遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 ※注意。

 今回、冒頭から、BL描写あります。

 そこまでガッツリではないかもですが、ボーイズラブ的な表現が苦手な方はごめんなさい!

 少しでも無理だと感じられた場合は、ブラウザバック推奨です!



TURN - 42 HOME PARTY

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……はぁ……ルイ、くん……」

 

「はぁ、はぁ……あん……セツナ……せんぱいっ……うぅ……ッ!」

 

 

 

 ボクの(した)で、(ほほ)を紅潮させたルイくんが悶える様に息を乱している。

 

 お互いの吐息がかかるほどに顔を近づけているから、ルイくんの()(すい)色の瞳が潤み、目尻に涙が溜まっているのもよく見える。

 

 彼女の……間違えた、彼のこんな表情を見るのは初めてだった。やっぱり、どんな顔をしててもルイくんは可愛いなぁ。

 

 ずっと見ていたい欲求に駆られたけど、これ以上ルイくんに負荷をかけるのはかわいそうなので何とか抑えた。

 

 なにせ今、ルイくんは両足を大きく(ひら)いた恥ずかしいポーズを取らされていて、ボクがその(また)(あいだ)に身体を割り込ませて覆い被さり、腰の辺りだけ密着しているという体勢だ。

 

 ボクの腰を前後に動かす(たび)に、ルイくんの浮いた足腰がビクッと震える。

 

 

 

「あうっ……!」

 

「っ……ごめんルイくん、痛かった?」

 

「はぁ……はぁ……だ、大丈夫、です……でも、んっ……! つらい……です……!」

 

 

 

 ルイくんの小さな(くち)からは、いつもよりワントーン高くて熱のこもった甘い声が断続的に漏れている。

 ただでさえ男にしては高めで中性的だった声質が、もう女の子のそれにしか聞こえない。ルイくんこんな色っぽい声も出せたんだね。

 

 女顔の可愛らしい後輩が、切なげな視線をこちらに向けながら(あえ)いでいるのを見てると、心なしかこっちまで熱が高まってきてゾクゾクしてしまう。めっちゃ良い(にお)いもするし。

 

 ── 正直ボクの方も……

 

 

 

(くっ……キツイ……!)

 

 

 

 もう、下半身が限界に近い。ガクガク言ってる。

 

 

 

「せん、ぱい……僕、もう……!」

 

 

 

 ヤバイ、ルイくんが先に果てそうだ。だから……だから……!

 

 

 

「── は、早く次、進めてよマキちゃん!」

 

「えへへ~、ごめんごめん。二人があんまりエロい雰囲気になってて見入っちゃってた~」

 

 

 

 ずーっと横でニヤニヤしながら眺めていたマキちゃんに、必死で催促する。

 

 彼女は円形の薄い板を手に持っていた。

 『スピナー』という名前のその板には、赤・青・黄色・緑の4色に分かれた丸印が4個ずつ、合計16個(えが)かれており、円の中心にプラスチック製の針が付いている。

 

 一方ボクとルイくんの下には、スピナーと同色の丸印が全部で24個並列(へいれつ)した、大きなマットが敷かれていた。

 ボクら二人はその上に乗り、それぞれ自分の両手両足を並んだ印の中から1ヶ所ずつ……すなわち一人4ヶ所の印の上に置いている、と言った状態。

 

 ── そう、ボク達は今、ツイスターゲームという遊びに(きょう)じている真っ最中なのだ。

 

 簡単にルールを説明すると、まず審判(しんぱん)役の人がスピナーの針を回し、針が指し示した手、または足と、色を読み上げる。

 例えば審判に「左手を青」と言われたら、プレイヤーは指示通りに左手を、6つある青色の印の内1つに乗せる。

 指示に従えなくなるか、(ひざ)(ひじ)、お尻など、手足以外の身体の部位をマットに付ける、もしくは倒れた方が負け。

 シンプルだけどバランス感覚と耐久力が物を言う、結構ハードなゲームだ。

 

