遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

43 / 60

 ※また注意。

 冒頭が若干エロくなってしまいました。あとまたBL的な表現が入ってしまいました。デュエルは終盤から始まります。

 これがキャラが勝手に動くという現象か……(?)



TURN - 43 SAMURAI vs Emperor - 1

 

 むにゅん。むにむに。

 

 

 

(…………あれ……なんだろう……この柔らかいの……)

 

 

 

 微睡(まどろ)みに漂うおぼろげな意識で、ボクは自分の右手が何かを()んだ触感を知覚した。

 

 柔らかくて、それでいて張りと弾力があって……少し力を込めてみると、()()が沈み込むのが分かる。

 

 触り心地の良さに、夢中でそれを揉みしだいた。

 

 どれくらいそうしていただろう……

 

 

 

(あれ……ここだけ飛び出して……ちょっと固い……)

 

 

 

 ふと、手の平に小さな突起物が当たる感触がした。

 

 本当にこれは何なんだろう?

 そろそろ正体を確かめようと、閉じていたまぶたをゆっくり開く。

 

 最初はボヤけていた視界が徐々にクリアになり、とうとう手の先にある何かを鮮明に認識した。

 

 

 

(…………え?)

 

 

 

 そこに()ったのは、ピンク色のミディアムショートヘアの美少女── ()(づき) マキノこと、マキちゃんの、可愛らしい寝顔だった。

 

 ボクと同じ布団を被って(すこ)やかな寝息を立てている。

 

 

 

(……あー、そっか。泊まりに来てたんだ)

 

 

 

 思い出した。昨夜、この家で選抜デュエル大会の祝勝会を開いた後、急に泊まるって言い出したんだっけ。

 そうだそうだ。それで()()曲折(きょくせつ)あって、一緒に寝る事になったんだ。

 

 

 

(── って、そうじゃなくて!!)

 

 

 

 ここでボクの頭は冷や水を顔に浴びた時みたいにパチッと覚醒する。

 

 つまりさっきからずーーーっとボクが触り続けていたのは……!

 

 

 

(む、胸……!!)

 

 

 

 布団に覆われて見えないけど、手の位置と感触からして、間違いなくボクはマキちゃんの胸を鷲掴(わしづか)んでいる。現在進行形で。

 

 しかも……シャツを着ていた筈なのに、それを触ってる触覚は無い。

 

 人肌の体温が、(じか)に手の平いっぱいに広がっているというか──

 

 

 

(ま、まさか!?)

 

 

 

 イヤな予感がしてガバッと飛び起きた拍子に、布団が捲り上がる。

 

 その下から(あらわ)になったマキちゃんの上半身は── 服を着ていなかった。

 

 (きぬ)の様に(なめ)らかで瑞々(みずみず)しい肌が。

 鎖骨の下から上向きに、大きな曲線を(えが)く丸い双丘(そうきゅう)が。

 その頂点に低く突き出た、小さな桜色の(つぼみ)までもが。

 

 余すところなく、(さら)け出されていた。

 

 

 

(お……おっぱ……!)

 

「にゅわぁぁぁぁあ~~~~~っ!?」

 

 

 

 ()くして、なんとも情けない悲鳴を上げながら、ボクはベッドから転げ落ちたのであった。

 

 

 

「……ん……寒~い……」

 

 

 

 急に布団を剥がされたマキちゃんは、モゾモゾと身体を丸めて身震いした後、()(だる)そうに起き上がった。

 

 

 

「あ、セツナくんおはよ~。……何してんの?」

 

「お、おはよう……じゃなくて! なんで服着てな── って、パンツまで穿いてないし!?」

 

 

 

 そうなのだ。マキちゃんはどこからどう見ても生まれたままの姿……すなわち、全裸だった。

 

 

 

「だってあたし寝る時は裸だも~ん」

 

「ていうか隠して! その……ぜ、全部、見えてるから!」

 

 

 

 両手を前に出して目を()らすも、悲しきかな男の本能には(あらが)えず……視線はマキちゃんの(いっ)()まとわぬスレンダーな()(たい)にチラチラと向いてしまう。

 

 彼女は髪が長くないので、マンガみたいに大事なところが前髪で上手いこと隠れたりしない。

 

 その為、今みたいにベッドから降りて、目の前で仁王立ちして──

 

 

 

「んん~~~っ」

 

 

 

 と、バンザイしながら大きく伸びをされようものなら、マキちゃんの裸体が全て見えてしまう。

 

 ぽよんと揺れる()(ふさ)も。

 つるつるの(ワキ)も。

 キュッとくびれのある腰も。

 おへそと、その下……()(ふく)()の中心も──

 

 

 

(っ~~~!!)

