遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 選抜デュエル大会編も、いよいよ決勝戦!!

 でも、その前に……



TURN - 54 UNDERDOG MENTALITY

 

 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)── 『アリーナ・カップ』、決勝進出!!

 

 デュエルアカデミア・ジャルダン校が、毎年秋季(しゅうき)に開催する伝統行事(ぎょうじ)にして、ジャルダン最大の規模を誇る決闘(デュエル)イベント・『選抜デュエル大会』。

 

 その本選となる決勝トーナメント── アリーナ・カップの決勝戦(ファイナル)に、半年ほど前に転入してきたばかりで、今年が初めての参戦となる新入生が勝ち上がったと言うニュースは、アカデミアの全校生徒や教師のみならず、街の住人達にも大きな驚きと興奮を与えた。

 

 なにせこれは2年前…… 当時まだ1年生でありながら、十傑(じっけつ)を含む数多(あまた)の上級生達を()()らし、決勝の舞台で対戦した── あの鷹山(ヨウザン) (カナメ)九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)以来の快挙なのだ。

 

 加えて、そんなセツナを決勝にて待ち受けるのが、その二人の内の一人── 鷹山 要だと言うのだから、期待値が最高潮に達した観客達に、眠れぬ夜を過ごさせたのも無理からぬ話というもの。

 

 ── そして準決勝から(いち)()明け……

 

 学園の高等部に在籍する生徒達の中から、総勢500人超が参加(エントリー)し、1週間に渡って激戦を繰り広げてきた大会は……

 

 ついに千秋楽(せんしゅうらく)となる、(なの)()目を迎えたのだった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年の大会期間中は連日晴天(せいてん)に恵まれ、最終日も雲ひとつない秋晴れの(もと)、多くの観客がアリーナ・カップの会場である『センター・アリーナ』に詰めかけていた。

 

 (みな)、常勝無敗の絶対王者に、新進気鋭のスーパールーキーが挑むという、新鮮な構図の対戦カードに興味津々(しんしん)で、カナメとセツナのどちらが勝つかで賭けに興じる者も散見される。

 

 そんな大(にぎ)わいな会場前の様子を…… 隣接(りんせつ)する校舎のルーフバルコニーから、一人の青年が茫然(ぼうぜん)と眺めていた。

 

 

 

「………」

 

 

 

 長く伸びた茶髪を無造作に下ろしたその青年の名は── (おお)() (さぶ)(ろう)()

 

 カナメやセツナらと同じく、今年のアリーナ・カップに出場していた選手であり、学年は3年生。

 

 去年、一昨年(おととし)と予選で(ちから)及ばず脱落するも決して(くじ)けず、持ち前の不屈の闘志で(おのれ)を鼓舞して立ち上がり、三度目の正直でついに本選へと勝ち進んだ、()(とう)不屈の決闘者(デュエリスト)である。

 

 しかし、宿願を果たした喜びも束の間……

 

 満を持して臨んだ1回戦・第1試合において、カナメに圧倒的な才能の差を見せつけられた挙げ句、あからさまに手を抜いたプレイングで、オモチャ同然に(もてあそ)ばれた末、(いっ)()(むく)いる事すら叶わず── 惨敗(ざんぱい)

 

 彼にとって一度きりだったアリーナ・カップは、初戦敗退という無念の結果を残し、(わず)か1日で幕を閉じたのであった……

 

 

 

「総角 刹那…… 初出場で決勝か…… ははっ、スゲぇな…… 俺みたいな凡人とは、大違いだ……」

 

 

 

 乾いた声で笑い、自嘲(じちょう)気味な独り言を呟く大間。

 

 自分が六年も前から出場を(こころざ)し、やっとの思いで辿(たど)り着いた憧れの舞台に、噂に聞いていた転入生は、一度目の参戦で到達した。

 それどころか決勝戦にまで勝ち登り、あの鷹山 要と優勝を巡って決戦する……

 

 もはや大間には嫉妬心など通り越して、眩しく思えてくる存在だ。

 

 (もっと)も今や大間の心は、すでに嫉妬の炎すら灯らないほど、燃え尽きてしまっていたのだが……

 

 

 

「……こんなところで何を黄昏(たそがれ)ている?」

 

 

 

 不意に大間の背中に、男の声がかけられる。

 

 それを聞き取った大間は驚くでもなく、むしろこの声の主を待っていたとばかりに目を閉じた後、ゆっくりと後ろへ向き直り、話しかけてきた男の名を呼んだ。

 

 

 

「……おう、()()…… (ワリ)ぃな、急に呼び出して……」

 

 

 

 大間と対面したのは、深緑色の短髪をセンター分けにし、メタルフレームのオーバル型メガネをかけた理知的な男子生徒── ()() 和正(かずまさ)

 

 大間とは同級生で、彼もまたアリーナ・カップ出場選手の一人だった。

 九頭竜に敗れて大間同様、1回戦で敗退しているが、昨年(さくねん)に引き続き2年連続で本選への出場を経験しており、決闘(デュエル)の実力では、十傑にも引けを取らない。

 