 どういう(けい)()でこれで遊ぶ事になったかと言うと、話は数十分前まで(さかのぼ)る──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マンションのエレベーターに乗り込み、目的の階で降りる。

 

 慣れた足取りで自分が入居している部屋の前までたどり着き、ポケットから(カギ)を取り出して玄関のドアを解錠(かいじょう)し、開ける。

 

 いつもと何ら変わらない帰宅。ただ、今回この部屋に入るのは、ボク一人だけではない。

 

 

 

「さっ、上がって」

 

 

 

 ボクはそう言って振り返り、後ろで待っていた5人の友達を、我が家へ招き入れる。

 

 アマネ、マキちゃん、ルイくん、ケイくん、そしてコータ。

 

 これだけの人数を(うち)に上げるのは今日が初めてだった。アマネは以前、一度だけ来た事があったね。

 

 

 

総角(アゲマキ)お前……こんな良いとこ住んでんの!?」

 

 

 

 コータがリビングを見るなり率直な感想を告げた。

 

 マンションの(かど)()()で、バス・トイレ別の2LDK。

 高校生が一人で暮らすには、いささか広すぎて贅沢(ぜいたく)な物件だなと我ながら思う。

 

 

 

「おっ! こっちは寝室(しんしつ)だね? さぁ~て、エロ本は()()かなぁ~?」

 

「ちょ、マキちゃん!?」

 

 

 

 慌てて寝室へ駆けつけると、すでにマキちゃんは室内に侵入してベッドの下を覗き込んでいた。

 

 

 

「う~ん……何にも無い!」

 

「さすがにそんなベタなとこには隠さないよ……」

 

「こらマキちゃん、あんまり人様の部屋を(あさ)るんじゃないわよ」

 

「ちぇ~、つまんないの」

 

(……フフフ、甘いよマキちゃん。こんな事もあろうかと……絶対に見つからない場所に隠しといたからねッ!!)

 

 

 

 ……いや、うん、言わんとする事は分かるよ。ボクだって健全(?)な男子高校生なんです。

 

 ま、まぁそれは置いといて。

 実は今回ボクの家に5人もの友達が集まったのには、あるめでたい理由があるんだ。

 

 ── ボク達の(かよ)うデュエルアカデミア・ジャルダン校が主催する、ジャルダン(この街)最大の決闘(デュエル)祭典(さいてん)……その名も── 『選抜デュエル大会』。

 

 学園の生徒が(つちか)ってきた全てを試される、大がかりなテストでもあるこの大会の本選── 通称・『アリーナ・カップ』のトーナメント1回戦を、ボクとアマネとマキちゃんは無事に勝ち抜く事ができた。

 

 それを祝して、マキちゃんの提案でボクの家に集まり、祝勝会を開く流れになったんだ。

 

 せっかくだからと、ボクがルイくんとケイくん、それからコータも誘って、総勢6人でコンビニに立ち寄ってジュースとお菓子をたくさん買い込み、そのまま我が家へ直行── かと思いきや。

 

 途中でマキちゃんがド○キに寄り道して、このツイスターゲームを買ってきた為、自宅で広げて今に至る。というわけである。

 

 

 

「兄貴ィーッ! 気張れぇーっ!」

 

「じゃあ次、セツナくん。右足を黄色!」

 

「お、オーケー……!」

 

 

 

 ルイくんの左太ももを(また)いでいた右足を気合いで浮かせ、ボクの視点で左から2列目にある黄色の印へと足先を移動させる。

 

 よし、あともう少し……! ところが──

 

 

 

「いっ!?」

 

 

 

 一瞬、気が緩んだせいか、左足を滑らせてしまった!