 

 

 

 ()()まで視線が下降したところで、さすがに今度こそ顔を(そむ)けた。

 

 

 

(あ、朝から刺激が強すぎる……!)

 

「は、早く服着て!」

 

「は~い♪」

 

「お、お尻をこっちに向けないで!」

 

 

 

 小さいお尻を突き出して、見せつける様にフリフリと振ってきたので、急いで寝室から脱出する。

 

 わざとか!? わざとやってるのか!?

 

 おかげさまで眠気なんてオゾンより上まで吹っ飛んだ。

 洗面所に逃げ込んだボクは、蛇口(じゃぐち)の水を流したまま口元を右手で覆って固まっていた。

 

 

 

(……うっわぁ~~~っ……! 女の子の(なま)の裸……ガッツリ見ちゃったよ……)

 

 

 

 網膜(もうまく)を通り越して脳裏にまで焼きついてしまった。

 どうしよう……今日の試合中にマキちゃんの裸がチラついて、プレイングが乱れて負けるとかなったらアホの極みだ。しかも対戦相手はアマネだし。

 

 ……ふと、右手をジッと見つめてワキワキさせる。

 

 寝ぼけていたとは言え、この手でマキちゃんの胸を揉み続けていたのか……

 

 も、もしかすると、一晩中……

 

 

 

(っ……ダメだダメだ! 切り替えなきゃ!)

 

 

 

 何度も顔に水をかけて煩悩を洗い流す。

 

 

 

「……よし! もう大丈夫──」

 

「セツナく~ん、このエッチな表紙の本は何かな~?」

 

「ギャーーーーッ!! なんでッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はアリーナ・カップ2日目。

 

 開会は午後なのでボクとマキちゃんは、午前中はボクの家でゆったりと過ごし、昼前に登校した。

 

 教室に入ると、クラスメート達が挨拶とエールを送ってくれた。今日も張り切っていこう。

 

 

 

「うぃーっす、アゲマキに観月」

 

「おはようコータ」

 

「おはよ~」

 

「よぉよぉアゲマキィ~……」

 

「?」

 

 

 

 コータが何やらニヤニヤしながら、ボクと肩を組んできた。

 

 

 

「夕べはどうだったんだよ~?」

 

「どうって……何が?」

 

「とぼけんなよ、観月が泊まってったんだろ? 何かなかったのかよ?」

 

「……別に何もなかったよ」

 

「な、なにぃ~~~っ!? 女子と一つ屋根の下で一晩過ごしといて、何のイベントも無かったってのか!?」

 

 

 

 本当はエロゲ……もとい、ギャルゲーみたいなイベントが盛りだくさんだったよ……

 

 

 

「ま、まさかお前……実は()()()系か? そういやルイとキスしてたし……」

 

「違うから!? 恥ずかしいこと思い出させないでよ!」

 

 

 

 ルイくんとキスは確かにしちゃったけど、アレは事故だからね!?

 

 

 

「セツナ、おはよう」

 

「あ、おはよう、アマネ」

 

「……」

 

「ん?」

 

 

 

 アマネはジッとこっちを見てきたかと思うと、突然ボクの首元に顔を近づけてきた。

 

 

 

「ア、アマネッ!?」

 

「……マキちゃんの匂いがする。あんた何かした?」

 

「ええっ!?」

 

 

 

 い、言えない……! 一緒に寝た上に胸を揉みまくって全裸まで見て、ついでに性癖(せいへき)も把握されたなんて……!

