開口一番、さっぱり訳の分からないことを言う彼女のクラスは容易に思い当たる。
バーサーカー。おそらく狂化ランクはEX。
唸り声のようなものしか上げないのが狂戦士の基本ではある。が、EXともなると、ある程度の意志疎通は可能でも、その分狂い方が尋常じゃなかったり、本来の性格では行わないことを平気で成すようになるのだ。
『バーサーカーにしては随分と治療好きな奴が来たものだ。おそらく奴の言葉は、自分にしか向けられていない。相手にするのは無駄だろうな』
「そうだよなぁ。銃口向けて『動くな。治療を開始する』、とか意味わかんねぇもんなぁ」
何だあの英霊。何だあの人。
狂った戦士……というより、狂った看護師という表現の方がしっくりくるくらい滅茶苦茶な人が来てしまった。召喚者は一体どこのどいつだ。
「征服王、あの方には声をかけないのですか」
「かけようにもなぁ。ありゃあ、のっけから交渉の余地なさそうだわなぁ」
極めて冷静な口調で揶揄するランサーの言葉に、流石の征服王でも向こうに話が通じないと分かったのか、苦笑いを浮かべるだけだった――構える剣の切っ先は、未だバーサークセイバーに向けられたままだが。
「▇▇ッ――――▅▇█▃█▇――ッ!!」
「おとなしくしなさいと言った筈です――」
だが狙いをライダーのマスターから外したのか、セイバーが動き出す。しかしその瞬間、バーサーカーが迷うことなく発砲した。一体どちらがバーサーカーなのやら。
「――ほう? 雑種の分際で我に刃向かうか」
赤黒い、霧のようなものを纏ったセイバーが、地上十メートルほど上にいる英雄王へと剣を向けた。奴がどこの英霊かは不明だが――動きが全く読めない以上、ここで王様に仕留められてほしいものだ。
「先生、あいつの真名は?」
『分からん。アーサー王の攻撃をもろともしなかった点から、聖槍を知る者――おそらくは円卓の騎士に関わる者……という候補はあるが……いや、そもそも
決して聞き捨てならないことを先生が仰った。まぁ、どこをどう見て彼がそう思ったかは後で詳しく聞くとして、現在確実に戦況は変化しつつある。
なにせ、まだ私たちは姿を現していなくとも、一ヶ所に七騎――聖杯戦争の参加者が全員集ったのだ。もう誰も、迂闊には動けまい。
一番警戒すべきは目的の見えないセイバーと、どういう意図で顕現したか未だ不明なバーサーカー。といっても、どちらがマシかと聞かれれば、バーサーカーの方を推してしまうこの状況、とてつもなく奇妙である。
「▂▂▃▃▆▆▄█▀▀████―――ッッ!!」
「よく吼える狂犬ではないか。ならば、せめて散り様で我を興じさせてみるがいい」
門の揺らぎ、そこから見える武器の切っ先がセイバーへと向けられる。それは英雄王にとっての抹殺対象がセイバーになったということであり――セイバーもまた、その手の大剣を構え、迎撃態勢を取っていた。
「待ちなさっ――」
――バーサーカーの声も虚しく、“王の財宝”の一斉射出が開始される。
無造作に、しかし肉眼では追いきれない速度で投げられた武具たちは、そのまま地面を抉り取り、砕いたアスファルトの粉塵と共に多くのクレーターを作り出す。
一撃でも当たれば致命傷は免れぬ猛攻――けれど、まだセイバーの気配は消えていない。
「……うわ、マジか」
今や、セイバーは上空にいた。……投げられた武具の数々を足場にし、一気に英雄王を叩き落す高さまで跳躍したのだ。どこかで似たような光景を見たことがある気がする。
剣を振りかざし、重力に従ってセイバーが英雄王のいる場所へ突撃していく。しかし、それを英雄王が許すはずもなく、即座に武器――ではない、盾が出現した。
「ッ――▆██▄▄██▀▀▀――――!」
バーサークセイバーの声。それは男か女かを判別できる声ではなく、もっと機械的な――
ギィン、とセイバーの大剣が弾かれる。そのまま剣士は地上に落下するかと見えたが、次の瞬間、己の武器である大剣を英雄王が立つ街灯のポールへと投げ飛ばした。
「あ、マズイ」
当然、英雄王は街灯が寸断される直前に地へと着地したが――これも、フツーに奴にとっては逆鱗に触れる行為である。
「痴れ者が――」
若干キレた様子の王が再び武具射出を開始しようとする。その門の数は先ほどより数十ばかり増えており、完全に殺る気満々だった。
がしかし、ここで一つの邪魔が入る。
「待ちなさい。戦闘行為を直ちに停止なさい。停止しないのであれば――殺してでも、治療します」
軍服を羽織ったバーサーカー。銃口は、既に着地していた手ぶらのセイバーへ向けられており、英雄王の怒りの気配が場を包んでいようと、お構いなしに行動していた。
