Fate/カレイド Zero   作:時杜 境

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エピローグ

 ――窓から差す日差しが、店内を照らす。

 

 普段は教会の礼拝堂が如く落ち着いた雰囲気をかもし出しているこの喫茶店は、しかし現在、奥の席にいる客の間で楽しそうに、騒がしく交わされている談話のおかげで活気づいている。

 休日の昼間ということも合わさり、客の入りも段々と増加しているようだった。店員である二人の少女も慌しく動いている。

 

「うわ!? ちょ、そんなに砂糖入れて大丈夫なのかい!?」

 

「問題ないよ。むしろ、これくらい入れないと味覚が機能しなくてな。全く困ったもんだ」

 

「それでも止めた方がいいんじゃ……いや、僕も人のことは言えないけどさ」

 

 そんな私の前に座る男は、チョコレートパフェと、ダメ元で注文したら何故か出てきた和菓子を頬張っている。

 私もそろそろココアに角砂糖をドカ入れする癖を直したいところなのだが、前述の通り半端な味付けだと全く舌が反応してくれない。四年前の後遺症は、こんなところにまで影響を及ぼしていた。

 

 陣取るは窓側の席。景色が見える場所ってなんかロマンチックだよな、などと零したのが何か彼の琴線に触れてしまったのか、否応なく決められてしまったのだった。

 ……窓側席はロマンチック、というただの主観を常識と捉えないことを祈ろう。

 

「そういやぁアンタ、名前決まったんだっけ」

 

「まるで動物みたいな言い方だね……うん、社会の一員になる以上、名称は必要だし」

 

 そう言って相手が荷物から取り出してきたのは一枚の名刺。

 それを受け取り、印刷されている文字列をそのまま読み上げる。

 

「ロマニ・アーキマン――ふうん、成る程。()()()じゃないか」

 

「けどそれ、もうあんまり好きじゃないんだ。アーキマンなんて少し驕りすぎたし、ここはロマンと呼んでくれないかな」

 

 ……道理で琴線に触れてしまったワケだ。

 どうやらこの男、ロマンという言葉を気に入ってしまっているらしい。まぁ、生前――或いは前世のことを思えば、それも無理ないのかもしれないが。

 

「別に断る理由はないけど……わざとか、それ?」

 

 尋ねれば、勿論! という答えが返ってくる。これは筋金入りだ。

 

 ――あの特異点での最後、私が聖杯にかけた願いは単純なものだった。

 “ここにいる者の中の願いで、一番()()なものを叶えろ”という。

 

 誰も彼も、聖杯にかけてまで叶えたい願いはないと言った。それが真実だったのかどうかは、最早どうでもいい。

 どうせなかったことになる。願いをかけたところで、何が残るわけでもない。

 その前提を思えば、まぁ全てを知っていた彼なら、有るだの無いだの言っても、無意味だと悟っていたのだろう。

 

 ――だが結果的には、叶えられてしまった。

 英霊を人間にするという、聖杯からすれば簡単なことが。

 

「しっかしまさか、叶った途端に魔術王が人間になるなんて予想外だったな。テキトーに叶えてずらかる予定だったっていうのに……」

 

「うっ、その点については少し責任を感じるし、感謝もしているけれど……君の願い方にも問題があったんじゃないかなぁ!?」

 

「願いがないなら条件絞ってランダム制にすりゃあいいんだよ、って理論な。だってあそこにいたメンバーなら、そんなおかしな願いとかねーだろ?」

 

 一時的な願いでなったとはいえ、即座に見捨てることはできなかった。

 全く見覚えのない者が突然現れて、うろたえなかったワケじゃない。むしろ何が起きているのかすら理解できなかった。

 が、気付いた時には何も考えずに彼も連れて鏡面界へジャンプ、その先で合流した師匠によってどうにか事なきを得たのだ。

 ……今思えば、あれは単に状況を聞き出したいと思ったのだろう。なにせ願いがないと思っていたソロモン王が、いきなりただの人間と化してしまったのだから。

 

 ソロモン王は褐色肌と地につきそうなまでの白い長髪の持ち主だったが、今の彼は白い肌に、肩までに切った髪を後ろで一つに束ね、現代的な衣服を纏っている。

 いかにも一般人らしい格好だ。しかし前世との決定的な違いといえば、スイーツを一口食べるごとに表情が百面相みたいになってる点だろう。

 

「あれからもう一ヶ月……か。人間になった気分はどうだ、ロマン?」

 

