遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum -   作:箱庭の猫

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 お久しぶりです! まさか1年も更新を途絶えさせてしまうとは……!

 大変お待たせしてしまいましたが、今回は2万字の大ボリュームでお届けさせていただきます! 楽しんでいただければ幸いです!



TURN - 55 FINAL DUEL - 1

 

 アリーナ・カップ決勝戦── 当日。

 

 現在、その開催地であるセンター・アリーナの場内では……

 

 九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)狼城(ろうじょう) (アキラ)による、3位決定戦が行われていた。

 

 

 

「── 食らいやがれ狼城! 【リボルバー・ドラゴン】で攻撃だっ! 『ガン・キャノン・ショット』!!」

 

「ぐおっ……! っ…… へへっ…… やるねぇキョーゴ」

 

 

 

 〝学園最強〟 VS(バーサス) 〝トリック・スター〟。

 

 ジャルダン校きっての実力を(ほこ)両雄(りょうゆう)が繰り広げる激戦に観客は熱狂し、たとえ3位を決めるだけの試合であろうと全力で奮闘(ふんとう)する二人へ敬意を払い、心からの声援を送り続けていた。

 

 決闘(デュエル)開始時から互いに一歩も(ゆず)らず、()(かく)に渡り合ってきた両者だったが……

 

 ここで── 狼城が切り札を切る。

 

 

 

「お次ぁこっちの主役のお()()()と行こうか── 出番だぜッ! 【コスモクイーン】ッ!!」

 

 

 

【コスモクイーン】攻撃力 2900

 

 

 

「ちぃっ……!」

 

「【リボルバー・ドラゴン】にはご退場願おうか。【コスモクイーン】で攻撃! 『コズミック・ノヴァ』!!」

 

「っ!! くそがっ……!」

 

 

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 1000 → 700

 

 

 

『おぉーっとッ!! 狼城選手の鮮やかな反撃が決まったァーッ! 九頭竜選手のエースモンスターが倒され、形勢は一転だぁーッ!!』

 

(ちっ…… さすがに手こずらせやがる……!)

 

「オレぁカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)だ! ……くくっ、どうやら去年の準決勝の再演は、オレの勝利で幕引きにできそうだな。── なぁ? キョーゴちゃんよぉ?」

 

「……あ"ぁっ?」

 

「ここでリベンジを果たして、アンタの〝学園最強〟っつー大層な(ふた)つ名も、オレが頂戴(ちょうだい)してやるぜ!」

 

 

 

 (しば)()がかった言動で勝利宣言をした狼城に対し、九頭竜は激昂(げきこう)するかと思いきや──

 

 

 

「……ハッ! んな二つ名(もん)、欲しけりゃくれてやるよ。どうせ今の俺には、もう必要ねぇからな」

 

「おっ? なんだよ諦めちゃう感じ? キョーゴらしくもね──」

 

「笑わせんな」

 

「っ……!?」

 

 

 

 九頭竜がその一声(ひとこえ)を発した途端に、空気がビリッと張り詰めた。

 

 

 

「俺は奴を…… 鷹山の野郎を撃ち殺すまで……! 誰が相手だろうが── 負けてる場合じゃねぇんだよっ!!」

 

「!」

 

「俺のターン! 【(エックス)-ヘッド・キャノン】召喚!」

 

 

 

【X-ヘッド・キャノン】攻撃力 1800

 

 

 

「さらに【前線基地】の効果で、【(ワイ)-ドラゴン・ヘッド】を特殊召喚!」

 

 

 

【Y-ドラゴン・ヘッド】攻撃力 1500

 

 

 

「まだだっ! 【アイアンコール】発動! 墓地の【(ゼット)-メタル・キャタピラー】を特殊召喚!」

 

 

 

【Z-メタル・キャタピラー】攻撃力 1600

 

 

 

「一気に3体も並べただと……! しかもこいつらは……!」

 

「どうやら知ってるみてぇだな? 行くぜッ! 【X】、【Y】、【Z】を合体させ──」

 

 

 

 3体の戦闘機が機体を分離・変形させ、下から順に【Z】、【Y】、【X】と、(かさ)なり合って連結していく。

 

 

 

「合体召喚ッ! 【XYZ(エックスワイゼット)-ドラゴン・キャノン】!!」

 

 

 

【XYZ-ドラゴン・キャノン】攻撃力 2800

 

 

 

「【XYZ】……! 【ABC】に次ぐ、新たな合体モンスターのお出ましかっ……!」

 

「永続(トラップ)発動! 【X・Y・Z ハイパーキャノン】!」

 

「!」

 

「こいつは俺のフィールドに【XYZ-ドラゴン・キャノン】が存在する場合、自分と相手のターンで、異なる効果を発動できる! 俺のターンの効果は、除外された自分のユニオンモンスター1体をデッキの一番下に戻し、1枚ドローする効果だ! 俺は【Y】と【Z】をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

「手札を全部使い切った(そば)から、もう補充しやがった……!」

 

「さらに! 【XYZ】のモンスター効果を発動! 手札を1枚捨てる(ごと)に、相手のカード1枚を破壊する! 俺はこの2枚を墓地に送り、てめぇの【コスモクイーン】と、伏せカードを破壊するぜ!」

 

「なにぃ!?」

 

「撃ち殺せ! 『ハイパー・デストラクション』!!」

 

 

 

 【X】の双肩(そうけん)の主砲、【Y】が開いた口腔(こうくう)、そして【Z】のキャタピラ上部から伸びた砲身から、レーザー砲が斉射(せいしゃ)され、狼城の【コスモクイーン】と、伏せカードを粉砕した。

 

 

 

「うおぉっ!?」

 

(ヤッベぇ、頼みの(つな)だった【魔法の筒(マジック・シリンダー)】まで……!)

 

「くっ、やられたぜ…… さっき手札を2枚増やしたのは、このためってわけかい」

 

「これで、フィールドは(から)だ! 直接攻撃(ダイレクトアタック)ッ!!」

 

 

 

- X・Y・Z ハイパー・キャノン!! -

 

 

 

 追撃で撃ち放たれた合計5発のレーザーが、丸腰の狼城に全弾命中する。

 

 

 

「ぐあぁっ!!」

 

 

 

 狼城 LP(ライフポイント) 0

 

 

 

『決着ゥゥーッ!! ウィナー・九頭竜 響吾!! 今年(こんねん)度のアリーナ・カップ第3位は、九頭竜選手に決定だぁーッ!!』

 

「……あーあ、オレぁ今年は4位止まりか…… けどまっ、楽しかったぜキョーゴ。3位おめっとさん」

 

 

 

 狼城が九頭竜に笑いかけながら、握手(あくしゅ)を求める。

 

 

 

「……くだらねぇ」

 

 

 

 しかし九頭竜は狼城の手を取らず、そう吐き捨てて(きびす)を返した。

 

 

 

「あれま、やっぱ3位なんかじゃ喜べねぇってかい?」

 

 

 

 どこか茶化すような口調での狼城の問いに、九頭竜は振り返ることなく、こう答えた。

 

 

 

「3位だろうが1位だろうが…… ()()に勝たなきゃ何の意味もねぇんだよ」

 

「……!」

 

 

 

 九頭竜が決闘(デュエル)フィールドから立ち去っていくと、独り残された狼城は「ヒュウ♪」っと口笛を吹く。

 

 

 

「好きだねぇホント。つくづく(いち)()なこって。……さてと──」

 

 

 

 そして、(いま)だ歓声の()まない観客席を眺め回すと……

 

 

 

「まっ、(ぜん)()としちゃあ上出来かね」

 