本当に何なんだあの英霊は。装備も拳銃だけなのに、どうして「逆らえない」という謎の威圧感があるのだ。
「ならば貴様が先に塵へ還るがいい」
しかし容赦なく、水を差す部外者にも攻撃を仕掛ける王だった。セイバーへ向けられていた内の半分の門が、バーサーカーへと反転する。
「いいえ、貴方ではありません。病気なのはそこにいるセイバーです。というより――」
バーサーカーの発言で、征服王の後ろにいた青年や、騎士王のマスターが僅かに動揺を見せる。
……あ、そうか。どう見てもセイバーの方がバーサーカーでしたもんね。
『ルツ様の感覚は既に狂っています。今更傷つくことはありません』
うるさい、とサファイアに言い返した直後――バーサーカーの女性が、意味深なことを口走った。
「というより、貴方は
「ァ――――██▀▀██▇▃▆――」
すると、セイバーが軽く腕を振り――先ほど投げた得物と同じ大きさの、炎で形作られた大剣がその片手に生成された。
「セイバーかと思えばバーサーカー。でもって今度は
『いや? そうでもないぞマスター。まさか
「治療を開始します!!」
すると、バーサーカーが懐からもう一丁拳銃を取り出し、炎の大剣を構える剣士へと三連射した。
英霊が放つ以上、それはもうただの弾丸以上の威力を秘めているが、受ける者も英霊であるなら話は別。
同時に動いたセイバーが自身に向かってきた弾丸を剣の炎で焼き尽くし、次に飛んで来た武器の雨を弾き――黄金の英霊へ向かって攻撃を仕掛ける。
一方の英雄王は、この二騎の英霊たちを敵と見なしているのか、同時並行で武具の射出を続行していた。
この三人の中では、装備からしてバーサーカーの女性が真っ先に脱落しそうだが――
「軽症」
しかし、上手く避けていた。いや片足片腕をやられたが、即座に治癒魔術を施している。そしてセイバーへの発砲を止めていない。
「治療するんじゃなかったのかよ……」
『いや、おとなしくしてくれなければ治療もできん。まずは相手を叩き伏せねば治療も何もないだろう』
あぁ、そういうコト。
「止まりなさい――貴方には治療が必要です。治療を妨げる者には死を。殺菌!!」
「██▆――――██▅██▇▇ァ――――――ッ!!」
「ええい、話の通じぬ者しかおらんな! 一体どちらがバーサーカーだッ!!」
至極真っ当なことを言っているのが英雄王。状況が整うと案外あの王、唯一の常識人みたいなポジションになるのかもしれない。普段は一番ぶっ飛んでいるクセに。
――セイバーが宝具の嵐を駆け抜ける。
――バーサーカーが嵐の合間にセイバーを撃つ。
――アーチャーが二人を相手取って蹂躙している。
……この三人の内、二人が手を組んで一人を打倒しようという方向にいかない辺り、現実ってこんなもんだよなぁ、という残念さを感じる。本当に、世の中って不思議だ。
『言っている場合か。そら、戦の熱気に当てられて動き出したそうにする奴が出てきたぞ?』
アンデルセンの言葉で、傍観組……即ち、姿の見えるランサーとライダー陣営へと視線を向ける。
見ると、ランサーは槍を持ったまま、背後のマスターを護るように警戒と観察を続けている様子だが、
……彼のマスターであろう青年に若干哀れみの情が沸く。きっと苦労してるんだろう。
だがこういう経験は、魔術師なら若い内に積んでおいて悪くない。むしろ「型」にはまらず、今の遠坂さんのような苦労を背負うハメにはなるまい。
「……? おい、ライダー?」
「――――」
そのとき、直感か偶然かは知らないが、青年のマスターが背後の自分のサーヴァントへ訝しげな視線を投げた。
……いや、偶然ではなかったのかもしれない。おそらく、彼の雰囲気が変わったのを感じ取ったのだろう。
「雑種如きが、疾く失せよ!」
「▅▆▃█▀█▇▇――ッ!!」
英雄王がセイバーへ向ける財の門を追加する。
最早それは四十を超えており――いかに、あのセイバーが化物じみた戦闘力を有しているかを決定付けていた。
……同じく武具の猛攻を受けていたバーサーカーと比べれば、その違いは一目瞭然だ。バーサーカーはあくまでもセイバーを射撃しており、障害物である武器の雨はひたすら回避に徹しているだけ。
しかしセイバーは――銃撃をかわしつつ、かつ迫り来る剣の群れを弾き、炎の大剣で一気に数十の武具を
……それは、在り得ない光景だと理解している。
なにせ英雄王の放つ武器は一つ一つの全てが宝具。つまりあのセイバーは、複数の宝具を一遍に破壊して突き進んでいたということ。
あの尋常じゃない魔力の量と質は――なんなのだろう?