 壬生はメガネのブリッジを人差し指でクイッと上げ、レンズ越しに切れ長の目で大間を見据えると喋り始める。

 

 

 

「ふん…… なんだその姿は? ずいぶんとみすぼらしくなったものだな、大間。まるで(おち)()(しゃ)だ」

 

「ははっ…… そうかもな。……落武者か…… 今の俺にはピッタリな言葉だぜ……」

 

 

 

 普段は長髪を後頭部でひとつに(たば)ねるのが大間のヘアースタイルなのだが、今は髪を()う気力さえ無いのか、毛先が(ちから)なく垂れ下がっている。

 おまけに前髪の隙間から覗く目は、死んだ魚の様に(にご)っていて生気が無い。その有様(ありさま)はまさに、精も(こん)も尽き果てた落武者を彷彿とさせる。

 

 本選初日までの、(あふ)れんばかりに(たぎ)らせていた(とう)()など、壬生には()(じん)も感じ取れなかった。

 

 

 

(……あの目は見覚えがある…… 鷹山 要に負けて心を折られた者は、(みな)同じ様な目をしていた。まさか大間までこうなるとはな……)

 

 

 

 ……期せずして、両者ともに沈黙する。

 

 二人の周囲に他の人影は無く、冷たい風の吹く音だけが、ルーフバルコニーに虚しく響く中……

 

 ── 先に大間が、重い(くち)(ひら)いた。

 

 

 

「………壬生…… お前にだけは、言っておこうと思ってな」

 

「ん?」

 

 

 

 そう話を切り出した数秒後── 大間は衝撃的な一言を口にする。

 

 

 

「……俺さ…… ── 決闘者(デュエリスト)を、辞めようと思う」

 

「っ……!?」

 

 

 

 突然、決闘者(デュエリスト)引退を表明した大間。これには壬生もさすがに驚いた様で目を剥いた。

 

 

 

「なんか…… もう分かっちまった…… 俺みたいな凡人が、どれだけ努力しても…… 才能には勝てっこねぇんだって……」

 

「………」

 

「あとで校長に退学届け出して、街も早めに出て実家に帰るつもりだよ…… すまねぇな、壬生…… こんな形で、お別れになっちまって……」

 

 

 

 訥々(とつとつ)物哀(ものがな)しく別れの挨拶を告げられた壬生は、見開いていた双眸(そうぼう)を細め、もう一度メガネを指先で押すと、呆れた様にため息をついた。

 

 

 

「ふぅ…… 何を言い出すかと思えば…… よほど鷹山に負けたのが(こた)えた様だな。貴様の口から、そんな泣き言を聞かされる日が来ようとは」

 

「あぁ…… 正直、自分でも驚いてるよ」

 

 

 

 大間は再び壬生に背を向け、組んだ腕をバルコニーのフェンスに乗せてから話しを続ける。

 

 

 

「ずっと…… 憧れの決闘王(デュエル・キング)や伝説の決闘者(デュエリスト)達みたいになりたかった…… 努力すれば、天才にだって勝てるって信じて、頑張ってきた…… でも結果はこのザマだ」

 

「………」

 

「結局どんなに努力したって、才能が無きゃ報われない…… それが現実だよ。()()のやってきた事は…… 全部、無駄だったんだ……」

 

 

 

 らしくもない後ろ向きな言葉ばかりが大間の口を()く。学園最凶を相手に、最後まで勇猛果敢に闘い抜いた不屈のチャレンジャーの面影は、もはや欠片(カケラ)も残っていなかった。

 

 あの試合で決闘者(デュエリスト)としてのプライドをズタズタにされ、長年の努力が水泡(すいほう)()したショックは、大間の心に深い傷を刻みつけ、かつての彼を支えてきた雑草(だましい)をも根こそぎ刈り取り、失意のどん底へと突き落としていた様だ。

 

 ── だが……

 

 ここで壬生が『ある事』に気づき、大間へひとつの疑問を投げ掛ける。

 

 

 

「……そう言いながら()()── デッキを持ち歩いている?」

 

「!!」

 

 

 

 壬生の言う通り── 大間は腰のベルトに提げている革製のケースに、デッキを収納し携帯していた。

 

 

 

「退学届けを出すだけならば、デッキなど必要ない筈だ。決闘者(デュエリスト)を辞めると言うのなら、尚更(なおさら)な。── 何故まだ手放していない?」

 

「………っ」

 

「全く…… つくづく呆れた奴だ」

 

 

 

 ここで壬生は()(たび)メガネを押し上げ、大間に呼びかける。

 

 

 

「おい。こちらを向け、大間」

 

「……?」

 

 

 

 言われるがまま大間が振り返ると、壬生は左腕にデュエルディスクを装着し、デッキを差し込んでいた。

 

 

 

「みっ、壬生? 何を……!」

 

「貴様もさっさと構えろ。大方、その足下のカバンには、デュエルディスクも入れてあるのだろう?」

 

「っ!」

 

「本気で退学すると言うのなら止めはしない。貴様の人生だからな。── だが、ならば最後に…… 私と闘えっ!!」

 

「……!」

 

「貴様との腐れ縁に、この決闘(デュエル)でピリオドを打たせてもらう」

 