 

 

 満足()に呟いて、西洋の貴族に伝わるボウアンドスクレープと呼ばれる作法で、(うやうや)しく一礼(いちれい)をした。

 

 さながら、ショーを締めくくる道化師(ピエロ)のように。

 

 観客は死闘を演じた両選手への、称賛の意を込めた惜しみない拍手で、狼城の()()に応える。

 

 

 

「── ほんじゃ、フィナーレは主演のお二人に任せて…… 出番を終えた演者は、とっとと(そで)()けるとしますかね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3位決定戦が九頭竜の勝利で幕を下ろし、大会はいよいよ、終幕の決勝戦を残すのみとなった。

 

 決闘(デュエル)フィールドを四方から望む、階段状に傾斜(けいしゃ)した座席は、出場者であるセツナとカナメの入場を今か今かと待ち()ねる観戦者で、全て()まっている。

 

 その一角(いっかく)にて、(こん)大会に参戦していた高等部2年の生徒──

 

 鮫牙(サメキバ) (ジョー)蛇喰(じゃばみ) 紫苑(アザミ)猿爪(ましづめ) ()(いち)の3人が(とな)り合って座り、ざっくばらんに(かた)らっていた。

 

 

 

「なぁ蛇喰の(あね)()。どっちが勝つと思うよ?」

 

「そうさねぇ…… あのセツナって子も、かなりのやり手だけど…… 正直、学園最凶が負けるところなんて、アタイには想像できんわさ」

 

「キキッ! ()(もん)だな鮫牙!」

 

「あん?」

 

「んなもんトーゼン、鷹山が勝つに決まってるっつーの! なんせこの俺と互角に()り合った奴なんだからな!」

 

「シャシャシャシャッ! なぁ~にが互角だよ? 一方的にボコられてただけじゃねぇか!」

 

「キッ!? うるせぇっつーの! 俺を舐めてっと承知しねぇっつーの! このニワトリ頭っ!」

 

「ニ、ニワトリだとぉ!? エテ公てめぇ! そりゃモヒカンに一番言っちゃなんねぇ禁句だぞゴラぁっ!!」

 

 

 

 座席から身を乗り出して、火花を散らしながら(にら)み合う鮫牙と猿爪。

 

 その(あいだ)に挟まれた蛇喰は、柳眉(りゅうび)(さか)()てると両手を高く上げ……

 

 

 

「うるさいよアンタら!」

 

「ムキャッ!?」

 

「おぶっ!?」

 

 

 

 二人の後ろ首に腕を回してグイッと引き寄せた。

 鮫牙と猿爪の顔は、蛇喰の豊満な胸に強く押し当てられる。

 

 

 

「いででっ! 何すんだっつーの離せっ!」

 

「い、いや、オレサマはもうちょいこのままッ……!」

 

「全く…… これから大一番の決闘(デュエル)が始まるってんだ。しょうもないケンカなんかしてないで、アンタ達もしかと見届けな!」

 

「ウィッス姉御!」

 

「わ、分かったから離せっつーの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、蛇喰ら三人とは別の客席には……

 

 

 

 虎丸(とらまる) ()(スケ)

 

 蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()

 

 豹堂(ひょうどう) 武蔵(ムサシ)

 

 (いぬ)() ベンジャミン

 

 (オオトリ) 聖将(キヨマサ)

 

 ── 学園が定める実技の成績ランキングにおいて、最高位の序列(じょれつ)とされるランク・Aの中でも、上位10名にのみ(おく)られる『十傑(じっけつ)』という称号を(かん)する、5人の生徒が居並んでいた。

 

 

 

「ムシャムシャ…… ヨウ(ねえ)~、ポップコーンそろそろ無くなりそうだから買いに行って良い? もぐもぐ」

 

「食べながら喋るなんて美しくないわよ、キスケちゃん。それに今から買いに行ったら、どんなに急いでも試合開始は見逃しちゃうけど良いのかしら?」

 

「ん~~…… じゃあいいや!」

 

「ウハハッ、食い()よか決闘(デュエル)のが大事か。()()もやっぱし決闘者(デュエリスト)やな」

 

HEY(ヘイ)、タイガーボーイ! Me(ミー)にもソレ食わしてくれよ?」

 

「ダーメー! コレはオイラのーっ!」

 

「えぇい騒がしい! 少しは大人しくできぬのかっ!」

 

「まぁええやん凰。祭りは賑わったモン()ちやで~?」

 

「ふん、くだらぬ。そもそも決勝戦の結果など、(はな)から見えておる。九頭竜との準決勝ほど、見応えのある試合になるとは思えぬがな」

 

「なんや、凰はセツナ君じゃ、鷹山の旦那には勝てへん言うんか?」

 

「当然であろう。ましてやあの少年は過去に一度、鷹山に(やぶ)れていると聞く。ならば格付けは鷹山が上と決まっておるではないか」

 

「それランク・Bの女子に負けたキヨっちが言っても説得力なくね~? もぐもぐ」

 

「ぐぬっ……! だ、黙れ虎丸! アレはほんの少し油断していただけだ!」

 

「まっ、凰の見立てもごもっともやで。ワイが耳にした限りでも、大半はお前と同意見やったわ。なんせ唯一の対抗()や言われとった、九頭竜も負けてもうたわけやしなぁ」

 

「……そう言う貴様はどうなのだ、豹堂よ」

 

「ん? ワイか?」

 

「2回戦で鷹山と(たたか)った貴様から見て、あの少年に勝ち目があると思うか?」

 

「んん~~~…… 分からん!」

 

「なに?」

 

 

 

 豹堂のあっけらかんとした返答に、凰は()(げん)そうに眉を寄せる。

 

 

 

「確かに旦那は化けモンやった。あの強さはもう、学生レベルなんぞとうに超えとるやろなぁ…… 少なくともワイなんかとは次元が違ったわ。── せやけどな、凰…… ひとつ肝心なことを忘れてへんか?」

 

「何をだ」

 

「セツナ君は、その鷹山の旦那と対等に張り合うどころか、あと一歩のとこまで追い詰めおった── あの九頭竜に一度、勝っとるんやで」

 

「……そんなことは言われずとも分かっておる。だがそれはマグレの勝利だったと、風の噂に聞いておるぞ」

 

「ウハハッ、またまたぁ~~。九頭竜がマグレが起きたぐらいで負かされるタマとちゃうの、お前かてよう知っとるやないか」

 

「フフッ、ムサシちゃんの言う通りね。そもそもキヨマサちゃんだって、なんだかんだ言っても気になるから、ここにいるんでしょう?」

 

「ちっ…… 好きに言うがよい」

 

HA()HA()! ズボシだったか? フェニックスメン」

 

「まっ、ちゅうわけで、ワイにはこの決勝戦がどないなんのか、てんで予測がつかんわ。けどひょっとしたら…… 鷹山の旦那が一泡(ひとあわ)吹いてまうところが拝めるかも知れへんやろ?」

 

 

 

 豹堂は、にこやかな曲線を(えが)いて閉じられた糸目を細く(ひら)き、話題の両雄がもうすぐその盤上にて相見(あいまみ)える、無人の決闘(デュエル)フィールドを見下ろした。

 

 

 

「── 期待しとるでぇ? ルーキー君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観衆が思い思いに幕間(まくあい)の時間を過ごす頃──

 

 間もなく始まる最終戦の模様をカメラに納めるべく(つど)った、テレビクルーの一員である若い女性記者が、(はず)んだ声で中年の男性記者に話しかけた。

 

 

 

「そろそろ時間ですね、(はや)()先輩! 私もう待ち切れないですよ~!」

 