 

 右足は中空にあった為、下半身の支えを完全に(うしな)ったボクの身体は、重力に押されてガクンと真下に倒れ込む。

 

 ── 当然ルイくんを下敷きにしてしまう形で。

 

 

 

「んむっ!?」

 

 

 

 くぐもったルイくんの声が耳に入る。

 と、同時にとっさの判断で、ボクはルイくんの後頭部に右手を回した。

 

 直後、下の階に響きそうな鈍い音を()てて、ボクとルイくんの身体がマットの上で(かさ)なった。

 その際ルイくんの頭を(かば)った右手が固い床に当たって、手の甲に衝撃と鈍痛が走る。痛いけどギリギリ間に合って良かった。

 

 

 

 …………ところで、あの、その、そんな事より、えーっと……

 

 先ほどからボクの(くちびる)に、フニフニと柔らかくて温かい『なにか』が押し付けられてる感触がしてるんだけど……

 

 え? これってまさか……ウソだよね? えっ、誰かウソだと言って?

 

 

 

「はーい! セツナくんの負── ……け?」

 

 

 

 近寄ってきたマキちゃんの声が固まった。

 

 そこでボクの両目は反射的に見開かれ、何が起こったのか判明する。

 今ボクの口を塞いでいるのは……

 

 ── ルイくんの口だ。

 

 ボクはルイくんを押し倒して、彼の唇に、自分の唇を深く重ねていた。

 

 (よう)するに、男同士で、ガッツリと『キス』してしまっていたんだ……ッ!!

 

 

 

「…………っ」

 

 

 

 ボクの人生における()()()の事態に(なか)茫然(ぼうぜん)としつつも、ゆっくりと唇を離して数秒間の口づけを終える。

 

 その途端ボクは、事の重大さをようやく察して(はじ)かれた様に身体を跳ね起こした。

 そしてボクとルイくんは──

 

 

 

「「 〇Χゑ☆◆♂#ω△■ッ!?!? 」」

 

 

 

 と、二人一緒に声にならない悲鳴をリビングに響かせた。

 

 

 

(えっ、な、ボク今、き、キス……ルイくんと……し、しちゃったの!? えええっ!?)

 

 

 

 ボクは口元を手で覆って、同性とキスしたショックからか大混乱に(おちい)る。

 普段決闘(デュエル)ですらこんなにパニクる事そうそう無いのに……てか顔が熱い!

 

 すると、間近でボク達のキスの現場を目撃したマキちゃんが、ワナワナと身を震わせて……

 

 

 

「……セ……セ、セッ……! セツ × ルイ! キターーーーーッ!! リアルBL展開キタァァァァァッ!!」

 

 

 

 何故か大興奮し始めた。

 そんなマキちゃんの横で、アマネ、コータ、ケイくんの3人は冷ややかな目でこちらを見ていた。

 

 

 

「セツナ……いくらなんでもそれはナイわよ」

 

「マ、マジでやりやがった……!」

 

「あ、兄貴……なんつーか、大丈夫か?」

 

 

 

 最後のケイくんの言葉で我に帰り、慌ててルイくんの安否を確かめる。

 

 

 

「る、ルイくん! ごめん大丈夫!?」

 

 

 

 どう考えても大丈夫なわけないのに、そんなこと聞いちゃうくらいボクもテンパってるみたいだ。

 

 ルイくんは足を開いた格好のまま顔が真っ赤になっていて、涙をポロポロと流して半泣きしながら恨めしげにボクを見つめ、震えた声で言った。

 

 

 

「は……はじめてだったのに……!」

 

 

 

 うわああああああやってもうたあああああっ!!!!!?

 

 

 

「キャーッ!! セツナくんがルイちゃんを襲ってるぅーッ!!」

 

MA☆TTE(まって)!! これは事故だっ!!」

 

「おう、(あに)さん……やってくれやがったな」

 

「ハッ!?」

 

 

 

 ケイくんが立ち上がり、ボクを怒りの形相で見下ろしながら、拳をバキボキと鳴らした。

 

 

 

(しまった、ルイくんのセ○ムが発動した……!)