「っ…… だけど俺は、もう……!」

 

「問答無用!!」

 

「!?」

 

「行くぞ大間っ! ── 決闘(デュエル)!!」

 

 

 

 壬生 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 大間がディスクを準備するのも待たず、壬生は一方的に決闘(デュエル)を開始してしまう。

 

 

 

「ま、待ってくれ壬生っ! 俺は……!」

 

「私のターン! 私は魔法(マジック)カード・【(しん)()(ほどこ)し】を発動! デッキからカードを3枚引き、その()手札から【森羅】と名のついたカードを含む、2枚をデッキの上に戻す! ── 私は【森羅の(かげ)(ほう)() ストール】と、【森羅の()(かん)() シトラ】を戻す!」

 

 

 

 【ストール】、【シトラ】の順に、手札からデッキの上にカードが差し込まれる。

 一見、次に引くカードを相手に教えてしまうデメリットに思えるが……

 

 この行為が何を意味するか── 壬生と(いく)()となく闘ってきた大間は、嫌と言うほど知っていた。

 

 

 

「さらに手札から、【森羅の(はな)()() ナルサス】を召喚!」

 

 

 

【森羅の(はな)()() ナルサス】攻撃力 1800

 

 

 

「このモンスターを召喚した時、デッキの一番上のカードをめくり、それが植物族モンスターだった場合、墓地へ送る!」

 

「……! 今、壬生のデッキの一番上にあるカードは確か……!」

 

「そう── 【森羅の蜜柑子 シトラ】だ。このカードは植物族モンスター。よって墓地に送る。そしてこの瞬間、【シトラ】の効果を発動! このモンスターがデッキからめくられ、墓地に送られた場合、私の場の植物族モンスターの攻撃力・守備力を、300アップする!」

 

 

 

【森羅の花卉士 ナルサス】攻撃力 1800 + 300 = 2100 守備力 1000 + 300 = 1300

 

 

 

(くっ…… いきなり攻撃力2000越えのモンスターが出てきやがった……!)

 

 

 

 デッキの一番上にあるカードを、めくる効果をトリガーとして、真価を発揮する──

 

 これこそ壬生の操る、【森羅】デッキの真骨頂。

 

 独特かつテクニカルな戦術性の為、使いこなすにはそれなりの技量が求められるが……

 

 秀才決闘者(デュエリスト)と名高い壬生は、そのIQ180の頭脳で(もっ)て、手足のごとく自在に駆使する事ができる。

 

 

 

「私はカードを3枚伏せ、ターン終了(エンド)! さぁ貴様のターンだ!」

 

「っ……」

 

(やるしかねぇのか…… でも……!)

 

 

 

 辞めると決めた決闘(デュエル)を強要され、困惑し逡巡(しゅんじゅん)する大間に、壬生が容赦なく詰め寄る。

 

 

 

「聞こえなかったのか? 貴様のターンだと言っている。まさかデッキとディスクを持ってデュエルアカデミアの地を踏んでいながら、挑まれた決闘(デュエル)から尻尾を巻いて逃げるつもりか?」

 

「そ、そんなこと言われてもよ……」

 

「ふん…… (みじ)めだな。無様な負け犬のまま学園を去ろうとは…… こんな凡骨(ぼんこつ)決闘者(デュエリスト)が相手だったならば、鷹山の奴が手を抜いてやりたくなるのも、納得というものだ」

 

「っ!!」

 

 

 

 壬生のぶつけた挑発的な言葉は、大間にアリーナ・カップでカナメから味わわされた、屈辱の記憶をフラッシュバックさせた。

 

 

 

「……あぁ、くそっ、分かったよっ……! そこまで言うんだったら── ()ってやるっ!!」

 

 

 

 逆上した大間は、ついにカバンの中からデュエルディスクを引っ張り出し、左腕に取り付けてデッキをセットし、起動する。

 

 

 

「俺のターン…… ドローっ!」

 

 

 

 大間 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「俺は【漆黒(しっこく)の戦士 ワーウルフ】を召喚!」

 

 

 

【漆黒の戦士 ワーウルフ】攻撃力 1600

 

 

 

「さらに【()(どん)(おの)】を装備して、攻撃力1000アップだっ!」

 

 

 

 【ワーウルフ】の得物が赤い(けん)から鋼鉄の斧に切り替わる。

 

 

 

【漆黒の戦士 ワーウルフ】攻撃力 1600 + 1000 = 2600

 

 

 

「これで【ナルサス】の攻撃力を上回ったぜ!」

 

「………」

 

「バトル! 【ワーウルフ】で【ナルサス】を攻撃っ!」

 

(── チッ、なんと単調な攻撃だ、バカ者め……!)