 

 

 

「ウフフ、熱い夜だったよ~、アマネたん」

 

「マキちゃゃゃゃゃんッ!?」

 

「あんなに激しかったの……あたし初めて……♡」

 

 

 

 頬を赤らめてうっとりした様な笑顔を見せるマキちゃん。こ、この小悪魔ちゃんはホントにもう~~~っ!

 

 

 

「……ふ~~~ん?」

 

「ご、誤解だよアマネ! これには深い()()が……!」

 

「へぇ、どんな理由があるっての? 詳しく聞かせてもらっていいかしら?」

 

 

 

 ヤバイ、アマネの紅い眼が笑ってない!

 

 

 

「言ったわよね? マキちゃんに手を出したら許さないって」

 

「いや! 手は出し──! ……た、かも知れないけど……」

 

「ちょっとこっち来なさい!!」

 

 

 

 ボクのネクタイをアマネに掴まれ、力強く引っ張られる。

 

 

 

「うわ、ちょ、待って……!」

 

 

 

 よろけながら連行されるボクを見て、クラスメート達はざわついた。

 

 

 

「なに? ()()ゲンカ?」

 

「お、ついに修羅場か? 生きて帰ってこいよ~」

 

(アゲマキの奴……いいなぁ~! 俺もアマネさんに引っ張られてぇ~!)

 

 

 

 うぅ、みんなの視線が痛い……こういう目立ち方が一番苦手なんだよね。

 

 そのまま教室を出ると、廊下の(すみ)まで連れてかれた。

 マキちゃんも憎たらしいほどニコニコしながら同行してきている。

 

 

 

「……さて、弁明があるなら言ってみなさい」

 

「あー、なんと言うか……いや、手を出したと言っても……いっ、一線は越えてないんだよ。本当だよ?」

 

 

 

 怖い顔しているアマネの後ろで、マキちゃんが笑いを(こら)えてるのが目に入った。女の子じゃなかったら文句の一つでも言ってやりたいところだ。

 と言うか何が悲しくて、こんな浮気性のダメ男みたいな弁解をしなきゃならないのか……

 

 

 

「……本当に?」

 

「う、うん、本当の本当に!」

 

「……そう、なら良いわ」

 

「ありゃ? 案外あっさり許すねアマネたん」

 

「どうせまたアンタが変なイタズラしたんでしょ?」

 

「アハッ☆ バレた?」

 

 

 

 ペロッと舌を出してウィンクし、あざといポーズを取るマキちゃん。アマネは呆れたと言った感じで、ため息をついた。

 

 

 

「セツナ、()()にも言ったと思うけど……あんまりマキちゃんを調子に乗らせると、いつか大変な事になるわよ」

 

「そ、そうだったね。心するよ」

 

「じゃ、そろそろ行くわよ二人とも」

 

「どこに?」

 

「決まってるでしょ、控え室」

 

 

 

 あ、そっか。試合に出場する選手は開会の前に集合しとかないといけないんだっけ。

 

 アマネについていこうとした時、マキちゃんが呟いた。

 

 

 

「信頼されてるね~、セツナくん」

 

「えっ? そうなの?」

 

 

 

 マキちゃんは人差し指をクイクイ曲げながら、ボクの顔を見上げてきた。

 

 耳を貸せって事か。

 ボクが頭を差し出すと、マキちゃんは耳元で、こう(ささや)いてきた。

 

 

 

(シたくなったら、いつでも言ってね♡)

 

「ッ!!!?」

 

 

 

 ボフンと顔を赤くし、(くち)をパクパクさせるボクを置いて、マキちゃんは鼻歌交じりに小走りでアマネの元へ駆け寄った。

 

 

 

(んなななっ……! またなんてこと言い出すの、あの子はぁ~~~っ!?)