 

「例えセツナの兄さんでも、俺の兄貴を(けが)す事は許さねぇ……!」

 

「はわわわわ……!」

 

「だ、ダメだよケイちゃん! セツナ先輩だって、わざとじゃないんだから!」

 

「け、けどよぉ兄貴! 良いのかよ!? 初めてだったんだろ!?」

 

「そ、それは、そうだけど……」

 

 

 

 カァァッと再び赤面して伏し目になるルイくん。

 

 このまま後輩に庇われていては先輩として……いや、男として立つ瀬が無い!

 

 

 

「本ッッッ当にごめんっ!!」

 

「先輩!?」

 

 

 

 ボクはフローリングに頭を強く打ち付け、ルイくんに土下座した。取り返しのつかない事をしでかしたんだから当然だ。

 

 

 

「お~、修羅場ってるねぇ~」

 

「マキちゃん、あんまり茶化さないの」

 

「せ、先輩、頭を上げてください。何もそこまでしなくても……」

 

「いや、ルイくんを傷物にしてしまったんだ。責任を取らせてほしい。ボクにできる事なら何でもする!」

 

「ん? 今『何でもする』って言ったよね?」

 

「マーキーちゃん」

 

「んもぅ~っ、分かったよぉアマネた~ん」

 

「……分かりました、じゃあ……まずは頭を上げてください」

 

「………」

 

 

 

 ルイくんに言われた通り、頭だけを上げる。

 目の前に立つルイくんは涙目のまま眉を(ひそ)め、ほっぺをプクッと膨らませていた。

 

 お、怒った顔さえ可愛い……だと……!

 

 ルイくんはしゃがんで、ボクの左右の頬を、その小さな両手で包み込む様に優しく挟んだ。

 

 

 

「むにゅ?」

 

「もう、こういう事をしたら『めっ』、ですよ?」

 

「────!?」

 

 

 

 ポカーン……

 

 

 

「僕は怒ってないですから、これで仲直りです。……どうしました?」

 

「ぐっ……! ん"、ん"ん"っ……!!」

 

(かっ、可愛すぎて……心臓が破裂しそう……!)

 

 

 

 (たま)らずダンゴムシみたいに(うずくま)り、ビクンビクンと痙攣(けいれん)しながら身悶える。

 

 『めっ』は……『めっ』は反則だよルイくんんんんっ……!

 

 

 

「る、ルイちゃん、マジ天使……! ガクッ」

 

「あ、観月も死んだ」

 

「いっ、今のはスゴい破壊力だったわね……私も危うく死にかけたわ……」

 

「さ、さすがは兄貴だぜ……! 俺まで怒る気が失せちまった……」

 

 

 

 ルイくんのおかげで、どうにか事態は収束してくれたみたいだね……助かったぁ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続いてマキちゃんが、アマネとツイスターゲームをやろうと言い出したけど即答で却下されたので、ボク達はジュースで乾杯してからお菓子を広げて談笑していた。

 

 

 

「……あ、ねぇ見て見てルイくん! このカード、ルイくんのデッキに使えそうじゃない?」

 

 

 

 ボクは『デュエル・チップス』というポテチの袋に付録されていたカードをルイくんに手渡す。

 

 

 

「【ポテト(アンド)チップス】? わぁ、可愛いモンスターですね」

 

 

 

 ルイくんも可愛いよと言いたいところだけど、本人はそう言われるといつも複雑な(おも)()ちになるのを知っているので、心の中で(とど)めた。

 

 

 

「レベル2だからルイくんなら使いこなせるんじゃないかな。あげるよ」

 

「え? (もら)って良いんですか?」

 

「もちろん。さっきの詫びも兼ねてね」

 

「もう気にしなくて良いですのに……でも、ありがとうございます!」

 

 

 

 ルイくんは嬉しそうにカードを両手で受け取った。気に入ってもらえた様で何より。

 

 

 

「なぁアゲマキ! 決闘(デュエル)しようぜ!」

 

「おっ、良いね。やろっかコータ!」

 

「へへっ、そう来なくちゃな。やっぱあんな大会ずっと観てたら()りたくてウズウズしちまうぜ!」

 

