長安を出た狼は長沙を目指して山の中を歩いていた。
それは後に江東の虎と呼ばれることになる孫堅と小覇王孫策を見るためだ。
しかし狼の知識では孫堅が長沙の太守になるのは黄巾の乱以降はずだった、これもこの世界の歪な部分と割りきる。そして出来ることなら呉にいた武将、軍師の1人2人位仲間に欲しいと考えていた。
「程普と黄蓋は無理だとして、甘寧、周泰、呂蒙、陸遜、太史慈、陵統、諸葛謹あたりか。」
思い付いた限り武将や軍師の名前をあげる狼、自分が呉に入るならそれでよし、入らなくても呉の戦力を削ぐことができると考えていた。
「さて、誰がどこにいるかなんてわからない以上、運任せな訳だが大丈夫かな?」
自分の知識の偏りに呆れながら歩みを進める狼。しかし、ふと気配を感じ立ち止まった。
「1人を数人が追いかけている?5人・・・いや6人か」
山賊に追われていると思われたが耳を澄ませ音を拾うとガシャガシャと鎧の音が聞こえた。
「1人を6人の兵士が追っているのか?」
少し気になり狼は気配を周囲に同調させその場に向かった。
気配をたどり、ついた場所そこには日本刀によく似た長刀を抱え走る少女を6人の弓兵が追いかけていた。
「あの娘があの長刀を盗んだから追われているのか?」
だがこの辺りには町などはない、少しおかしい、何より少女は所々怪我をしているようだった。
「はやく殺せよ!いつまでもだらだらやってんじゃねぇよ!」
「お前だって避けられてばっかじゃねーか!」
「あんなガキでも賊だ!遠慮してんじゃねぇぞ!」
「わかってるっての!」
「こうなったら」
1人の兵士が弓を放った。その矢は少女の腕を掠め木に刺さる。
すると少女の動きが徐々に鈍くなっていることに気がついた。
「・・毒、か。」
恐らくは先程の掠めた矢に毒が塗られていたのだろう。
「手こずらせやがって」
そう言って1人の兵士が少女に近づく。
「はぁ、はぁ、」
少女はフラフラしながら抱えていた長刀を抜き構える。
「はっ!そんな状態で何ができるってんだ?」
そんな少姿を見て兵士は笑っている。
「おとう、さん、も、お母さ、んも、みん、な、さい、ごまで戦った、だから!」
少女の言葉に狼は違和感を覚えた。最後まで戦った、それが意味することそれは
「莫大な税を要求する太守から物を奪い民に返した」
やはり、彼女らは義賊だったのだ。高額な税が払えない民達が泣く泣く金目の物を渡す。
彼女らは太守から金を奪い民達に渡していたようだ。
そんな兵士の言葉に言い返す元気は少女にはないようだが、少し長刀を握る手に力が入った。
「じゃあなお嬢ちゃん!」
そんな少女に兵士は至近距離より弓を放った。
少女はその矢を辛うじて交わし兵士を切りつけた。
だが、その一撃は兵士を殺せず、兵士の怒りを買って蹴り飛ばされ、長刀も手から離れた。
少女は立ち上がろうとするものの、立ち上がれず地に付したままだ。
兵士は長刀を拾い立ち上がろうと必死な少女の側まで行くと長刀を振り上げ、降り下ろした。
キィィィィィン!
「その辺りにしときなよ」
しかし、その長刀は少女に届かず狼が刹那で受け金属音が響いた。
「な、なんだこいつ!?」
突然現れた狼に動揺した兵士は怯む、その隙に狼は長刀を払いその勢いを生かし回転し刹那で兵士の腕を切り飛ばした。
「ギャァァ!」
兵士は腕を斬られ痛みにのたうちまわっている。
「なんだあのガキは?!」
「いきなり現れたぞ!」
残りの兵士が騒ぎ声をあげているのを気にせず長刀を拾い鞘に納め少女の体をお越し木に体を預けさせ長刀を渡してやった。
少女は何かを言おうとしているが声になっていない。
「クソガキが!」
仲間を斬られた兵士達は狼に向かって弓に矢ををつがえる。
だがその矢は放たれることはなかった。
縮地を使い接近した狼は5人の弓の弦を断ち切った。
「「「「「なっ!?」」」」」
5人の兵士は突然の事に理解が追いつかなかった。
自分達が狙った相手が突然自分のそばに現れ弓を壊されたのだ。
「・・さようなら」
兵士が驚いてることを気にせず左下から右上に刹那を振るい1人、その勢いをのまま右にいた兵士の首を突き2人、2人目の持っていた弓を首に突き刺し3人、突き刺した刹那を抜く勢いそのままに投げ心臓を貫き4人、その兵士を足場に最後まで兵士に向かって飛び抜いた刹那で5人目の首を跳ねた。
「さて、あとは・・・」
5人の兵士を殺し血を払い刹那を鞘に納め振り向く。
「あんたもやるのか?」
誰もいない方向に向かって声をかける狼。
すると木の影から1人の女性が現れた。
紫の髪、ピンクの服に緑のマント(?)を着け弓を持った胸の大きな女性だ。
「いいえ、私は争う気はありません」
そう言ってフフフと笑う女性、そんな女性に狼がエロスを感じたのは内緒だ。
「だけどこの娘を追ってきたんだろ?」
「ええ、だけど殺そうと思っていたわけじゃないの」
そう言った女性の声からは悪意を感じられなかった。狼は少女のもとにいき抱えあげる。
「…貴方の名前を教えて貰えないかしら?」
立ち去ろうとする狼に女性が声をかける。
「名を訪ねるときは自分からじゃない?」
「フフフ、そうね貴方の言うとおりね、私は黄忠漢升よ」
黄忠漢升、三国でも1、2を争う弓の名手。
「俺は姜維伯約です。じゃあまたどこかで黄忠のお姉さん」
自分の名を告げると走り出す狼、それを眺める黄忠。
黄忠は少女を追って来たものの幼い娘を手にかける事に躊躇いがあったがゆえ見逃した。
いや、それもあるが、狼の動きを見て自分だけでは難しいと感じていた。
「まさに麒麟児、噂以上だわ」
そう言って来た道を引き返し始めた。
この出会いがどうなるのかは神のみぞ知る。