 

「セツナ、何してるの? 置いてくわよ」

 

「あ、う、うん……今、行くよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 控え室には、すでにボクら3人以外の出場者が全員揃っていた。

 

 豹堂(ひょうどう)くん、ヨウカちゃん、狼城(ろうじょう)くんに、九頭竜(くずりゅう)くん。

 

 そして……カナメ。5人とも3年生で、十傑(じっけつ)だ。

 

 

 

「おっ、やっと来おったな? ルーキーズ」

 

 

 

 最初に声をかけてきたのは、糸目でダークブラウンのショートヘアの青年── 豹堂 武蔵(ムサシ)くんだ。

 

 

 

後輩(2年)先輩(3年)より後に来るんは感心せんで~?」

 

「ごめんごめん。つい話し込んじゃってさ」

 

「ウハハ。なんや、試合前にイチャついとったんか?」

 

 

 

 冗談めかす豹堂くんに、ボクは苦笑いしか返せなかった。

 

 

 

「狼城センパーイ。今日はよろしくです~」

 

「ん? おぉ~……── って、んんっ!? 今日の相手お嬢ちゃんか!? てこたぁキヨマサのヤツ負けたのかっ!?」

 

 

 

 気づいてなかったの!? まぁ狼城くん寝起きだったからね、あの時。

 

 

 

「カナメ、おはよう。いや、こんにちはかな?」

 

「あぁ、こんにちは」

 

「……!」

 

「どうした?」

 

「いや……カナメって普通に挨拶できたんだなって……」

 

「フッ、これでも礼節はそれなりに心得ているつもりだ。お前と違って敬語も使えるしな」

 

「……それを言われちゃぐうの()も出ないね……」

 

 

 

 次はカナメと向かい合う位置のソファーを独占してふんぞり返っている、九頭竜くんに挨拶する。

 

 

 

「九頭竜くんも、こんにちは」

 

「あ"ぁ?」

 

(こわ)っ! やっぱりダメか……)

 

「セツナちゃ~ん? アタシには挨拶してくれないのかしらぁ?」

 

「ひえっ!?」

 

 

 

 紫がかった暗めな青色の髪を(なび)かせる美()()── 蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()ちゃんに、背後から抱き締められた。

 

 

 

「や、やぁ、ヨウカちゃん。こ、こんにちは……」

 

「あら、思ったよりイイカラダしてるじゃない」

 

 

 

 ヨウカちゃんの右手がボクの胸板をまさぐり、左手は脇腹から腰にかけて、いやらしい手つきで撫で下ろして、挙げ句お尻まで揉んできた。

 

 

 

「ちょ、どこ触って……あっ……!」

 

「フフッ、やっぱりイイお尻してるわぁ~。……フウッ♡」

 

 

 

 さらには耳に、息を吹きかけられた。

 

 

 

「ひゃああぁっ!?」

 

 

 

 ゾワワワッと全身に鳥肌が立つ。

 しかも今のボクの甲高(かんだか)い悲鳴を、この部屋に居る全員に聞かれたと思うと、スゴく恥ずかしくなってきた。

 

 

 

「ンフッ、顔も声もカワイイわねぇ~。どう? 今夜オネエさんと、『イイコト』しなぁ~い?」

 

「い……イイコトって?」

 

「決まってるでしょ~? 夜の決闘(デュエル)よ♡」

 

「え、遠慮しておくよぉ~ッ!」

 

「あ、蝶ヶ咲センパイ聞いてくださいよ~。セツナくん昨日、後輩の男の子と──」

 

「マキちゃんお願いだから静かにッ!!」

 

 

 

 こんな状況でそれを(ばく)()されたら、色んな意味で大変な事になる!! 特にカナメにだけは絶対に知られたくない!

 

 

 

「あーあ、捕まっちったかセツナ君。ごしゅーしょーサマ」

 

「ろ、狼城くん助けて~!」

 

「オレに構わず続けてくれや」

 

「そんなぁ~!?」

 

 

 

 狼城くんは愉快そうにニヤけながら静観しているだけで、明らかに助ける気ゼロだ。

 

 

 

「ア、アマネ……!」

 

 

 

 こうなれば最後の希望!

 恐らくこのメンツでは一番の常識人であろうアマネに救いを()おうと、彼女の名を呼ぶ。ところが──

 

 

 

「気に入ってもらえて良かったわね♪」

 

「アマネまでぇぇーッ!?」

 

 

 

 残酷なくらい良い笑顔で突き放された。もしかしてマキちゃんに手を出した罰!?