「そうだな、(あら)()。……ところで…… なんだ? その変な団扇(うちわ)は」

 

「へ?」

 

 

 

 早瀬の言う通り新井は、両手に1枚ずつ団扇を握っていた。

 

 その()(がみ)には『セツナ君ファイト!!』や、『ウィンクして!』などと、ポップな字体で書かれている。

 

 

 

「とりあえず没収だ」

 

「あーーん! なんでですかぁ~っ!?」

 

「アイドルのライブ観に来てんじゃねぇんだぞ! 仕事しろ仕事!」

 

「むぅ、分かってますよ~。ちゃんとやる事はやります。セツナ君があの学園最凶を倒して優勝するところを、バッチリカメラに納めてみせますよ!」

 

「……お前、本気でセツナ君が勝つって信じてるのか?」

 

「当たり前じゃないですかぁーッ! あの〝トリックスター〟にだって勝ったんですよ!?」

 

「あぁ確かにな。俺もこの()に及んでセツナ君の実力を(うたが)ったりはしねぇよ。ただな……」

 

「ただ?」

 

「よく考えてみろ、新井。今日の決勝を観に来た観客は…… 鷹山 要の優勝に期待している人が大半のはずだ」

 

「そうなんですか?」

 

「ジャルダン校史上(しじょう)初の、アリーナ・カップ3連覇…… 鷹山がそれを達成して、この街に伝説が生まれる瞬間を、誰もが見たがってんだ。セツナ君は、(なか)ばアウェーな空気の中で、〝学園最凶〟と闘うことになる……」

 

「あっ……!」

 

「生半可なプレッシャーじゃねぇぞ。並みの決闘者(デュエリスト)なら数ターンと()たず潰れてる…… ── まっ、これでもしセツナ君が勝てば、あの鷹山に初めて勝った決闘者(デュエリスト)ってんで、それもまた伝説になるだろうけどな」

 

「……ですよね! セツナ君なら、きっと伝説になれますよねッ!!」

 

「都合の良い部分だけ取り上げやがって…… そんなんじゃジャーナリストとしては、まだまだ半人前だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「── セツナ、カードのチェックは万全(ばんぜん)?」

 

「うん。バッチリだよ、アマネ」

 

 

 

 (ひか)え室で九頭竜くんと狼城くんの試合を見届けた後、ボクは入場ゲートの近くに待機していた。

 

 あの部屋、()(ごこ)()よくてけっこう気に()ってたから、(はい)れるのは今日で最後かと思うと、ちょっと(さび)しかったな。

 

 ……今頃、カナメも反対側の入場口で、出番を待ってることだろう。

 

 もうすぐだ…… もう間もなく…… ボクとカナメの決勝戦が始まる……!

 

 

 

「あー、なんかドキドキしてきた……」

 

「いよいよね。セツナなら勝てるわよ、きっと」

 

「が、頑張ってください、セツナ先輩!」

 

「ぶちかましてくだせぇ! セツナの(あに)さん!」

 

 

 

 アマネ、ルイくん、ケイくんが、三者(さんしゃ)三様(さんよう)のエールを送ってくれた。

 

 今ボクの(そば)には、この3人にマキちゃんとコータも含めた、5人の友達がついていてくれている。

 マキちゃんが結成(?)したグループ・『ファミレス仲良し連合』のメンバーが、一堂に(かい)していた。

 

 

 

「スゥ…… フゥー………」

 

 

 

 ボクが今日何度目かの深呼吸をすると、マキちゃんがからかうように話しかけてきた。

 

 

 

「セツナく~ん、今ので深呼吸何回目~? やっぱ緊張してるんだ~?」

 

「そ、そりゃあするでしょ…… だって初めての参加で本当に決勝戦まで来ちゃったし…… しかも相手は前回ボロ負けした、あのカナメだよ?」

 

「さすがのアゲマキでも、やっぱ今回ばかしは緊張するか」

 

「うん…… さっきから心臓もバクバクしちゃってて…… ほら、触ってみてよ」

 

「!?」

 

 

 

 ボクはコータの手首を掴んで、その手の平を、ボク自身の胸に当てさせる。

 

 

 

「コータの手、おっきいね…… どう? 感じる?」

 

「っ~~~! お、おう、ホントだスゲーな……! も、もう良いだろ!?」

 

「待ってコータくん! そのまま! 動いちゃダメッ!!」

 

「ちょ、なに撮ってんだよ()(づき)!?」

 

「んっ……!」

 

「アゲマキも変な声出すんじゃねぇーっ!!」

 

「コー × セツいただきました~! ごちそうさまで~すッ!」

 

「……この場に蝶ヶ咲先輩がいたら大喜びしそうね」

 

 

 

 とまぁ、冗談はこれくらいにして……

 

 

 

(……参ったな…… まだ手が震えてる……)

 

 

 

 そう、ここに来てからボクの手は、ずっと緊張で震えっぱなしだった。

 

 いや、これはただの緊張って言うより……

 

 

 

(こわ)がってるのかな…… カナメと闘うのを……)

 

 

 

 情けない話だけど…… あれほどカナメとの再戦を熱望していたにも関わらず、いざその時が来たら急に()()づいてきた。

 

 どうやらボクは自分が思ってた以上に、カナメに負けたのがトラウマになってたらしい。

 

 ただでさえ実力の差では向こうが格上なのに、それに加えてこっちはこれまでの試合で、手の内をほぼ全て(さら)していて不利な立場にある。

 

 この上、気持ちでまで負けてるようじゃ…… (たたか)ったところで、まともな勝負にすらなりそうにない。

 

 どうしたものかと困り果てていると──

 

 

 

「……せっ…… 先輩!」

 

「ん? どうしたのルイく── わっ!?」

 

 

 

 今度はルイくんがボクの胸に飛び込んできて、ひしっと()きついた。

 

 いつもながらルイくんの身体(からだ)って、(やわ)らかくて良い匂いがする……!

 

 

 

「キャーッ! ルイちゃんったら大胆~ッ!」

 

「えっと…… ルイくん?」

 

「あ、あの、その…… 先輩、僕が金沢さんと決闘(デュエル)する前…… こうして、抱き締めてくれたので……」

 

「抱いてくれたのでッ!?」

 

「マキちゃん静かに」

 

 

 

 ルイくんが赤らめた顔を上げて、上目遣いで心配そうにボクを見つめた。

 

 

 

「ど、どうですか? 緊張…… (やわ)らぎましたか……?」

 

「ッ~~~~!!」

 

 

 

 なっ、なんだこの愛くるしい生き物は……! 間違って地上に落ちてきた天使なんじゃないか?

 

 ……ボクはルイくんの頭をなでなでしながら、(ほお)のゆるんだ笑顔で答える。

 

 

 

「フフフフッ、ルイくんありがとう~! すっごく緊張が(ほぐ)れたよ~、えへへへぇ~ッ」

 

「解れ過ぎてゆるゆるのデレデレじゃない。大丈夫なの?」

 

「── おーおー、見せつけてくれんじゃん」

 

「!」

 

 

 

 ボクら6人の誰でもない声が聞こえた。この声は確か……!