 

(トラップ)発動! 【()(じん)(おお)竜巻(たつまき)】! 【愚鈍の斧】を破壊する!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 ところが竜巻に斧を吹き飛ばされた事で、【ワーウルフ】の攻撃力は元に戻り、【ナルサス】より下回った。

 

 

 

【漆黒の戦士 ワーウルフ】攻撃力 2600 → 1600

 

 

 

「【ナルサス】! 【ワーウルフ】を迎撃(げいげき)せよっ!」

 

 

 

 武器を失い()(しゅ)空拳(くうけん)となった【ワーウルフ】を、【ナルサス】が右手に握るロングソードを振るって斬り伏せた。

 

 

 

「ぐわっ……!」

 

 

 

 大間 LP 4000 → 3500

 

 

 

「……どういうつもりだ、大間?」

 

「えっ……?」

 

「【漆黒の戦士 ワーウルフ】には、バトルフェイズ中の(トラップ)の発動を封じる効果があった筈だ。それをわざわざ【愚鈍の斧】で無効化するなど…… 何を考えているのだと訊いている」

 

「あっ……!」

 

 

 

 壬生の鋭い指摘で自分が()(さく)(ろう)した事に気づかされた大間は、ぐうの音も出なくなり歯噛みする。

 

 

 

(ちくしょう…… 【ワーウルフ】の効果を忘れるなんて、どうかしてたぜ……)

 

「くっ…… 俺は、カードを1枚伏せて、ターンエンド……」

 

「ならばエンドフェイズに永続(トラップ)発動! 【森羅の滝滑(たきすべ)り】! このカードが表側表示で場にある限り、私はドローフェイズにドローする代わりに、デッキの上のカードを1枚めくる! そのカードが植物族モンスターなら墓地へ。それ以外なら手札に加える!」

 

「!」

 

「そして私のターン! 【滝滑り】の効果により、カードをめくる! ── めくったカードは植物族モンスター・【森羅の影胞子 ストール】! このカードを墓地へ送り、そのモンスター効果を発動! 貴様の伏せ(リバース)カードを破壊する!」

 

「うわっ!?」

 

(しまった、【グレイモヤ】が……!)

 

「……【万能地雷グレイモヤ】か。前のターンに私が【ストール】をデッキに仕込んでいた事は、貴様も承知していた筈だ。だと言うのにみすみす(トラップ)を伏せて、まんまと破壊されるとは…… 呆れて物も言えないな」

 

「っ……!」

 

(お、俺は…… また凡ミスを……!)

 

「バトルだ! 【ナルサス】で直接攻撃(ダイレクトアタック)っ!!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 

 

 大間 LP 3500 → 1400

 

 

 

「私はターンを終了する」

 

「ぐっ…… 俺の…… ターン……!」

 

(っ…… 思考が、まとまらねぇ……! 俺は今まで、どうやって決闘(デュエル)してた……?)

 

 

 

 大間は視界が(ゆが)む感覚に(おちい)っていた。思考力が鈍り、使い慣れている筈の自分のカードのテキストさえ、頭に入らない。

 

 

 

「俺は…… 【漆黒の(ひょう)戦士パンサーウォリアー】を召喚っ……!」

 

 

 

【漆黒の豹戦士パンサーウォリアー】攻撃力 2000

 

 

 

「……良いのか? それで?」

 

「なにっ……!?」

 

「攻撃力では【ナルサス】に劣る上、自分のモンスターをリリースしなければ攻撃自体できない【パンサーウォリアー】を、この局面で召喚したのには何か狙いがあるのだろうな?」

 

「うっ……!」

 

 

 

 とにかく何かモンスターを召喚しなければという焦燥(しょうそう)に駆られて、またしても大間は悪手(あくしゅ)を打ってしまった。

 

 

 

(ど、どうする……!? 何か手を…… ── っ!)

 

「て、手札から、【一時休戦】を発動だ!」

 

「……互いにドローし、一時的にダメージを防ぐ魔法か。ならばチェーンして(トラップ)カード・【コザッキーの研究成果】を発動。自分のデッキの上のカードを3枚確認し、任意の順で元に戻す。……ふむ」

 

 

 

 壬生は3枚の確認を済ませると、順番を入れ替えてデッキの上に戻した。その後【一時休戦】の効果で、互いに1枚カードを引く。

 

 

 

「……ターン、エンドだ……」

 

 

 

 運よく【一時休戦】が手札にあったおかげで次のダメージは(まぬが)れたものの、大間は貴重な1ターンを、(ろう)()と言わざるを得ない(かたち)で終了した。

 

 

 

「………貴様っ……!」

 

 

 

 見るからに精細に欠けるプレイングを続ける大間に対し、壬生は(いら)()ちを(つの)らせ……

 

 

 

「このっ…… 大バカ者がぁっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 とうとう、激昂した。

 

 

 

「私のターン! 今から貴様の不甲斐なさを思い知らせてやるっ! 【森羅の滝滑り】の効果で私はデッキから── 【森羅の水先(みずさき) リーフ】をめくり、墓地へ! そしてこの瞬間! 手札にある【森羅の賢樹(けんじゅ) シャーマン】の効果を発動! 【森羅】モンスターが墓地へ送られた時、手札のこのカードを特殊召喚できる!」

 

「── !? そ、そんなカード、いつの間に手札に……!」

 

「貴様が引かせたのだっ! 【一時休戦】の効果でなっ!」

 

(っ!)