「――いや、素晴らしいという一言に尽きるね! 縛られることもなく、自分の意志で道を選択できる。今日も明日も明後日も、何が起こるか分からないこのワクワク感はたまらないよ!」

 

「……その様子だと、ミツルさんと息が合ってそうだなぁ」

 

 人間となった彼は、ひとまず伽藍の党へ預けたのだ。ウチは預かり屋じゃない、という抗議は、可愛らしくも小悪魔的な助手によって阻まれた。

 元々所長であった人形師はもういないが、一番平和で安定した世界線。私が言うと少々不穏だが、剪定されるほど可能性は閉じていない。

 

 ――そこでうっかり彼に近況を訊いてしまい、長々とこの一ヶ月で彼が見聞きしてきた思い出が語られ始める。

 それを聞いて分かったのは、とにかくロマニが物凄く人間としての生活を満喫しているという事実だった。

 ……いや、満喫しているに決まってる。今の彼の状態は、誰が何と言おうと「自由」の一言に尽きるのだから。

 

「――とまぁ、昨日は路地裏で迷っちゃってね。でも、親切な占い師さんが――」

 

 自由。彼の場合、それは精神的なものだ。

 生まれた瞬間から縛られた立場。終ぞ、人間が――あらゆる英雄が、当たり前のように謳歌していた自由を、魔術王は味わうことなくこの世を去った。

 他者と感情を共有せず。己の意思で道を決めることも、一方的に感情をぶつけることさえなく。求められたことをこなし、大衆を纏め上げ、神の声を聞いて行動するだけの装置。

 

 ――そんな人生だったから、彼は。

 

「……楽しそうだなぁ、アンタ」

 

「そりゃあもちろん! この先、ずっとこの生活が続くと思うと――……」

 

 そこまで言って、彼が口を閉ざす。

 どうした、と問いかけようとした矢先、横から聞き慣れた声が入ってきた。

 

「――安全装置、か。確かにいつ発動されるか分からんな」

 

 アンデルセンが放った言葉に納得する。

 安全装置。それは、彼――ソロモン王が残したという、魔術が人間にとっての悪に回った際に滅ぼすためのもの。

 詳しい内容は知らない。ただ、彼が()()()()、という効果を発動させるえげつないものだとは知っている。

 

「ソロモン王の結末は変えられない。そして、その影響はロマニ(おまえ)にも及ぶってか?」

 

「……あぁ。()()したとはいえ、何も関係ないわけじゃない。もう僕と彼は別人のようなものだけれど、魂だけは同じなんだよ」

 

 魂――人間を構成する上の三要素の一つ。

 私の味覚がおかしくなっているのも、そこが影響しているからだ。といっても、きちんと肉体と一緒になっている限り、そこまでの問題は発生しない。

 しかし彼――元ソロモン王とも呼ぶべき彼は、少々特殊だ。いや、彼というより前世の魔術王の方だろうが。

 

「だけど今は存在している……これはつまり、まだそういう風になる未来がない、ってことだ」

 

「そうだね。それには少し、安心しているよ。魔術が敵に回るなんて、きっととんでもない事態だろうし」

 

 一体どうやったらそんな未来が来るのだろうか。魔力が枯渇していないのに世界の滅亡? 全く想像がつかない。

 

「なにはともあれ、まだ起こってもいないことを気にするのは時間の無駄だぞ。人間一年生のお前はさっさと自由の謳歌に励むんだな」

 

「に、人間一年生……まぁ、そうだね、はは……」

 

 アンデルセンの毒舌に地味にダメージを受けつつも、幸せそうにパフェへと侵攻していく新入生。

 ……そう、今目の前にいる彼が幸せであろうと、結末だけは変わらない。

 いずれ、()()()()()()()()()。安全装置が存在している以上、きっとその未来は覆らない――絶対に。

 

「けど、ま。人間なんていつ死ぬか分からないもんだしな。だから今を全力で楽しんで生きるんだろ?」

 

「――そうだね。あぁ、その通りだ」

 

 ……彼の様子から察するに、なんか良い感じのことを言ってしまったらしい。

 自覚した途端に恥ずかしくなってきたので、ヤケでコクトー先輩おすすめのブルーベリーパイを注文――しようとしたが、日替わり枠の定め故に今日は見つからない。代わりにミートパイを頼み、ついでに隣りに座ってきた作家が指差す珈琲を追加する。

 

 と、その時。奥の席から白い獣が駆けて来るのが視界に入った。

 

「フォウ、フォウ、フォーウ!」

 

「え、あれ!? 連れて来てたのかい、彼!?」

 