 

 

 

「狼城くん!?」

 

「よっ」

 

 

 

 やって来たのは、さっきまで九頭竜くんと3位決定戦で闘っていた、狼城 暁くん本人だった。

 

 

 

「あ、狼城センパイだ~。こんちわ~」

 

「おう、お嬢ちゃんもいたんか」

 

「狼城くん試合お疲れ様。良い決闘(デュエル)だったよ」

 

「どーも。会場はしっかり(あった)めといてやったぜ、兄弟(きょうだい)

 

「き、兄弟?」

 

「おうよ。オレが兄貴分で、セツナ君は弟分な」

 

 

 

 な、なんか勝手に兄弟に認定されちゃった……

 

 

 

「あはは…… じゃあ狼城の兄貴って呼んだら良い? それとも…… お兄ちゃん?」

 

「ハハッ、それも悪かねぇけど、そこは兄弟って呼んでくれや。そっちのが(サマ)になんだろ?」

 

「そっか。分かったよ、兄弟」

 

「セツナくんの(くち)から『お兄ちゃん』なんて萌えワードを聞ける日が来るとは……! 狼城センパイ、妄想ネタの提供、感謝でありますッ!」

 

「おいおい嬢ちゃんよぉ~、オレとセツナ君で(うす)い本とか作んなよ~?(笑)」

 

「ボ、ボクもできればやめてほしいかな、それは……」

 

(にしても、兄弟、か……)

 

 

 

 ── 昔も、そんな感じの間柄(あいだがら)だった〝親友〟が、一人(ひとり)いたっけな。

 

 

 

(……〝(かれ)〟は今どこで、何をしてるんだろう……)

 

「ん? どうかしたか?」

 

「あっ、ごめん狼城くん。なんでもないよ」

 

「つーかセツナ君よぉ、試合前に女3人も(はべ)らせてイチャつくたぁ、ずいぶん余裕じゃねーのよ?」

 

「べ、別にイチャついてるわけじゃ…… えっ? ()()?」

 

「ん? そっちのお嬢ちゃん二人に、さっき抱き合ってたそこのチビッ子で3人だろ?」

 

「えぇっ!?」

 

 

 

 ルイくんが狼城くんに(ゆび)()されて驚いた声を出す。またもや女の子と間違われてショックを受けたみたいだ。

 

 この流れ、もはや恒例(こうれい)になりつつあるけど…… 可愛い後輩のためにも、誤解はきちんと()いてあげよう。

 

 

 

「えーっとね狼城くん? ルイくんは実は男の子なんだよ。こう見えてね」

 

「……はっ? 男? こんな女顔してんのにっ!?」

 

「こんな可愛い子が女の子のはずがないでしょ? まぁ気持ちは激しく分かるけどね」

 

「というかなんで男子の制服を着てるのに、みんな気づかないのかしら?」

 

「アマネたんだって最初は勘違いしてたじゃ~ん」

 

「うっ、そ、そうだったわね……」

 

 

 

 それだけルイくんの(おさな)くて愛らしい顔立ちと、()(がら)華奢(きゃしゃ)な身体つきが、彼は女の子だって先入観を与えちゃうのかも知れない。

 

 ところが狼城くんは、まだ信じられていないみたいで……

 

 

 

「いやいや、オレの目をごまかそうったって、そうはいかねーよ」

 

 

 

 ズイッとルイくんに急接近する狼城くん。そして──

 

 

 

「どれどれ?」

 

「きゃっ!?」

 

 

 

 なんと、いきなりルイくんの胸をわし(づか)んで、()みしだき始めた。

 

 

 

「おっ、可愛い声じゃん」

 

「やっ、あ、あの……!」

 

「ちょ、狼城くん!?」

 

 

 

 感触を確かめるように、いやらしい手つきでルイくんの胸板(むないた)を、ふにふにとまさぐる狼城くん。

 

 

 

「ん~、確かに胸は男みてーにペタンコだがよ…… この柔らかさは男の身体じゃねーぞ?」

 

「あっ、んうっ…… (いた)っ……!」

 

「お、おいてめぇっ! 兄貴に何しやがるっ!? 痛がってんじゃねぇか離せやっ!」

 

 

 

 ケイくんが狼城くんを引き()がして、ルイくんを助けてくれた。

 

 ルイくんはケイくんの後ろに隠れると、顔を半分だけ(のぞ)かせ、涙目になってビクビクしてる。

 

 

 

「なんでぇ、良いじゃんよ別に減るもんじゃねーし。むしろデカくなんべ?」

 

「いや、ルイくんは男の子だから胸は大きくならないって……」

 

(……なんで私は1日に二度も、男が男の胸を揉むシーンを見せられてるのかしら……)

 

「つかオマエ今、『兄貴』っつった? なに? オマエとそのカワイ子ちゃんも兄弟分なのか?」

 

「『分』じゃねぇっ! れっきとした、血を分けた(じつ)の兄弟だっ!」

 

「……マジで? うわ、似てねぇ~」

 

「てめっ……! ケンカ売ってんのかっ!?」

 

「ケイくん、どうどう」

 

 

 

 こんなところで揉められちゃ(かな)わないので、ボクはあわてて(あいだ)に入ってケイくんをなだめる。

 

 

 

「ルイくん大丈夫?」

 

「は、はいっ……」

 

「怖かったよね、よしよし」

 

(おび)えた()()も可愛くてそそるねぇ~。キスしたくなってくるわ」

 

「「 キッ……!? 」」

 

 

 

 狼城くんの爆弾発言を受けて、ボクとルイくんの(うわ)()った声がハモった。

 

 ボクは、3日前に自宅でルイくんのファーストキスを奪ってしまったあの事故の記憶が、(のう)()でその感触まで、鮮明に思い起こされてしまう。

 

 

 

「はうぅっ……!」

 

 

 

 ルイくんも同じことを思い出したのだろうか。赤くなった顔を両手で隠して、可愛らしい声で鳴いた。

 

 

 

「ろ、狼城くん! あんまりルイくんを怖がらせちゃダメだよ?」

 

「ハハッ、ジョーダンだっての。男ぁ(オオカミ)なんだぜ、子ウサギちゃん。気ィつけな」

 

(うぅ…… 僕だって男なのに……)

 

「── ガッハッハッ!! なんじゃ狼城、お前さんまで来ておったかッ! みんな考えることは同じじゃのうッ!」

 

「!」

 

 

 

 これまた聞き覚えのある声が飛んできた。この野太い笑い声は忘れようもない──

 

 

 

「あっ、熊谷(クマガイ)くん!」

 

「おうッ! 1回戦以来じゃな、ボウズ!」

 

 

 

 ちょっと背伸びすれば通路の天井に余裕で手が届きそうな長身を、()(あつ)い筋肉の(よろい)で包み込んだスキンヘッドの巨漢(きょかん)── 熊谷(クマガイ) (リキ)()くんが、ボク達の前に姿を見せた。

 

 

 

「そうだね、どうしてここに?」

 

「決まっておろう、お前さんを応援しに来たんじゃ! ワシに勝った男が鷹山と()り合うっちゅうんじゃからのぉ!」

 

「そうなんだ、ありがとう熊谷くん!」

 

「ちなみに── 来たのはワシだけではないぞぉ」

 

「えっ?」

 

 

 

 熊谷くんはニカッと笑って、自分の後方を親指で指した。

 

 何だろうと思い、そっちに目を()ると、そこには──

 

 

 

「アゲマキさーん! お久しぶりなのですー!」

 

「よぉッ!! 燃えているか我が友よッ! 熱血だぁーッ!!」

 

「クヒヒヒッ…… 決勝進出を(のろ)いに…… じゃない。(いわ)いに来てやったぞ~」

 

「アゲマキ先輩! こんにちは!」

 

(な、なんでこんなに人が多いんですのぉ~っ!?)