 

「現れよっ! 【森羅の賢樹 シャーマン】!!」

 

 

 

【森羅の賢樹 シャーマン】攻撃力 2600

 

 

 

「それだけではない! デッキからめくり墓地に送った、【リーフ】の効果も発動する! 【パンサーウォリアー】を破壊!」

 

「ぐあっ!? 【パンサーウォリアー】……っ!」

 

「……もし前のターンで【一時休戦】が手札に無ければ、この時点で貴様の敗北は確定していた……」

 

「……!」

 

「貴様がこんな()()けた決闘(デュエル)をするとはな…… 失望したぞ、大間」

 

「うっ…… あっ……」

 

 

 

 自分の浅はかさを痛感させられた大間は、両の(ひざ)をガクッと折り、(うな)()れてしまう。

 

 

 

「くそっ…… ちくしょうっ……! やっぱりダメなんだ…… 俺はもう…… 闘えない……! 俺は決闘者(デュエリスト)失格なんだっ……!」

 

「………」

 

 

 

 無力感に(さいな)まれた大間の目から、悔し涙が(したた)り落ちる。

 

 ……すると、そんな大間の痛ましい姿を(けわ)しい顔つきで見ていた壬生が──

 

 

 

「………大間。去年の私の選抜試験の戦績を覚えているか?」

 

 

 

 (ヤブ)から棒に、そんな事を問いかけた。しかし大間は下を向いたまま、何も答えない。構わず壬生は続ける。

 

 

 

「── アリーナ・カップ、初戦敗退だ。相手は鷹山 要。3日前の貴様と、全く同じだった」

 

 

 

 奇しくも大間と同じ相手に、同じ1回戦で敗北を喫していたと話す壬生。続けて彼は、こう語る──

 

 

 

「私も今の貴様の様に、屈辱と絶望を味わい、打ちひしがれた。だが…… 去年の予選の決勝で鷹山に敗れても尚、諦めず努力を続ける貴様を見て思ったのだ。── こいつには負けられない、とな」

 

「……!」

 

「私は…… 私には無い『努力の才能』を持っていた貴様を…… 尊敬していたのだっ……!」

 

「!?」

 

 

 

 それは大間の知る限りで、最も意外な相手からの、全く予想だにしない言葉だった。大間は驚いた目で壬生を見上げる。

 

 

 

(壬生っ……! お前が…… 俺にそんな事を言うなんて……!)

 

「そんな貴様が今、私の目の前で…… 去年の私の様に全てを投げ出そうとしている……! 私にはそれが到底(とうてい)(かん)()できないっ!!」

 

 

 

 ずっと内に秘めていた本心を明かしていくに連れて、壬生の(こわ)()は段々と、感情的になっていく。

 

 ── 会った当初は、ただの単細胞だと見(くだ)していた。決闘(デュエル)の腕前も頭の出来も、自分とは比べるに(あたい)しない()鹿()だと。

 

 だが…… 周りの同級生達が、実力(ランク)至上主義の学園の激しい競争に次第についていけなくなり、さらに鷹山や九頭竜と言った、純然たる天才の存在を()の当たりにした事で、与えられたランクの差に才能の限界を感じ、自身の可能性を狭い(わく)組みに閉じ込めてしまう中──

 

 格付けなどに囚われず百折(ひゃくせつ)()(とう)の精神で、ひたすら愚直に上を目指し続ける大間の姿勢を見て、いつしか壬生は彼を内心、リスペクトする様になった。

 

 どれだけ高い壁が立ちはだかろうと、例え他人からなんと言われようと、自分を信じて夢に向かって邁進(まいしん)する── 誰にでもできる事ではない。

 

 人並み外れた熱量と努力量で、決闘者(デュエリスト)の高みへ登っていく大間の背中が、壬生には眩しかった。

 

 だからこそ今── 眼前(がんぜん)で変わり果てた姿を(さら)している大間は、とても見ていられるものではなかった。

 

 道(なか)ばで立ち止まって自暴自棄になり、努力じゃ才能に勝てないだの、現実は才能が全てだのと、負け犬根性の染みついた弱音を大間が口走っているのが、この上なく我慢ならなかったのだ。

 

 (ゆえ)に壬生は、大間に発破をかける。

 

 

 

「いつか貴様は私に言ったな? 『バカだろうと凡人だろうと、決闘者(デュエリスト)としての闘志が熱い奴が、最後に勝つんだ』と! あの時の大間 三郎太はどこへ消えたっ!! 私が〝ライバル〟と認めたのは、そんな簡単に決闘者(デュエリスト)の誇りを失う様な── 弱い男ではなかった筈だっ!!」

 

「!!」

 

 

 

 付き合いは長いが価値観の(そう)()から衝突する事が多く、馬が合うとは言い(がた)間柄(あいだがら)だったあの壬生が、こんな自分に尊敬の念を抱き、しかもライバルだとまで言ってくれた──

 

 そんな壬生の(しっ)()激励(げきれい)は、(ふさ)ぎ込んでいた大間の胸を強く打った。

 

 

 

「っ…… 俺は…… 俺はっ……!」

 

 

 