 

 

 決闘(デュエル)と言ってもディスクを使って立体映像(ソリッドビジョン)を出すには、家の中は狭いし危ないので、カーペットにデッキを置いてのプレイだ。

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

「……結局デュエってるし~。ホントに好きだね~、セツナくんも」

 

「仮にも明日(あした)の対戦相手が横にいるってのに緊張感ない奴ね。それを言ったら私もだけど」

 

「あ、そっか。でもアマネたん、半年以上もセツナくんの決闘(デュエル)見てたんでしょ? もう手の内とか知り尽くしてるんじゃない?」

 

「……それがそうでもないのよ」

 

「え?」

 

「セツナのデッキには、あいつが『エース』と呼んでるカードが5枚ある。()わば切り札ね」

 

「あ、それあたしも知ってる~。【ラビードラゴン】でしょ、【トライホーン】でしょ、【ダークブレイズ】でしょ? それから、えーっとぉ~……」

 

「【ホーリー・ナイト・ドラゴン】よ。前に私と()った時に1回だけ使ってきたわ」

 

「そうなの? それは知らなかったなぁ~。んで、あと1枚は?」

 

「分からない。最後の1枚だけは、まだ私も見た事がないの」

 

「あー……なるほどぉ」

 

「……まぁでも、何が来ようが私は必ず勝つわ。── ()()()にだけは……絶対に負けない」

 

「……ふ~ん? じゃあ、あたしは明後日(あさって)の準決勝でリベンジできるのを楽しみにしとくよ~」

 

「えぇ、望むところよ」

 

 

 

 ……アマネとマキちゃんが楽しげに会話してる ── 内容は決闘(こっち)に夢中だったから聞き取れなかったけど ── (そば)で、ボクとコータの決闘(デュエル)も白熱していた。

 

 

 

「── よーし! ボクはこのターン、モンスター2体をリリースして……【ラビードラゴン】を召喚!」

 

「なにっ!?」

 

「攻撃!」

 

「……くそっ! 俺の【ボルテック・ドラゴン】がやられてライフ(ゼロ)だ!」

 

「やったーッ! コータに圧勝~ッ!」

 

「くう~っ! なんで俺はこう……カードの引きが悪いんだぁ~!?」

 

「引きじゃないでしょコータく~ん。腕の差だよ~」

 

「どういう意味だ観月ィーッ! くっそぉ~っ、もう1回だアゲマキ!」

 

「うん、良いよ! そうだ、せっかくだしケイくんとルイくんも混ざらない? バトルロイヤルやろうよ!」

 

「ぼ、僕達も!?」

 

「良いッスね、面白そうだ!」

 

 

 

 ── とまぁこんな感じでワイワイしながら楽しい時間を過ごしていたら、あっという間に時刻は夕方に差し掛かろうとしていた。

 

 もう日が落ちるのも早くなってきた季節なので、(えん)もたけなわ、暗くなる前に帰ろうという事で、祝勝会はお開きとなった。

 

 

 

「お邪魔しやした(あに)さん!」

 

「おじゃましました!」

 

「じゃあ、また明日ね、セツナ」

 

「うん、また明日。コータ、しっかりと女の子を送ってあげてね」

 

「お、おっおう! まま任しとけ!」

 

(うおっしゃああああっ!! アマネさんと一緒に帰れるううううっ!! どうせなら二人っきりが良かったけど!)

