく】はダメステじゃ発動できんで」

 作者「ファ!?」

 投稿する直前で知りました。危なかった……修正がホント大変でした。
 結果的には熊谷のパワーを、セツナがさらに上回る展開にできたので、【燃える闘志】に変更して正解でした。

 やはり遊戯王は一見複雑そうだけど複雑だぜ!

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