 大間は握り拳を震わせ、奥歯を噛み締めると、(ひざまず)いていた両足の片膝(かたひざ)を立たせ、まるで()し掛かる重力に(あらが)うかの様に踏ん張りながら、ゆっくりと上体を持ち上げ、全身を直立させていく。

 

 そうして、あらん限りの力を振り絞って立ち上がった直後──

 

 

 

「── うおおおおおおおぁあああああああっっ!!!」

 

「!?」

 

 

 

 突如、()(たけ)びを上げ始めた。そして腹の底から声を吐き切ったかと思うと──

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

 今度は固めていた拳で、自分の顔を本気で殴った。

 

 

 

「……はぁ…… はぁ……」

 

「………」

 

 

 

 再び大間の首が、ガクリと前に倒れる。

 

 次いで大間は上着のポケットからヘアゴムを取り出し、髪を頭の後ろに(まと)めて、慣れた手つきでひとつ結びした(あと)……

 

 

 

「フゥー……… ── うしっ!」

 

 

 

 気合いの入った一声(ひとこえ)を発すると同時に、勢いよく顔を上げた。

 

 (みずか)ら殴りつけた頬は赤く腫れているが、その表情は憑き物が落ちた様に晴れやかで、瞳には今の今まで失われていた、不屈の闘志が復活していた。

 

 

 

「── (ワリ)ぃな壬生。みっともねぇとこ見せちまってよ…… おかげで…… 目ぇ覚めたぜ!」

 

「……フッ…… そうだ、その眼だ大間」

 

「さぁ行くぜ! こっからが本当の勝負だッ!!」

 

「良いだろう── 決闘(デュエル)を続行する! 私は【シャーマン】のモンスター効果を使い、デッキの上を1枚めくる! 私がめくったカードは、【森羅の実張り ピース】! このモンスターがデッキからめくられ、墓地へ送られた場合、自分の墓地からレベル4以下の、植物族モンスター1体を特殊召喚できる! 私は【ストール】を特殊召喚!」

 

 

 

【森羅の影胞子 ストール】守備力 2000

 

 

 

「これで私はターンエンドだ! さぁ来い! 大間!」

 

「おうよっ! 俺のターン…… ドローッ!」

 

 

 

 壬生に活を入れられ(ふん)()した大間は、ちぐはぐなプレイしかできなかった先ほどまでとは、別人だった。

 

 迷いが吹っ切れた事で脳内にかかっていたモヤはすっかり消散し、クリアになった思考を目の前の決闘(デュエル)に集中させ、次に打つべき最善手(さいぜんしゅ)を判断できる。

 

 

 

「俺の引いたカードは── 【手札抹殺】! お互いに手札を全て捨て、その枚数だけドローする!」

 

「むっ……! 私は1枚だ」

 

(── ! ほぉ、ここでこのカードが来るか)

 

「俺は3枚捨てて、3枚ドロー!」

 

(よし、来たぜ!)

 

「手札から【思い出のブランコ】を発動! 1ターンのみ、墓地の通常モンスターを特殊召喚できる! 俺が召喚するのは、たった今【手札抹殺】で墓地に送った── 【千年原人】だっ!!」

 

 

 

【千年原人】攻撃力 2750

 

 

 

「バトル! 【千年原人】で【シャーマン】を攻撃ッ!」

 

 

 

- ギガ・クラッシャー!! -

 

 

 

 【千年原人】は背負っていた巨大な斧を(ちから)任せに振り下ろし、(まき)割りの要領で【シャーマン】を両断した。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 壬生 LP 4000 → 3850

 

 

 

「っしゃあッ!! 決まったぜッ!」

 

「……フッ…… やってくれたな」

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド! この瞬間、【千年原人】は墓地に戻る!」

 

「やっといつもの貴様に戻れた様だな。これでようやく、まともな決闘(デュエル)ができそうだ。── 私のターン! ドローフェイズに【森羅の滝滑り】の効果で、ドローせずカードをめくる! ……めくったのは速攻魔法・【魔導書整理】。よって私の手札に加える!」

 

 

 

 【森羅】モンスター以外をめくった場合は、実質ドローカードを相手に公開するだけとなり、情報アドバンテージを与えてしまうのが【森羅の滝滑り】の欠点だが── 今回は見せても問題にならないどころか、むしろ壬生からすれば好都合なカードを引けた様だ。

 

 

 

「【魔導書整理】発動! デッキの上のカード3枚を確認! その後、順番を入れ替えて戻す!」

 

 

 

 壬生は続けて3枚めくると── 小さく笑みを(こぼ)した。

 

 

 

「フフッ…… 感謝するぞ、大間」

 

「ん?」

 

「貴様が【手札抹殺】を使ってくれたおかげで…… 私のデッキの最強のカードが、手札に舞い込んだのだからな!」

 

「なにっ!?」

 

「見せてやる……! 私はフィールドの【ナルサス】と【ストール】をリリースし── 【森羅の仙樹(せんじゅ) レギア】を召喚ッ!!」

 

 

 

 壬生の背後に、紅葉(こうよう)緑葉(りょくよう)()い茂る樹冠(じゅかん)を被り、数本の(つる)を枝に絡めて垂らした巨木(きょぼく)屹立(きつりつ)する。

 