 

 

 

 玄関先で手を振り、みんなを見送る。

 

 

 

「バイバ~イ」

 

「アマネたん、まったねぇ~♪」

 

「…………ん?」

 

 

 

 何か違和感を覚え、横を見ると、マキちゃんが当たり前の様にボクと共にみんなへ手を振っていた。

 

 

 

「あれ? マキちゃん? なんでいるの?」

 

「んじゃ、シャワー借りるね~」

 

「ちょ、ええっ!? まさか泊まってくつもり!?」

 

「当ったり前でしょ~? せっかく学園の近くなんだも~ん」

 

「いや……ていうか着替えは!?」

 

「下着の替えは持ってきてるよ~ん」

 

「肌着は?」

 

「セツナくんの借りるからへーきへーき♪」

 

「サイズ合わないでしょ!?」

 

 

 

 言ってる()にマキちゃんは、脱衣場に入り込んでいった。

 

 

 

「行っちゃった……」

 

「セツナ」

 

「あえっ!? や、やぁアマネ、どうしたの? なんか忘れ物?」

 

「私の親友に手を出したら、タダじゃおかないからね」

 

「なんでそうなるのさ!?」

 

 

 

 釘を刺しに来たアマネが帰っていった後、ボクは取り急ぎタンスから引っ張り出してきたTシャツと短パンを持って脱衣場へ向かった。

 

 浴室の中からはシャワーの音とマキちゃんの鼻歌が聴こえる。

 彼女の脱いだ制服と下着に目が行ったのはナイショね……

 

 

 

「マキちゃーん。着替え置いとくね」

 

「はーいありがとう~♪ ねぇねぇ~、今あたし全裸だよ~! 今がチャンスだよ~?」

 

「な゛っ、何がチャンスなのか知らないけど遠慮しておくよ~!」

 

(この扉の奥に裸のマキちゃんが……)

 

「…………」

 

「お? 今、想像したね~?」

 

「!! さ、さぁ何の事やら、あははは(汗)」

 

 

 

 ごめん正直めちゃくちゃ想像した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後……リビングのソファーに腰かけて、テレビを観ていると、ボクの服を着たマキちゃんがバスタオルでピンク色の髪を拭きながら入ってきた。

 

 

 

「ふう~、サッパリした~」

 

「……やっぱり大きいね」

 

「え? 何が? おっぱい? や~ん、セツナくんたらやらしい~」

 

「違うよ服だって! ブカブカじゃん!」

 

 

 

 案の定、男物のLサイズは女の子には大き過ぎた。

 

 ただ、シャツの胸元はマキちゃんの豊満な胸で盛り上がっていて、プリントされているパンダさんのイラストが横に伸ばされていた。……あれ? なんかアマネが初めて(うち)に来た時とデジャヴるな。

 

 

 

「てっきり裸ワイシャツをご所望かと思ってたけど、ふ~ん? セツナくんはこっち派だったか~?」

 

「ワイシャツじゃ袖が長くて邪魔になるかと思っただけだよ」

 

(それに裸ワイシャツなんて刺激的な格好で居られたら、ボクが困るし……いろいろと)

 

 

 

 そう思ってTシャツを着てもらったんだけど、これはこれで……

 

 

 

「これがセツナくんの匂い……くんかくんか」

 

「か、嗅がないでよ!? 恥ずかしいよ!」

 

「ムフフ、現役JKの匂いをたっぷり付けといてあげるから感謝してよね~?」

 

()(づら)の犯罪臭がスゴい……」

 

「髪(かわ)かして~」

 

「はいはい」

 

 

 

 ドライヤーの温風をマキちゃんの濡れた髪に当てる。

 

 

 

(……こうしてると、甘えん坊な妹ができたみたいだね)

 

 

 

 そう考えると何だか愛らしく思えてきて、ボクはクスッと微笑んだ。

 

 

 

「熱くない?」

 

「ん~、大丈夫~」

 

 

 

 マキちゃんは髪が短めだから、綺麗なうなじをずっと見てられる。

 

 

 

(無防備だなぁ……)

 

 

 

 ボクがもう少し堪え性の無い男だったら、何をしてたか分からないよ?