「いやまぁ、実質もうエルキドゥのペットみたいなもんだし……」

 

 自陣での意思疎通可能者はエルキドゥとサファイアである。ちなみにサファイアは現在、カウンター席にいる青携帯と格闘していた。明らかに電話の向こうは人外のなにかだと思うのだが、師匠の知人と聞いた途端にそれ以上の深追いはやめた。

 世界を引っ掻き回す魔法使いの知人。絶対ろくなもんじゃない。あ、ツインテの子にヒンジを折られている。

 

「前はそれなりに言葉も分かったんだけどなぁ……」

 

「ちなみに何と」

 

「マーリンはクズ」

 

 断言された言葉に一瞬ココアを噴出しかける。アンデルセンはというと、鼻で笑っただけだった。

 そして何故だかテーブルに乗ってきたフォウがロマニの腕にそっと手を置いている。まさか同盟成立とかいう意味だろうか。マリーンシスベシ同盟とかいう謎のタッグが誕生してしまうというのか。

 

「マーリン……っていったら、あいつも千里眼持ちだって聞いたことあるぞ。そこんとこ、どうなんだ?」

 

「さぁ? 大して興味もなかったし。僕にいえるのは世界有数のキングメーカー、手段を選ばない魔術師(クズ)の中の魔術師(クズ)ってことかな。あ、そういえばこの前紹介してくれたマギ☆マリ可愛いよね。人間になってようやく彼女の良さが分かった気がするよ……!」

 

「人間になって無駄なことも覚えたんだな……お前……」

 

「フォウフォーウ……」

 

 そんなロマニの様子を見て、フォウがどことなく哀れみの視線を向け始めた。なんというか、あれは彼の残念さ加減に辟易したわけではなく、真実を知るものだからこそ向ける目のような気がする。

 そうして、くるりと来た道を戻るようにしてテーブルから降りていく小動物。大きさ的には完全にリスなので、踏み潰されないか時折心配にな――

 

「――あれっ? なーんか見覚えあると思ったらアナタ、アイツんトコの飼い犬じゃない! 成長しないと案外可愛いのね? 志貴ー、もふもふ拾ったよー!」

 

「フォ、フォウ!?」

 

 ひょい、と彼を抱えて通りすがりの真祖が歩き去っていく。返してきなさい! という声がどこからか聞こえてくるが、フォウが解放される予感はしなかった。

 いいの? という表情でロマニが此方を見てくるが、軽く手を振ってそれを返答とする。

 ひとまず今の光景は記憶から抹消し、ロマニが振ってきた別の話題に食いつくことにした。

 

「ところで、向こうには行かなくていいのかい? 君の友達なんだろう?」

 

「……あの空間に行きたいか? アンタ」

 

 視線を向けた先、店内の奥では髪を下ろし、派手な柄のスーツを纏った金ピカ王と、その隣りにマスターである少女がツインテ和服で居座っている。

 一方、彼女らの向かいには長髪をポニーテールに束ね、現代服を着たエルキドゥが座しており、三人でそれはそれは楽しそうに会話している。お前らは一体どこの世界観に生きてんだ。

 

「君のサーヴァントも大分変わった格好をしていると思うけどねぇ……子供博士?」

 

「勝手に通俗的な属性を付加するんじゃない。俺は単に流行り物を押さえているだけだ――とはいえ、まさか聖杯保管庫にされるとは思わなかったがな!!」

 

「だーからよー、それもう謝ったろうがよー」

 

 聖杯保管庫。読んで字の如く。

 あの特異点で回収した聖杯は現在、アンデルセンの現界を可能とさせるものとして、彼の霊基と()()している。

 願望器としての機能は失った。しかしほぼ無限に魔力が溢れてくるのは事実。

 故に利用した。魔力提供なしで、単独顕現じみた方法で彼の現界を留めたのだ。聖杯の破壊を諦め、回収する方法に変更した理由もこのためである。

 

 彼がいる限り、彼の宝具もまた残される――あの究極の域を、これから先何度頼るのかは知らない。毎度毎度、命がいくつあっても足りない課題内容への切り札として重宝させてもらう予定だ。

 

「お待たせしましたニャー」

 

 そこで先ほど注文したミートパイと珈琲がやってくる。ネコっぽいのが店員にいる事実はこの際ツッコまない。だってここはアーネンエルベだから。

 それはそれとして、早速フォークとナイフを手に取ってパイの乱獲を始める。いつも通り童話作家の方はミルク一杯分をブラックの深淵へ投入し、慣れた様子で飲料を喉へ流し込んでいく。