 

 

 

 新たに5人── ボクと顔見知りの生徒が、勢揃(せいぞろ)いしていた。

 

 (はや)() ()(ふみ)ちゃん。

 

 猪上(いのうえ) (あつし)くん。

 

 ()骨崎(こつざき) (カバネ)くん。

 

 宝生(ほうしょう) (アカ)()ちゃん。

 

 そして、鰐塚(ワニヅカ) ミサキちゃん。

 

 全員ボクが、過去に一度は決闘(デュエル)したことのある知り合いだ。特に猪上くん、死骨崎くん、明里ちゃんとは、今回の選抜試験の予選で対戦してる。

 

 

 

「みんな!?」

 

「アゲマキさん! 決勝進出おめでとうなのです! 初出場で決勝戦! しかも相手はリベンジを(ちか)った、あの鷹山 要さん! ついにこの日を迎えた今のお気持ちを、ぜひお聞かせくださいなのです!」

 

 

 

 ケイくんと同じ中等部の生徒である、丸メガネを掛けた黒髪の少女── 記文ちゃんがいの一番に駆け寄ってきて、溌剌(はつらつ)な声でボクに質問を投げかけた。

 

 そう言えば彼女は新聞部の部員だったね。それでインタビューがしたいってわけか。

 

 さて、なんと答えたものかな……

 

 

 

「そうだね…… 正直スゴく緊張してるけど、ここまで来たからには、全力を尽くそうと思うよ」

 

「おぉーッ! ステキなコメントありがとうなのですー!」

 

「ぬおおおおッ!! その意気だアゲマキ君ッ! だが俺との予選で見せた君の闘志は、まだまだそんなものではなかったはずだ! もっと熱くなれよぉぉぉぉおッッ!!!」

 

 

 

 次はボクと同級生で、次期十傑候補の一人に選ばれている、黒い短髪に太い眉毛と、たくましい体格が特徴の熱血(かん)── 猪上くんが、グイグイと迫りながら激励(げきれい)してきた。

 

 この昔の少年マンガみたいな暑苦しいノリは相変わらずだね…… 元気そうで何より。

 

 

 

「う、うん、そうだね、がんばるよ」

 

「ン熱血だあああああッ!! うおーッ! うおーッ! うおーったらうおーッ!!」

 

「あはは…… ありがとう、猪上くん」

 

 

 

 スゴいや、本当に猪上くんの全身から炎がメラメラと燃え上がってる…… ように見えてきた。

 

 火傷(やけど)しそうな熱量に()()されて、それとなく離れると、今度はボクの背後から──

 

 

 

「クヒヒヒッ……」

 

「わっ!?」

 

 

 

 猪上くん同様ボクの同級生である、顔の半分を長い黒髪で覆い隠した、()せぎすで(ねこ)()な少年── 死骨崎くんが、おどろおどろしい(こわ)()で、ボクに笑いかけた。

 

 

 

「ビ、ビックリしたぁ~…… どうしたの? 死骨崎くん」

 

「クヒヒッ、お前にコレをやろう……」

 

 

 

 死骨崎くんはボクに、シルバーのアクセサリーらしき物を手渡した。

 

 ピラミッドを逆さまにしたような、(せい)()(かく)(すい)の小さな装飾品に、チェーンを繋げてある。

 

 なんだか、決闘王(デュエル・キング)()(とう) (ゆう)()さんが、いつも首から下げていた金色のアイテムを、アクリルキーホルダーほどのサイズに縮めたみたいなデザインだった。

 

 

 

「コレは?」

 

「なぁに、優勝()(がん)()(まも)りみたいなもんさぁ…… コレを身につけると、悪いモノを寄せつけなくなると言われていてなぁ…… 本来なら金を取るところだが…… 決勝進出の記念に特別にタダでやるぞぉ、クヒヒヒ」

 

「……そっか、ありがたく(もら)っておくね」

 

 

 

 早速ネックレスを首に掛けてみる。

 

 

 

「……フフッ、なんか遊戯さんになった気分だよ」

 

「クヒヒッ、よく似合ってるじゃないか…… 気に入ってもらえたようで何よりだぁ、健闘を祈ってるぞぉ~? クヒヒヒヒヒヒッ……」

 

 

 

 ボクがワイシャツの内側にネックレスをしまってると、続いては学年が1つ下の、緑色の髪をポニーテールに結んだ女の子── アカリちゃんが声をかけてきた。

 

 

 

「アゲマキ先輩、決勝戦がんばってくださいね! 応援してます!」

 

「アカリちゃんもありがとう。でも意外だね? 君はてっきり、カナメを応援するんだと思ってたけど」

 

「も、もちろんカナメ様も応援してますよ? でもたぶん、あの人は私のことなんて覚えてなさそうだし…… それに何より、私と予選で闘った人が決勝まで行ったんです。あいさつしないわけにはいかないじゃないですか」

 

「あはは、それは嬉しいね。アカリちゃんの分まで、がんばってくるよ!」

 

「はい! ……それにしても……」

 

「?」

 

(……黒雲(くろくも)さんも観月さんも鰐塚さんも…… みんな、胸が大きくてうらやましい……! 私なんて、Bカップしかないのに……!)

 

 

 

 アカリちゃんの目線の先では、プラチナブロンドの長髪を両サイドでまとめて、ドリル状の縦ロールに巻いた髪型が印象的な令嬢(れいじょう)── 鰐塚ちゃんが、狼城くんと会話していた。

 

 

 

「いよぉミサキ嬢。1回戦ぶりだな」

 

「っ! ろ、狼城…… アナタまでいらしてたのね……」

 

「相変わらず胸デケーな、揉ませろよ?」

 

「なっ!? ち、近づかないでくださいまし! この俗物(ぞくぶつ)っ!」

 

「くぅ……! これが胸囲(きょうい)の格差社会ですか……!」

 

「ど、どうしたのアカリちゃん?」

 

 

 

 自分の胸に手を当てて、どこか(くや)しげな表情でそう呟いたアカリちゃん。

 

 何のことを言ってるのかはよく分からなかったけど…… とりあえず、ボクも鰐塚ちゃんにあいさつしとこう。

 

 

 

「こんにちは、鰐塚ちゃん」

 

「はうっ!?」

 

「君もボクの応援に来てくれたの?」

 

「そうだっつってたぜ、セツナ君」

 

「ちょ、ちょっと狼城!? なんで貴方が答え──」

 

「そうなんだ! ありがとう鰐塚ちゃん!」

 

 

 

 ボクは両手で鰐塚ちゃんの右手を優しく握って、お礼を言う。

 てっきり彼女には嫌われてるものとばかり思ってたから、なおのこと嬉しかった。

 

 

 

「あっ、あ、あわわわわわっ!?」

 

(セセセセ、セツナさんの手ががががっ!? ワタクシの手ををををっ!?)

 

「あれ? 鰐塚ちゃん? 顔が赤いけど大丈夫?」

 

「はふん……!」

 

 

 

 鰐塚ちゃんは耳まで真っ赤になったかと思うと、突然フラついて(あお)向けに(たお)れそうになる。

 

 

 

「わっととっ!? 危ない!」

 

 

 

 ボクはとっさに鰐塚ちゃんの背中に右腕を回して、身体を()(かか)える形で受け止めた。

 

 左手は彼女の右手をまだ握っていたので、まるで鰐塚ちゃんと社交ダンスでも踊ってるみたいなポーズになってしまう。

 

 そして鰐塚ちゃんはと言うと…… 首をガクンと()()らせた体勢のまま、起きる気配がない。

 

 どうやら気絶している様だ。ひょっとして手を触られたのが、気を失うほど嫌だったとか? だとしたらまた悪いことしちゃったな……

 

 

 

「おぉーッ!! (さわ)やか美少年のスーパールーキーと、学園のマドンナのワルツ!! 大スクープなのですーッ!」

 

「ちょ、記文ちゃん!? 撮らなくていいから!?」

 

 

 

 ミラーレス一眼(いちがん)カメラのシャッターを、()()として切りまくる記文ちゃん。

 

 マ、マズイ…… こんなところを撮られた写真が出回りでもして、鰐塚ちゃんの側近(そっきん)(ひろ)()くんと京川(けいかわ)くんに見られようものなら、きっとタダじゃ済まない……!