 

 

 

「怖がらなくてイイわよぉ? すぐ気持ち良くシてアゲルから」

 

 

 

 耳元でそんな色っぽい低音イケメンボイスで喋られると、ゾクゾクしてしまう。

 

 

 

「ジュルリ♡」

 

(ひええっ!? 耳元で舌なめずりしないでぇーッ!)

 

 

 

 続いてヨウカちゃんは、ブレザーの下に差し入れた右手の指先で、ワイシャツ越しにボクの胸の突起を探り当てると、それを(いじ)くってきた。

 

 

 

「っあッ!?」

 

 

 

 弱い痺れみたいな感覚が胸から走り、身体がビクッと小さく跳ね、変な声が漏れた。

 

 自分でも滅多に手が()れないところを初めて他人に(さわ)られて、未体験の感覚に困惑する。

 

 

 

「ちょっとヨウカちゃ── ひゃんッ!?」

 

 

 

 これにはさすがに本気で抗議の声を上げようとするも、突起をこねくり回されたり指の腹で押し潰されるせいで、ほとんどまともに言葉が出ない。

 

 

 

「ンフフ。感じちゃってカワイイ♡ ココが弱いのね?」

 

「かっ、感じてなんか……!」

 

「蝶さん真っ昼間からキツイもん見せんといてやぁ~。男同士でチチ()()うとるん見せつけられても女子しか喜ばへんて」

 

「あら心外ねぇ~、ムサシちゃん。アタシだってココロは女子よ? それにこの子の反応ったら初々(ういうい)しくて、ついイジメたくなっちゃうわぁ~♡♡♡」

 

()おおおおっ!! オネエ系イケメン攻めと、ノンケの童顔メガネくん受け! また薄いブックスが厚くなるよアマネたん! ごちそうさまです!」

 

(……私も悪ノリしちゃったけど、そろそろセツナがかわいそうだし()めた方が良いかしら)

 

「あん♡ 逃げちゃダーメ♡ そんなに嫌がられたら、ますますコーフンしてきちゃうわ♡」

 

「やだやだ! 誰か助けてぇーっ!!」

 

 

 

 ガシャンッ!!!

 

 

 

(──!?)

 

 

 

 突然ガラスの割れる様な音が鳴り、騒がしかった室内は一瞬にして静まり返った。

 

 同時にボク達の視線は、音の発生源に集中する。

 

 そこには── 九頭竜くんが片足を、テーブルの上に乗せていた。

 

 そして履いている(くつ)のカカトの下では、飲みかけだったグラスが粉々に壊れた状態で転がり、破片を卓上に散らしている。

 一目で彼が踏み砕いたんだと(わか)った。

 

 

 

「……ギャーギャーうるせぇぞバカどもが。遊び半分で来てんなら帰りやがれっ」

 

 

 

 その怒声は張り上げたわけでもないのに、部屋中に重く響いた。

 

 

 

「……ごめんねぇセツナちゃん。ついヒートアップしちゃったわ」

 

 

 

 ヨウカちゃんがパッと両手を離してボクを解放してくれた。

 

 

 

「あ、うん……」

 

 

 

 ……これは九頭竜くんが助けてくれたと解釈して良いのかな?

 

 それにしても、なんか選抜試験が始まってから、ろくな目に遭ってない気がするな……いや、今に始まった事ではないか……

 

 

 

「……一刻(いっこく)も早く俺を倒したいという顔だな、九頭竜」

 

 

 

 目の前でグラスが叩き割られてもビクともせず、平然と紅茶を味わっていたカナメが、ティーカップを受け皿に置いて九頭竜くんにそう話しかけた。

 

 

 

「……あ?」

 

(あせ)らなくとも、()()になれば闘えるだろう? 最も、お前が今日の試合に勝てばの話だがな」

 

「……どういう意味だ鷹山(ヨウザン)てめぇ……俺が万が一にも敗けるとでも思ってんのか?」

 

「目の前の相手に集中できなければ、な」

 

「なんだと……!」

 

 

 

 二人の間に一触即発の空気が流れる。するとそこに、ヨウカちゃんが割って入った。

 