 根元にしめ縄を巻き付けた極太の(みき)には、彫りが深い老人と(おぼ)しき人面を有しており、樹齢(じゅれい)の永さを(うかが)わせる。また、その(ひたい)部分には、赤い球体が埋め込まれていた。

 

 

 

【森羅の仙樹 レギア】攻撃力 2700

 

 

 

「レ、レベル8……! 【森羅】の最上級モンスターかっ……!」

 

「【レギア】の効果発動! 自分のメインフェイズに一度、デッキの一番上をめくる! そのカードが植物族ならば墓地へ送り、1枚ドローできる!」

 

「っ! そうか、この為にさっき、【魔導書整理】を……!」

 

「その通りだ。私は『運』などという不確定要素には頼らない! 私がめくるカードは── 【森羅の番人 オーク】! このモンスターを墓地へ送り、1枚ドロー! そして【オーク】の効果も発動させる! 墓地より植物族モンスター1体を、デッキの一番上に置く事ができる! 私は【シャーマン】を置く!」

 

(これで次の私のターン、【滝滑り】で【シャーマン】を墓地に送り、その効果で墓地から【森羅の施し】を回収する!)

 

「さて、準備は整った…… あとは攻撃するのみだ。── この一撃を受け切れるか大間っ!!」

 

 

 

 壬生が右手を高く掲げた途端、【レギア】の額の紅玉(こうぎょく)が発光し、樹冠から無数の葉が飛散する。

 

 直後、ユラユラと宙を舞う葉が一枚、また一枚と発火し始め、やがて葉は全て火の玉と化した。

 

 

 

(来るっ……!)

 

「バトルだ…… 【レギア】でプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 

 

 そして── 壬生は真上に伸ばしていた右手の人差し指と中指を、大間に差し向けた。

 

 

 

「食らえっ!!」

 

 

 

- シルバン・バレッジ!! -

 

 

 

 その動作を合図に、大量の火の玉が一斉に大間へと飛来する。

 

 

 

(さぁ、どう出る大間!)

 

「── (トラップ)発動! 【ディメンション・ウォール】!」

 

「!?」

 

 

 

 ところが火の玉は、空間に浮かび上がった透明な障壁に(はば)まれた。

 さらには壁面に着弾した(そば)から次々と沈み込み、消えていく。

 

 

 

「この戦闘で俺が受けるダメージを、そっくりそのままお前にお返しするぜッ!」

 

 

 

 次の瞬間、壬生の頭上に新たな障壁が出現し、そこから先ほど吸収した火の玉の雨が降り注いだ。

 

 

 

「ぐおおおおおおっ!!?」

 

 

 

 壬生 LP 3850 → 1150

 

 

 

(ぐっ……! 私とした事が…… まさかこれほどのダメージを受けるとはっ……!)

 

「……フッ、大間に偉そうな口を利いておきながら、私もまだまだと言うわけか…… だが次のターンこそトドメを刺してやる! ターンエンドだ!」

 

「………俺のターンだな」

 

(手札とモンスターは(ゼロ)、戦況は崖っぷち…… ── へっ、なんかあの時と似てるな、この状況……)

 

 

 

 何の因果か。アリーナ・カップでカナメと(たたか)った時と、(こく)()した展開に至った事に気づき、大間はこれも運命のイタズラかと微笑(びしょう)する。

 

 

 

(いや── 試されてんのかな…… あん時、俺は…… やっぱ鷹山には勝てねぇのかもって、途中で諦めそうになってた…… 決闘者(デュエリスト)が先に気持ちで負けてたら、デッキが応えてくれるわけねぇのによ……)

 

 

 

 ディスクに差し込んだ愛用のデッキを見つめ、大間は一番上のカードに指先で触れる。

 

 

 

(だけど…… もう(おそ)れないっ! 俺のデッキよ、俺はお前達を信じる……! また俺と一緒に── (たたか)ってくれッ!!)

 

「俺はこの引きにっ! 決闘者(デュエリスト)の全てを賭けるっ!!」

 

「……!」

 

「行くぜ…… っ! ── ドロォォーッ!!」

 

 

 

 あの時と同じく、デッキに命運を(ゆだ)ね、一切の躊躇(ちゅうちょ)なくカードを引き抜く。

 

 ── そして、ドローしたカードを視界の端で捉えると……

 

 

 

 大間は── 嬉しそうに微笑(ほほえ)んだ。

 

 

 

「ありがとう…… 俺のデッキ」

 

「!」

 

「俺は── 【不屈闘士レイレイ】を召喚ッ!!」

 

 

 

【不屈闘士レイレイ】攻撃力 2300

 

 

 

 大間がこの土壇場で引き当てたのは、彼が昔から〝相棒〟と呼び、最も信頼するフェイバリットカードだった。

 

 喪失(そうしつ)していた戦意を取り戻した大間の熱い想いに── デッキが応えたのだ。

 

 

 

「……壬生。お前は俺を尊敬してたって言ってくれたよな? 俺も、お前の事を…… ずっとスゲー奴だって思ってたんだ」

 

「……!」

 