 

 と、その時──

 

 

 

「ダメでしょ、セツナを困らせちゃ」

 

「うひゃ!? お、大きいのです!?」

 

 

 

 アマネがカメラの前に立ちはだかって、撮影を()()してくれた。

 

 あの身長差だと、レンズにはアマネの胸がドアップで映り込んだことだろうね。

 

 

 

「本人が嫌がってるんだから、写真は消してあげなさい」

 

「は、はいなのです! アゲマキさん、ごめんなさいなのです! あまりにも()える()だったもので、撮らずにいられなかったのです!」

 

 

 

 アマネに(さと)された記文ちゃんは、素直に謝ってペコリと頭を下げた。

 

 

 

「ありがとうアマネ、助かっ──」

 

「エロ戦車出撃ィーッ!!」

 

 

 

 狼城くんの大声が、ボクの言葉を(さえぎ)った。

 

 彼はどこから持ってきたのか、T字型の長い定規(じょうぎ)の先端で、アマネのスカートを目一杯めくり上げた。

 

 

 

「キャーーーっ!?」

 

 

 

 黒いレースの下着に包まれた、アマネのお尻が丸見えになる。

 

 

 

「ヒュー♪ 黒たぁマセてんねぇ? にしても、良いケツしてんなぁ」

 

「うへへへッ、ナイスです狼城センパイ!」

 

 

 

 マキちゃんも、狼城くんの両肩を掴んで真後ろに並び、一緒になって(わる)ノリしていた。

 

 仲良いね、この二人…… 自由奔放(ほんぽう)な性格同士、気が合うのかな。

 

 

 

「何すんのよ変態っ!!」

 

「ぶべらっ!?」

 

 

 

 案の定アマネは(おこ)って、グーパンで狼城くんを制裁(せいさい)した。

 

 鰐塚ちゃんにも同じイタズラしてたけど、狼城くんってスカートめくりが好きなのかな?

 

 ちなみにその鰐塚ちゃんは、すぐに意識を取り戻した。彼女いわく、手を握られたのは別に嫌じゃなかったらしくてホッとした。

 

 

 

「あ、あの野郎っ……! く、くく、黒雲さんに、な、な、なんてことしやがるっ……! 俺だってまだ、あの絶対領域の中は見たことねぇのにぃぃぃっ……!!」

 

 

 

 血涙(ちなみだ)を流すコータの肩に、ボクはポンと手を置く。

 

 

 

「まぁまぁ落ち着きなよコータ」

 

「うるせぇーっ!! お前もちゃっかりガン見してやがったなぁ!? うらやま…… けしからんぞアゲマキぃーっ!!」

 

「わぁーっ!? あれは不可抗力だよーっ!」

 

「ガッハッハッ! しっかし驚いたわい! お前さん、なかなか人望があるのぉ!」

 

 

 

 コータにヘッドロックをかけられていると、熊谷くんが豪快に笑い出した。

 

 

 

「えっ? そ、そうかな?」

 

「そうじゃとも。でなきゃこんな大勢で、わざわざ応援のために駆けつけたりせんわ。これもお前さんの人柄(ひとがら)賜物(たまもの)じゃろうて!」

 

「な、なんか照れるなぁ~、あははッ」

 

(……あ、でも……)

 

豪炎(ごうえん)()くんは来てない…… か」

 

 

 

 予選の準決勝で当たった次期十傑候補の筆頭── 豪炎寺 龍牙(りゅうが)くんの姿は、残念ながら見当たらなかった。

 

 まぁ、彼がボクを応援してくれるってのは…… 考えづらいか。

 

 

 

「アゲマキ選手! 間もなく入場です!」

 

「あっ、もうそんな時間?」

 

「良かったねセツナくん。リラックスできたみたいじゃん」

 

「えっ? ……!」

 

 

 

 マキちゃんに言われて気づいた。

 

 いつの間にか…… 手の震えは、すっかり止まっていた。

 

 

 

(………)

 

 

 

 ボクはフッと笑みをこぼして、集まってくれた12人に呼び掛ける。

 

 

 

「みんな!」

 

 

 

 みんなは水を打った様に静まった。

 

 そしてボクは震えの止まった手を強く握り締め── 一言(ひとこと)、みんなに(はげ)まされて固まった決意を込めて、宣誓(せんせい)する。

 

 

 

「決勝戦…… 勝ってくるねッ!」

 

『『『 おうッ!!! 』』』

 

 

 

 みんなが声を揃えて(こた)えてくれた。

 

 

 

(……本当に…… この学園に来て良かった……!)

 

 

 

 ボクは身体の底から(ちから)が沸き起こるのを感じて、同時に嬉しさで胸いっぱいになり、つい顔が(ほころ)んでしまう。

 

 

 

(── よし! 行こう!)

 

 

 

 気を引き締めて、一人一人とハイタッチしながら、入場口へと歩を進めていく。

 

 そして── 最後にアマネと手を合わせる際、彼女はボクに微笑(ほほえ)みかけた。

 

 

 

「セツナ、行ってらっしゃい」

 

「……!」

 

 

 

 アマネの(くち)からその言葉を聞いたボクの目に、一瞬──

 

 昔お世話になった〝ある女性〟の顔が、アマネに(かさ)なって見えた。

 

 

 

(……懐かしいな)

 

 

 

 あの人も今のアマネみたいに優しい笑顔と声で、『行ってらっしゃい』って言って、いつも見送ってくれてたっけ……

 

 

 

「……うん。── 行ってきます!」

 

 

 

 元気よくそう答えてアマネとハイタッチすると、ボクはいよいよ決戦の舞台へ続くゲートに、足を踏み入れた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『── レディース・アーンド・ジェントルメーンッ!! 待たせたな諸君! 時は来た! これより選抜デュエル大会・本選、アリーナ・カップ! 決勝戦の(まく)()けだァァァァッ!!』

 

 

 

 本選1回戦から今日までの4日間──

 

 大会の司会進行を(つと)め、そのパッションあふれる実況と解説で、イベントを盛り上げるのに一役(ひとやく)買っていた、MC担当のマック伊東さん。

 

 最終日も安定のハイテンションで、開幕(かいまく)(おん)()を取ってくれた。

 

 

 

『例年に負けず(おと)らず、数多(あまた)の名勝負を生み出してきた今年のアリーナ・カップも、ついにファイナルを迎える時が来たァァーッ!! 泣いても笑っても、これが正真正銘、ラスト・デュエル!! この(ねん)に一度のビッグイベントを締めくくる頂上決戦を、共に結末まで見届けようぜエビバディーッ!!』

 

「待ってましたァーッ!!」

 

「期待してるぞぉーッ!!」

 

「最高の決闘(デュエル)を見せてくれぇーッ!!」

 

 

 

 詰めかけた観客も全員一丸(いちがん)となって、割れんばかりの歓声を(とどろ)かせる。

 アリーナはすっかり、最高潮の熱気に満ちていた。

 

 

 

