ラブライブ!~女神に宿る嵐~   作:白銀の嵐Mk.2

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第2話です!


嵐の日

 

あれから早くも一年が経ち、休日となった日。

ヒデコ、フミコ、ミカの3人と共に秋葉の街へ赴き、ゲームセンターにボウリング等行くと学生特有の楽しい時間を過ごした穂乃果は、日が沈み始めた夕暮れに地本の神社に訪れた。

特に深い理由はないものの、何故かここへ立ち寄った穂乃果は竹箒を持って掃き掃除をする紫髪の少女に軽くお辞儀をして挨拶をした後、徐々に沈み行く太陽が映る街の風景を階段を登りきった神社の入り口から眺めていた。

我ながらなんとも変わり映えのない学生生活を送っているな~っと、呑気に思いながらも、上機嫌に夕暮れに照らされる。

ふと、とある事を思い出して表情を曇らせて呟く。

 

「……廃校、かぁ…」

 

 

"音ノ木坂学院の廃校の知らせ"

 

 

 

休み明けの週の初めに、突如知らされた唐突な災難。

 

穂乃果の母親、祖母が通った自身の生まれ育ったこの街の伝統が残された音ノ木坂学院。

この学校に通う事を楽しみにし、待ちわびて、ようやくの思いで入学する事ができた。

伝統といったそんな堅苦しいものより、単純に母親が嘗て通った思い出の場所であるあの学校に通いたいという願いで苦手な勉学も必死に頑張り、その思いが実った。

その学校で中学から一緒だった友達と一緒にあの学校に通い、そこで新しい友達も作って、学生生活を満喫したい、楽しみたい、そんな3年間を過ごしたいと心から願っていた。

そう思っていた彼女の元に届いた不幸な知らせ。

 

それを聞いた瞬間、目の前が真っ暗になって倒れそうになり、ヒデコ達に助けられたのがつい最近の思い出である。一応、自分達や、下の学年である一年生達が卒業するまでは学校は存続すると聞いたが、それでも穂乃果の胸の中に残る不安は拭えなかった。

 

果たしてこのままでいいのか?

 

他人事のように済ましていいのか?

 

このまま見過ごしていいものだろうか?

 

何かできる事はないのか?たくさんの人達の思い出が詰まったこの学校をこのまま廃校にしていいのか?まだたったの一年しか過ごしていないが、大好きになったあの学校を無くしていいのか?一人思い悩み、ひたすら考える穂乃果だが、良い答えが出てこない。

 

「………ダメだなぁ、私…」

 

そう思っている間にも、同じ考えを持ったのか妹の椎名は友人の"園田 海未"と"南 ことり"と共に『スクールアイドル』というものを初め出し、既に行動を起こしていた。

それに対して姉である自分は何なのか?ただ一人ここでうねって何もしてない。今日だってただ友達と遊んで時間を過ごしただけではないか。

やはり自分がバカなのだからか?自分が運動音痴で、ただ周りに甘えてばかりだったからなのか?廃校を何とかしようと考えていた穂乃果の頭はいつの間にか自身への卑屈へと変わっていた。

 

「…………帰ろ」

 

こんな所で悩んでいても仕方ない。廃校の事に関しては妹の椎名達が何とかするだろう。無能な姉の自分はただ彼女達の応援をしたり、背中を押してやる等のお節介を焼くくらいが精一杯なんだから。

自身への失意に暮れながら穂乃果が帰路へ歩こうと足を動かした瞬間、視界が一瞬歪み、今までとは比べ物にならない程の頭の痛みに襲われる。

 

「ッ!?ああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

───俺には夢がない、背負うべき覚悟も、守りたい希望も何もない、空っぽな存在だ。けどそれを持つ人達を守る事はできる。皆の夢を、覚悟を、希望を……俺は守りたい。

 

───言ってなぁ!正義を掲げて1億もの人間を殺した……大殺戮者がよぉ!!

 

───(とが)は払うさ……お前を殺した後でなぁ!!

 

───貴方はたくさんの人を殺しました。でもそうしなきゃもっとたくさんの人達が犠牲になった筈です!

 

───違う!これは当然の報いなんだ!どんな理由があっても、俺は多くの人を殺した!決してそれは許される事じゃないんだ!!

 

───貴方も力と罪を受け入れて、もう一度立ち上がってください!!

 

───どれ程傷付いても、どれ程辛くても、そこに守りたいものがあるなら守り抜け、何に変えても!

 

 

知らない、知らない誰か達が穂乃果の頭の中に入ってくる。あまりの痛みに地面に倒れ転がり、自身が着る制服を汚すが、そんなものを気にしてられない程、穂乃果は苦しんだ。

永遠と続くのではないかと思う程までに続く痛みの地獄の中、穂乃果はある声を耳にした。

 

 

 

───俺は変わる!変えるんだ!またあの時のような事を繰り返さない為に!今度こそ皆を守る為に!今度こそ皆と歩む自分自身の為に!俺は"変身"するんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

───俺は"嵐"……お前らに抗う、戦う"嵐"…!