 

「……んむぅ、美味い。師匠が造った店だけど、料理はホントおいしいんだよな……」

 

「あぁ、ルツって魔法使いの弟子なんだっけ。お師匠さん、どんな人なんだい?」

 

「変人。宝石で殴りかかってくるジジイ。……ま、楽しい人だよ。全然退屈しないし」

 

 えぇ、とロマニは苦笑を零すが、実際あの爺さんは一言では表せない。

 超人だの奇人だのと呼ばれるものの、周囲の評価より自分の目で見た方がずっと早いのだ。ある者には賢者に見えるだろうし、またある者にとっては厄介者。

 私にとっては命の恩人であり、魔術の師であり、いつか恨みを数億倍に返してやりたい怨敵である。

 

「怨敵なんだ……」

 

「そりゃあな。確かに通常できない魔術回路の回復を、あの爺さんは事も無げに果たしてみせたさ。けど元々の原因はあの人なんだよ。あんなに苦労したっつーのに、結局二本だけだったからな」

 

「……()()?」

 

「そう、二割じゃなくてな」

 

 相変わらず割に合わない。まぁ、課題として出されるその事件も、並行世界の私が元凶なので、その辺を考えると中々妥当なものなのかもしれないが。

 

「ふん、あんなものが魔法使いというのも世の末だな。ところでマスター、俺の旅行鞄(エレファント)はどこへやった」

 

「カウンター席の向こう。東角ー」

 

 クイッと親指を向けて言い放つと、軽く舌打ちして去っていく即興詩人。無論、テーブル上の珈琲はそのままである。

 

「……えれふぁんと?」

 

「アイツを召喚した時の触媒の一つさ。ジジイが餞別として置いてったんだ」

 

 的確すぎる代物に最初は目からウロコが落ちる思いだったが。

 展示会とのパイプもない一魔術師の身では用意できないものを、あの老人が渡してきたのだ――まるで絵本の魔法使いのように。なんとなく悔しかったので、念には念を入れて、という建前で本も準備した。いやさせた。

 

「んで、向こうでの生活はどうよ。一応お前、でっち上げの履歴と戸籍作ってなんとかしたろ。仕事こそ探偵業っぽいトコに押し付けたけど、流石にそれ一筋じゃあ……」

 

「あ……うん、とりあえず目指すものは決めてるんだ。医者の資格を取って、世界一周してみたいなぁ――なんて」

 

 意外な答えにへぇ、と声を漏らす。

 医者。医者ときたか。そして世界一周。私の記憶にある医者は行き過ぎた善人しかいないが、ロマニが言う医者は、人間らしい、遠い将来を夢見ている響きが混じっている。

 

「ほら、僕ってもう魔術回路も千里眼もないだろう? だから、今度は自分の目で色んなものを見たいんだ。世界を旅して、病気に苦しむ人を助けて回りたい……ってね」

 

 千里眼――そうか、生まれ変わったといえど、彼にはまだ()()があるのだ。

 眺めるだけ……いや、見守るだけだった人生。世界中で起こっている、あらゆる喜劇と悲劇に介入する自由がなかった彼。

 なるほど確かに、別人が視たものとはいえ、それを知ってしまっている以上、“誰かを助けたい”という念は生まれるだろう。

 ――けど、それは。

 

「ロマニ」

 

「いや、分かってるよ。前世のことに引っ張られてることくらいはね。けど、これは()()()()()()()()()()()結果なんだ。たとえ決められた未来があっても、それまで僕がどう選択するかは自由なんだし。それに、さ。……世界の絶景とか、本場スイーツとかも堪能してみたいなぁ、と……」

 

「観光する気満々じゃねーか。アンデル先生から旅の助言でも聞いてくれば?」

 

 心配して損をした。前世がどうだろうと、ロマニはただの、普通の人間なのだ。どっかの正義の味方みたいに、自分を削り続けてまで他人を救うなんてことはしない。

 彼は自分が選びたいと思った道を進むだけ。多少の後悔を生みつつも、己の意思で決めたものなら、それは間違いなく人間らしい道程だろう。

 

「……いつか、お前の願いも叶うといいな」

 

 天井を仰ぎながらそう呟く。

 向こうの顔は見えないので、聞こえたかどうかは分からない。

 ロマニという存在はソロモンの願いの形。ならば、その願いが望むものとは――

 

「――おい。マスター、アレを見てみろ。愉快なことになってるぞ」

 