『イェーイッ!! それじゃあオーディエンスのボルテージもマックスに(たっ)したところで── お待ちかね! 長い長い闘いを勝ち抜き、今日この場で優勝を争う、二人の決闘者(デュエリスト)を呼び(むか)えようッ! 一人目は、この少年だッ!!』

 

 

 

 場内が暗転し、ボクの入場するゲートをスポットライトが照らし出した。やっぱり今日も、一番手はボクか。

 

 

 

『〝黄金(おうごん)世代〟と評された、歴代最強クラスの十傑メンバーが全員集結した今年のアリーナ・カップ! そんな強豪ひしめく、過去最高にハイレベルなトーナメントを勝ち上がり、晴れて決勝進出を果たしたのは! 驚くことに今回が初の参戦となる、高等部2年の転入生だったッ!! まさに〝超新星〟と呼ぶべき、新世代のナンバーワン・ルーキー!! その名は、2年── 総角 刹那ァァーッ!!』

 

 

 

 名前を呼ばれてボクが歩み出ると──

 

 

 

『『『 キャアーーーッ!! セツナくぅ~~~んッ!!! 』』』

 

「わぁ!? なになにっ!?」

 

 

 

 大歓声に混じって、女の子達の黄色い声援が、そこかしこから聞こえてきた。

 

 

 

『今大会での目覚ましい活躍と、その端整(たんせい)なルックスで多くの女性ファンを獲得したアゲマキ選手の登場に、熱烈な声援が飛び交っている! くぅ~ッ! モテモテでうらやましいぞこんちくしょ~ッ!!』

 

「あ、あはは…… いつの間にこんなことになってたんだ……」

 

 

 

 応援席に笑顔で手を振りつつ、ボクは決闘(デュエル)フィールドに立つ。

 

 数秒後、今度は逆サイドの入場口に舞台照明が集中した。

 

 

 

『そしてッ! 快進撃の果て、ついに頂点まで(のぼ)り詰めた超新星を、玉座(ぎょくざ)にて待ち受けるのは! 今年いよいよ大会3連覇に〝王手〟をかけた、無敗のディフェンディング・チャンピオン!! 最後の防衛戦を制覇し、前人(ぜんじん)()(とう)の偉業を()()げ、この街の歴史に、その(めい)()を刻むことができるだろうかッ!? 3年・十傑! またの名を── 〝学園最凶〟!! 鷹山 要ェェーーーッ!!』

 

 

 

 左腕にブルータイプのデュエルディスクを着けた、黒髪碧眼(へきがん)(れい)()()(ぼう)の青年が、悠然(ゆうぜん)とした足取りで堂々の入場を果たす。

 

 

 

(カナメ……!)

 

 

 

 ボクの(ほほ)を冷や汗が伝い、思わず息を飲む。

 

 

 

「カナメ様ァーッ!!」

 

「カッコイイーッ!!」

 

「こっち向いてぇーッ!!」

 

 

 

 カナメはボクと違って声援には一瞥(いちべつ)もくれず、獲物を狙い澄ました(たか)の様に鋭い(まな)()しをボクにだけ向けたまま、ステージへと上がってきた。

 

 

 

(……うぅ、そんな見ないでよ……)

 

 

 

 男のボクでも()()られちゃう美男子に穴が()くほど見つめられてると、こっちが目を()らしたくなってしまう……

 

 いや、耐えろボク、ここで逸らしたら負けだ……!

 

 

 

「……初めて会った時以来だね。こうして決闘(デュエル)するために、君と向かい合うのは」

 

「……そうだな」

 

 

 

 あの時も思ったけど、カナメが放つ()()の迫力は、圧巻の一言に尽きる。

 

 このそびえ立つ山みたいに圧倒的な存在感…… 歴戦のプロ決闘者(デュエリスト)さながらの貫禄(かんろく)だ。本当に18歳?

 

 

 

「フッ……」

 

「? どうしたの?」

 

「控え室ではずいぶんと緊張していたようだが…… 俺に負けたトラウマは、無事に吹っ切れたようだな」

 

「うっ……! バレてた?」

 

 

 

 ボクは後ろ髪を軽く()いて苦笑する。

 

 なるべく(つと)めて平静を(よそお)ってたつもりでいたけれど、カナメの慧眼(けいがん)にはお見通しだったか……

 

 

 

「あれだけの大口を叩いておきながら、今さら臆病風(おくびょうかぜ)に吹かれたかといささか()(ねん)していたが…… 安心したぞ。どうやら、退屈な決闘(デュエル)にはならずに済みそうだ」

 

「……ここに来る前、友達にたくさん勇気を分けてもらったからね」

 

 

 

 ついさっきまで、しっかり臆病風に吹かれてましたとは言えない……

 

 でも、みんなが背中を押してくれたおかげで、ボクの中の弱気は解消できた。

 

 今はむしろ試合開始が待ち切れなくて、ウズウズしてるぐらいだ。

 

 

 

「── お待たせ、カナメ。約束通り、君に勝ちに来たよ」

 

「待っていたぞ、総角 刹那。よくぞ()()まで勝ち残り、俺への挑戦権を勝ち取った」

 

 

 

 カナメは自分のデュエルディスクから、デッキを取り外してボクに差し出してきた。

 

 

 

「?」

 

(ほう)()だ。お前に俺のデッキを、シャッフルさせてやる」

 

「えっ…… 良いのッ!?」

 

 

 

 光栄だなぁ……! カナメのデッキを触らせてもらえるなんて……!

 

 ボクは目を輝かせて、デッキを手に取った。

 

 すると、その途端──

 

 

 

「っ……!!」

 

 

 

 デッキからほとばしる、持ち主と遜色(そんしょく)ない(すさ)まじいオーラを肌で感じ取り、ボクは戦慄(せんりつ)を覚えた。

 

 

 

(スゴいっ…… コレがカナメのデッキ……! 40枚のカードの(たば)が、(なまり)みたいに重く感じる……!)

 

「……あ、そうだ、ちょっと待って」

 

 

 

 カナメのデッキをシャッフルする前に、ボクも自分のデッキをカナメに手渡した。

 

 

 

「ボクだけ自動(オート)シャッフルじゃ(あじ)()ないし、公平(フェア)じゃないからね。良かったらカナメに混ぜてほしいな」

 

「あぁ。良いだろう」

 

 

 

 ボクとカナメはデッキを交換すると、ヒンズーシャッフルと呼ばれる一般的な手法で、カードを切り混ぜていく。

 

 

 

『おぉーっとッ! これはなんとも(いき)な展開ッ! 両選手、互いのデッキをカット・アンド・シャッフル!!』

 

 

 

 海馬コーポレーションの技術の()(やく)(てき)な進歩で、今やデッキのシャッフルは、デュエルディスクが自動で(おこな)ってくれる。

 

 だからこそ昨今(さっこん)決闘(デュエル)界では、わざわざ対戦相手に自分の(たましい)のこもったデッキを渡して、決闘(デュエル)の勝敗を左右すると言っても過言ではない不可欠な行為であるシャッフルを、()()の手に(ゆだ)ねるというのは……

 

 相手のことを、魂を(たく)せる決闘者(デュエリスト)だと認めている── そんな意味合いが込められているんだ。

 

 優勝が()かった大事な試合で、そこまでしてくれたカナメの心意気に、ボクもちゃんと誠意で応えないとね。

 

 

 

(フフッ、なんだかバトル・シティの決勝戦みたいで、テンションが上がるね)

 

(……このデッキ、ずいぶんと使い込まれているな。持ち主がカードを心から大切にしているのがよく分かる…… カードもまた、持ち主に全幅(ぜんぷく)の信頼を寄せ、固い絆で結ばれているようだ。── フッ…… まさしく決闘者(デュエリスト)(かがみ)だな)

 

 

 

 数回シャッフルした(のち)、お互いにデッキを相手に返し、受け取った自分のデッキを、再度それぞれのデュエルディスクにセットした。

 

 正直あのカナメのデッキを触ってると思うと、入場前とはまた別な意味で手が震えた。うっかりカードを落としたりしなくてホント良かった……

 

 

 

「念入りにシャッフルしておいたか? 俺が手札事故を起こすように願いながらな」

 

「そんなので勝てても嬉しくないよ。君に本気を出させた上で勝たないとリベンジにならないしね」

 

「安心しろ、俺にとっては今年が最後のアリーナ・カップだ。その決勝戦で手を抜く気など毛頭(もうとう)ない。── 望み通り…… 全力で相手をしてやる」

 

「!!」

 

 

 

 カナメの目付きが変わり、サファイアの様に(あお)(きら)めく眼光で、ボクを()(すく)めた。

 

 

 

(っ……! なんて威圧感っ……!)