 いや、もちろんアマネに殺されたくはないから何もしないけどさ。

 

 

 

「はい乾いたよ」

 

「ありがとね~ん」

 

 

 

 その()二人で夕食を済ませてからボクもシャワーを浴びた。

 マキちゃんが「お背中お流ししましょうか~?」と言って、また入ろうとしてくるのを丁重にお断りしながら身体を洗い終え、バスタオルで拭いて部屋着を着て、髪をドライヤーで乾かした。

 

 リビングに戻るとマキちゃんはソファーに体育座りして、携帯端末を(いじ)っていた。

 

 ……と、ここでボクはある事に気づく。

 

 

 

「……ん? んんんっ!?」

 

「どしたのセツナくん?」

 

「な、なんで下脱いでるのマキちゃん!?」

 

 

 

 マキちゃんは履いてた筈の短パンを脱いでいた。

 ダボダボなTシャツの(すそ)から伸びている、素肌を惜し気もなく()き出しにした生足の、しなやかな太ももが眩しい。

 これ正面に回ったら絶対パンツ見えちゃうよね……!

 

 

 

「あ、ごめ~ん。やっぱずり落ちちゃうから脱いじゃった。そこに畳んで置いてあるから」

 

「脱いじゃったって……女の子が一人暮らしの男の家で、そんなに肌(さら)してたら危ないよ?」

 

「なになに? もしかしてあたし襲われちゃう? きゃ~っ!」

 

「襲わないよ!?」

 

 

 

 冷蔵庫を開けて、祝勝会で飲み切れずに余ったペットボトルを取り出し、開栓して飲む。

 あ~、お風呂上がりのジュースは美味し──

 

 

 

「フフフ、あたしは別に大歓迎だよ~? セツナくんが()()()って言うなら」

 

「ンゴフッ!?」

 

 

 

 マキちゃんの爆弾発言を食らって、飲んだものを盛大に吹き出した。

 

 

 

「ゲホッ! な、なに言い出すのさ!?」

 

「あははは! セツナくん面白ーい!」

 

 

 

 か、完全にからかわれてる……!

 

 

 

「で、シたいの? セツナくんは」

 

「し、しないよ」

 

「え~? こんなチャンス滅多にないよぉ? (のが)しちゃっていいの~?」

 

 

 

 イタズラっぽく笑いながら誘惑してくるマキちゃん。久々に小悪魔全開だ。

 

 

 

「そ・れ・と・も~……」

 

 

 

 理性をフル稼働させて必死に自制心を保とうとするボクに、マキちゃんはソファーから立ち上がってダメ押しを仕掛けてきた。

 

 

 

「マ、マキちゃん!?」

 

 

 

 ボクの右腕に自分の両腕を絡ませて抱きつき、胸を押し当ててきた。

 

 

 

「あたしの身体って……魅力ない?」

 

「ッ……!」

 

 

 

 魅力がないなんてとんでもない!

 

 腕から伝わる柔らかい感触。さらに体格より一回(ひとまわ)り大きいサイズのシャツを着ている為、下着をつけていない胸の谷間が露出していて、視覚からもボクの理性を崩しにかかる。

 オマケに上目遣いで桃色の瞳を潤ませて誘ってくるというトリプルコンボをお見舞いされては、男なら誰もが魅了されること間違いなしだ。

 

 

 

「や……でも……アマネに手を出すなって言われたし……」

 

「いいじゃん♪ そんなの黙ってればバレないよ~」

 

「そ、そんな……!」

 

 

 

 本気なのか!? ボ、ボクは一体どうすれば……!

 

 脳内で悪魔が(ささや)く。本人が良いって言ってるんだから、この際イケるとこまでイってしまえよ、と。

 ()(ぜん)食わぬは男の恥だぞ、と。

 

 途端に身体の芯に熱が集中するのを感じた。

 思わず喉を鳴らす。ボクが沸き起こる情欲に負けそうになりかけた、その瞬間──

 

 

 

「……ぷっ、あははははっ! ごめんごめん、冗談だよ~!」

 

「……え?」

 

「いや~、あんまりセツナくんの反応が面白いからさぁ、ついからかいたくなっちゃった」

 

「っ……はぁ~~~~っ」

 

 

 