 

 

「カナメちゃんの言う通りよぉ、キョーゴちゃん? 今日のアナタの相手は、ア・タ・シ♡」

 

 

 

 キレ気味な九頭竜くんに臆するどころか気安く近づくヨウカちゃん。彼……いや、彼女(?)も、大したタマだ。

 

 

 

「アタシとのお楽しみの最中に、他のオトコの事なんて考えちゃヤーよ?」

 

「寄るんじゃねぇ、クソオカマ野郎が。てめぇなんざとっとと撃ち殺してやる」

 

「……あらあら、怖い」

 

 

 

 ヨウカちゃんは自分の唇に指先を当てて妖艶(ようえん)微笑(ほほえ)んだ。

 二人して九頭竜くんを変に(あお)らないでよ。おっかないなぁ……

 

 と、その時ドアがノックされ、スタッフさんが入ってきた。

 

 

 

「── 皆さま、おはようございます。間もなく開会しますので、第1試合出場者の豹堂選手と鷹山選手は、会場に移動してください」

 

「お、もう時間かいな。ほな行こか、鷹山の(だん)()

 

「あぁ」

 

 

 

 呼ばれた二人はデュエルディスク片手に控え室を出ようとする。

 

 

 

「しっかし、カナメと当たっちまうたぁ、クジ運悪ぃな、ムサシ」

 

「ホンマやで~、勘弁してほしいわぁ~」

 

 

 

 狼城くんとそんな会話を交わした後、豹堂くんは去り際、ボク達の方に横顔だけ向けて……

 

 

 

「でもまぁ見とき。ワイかて十傑の(はし)くれや」

 

 

 

 口角を吊り上げ、ずっと閉じられていた瞳をうっすら(ひら)き、細目の中から鋭い眼光を覗かせ── こう告げた。

 

 

 

「大人しゅう旦那の噛ませ犬で終わる気なんぞ、さらさら無いで」

 

「っ……!!」

 

 

 

 途端にボクの総身はビリビリと打ち震え、冷や汗が頬を伝った。

 

 豹堂くんの放つ、強烈な威圧感に当てられたんだ。

 

 

 

(スゴい闘気……! カナメと遜色ないレベルの……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レディース・エーン! ジェントルメェ~~~ンッ!! デュエルアカデミア・ジャルダン校・主催! 選抜デュエル大会・本選── アリーナ・カップ! トーナメント2回戦のスタートだァァァァッ!!』

 

 

 

 控え室の大画面テレビにセンター・アリーナの観客席を埋め尽くすオーディエンスが、大歓声を上げる様子が映し出される。

 

 

 

『おぉ~~~っ! 昨日に負けず劣らずの大盛況ッ! 今日もその調子で最後まで盛り上がってこうぜぇッ!! そんじゃあ早速、第1試合の出場者を紹介するぞっ! 拍手で迎えてくれぇーッ!』

 

 

 

 昨日と同じくスモークによる派手な演出を合図に、歓声と拍手に歓迎されながら、本日のトップバッター2名が入場した。

 

 

 

『まず一人目は言わずと知れた〝学園最凶〟! 今日も我々に、その常軌を(いっ)した強さを見せつけるのか! 3年・十傑! 鷹山 要ェェーッ!!』

 

 

 

 いきなり優勝候補が登場して場内は大いに沸き立った。そして反対側からは、豹堂くんも姿を見せる。

 

 

 

『だがしかーしッ! 今日の相手は一味(ひとあじ)二味(ふたあじ)も違うぜ! なんてったって鷹山選手と同じく十傑の称号を持つ決闘者(デュエリスト)! トーナメント1回戦では次期十傑候補生をも瞬殺した実力も()ることながら、敵に心理を悟らせぬ笑顔のポーカーフェイスが曲者(くせもの)だ! 3年・十傑! 豹堂 武蔵ィィーッ!!』

 

「ウハハー。実況さん、あんま持ち上げんでくれやぁ~。これでワイが瞬殺されたらこっ()ずかしいやんけ」

 

「ならせいぜい瞬殺されないよう頑張ることだ。そうだな……5ターンも()てば、上出来と言って良いだろう」

 