 

 

 

 九頭竜くんのプレッシャーが弾丸で撃ち抜いてくるような鋭さなら、カナメのそれは、上から押し潰してくる重圧って感じだ……!

 

 ボクはたまらず打ち(ふる)える。だけどこれは、(おそ)れおののいたわけじゃない。

 

 ── ()(しゃ)(ぶる)いだ。

 

 

 

「……良いねッ、ゾクゾクしてきたよ……!」

 

 

 

 カナメの闘気にあてられて、ボクも決闘者(デュエリスト)としての血が(たぎ)ってきた。

 

 ボクって平和主義者を自負してる割りに、決闘(デュエル)に関しては意外と好戦的だったみたい。

 

 

 

「そう来なくっちゃッ!!」

 

 

 

 自分も闘気を全開にして、カナメに思う存分ぶつけたい。

 

 そんな衝動に駆られるがまま── ボクは、かけている赤メガネを取り外した。

 

 決闘(デュエル)を始める前から〝このモード〟に入るのは、たぶん初めてかも。

 

 

 

『お、おぉぉ……っ!? す、凄まじいッ! アゲマキ選手と鷹山選手、両者の闘気が激しくぶつかり合って、会場の空気をビリビリと震わせているぅーッ!!』

 

「……フフッ、九頭竜にも引けを取らない猛々(たけだけ)しい気迫だな。俺の心が(いさ)(ふる)う……」

 

 

 

 カナメは口角を()り上げ、愉快そうな微笑(びしょう)を浮かべた。

 

 

 

「上出来だ。今のお前なら、俺の本気を受け切れるかも知れないな」

 

「ご期待に添えるようがんばるよ。── 楽しい決闘(デュエル)をしようね、カナメ」

 

「それはお前次第だ、総角 刹那。お前の持てる力、その全てを尽くして── この俺を(たの)しませてみせろ」

 

(あはは…… いっそ清々(すがすが)しいくらいに上からだなぁ)

 

 

 

 ── あいさつもそこそこに、ボクはカナメとの間隔(かんかく)を空けて自分の定位置で立ち止まると、ホワイトタイプのデュエルディスクを起動した。

 

 これで準備は完了…… あとはこの決闘(デュエル)を制するだけだ!

 

 

 

『さぁ役者が揃って、舞台は(ととの)った! この決闘(デュエル)、どちらが勝っても、我々は伝説の爆誕(ばくたん)()の当たりにすることになるだろうッ!!』

 

 

 

 今、(ふたた)び── 〝学園最凶〟の決闘者(デュエリスト)(いど)む!!

 

 

 

『アリーナ・カップ・トーナメント決勝戦!! 総角 刹那 VS(バーサス) 鷹山 要!! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 カナメ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 決戦の火蓋が切られた瞬間── 満員の大観衆が一斉に拳を突き上げ、喝采(かっさい)を巻き起こした。

 

 ここまでヒートアップされちゃったら、盛り下がるようなプレイは見せられないね……!

 

 

 

「先攻は挑戦者(チャレンジャー)であるお前からだ」

 

「オーケー、ボクのターン!」

 

(……! この手札…… フフッ、なるほどね)

 

 

 

 まさかそう来るとは。カード達も、なかなか粋なことをしてくれるね。

 

 

 

「行くよカナメ! ボクは── 【ミンゲイドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】攻撃力 400

 

 

 

「【ミンゲイドラゴン】か…… 確か前回の決闘(デュエル)では、守備表示で出していたな」

 

「覚えててくれてたんだ? まだ数ヶ月前の話だけど、なんだか懐かしいね…… あの時は()(おく)れしたプレイで君をガッカリさせちゃったけど…… 今回は違うよ!」

 

「ほう?」

 

「【ミンゲイドラゴン】をリリースして── 手札から魔法(マジック)カード・【モンスターゲート】を発動!」

 

『アゲマキ選手、いきなり仕掛けてきたァーッ! 【モンスターゲート】は、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキをめくっていき、出たモンスターを特殊召喚するカード! 果たして今回は、どんなモンスターが飛び出すのかぁーッ!?』

 

「なるほど…… だが半端なモンスターを引けば、敗北に繋がりかねないぞ?」

 

 

 

 カナメの忠告に、ボクは不敵な笑みを返す。

 

 

 

「それはどうかな?」

 

「なに?」

 

「敗北に繋がるかどうかは── やってみれば分かるさ!」

 

 

 

 言いながらボクは、1枚目のカードを思い切り引き抜く。

 

 

 

(!)

 

 

 

 そして、そのカードが何かを確認…… ()()()()()、目を閉じてほほ笑んだ。

 

 

 

(来てくれると思ってたよ── 相棒!)

 

 

 

 そう、確認なんて必要ない。

 

 見なくても〝あのカード〟だと確信したボクは、なんら躊躇(ためら)うことなく、1枚目のカードをディスクのモンスターゾーンにセットした。

 

 

 

「出ておいでッ! 【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

 ボクの呼び掛けに応えるように── 白い体毛をまとった耳の長い飛竜(ひりゅう)が、フィールドに()り立った。

 

 

 

【ラビードラゴン】攻撃力 2950

 

 

 

『なっ、ななななんとぉーーーッ!? アゲマキ選手、まさかの1枚目で! し、しかも! 引いたカードを()()()()に場に出し、見事エースモンスターを引き当てたァァーッ!! まさに天性の引きの強さ! これぞアゲマキ選手を(いく)()も勝利へと導いてきた、彼の最大の武器! 〝デスティニー・ドロー〟だァァーッ!!』

 

 

 

 カードに()れた瞬間、伝わってきたよ。

 

 【ラビードラゴン】の── 魂の鼓動が!

 

 

 

「ボクのデッキも、カナメとまた闘える日を楽しみにしてたみたい」

 

「……フッ…… いつもながら、大胆かつ予想外なことをしてくる奴だ。実におもしろい」

 

 

 

 最高に幸先(さいさき)の良いスタートが切れた。今日は今まで以上に絶好調みたいだ。

 

 

 

「ボクはカードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「相手にとって不足はない…… じっくりと愉しもうか── 最後の決闘(たたかい)を!」

 

 

 

 





 ※セツナくんはフォレッセ・ドローの使い手ではありません。

 カナメが入場するシーンでハーモニカでも吹かせようかと考えましたが、さすがにやめときました(笑)

 それにしても、これだけ女の子が集まっていながら、パイタッチされたのが男2人だけとはこれいかに(?)

 約1年ぶりの投稿だったので、作者も緊張のあまり手が震えました……
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