 一気に緊張が緩んだボクは、ソファーの背もたれにグッタリと()()して長いため息をついた。テレビでよく観るタチの悪いドッキリを受けた気分だ……

 

 ホッとした、けど……ちょっと残念な気もしてしまうのは、男の(さが)ってヤツだろうか。

 

 

 

「今は大事な選抜試験中だもん。あたしだってそれくらい(わきま)えてるよ」

 

(それにワニ嬢ちゃんにも悪いしね~)

 

「良かった……それを聞いて心底安心したよ……」

 

「プププ、期待しちゃった?」

 

「……あれだけ誘っておいてその言い草はないよマキちゃん……」

 

「ごーめんって~! 顔真っ赤っかで可愛かったよぉ~?」

 

「むう~~~っ」

 

 

 

 むくれるボクの頬を、マキちゃんはカラカラと笑いながら指でプニプニつついた。あぁ、なんかルイくんの気持ちが少し分かったかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくマキちゃんと一緒にテレビを観たり、雑談や、今日の大会の感想と明日への意気込みとかを語り合ったり、ルイくんとキスした事故をネタに『薄いブックスが厚くなる~♡』とか()()されたりしている内に、気づけば()()けてきた。

 

 ふと時計に目をやる。もうこんな時間か。ボクは小さくあくびをした。

 

 

 

「ふあ……そろそろ寝るかな~」

 

「あたしも寝る~」

 

 

 

 との事なので二人で寝室に入り、クローゼットから敷き布団を取り出して床に敷く。

 

 

 

「マキちゃんはベッド使っていいよ」

 

「わぁ~い! ふかふか~!」

 

 

 

 嬉しそうにベッドの上で寝転ぶマキちゃん。

 

 室内を消灯してボクも敷き布団で(とこ)に就く。

 

 

 

「おやすみ、マキちゃん」

 

「……ねぇ、一緒に寝ないの?」

 

 

 

 ……またヤバイこと言い出したよ、この子は。

 

 

 

「と、隣で寝てるじゃん」

 

「分かってるくせに~。同じベッドでって事だよ~」

 

「……こ、この期に及んで、まだ誘惑するの?」

 

「え? 普通に添い寝するだけだよ?」

 

「あ……」

 

「一体ナニをされると思ったのかな~? セツナくんのエッチぃ~♡」

 

「うぅ……マキちゃんのイジワル……」

 

「冗談だってば~。ね、何もしないからさ、一緒に寝ようよ?」

 

「…………」

 

 

 

 い、良いんだろうか? 付き合ってるわけでもない女の子と同衾(どうきん)なんてしちゃって……

 

 

 

「来ないならあたしがそっちに夜這いしちゃうよ~?」

 

 

 

 ……どうやら拒否権は無いらしい。

 

 

 

(── ち……近すぎる……!)

 

 

 

 シングルのベッドに男女が(とも)()したら、当たり前だけど狭い!

 

 さっきリビングでくっつかれた時以上に、互いの身体が密接に寄り添い合っている。

 これなんてラブコメ? こんなの、ドキドキして寝れる気がしない……!

 

 

 

(……あ……でも……もう眠い……)

 

 

 

 意に反して早くもウトウトしてきた。

 よっぽど疲れてたみたいだね……これならすぐに眠れそうだ。

 

 今日は本当に長くて濃い1日だったな……

 

 そのまま睡魔に身を(ゆだ)ね、ボクは重いまぶたを静かに閉じた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……セツナく~ん……寝た?」

 

「スゥ……スゥ……」

 

「…………」

 

(おやすみのチュウ♡)

 

「ん……」

 

(フフ、かわいい寝顔♪)

 

 

 

 





 デュエル無しと予告しておきながら、ちゃっかりデュエってた……

 はい。と言うわけで、とうとう作者やらかしてしまいました。ルイくんごめんよおおおお;;

 本作を書き始めた当初は、遊戯王だしあんまりBLとか、性的な表現は避けた方が良いのかもと考えてたんですが、結局ガマンできませんでした……orz

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