「俺ってバカだからよ…… お前みたいに頭使った、計算ずくの決闘(デュエル)はできねぇ。いつだって、この相棒の【レイレイ】達と一緒に、気合いと根性だけで押しまくってきた…… ── そいつはこれからも変わらねぇッ!!」

 

「なに?」

 

「バトルだっ! 【レイレイ】で、【森羅の仙樹 レギア】を攻撃ッ!」

 

「攻撃だとっ!? バカな…… 攻撃力では【レギア】の方が上── っ!?」

 

 

 

 そこまで言いかけた途端、壬生の脳裏に()()感が芽生え、3日前のアリーナ・カップで大間がカナメに、コレと同様のシチュエーションで攻撃を仕掛ける映像が脳内で再生された。

 

 

 

(そうだ、確かあの時、大間は──)

 

「貴様…… まさかっ!?」

 

「あぁ、そのまさかさッ! リバースカード・オープン! (トラップ)カード・【不屈の闘志】!!」

 

「っ!」

 

「俺の場のモンスターが1体だけの時、その攻撃力を、相手フィールドで一番攻撃力が低いモンスターの、攻撃力分アップする!!」

 

(まずいっ……! 伏せカードの【森羅の恵み】は、手札コストが無ければ発動できないっ……!)

 

 

 

【不屈闘士レイレイ】攻撃力 2300 + 2700 = 5000

 

 

 

「攻撃力…… 5000だと……!?」

 

「俺はもう、一歩も引かないッ!! これが俺の決闘(デュエル)だぁっ!!」

 

 

 

- ダイナミック・インファイト!! -

 

 

 

 【レイレイ】は固く握り締めた鉄拳で、【レギア】の額に光る()(いろ)の玉を殴打した。

 

 

 

「いっけぇぇぇぇえええええっ!!!」

 

『おぉおおおおおおおっっ!!!』

 

 

 

 大間が張り上げた声に、【レイレイ】も最大限の声量で呼応する。

 

 そして、渾身の力で叩き込まれた【レイレイ】の殴撃(おうげき)は──

 

 額の玉に亀裂を走らせ、そのまま巨木もろとも、粉々に打ち砕いた。

 

 

 

「ぐっ…… うおおおおおおおっ!?」

 

 

 

 壬生 LP 0

 

 

 

「かっ…… 勝った……! ── おっしゃあああああっ!!」

 

 

 

 勝利の喜びを両手のガッツポーズで体現する大間。

 

 一方、壬生はメガネを指で押し上げつつ、大間に歩み寄る。

 

 

 

「……私の負けだ。見事な決闘(デュエル)だったぞ、大間」

 

「へへっ、お前もまた一段と強くなったよな、壬生。……っと、そうだ」

 

 

 

 ふと自分のカバンから、一封の白い封筒を取り出した大間。表紙には『退学届け』と縦書きされている。

 

 

 

「こいつはもう…… ()らないな」

 

 

 

 それを大間は、なんら迷う事なく破り捨てた。

 

 

 

「………」

 

 

 

 風に乗って青空へ飛び去っていく()(へん)を仰ぎ見る大間の顔つきは、実に清々(すがすが)しいものだった。

 

 

 

「良かったのか?」

 

「あぁ…… お前のおかげで、自分の本音に素直になれた気がするよ。── やっぱり俺、まだ決闘(デュエル)を辞めたくない…… プロ決闘者(デュエリスト)になるっていう夢を、諦めたくなかったんだ」

 

「ふん、そうだろうと思っていたさ。でなければ私の挑発に乗るわけもない。── 貴様が決闘(デュエル)を受けた時点で、まだ貴様の闘志は完全に死んではいない事は確かめられた。あとはそれを叩き起こしてやるだけだ。全く…… 手間を取らせてくれる」

 

「ははっ、面倒かけちまってすまねぇな」

 

 

 

 いつもの快活な性格に戻れた大間は、壬生と肩を組んで足取りも(かろ)やかに歩き出す。

 

 

 

「行こうぜ! 決勝戦を見届けによ!」

 

「あぁ」

 

「そんで終わったら世話かけた礼に、なんか奢らせてくれや」

 

「では2番街にある三ツ星レストランの高級フレンチを頂こうか」

 

「……わ、(ワリ)ぃ。なるたけ安いとこで頼む」

 

「フッ…… 冗談だ。それより貴様はまず、保健室で湿(しっ)()でも(もら)ってこい。その腫れた顔は見るに()えん」

 

 

 

 かくして、ひとりの若者が()(せつ)から立ち直り、一時は諦めかけた夢を再び追いかけるべく、気持ちを新たに一歩前へと踏み出した。

 

 そしてこの(あと)、ほどなくして……

 

 

 

 ── ついにアリーナ・カップの頂上決戦が、幕を開ける!

 

 

 

 





 大間って『努力の天才』なところが、ナルトのロック・リーっぽいなと思ったので、主にリーを参考にして今回は書かせていただきました。

 ちなみに作者がナルトで一番好きなキャラも、リーです。カッコいいし面白いし努力家なの憧れるし、声も良い!

 いつか大間の努力がカナメの才能を上回る日が来るかも……?
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