「……ほぉーん? ワイを負かすんに5ターンもかからんっちゅーんか? ── あんたはあんたで、あんまワイを見くびん方がええで?」

 

 

 

 双方、デュエルディスクを起動させる。

 カナメが十傑と決闘(デュエル)するのを見るのは、今日が初めてだ。正直カナメが負けるところは想像し(がた)いけど、一体どうなることやら。

 

 

 

『鷹山選手にとっては(こん)大会では初めての十傑との試合! 1回戦の様に磐石な勝利を収めるのか! はたまた豹堂選手の大どんでん返しが拝めるのか!? それでは行くぞ! アリーナ・カップ2回戦・第1試合! 鷹山 要 vs 豹堂 武蔵!! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 カナメ LP(ライフポイント) 4000

 

 豹堂(ひょうどう) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「先攻はワイやな。手札から永続魔法・【六武衆(ろくぶしゅう)の結束】を発動や! このカードは【六武衆】が召喚・特殊召喚される度に、『武士道カウンター』を1つ置く!」

 

 

 

 豹堂くんのデッキは【六武衆】という、サムライ系のカードを主体に構築されている。

 昨日の鮫牙(サメキバ)くんとの試合で見せた脅威的な展開力が、果たしてカナメにどこまで通用するか。

 

 

 

「ほんで初陣(ういじん)はお前や。── 召喚! 【六武衆-ヤリザ】!」

 

 

 

 青色の鎧兜(ヨロイカブト)に身を包んだ武士が出陣した。得物の長い(やり)を軽々と振り回し、青白く発光する穂先を、カナメに(いさ)ましく差し向ける。

 

 

 

【六武衆-ヤリザ】 攻撃力 1000

 

【六武衆の結束】 武士道カウンター × 1

 

 

 

「ワイはカードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)やで」

 

「……【ヤリザ】か。過去にも【六武衆】使いとは何人か闘った覚えがあるが……そいつをデッキに入れている奴は初めて見たな」

 

「こいつかて六武の家紋()()った立派なサムライや。舐めとると怪我すんで?」

 

「面白い……俺のターン」

 

『さぁ注目の鷹山選手のターンだ! これまでの対戦相手は誰ひとり寄せ付けず、順風満帆(じゅんぷうまんぱん)に勝ち進んできた学園最凶だが、果たして同格の十傑を相手にどう闘うのか!?』

 

「── 手札より、【雷帝(らいてい)()(しん)ミスラ】の効果を発動。このモンスターを特殊召喚する」

 

 

 

【雷帝家臣ミスラ】 守備力 1000

 

 

 

(特殊召喚……いきなりカマす気やな)

 

「そして相手フィールドに、【家臣トークン】を特殊召喚する」

 

「!」

 

 

 

【家臣トークン】 守備力 1000

 

 

 

「さらに【ミスラ】をリリースし── 【雷帝ザボルグ】をアドバンス召喚」

 

 

 

【雷帝ザボルグ】 攻撃力 2400

 

 

 

「来おったな……!」

 

「【ザボルグ】を召喚した時、モンスター1体を破壊する。俺は【六武衆-ヤリザ】を破壊」

 

「させへんで! カウンター(トラップ)発動! 【六尺瓊勾玉(むさかにのまがたま)】! 自分の場に【六武衆】がおる時、相手が発動した破壊効果を無効にし、そのカードを破壊する!」

 

 

 

 【雷帝ザボルグ】の放った(いかずち)は無力化され、逆に【ザボルグ】が破壊された。

 

 

 

「……なら俺はカードを2枚伏せる。これでターン終了だ」

 

『おぉーっと! 豹堂選手、早くも攻め込むかに見えた鷹山選手の動きを、たった1枚の(トラップ)カードで止めてしまったァーッ!! さすがは十傑! いかに相手が学園最凶と言えど、思い通りには行かせないッ!』

 

「ふい~っ、危ない危ない。1ターン(しの)ぐだけでもヒヤヒヤもんやで、ホンマ」

 

 

 