 かけられた声の方へ目を向けると、旅行鞄を取り戻してきた童話作家がそこにいた。

 はて、なんのことだろう。少なくとも彼が言う「愉快」は大抵信用できない。……あまり目撃したくはないが、それはそれで逆に気になるものだ。

 果たしてそれを見て、思考が完全に停止した。

 

『コンパクトフルオープン! 鏡界回廊最大展開!!』

 

「――魔法少女、プリズマ……ザビ……!?」

 

『オオオォォォォオオオオッッ!!!』

 

 湧き上がる歓声。

 奥で爆笑している英雄王。

 ノリノリで無表情横ピースを決めている友人。

 テンションがアガりまくって、過剰にキラキラエフェクトを振りまいている邪神ステッキ。

 

『あぁ、これです……! これが私の求めていたもの!! 彼女は私に相応しき新マスター……いえ、真・マスター! クール&ビューティ系魔法少女こそ我が至高!!』

 

 溜め込んでいたストレスで壊れてしまったらしい。後で師匠に修理依頼を兼ねて返品しておこうと決める。

 

「マジックサーキット・フルカウント! マーブルファンタズム!!」

 

「白き月姫、今こそ雌雄を決する時……!」

 

 そして先ほど見かけた真祖が、肩にマスコットっぽくフォウを乗せて魔法少女になっていた。いや杖が違うので、おそらく自分の能力でどうにかしたのだろうが。

 するとその時、更に場を混沌とさせる三つ目の影が現れた。

 

「騒がしいッ! 店内での揉め事は控えてもらおう――お客様ァ!!」

 

「出たぞ! 数々の事件を実力行使で叩き伏せてきたメイドのセイバーさんだ!!」

 

「臨時アルバイトから店長代理にまで上り詰めたというあの……!? しかしなぜ水着――」

 

 右手にモップを、左手にピストルを、口元にアイスをくわえる騎士王・オルタ。

 彼女がいる世界線は夏らしい。メイドの軍人とはまた斬新な。

 

「な、なんか凄いことになってる……!? いや、ええと、この店の出し物……かな?」

 

「現実を見ろよロマニ。あれはれっきとした事件だ……」

 

 あらゆる世界線に存在するという店、アーネンエルベ。

 どうやら聖杯戦争の開催地、冬木市にもあるらしく、ここで英霊の姿を見かけるのもそう少なくない。実際、どっかで見た青髪のランサーが働いていたりする。

 ああなると、もう周囲の人間ではどうすることもできない。本人たちで決着をつけてもらう他に、事件の終息は訪れないのである。

 

「まぁ、よくあることさ。それよりロマン、遠慮してないでどんどん注文していけよ。金は全部師匠にツケるから」

 

「えっ!? それはありがたいような、申し訳ないような…………いいの?」

 

 無言でゴーサインを出す。

 一瞬、信じられない、とでも言う様に瞠目したロマニだったが、ゴクリを唾を飲み込み、呼びつけた店員へ次々と注文をしていく。

 なお、その大半はスイーツである。人間になって、完全に彼は甘味の虜となったと見た。

 

 そんな様子を眺め、ふと窓の向こうにある青空へ視線が向かう。

 この店から見えている景色は、決して自分の世界のものだとは限らない。

 魔法使いの箱。あらゆる世界が交差する喫茶店。

 “多くを認めた”という第二魔法は、随分と浪漫に溢れた力である。

 

「そんなのに辿り着けたら、私も何か変わったりするのかねぇ……」

 

 軽く失笑し、そこでおずおずとした様子で手渡されてきた注文票を見、もう一度笑いを零す。

 この男、どうやらトコトン人生を謳歌するつもりのようだ……!

 

「あぁっ、流れ弾がランサーに!」

 

「うるせぇよこの人でなし共が!! 毎度毎度死ぬと思ったら大間違――――ぐはっ」

 

「僕のカスタードプリンを落とした罪は重いよ……?」

 

「フハハ、良いぞ友よ! そこな猛犬を完膚なきまでに躾けてやるがいい!!」

 

「五月蝿いぞ英雄王!! 先に掃除するべきは貴様のようだな!!」

 

 店に溢れ返る喧騒を聞き流しつつ、ブラウンの飲料を口につける。

 今日も今日とて雲一つなく空は快晴。

 当たり前の日々とは、なんて美しきかな。

 

 物語は続く。

 今もどこかで新しい星を生みながら、世界は拡張を繰り返す。

 

 ――その終わりが来るまで、私は目の前の現在(イマ)を紡いでいくだけである――――

 

 

 

――Fin

 

 

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