「
再び三つ巴の戦闘が始まろうとした直前――雷鳴が如き咆哮が倉庫街に鳴り響いた。
いや事実、ライダーの戦車の車輪とそれを引く牡牛の蹄から稲妻が発生している。
果たしてライダーが突き進んだ先に在ったのは、
「ギ▆███▆▇▄█――――ッ!」
――大剣携えるバーサークセイバー。
二頭の牡牛による突撃にいち早く気がついたようだったが、時既に遅し。
先のように大剣を振るい、炎によって敵を焼却する寸前には神牛の蹄が追いついている。
圧倒的火力の割には防御は手薄だったらしく、まもなく二頭の牡牛たちによって轢殺され――
「――ム、中々根性があるではないか」
赤黒い剣士は地面を転がった。
転がったのだが……それでも、ぎこちなく立ち上がっていた。
炎の大剣は失せている。もしかすると、咄嗟の防御に魔力を変換したのかもしれない。
「……そこまで器用なセイバーって、聞いたことないんだけど」
『魔法少女ならぬ魔法剣士ですか。物騒ですね』
この世のモノならざる英霊に、物騒だなんだ言っても仕方ないと思うのだが。
「まだ無力化していません――治療を続行します」
「ァァァ▇▇█▄██▇▇――」
そして未だに治療しようと動くバーサーカーの女性。
とんでもない鋼の精神だ。いや、強靱過ぎるからこそ狂っているクラスに割り当てられたのだろうが。
「……チ、時臣め。王たる我の怒りを鎮めろなどと……」
今度はライダー参戦による戦闘になるかと思ったものの、その時バーサーカーとセイバーに向けられていた無数の武器の群れが消えていった。
どうやら令呪を使われたらしい。これが令呪の正しい使い方だと岸波に教えてやりたい。
「……命拾いをしたな、雑種ども。次までに有象無象を間引いておけ。我と
そう言い放ち、
場に満ちていた威圧感は完全に失せ、残されたのは六騎のサーヴァント。
次に刃を交えるのはセイバー、バーサーカー、征服王か。最も、先ほどから征服王のマスターは気絶しているが。
一方のアサシンとランサー陣営は、未だ傍観を決め込むようだ。撤退しないのはマスターからの指示なのだろう。
――だが、ひとまず自陣にとっての危機は去った。ここからは好きに介入させて貰う。
「██▃▆▇▄▄ゥ――、ァァ██▀▀██▅▅██ァァァ――――ッッ!!」
が、やはり場をかき乱すはバーサークセイバー。ライダーの戦車によるダメージを受けながらも、まだ戦闘を続行する力があるらしい。いや、それとも――
「ッ!! アイリスフィール、下がって!」
次の奴の獲物はランサー。いや、元はといえばあの二人が争っていたのが始まりだったか。
白銀の甲冑を纏う騎士が槍を構える。
赤黒い不気味極まる兵士が猛スピードで向かいの倉庫群の壁を駆け、再び生み出した炎の大剣で強襲する。
二騎の英霊がぶつかり合おうとした刹那――――
「“
――倉庫街に、天をも拘束する鎖が顕現した。