 口を(とが)らせ、腕で(ひたい)の汗を(ぬぐ)う仕草を見せる豹堂くん。ヒヤヒヤと言いつつも、まだ余裕がありそうだ。

 

 

 

「ほな、ワイのターンや、ドロー! 【六武衆-ニサシ】を召喚!」

 

 

 

【六武衆-ニサシ】 攻撃力 1400

 

【六武衆の結束】 武士道カウンター × 2

 

 

 

「武士道カウンターが2つ乗った【六武衆の結束】を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

(……チッ……あの伏せカードをどうにかできるカードが来ぃひんな、しゃーない)

 

「【家臣トークン】を攻撃表示や!」

 

 

 

【家臣トークン】 攻撃力 800

 

 

 

『ここで豹堂選手が攻勢に出たァーッ! 【六武衆-ニサシ】は自分フィールドに他の【六武衆】がいる時、2回の攻撃が可能! 3体のモンスターで計4回の直接攻撃(ダイレクトアタック)が全て通れば、総ダメージは4600!! 鷹山選手のライフポイントを上回るッ!』

 

「ワイにトークン送りつけたんは失敗やったな?」

 

「そう思うなら、攻撃してみるといい」

 

「………」

 

(ハッタリ……ちゅうんは考えにくいわな、旦那に限って。まぁ(わな)を張っとるんやったら、今の内に使わせとけば被害は最小限で済む。そうでないなら、ワイの勝ちや!)

 

「行くでぇ鷹山ッ! まずは【ヤリザ】でダイレクトアタック!」

 

「……単調な攻撃だ。リバースカード・オープン」

 

(ッ! やっぱなんか仕込んどったか!)

 

(トラップ)モンスター・【()(げん)の帝王】を特殊召喚」

 

 

 

【始源の帝王】 守備力 2400

 

 

 

『鷹山選手、(トラップ)モンスターを盾にしたー! この手があったかぁ~ッ!』

 

「残念だったな。そのモンスター達ではこいつは倒せない」

 

「……残念? そらこっちのセリフやで」

 

「なに?」

 

 

 

 攻撃は中断されるかに思えた。

 ところが次の瞬間── 【六武衆-ヤリザ】は、驚きの行動に出た。

 

 

 

「!」

 

 

 

 眼前に立ち塞がった【始源の帝王】の真横を、すり抜けてしまったんだ。

 

 

 

『ス、スルゥーーーッ!? 【六武衆-ヤリザ】、敵モンスターを無視して鷹山選手に突っ込んだァーッ!!』

 

「知らんかったみたいやな! 【ヤリザ】は味方の【六武衆】がおる時、ダイレクトアタックできるんやで!」

 

 

 

 障害を突破した【ヤリザ】は、見る見る内にカナメとの間合いを詰めていく。

 

 

 

『こ、これはまさかぁーっ!?』

 

 

 

 そのまま【ヤリザ】の槍が── カナメの身体を刺し貫いた!

 

 

 

「……!」

 

 

 

 カナメ LP 4000 → 3000

 

 

 

『ッ……き、決まったァァァァッ!! ついに! 今大会、初めて鷹山選手のライフが削られたァァーッ!!』

 

 

 

 大興奮な実況に釣られて観客もスタンディングオベーションを起こした。

 

 ボクの知る限りでも、カナメがダメージを受けるどころかライフが初期値の4000から変動するところすら、今まで見た事は無かった。

 

 

 

「言うたやろ? 舐めたらアカンて」

 

「…………フフッ……」

 

「ん?」

 

「見事だ、豹堂」

 

「っ……!!」

 

 

 

 カナメの顔つきが変わった。画面越しでも押し潰すかの様なプレッシャーがビシビシと伝わってくる……!

 

 

 

「今回は少しばかり(たの)しめそうだ」

 

 

 

 いよいよカナメが……本気になった──!

 

 

 

 





 マキちゃんが全裸になったりセツナがオカマに襲われかけたり、カナメに初めてダメージを与えたのがまさかの【ヤリザ】だったり、色々と濃ゆい回になった気がします(´゚ω゚`)

 次回、【帝王】vs【サムライ】決着です!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。