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 

声にならない絶叫。

それを聞き付け、先程穂乃果と挨拶を交わした紫髪の巫女服を来た少女が血相を変えてやって来た姿を視界に捉えた瞬間。穂乃果の意識は深い闇の底へと落ちていった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

次に起きた時、穂乃果はベッドの上にいた。

しかし、それは自分のベッドではなく、病院のベッドの上という割りと大事になっている事がわかるベッドの上で寝ていたと気付く。その近くには意識を失う前に見たあの巫女服を着ていた少女が音ノ木坂学院の制服姿で心配そうに顔を覗き込み、その隣には穂乃果の母親も同じように心配そうな顔して見ていた。恐らく紫髪の少女が救急車で病院に運び、母親に連絡を入れてくれたのだろう。

体を動かすと、全身が軽く、むしろ調子が良いくらいになっていた。ベッドから起き上がった穂乃果に気付いた紫髪の少女は安心したように息を吐き、母親は穂乃果の頭を軽く小突く。

「全く、心配を掛けさせるんじゃないの」

 

「ごめんなさい……私、入院するの?」

 

「少しだけね、一応検査とかもして貰ったけど、特に異常とかもなくて精神的な検査も受けるかもしれないけど、穂乃果の事だから二、三日もすれば退院できるでしょ」

「そうなんだ…」

 

穂乃果は頭痛の事も、幼き頃から見ている"夢"の話もしていない。

単純に心配を掛けさせたくないという思いもあるが、それ以上にこの頭痛の痛み等が医者などに見せて治るものではないと思ったからだ。

穂乃果が大丈夫と言うと、母親は後でお父さんも来ると一言言って家へ帰ってしまった。ぞんざいな扱いではないかと思うが、穂乃果は素直に感謝した。

 

「…………ねぇ」

 

「はい?」

 

母親がいなくなった事を確認すると、ずっと無言でいた紫髪の少女が穂乃果に声を掛けて来た。すっかり存在を忘れていた穂乃果はすっとんきょうな顔で返事をするも少女は気にせずに口を開く。

 

「貴方は何者なの?」

 

「私?私は高坂 穂乃果、高校2年生です」

 

「あ、せやったらウチの後輩やな。ウチは"東條 希"……って、ちゃうちゃう、そんな話をしてる訳やないん」

 

「じゃあ何ですか?」

 

「……貴方、何か抱えてるんちゃう?親にも言えないような何かを?」

 

「……ッ!」

 

目の前の少女、東條 希の言葉に穂乃果はドキリと心臓を掴まれたような錯覚を受けた。黙秘する事も許さんばかりに見つめる希の視線に耐えきれず、思わず目を逸らしてしまう。

 

「……ウチ、タロット占いが得意でな?貴方…高坂さんを占ってみたんよ。そしたらこんなものが出たんや」

 

いつの間に取り出したのか、カードの1枚を穂乃果に見せる希。そのカードには"逆さに吊るされた男"が『逆位置』に示されていた。

 

「このカードは吊るされた男、意味は試練、報われる、忍耐。けどそれは"正位置"での意味」

 

「逆の位置に示されてるって事は?」

 

「…………"終わりが見えない"、"自己犠牲"、そして……"報われない"、や」

 

その言葉にゴクリと喉を鳴らす穂乃果。いずれの意味にも心当たりがあるから。それを見た希は自身の占いが当たってしまった事に溜め息を吐くも、微笑んで穂乃果の顔を見つめ続けた。

 

「ええか高坂さん、貴方が何を抱えてるかわからへんけど、自分を犠牲にする事はアカン。辛くても、しっかりと耐えて生きる事や」

 

やや表情を曇らせる穂乃果にそう告げると希はまた見舞いに来ると言って立ち去った。

遅れて見舞いに来た父親と、久々にゆっくりと話をして、父親が帰った後、穂乃果はまだ馴染まないベッドに身を預けた。

 

消灯の時間も近付き、人気が徐々になくなって行く病院の中、穂乃果は病室で一人、考える。

 

「皆と歩む自分自身の為に、変身……嵐…」

 

頭痛の最中、あの男の声が、言葉が頭から離れられない。これまで頭痛と共に呼び起こされる記憶の中で、もっとも強く、もっとも儚い、だがもっとも熱く美しく聞こえる言葉であった。

 

「辛くても、しっかりと耐えて生きる事…」

 

そして今朝言われた希の言葉。あの言葉を聞いた瞬間、穂乃果の頭の中にある男のヴィジョンが浮かび上がった。

 

 

 

───俺は運命と戦う。そして、勝ってみせる。

 

 

 

何時だったのだろうか、そんな言葉を言う男の背中が映し出された記憶を見たのは。何時何を見たかも覚えていないたくさんの記憶の中で、数あるものの中にあった一つの"夢"。その"夢"には二人の男がいて、一人の男がもう一人の男に言った言葉。とても力強いが、とても儚く、触れてしまえばいまでも壊れてしまいそうな背中をした男の背中と言葉をあの"嵐"のと同じように穂乃果は忘れられなかった。

 

何気なく穂乃果は手の平を天井に着いた照明の光にかざした。

その光を掴めない事はわかっているが、何だか今の穂乃果には『別な何かを掴めそうな感じ』がしていた。

掲げた手を握り締めると、共に先程の言葉を反復するように呟く。

 

「運命と戦う。そして、勝ってみせる…」

 

徐に穂乃果はベッドから立ち上がり、病室の窓を開ける。当然外は暗く、真っ暗で何も見えない。だが、それでも穂乃果には何かが見えて来そうな気がした。

 

 

これが全ての分岐点。

 

二つに一つしかない大変重要な選択肢。

 

このまま寝ていれば───窓を開けたりしなければ、彼女は何気ない平穏な日常が続く事が約束され───この物語が壊れるという運命を避けられなかった。

 

窓を開けるという選択を選んだ彼女は───

 

 

 

瞬間、開けた窓から風が入り込み、"嵐"となって穂乃果を包み込んだ。

その"嵐"は禍々しい訳でもなく、だからと言って神々しくもない"白銀の嵐"。そんな"嵐"に包み込まれ、戸惑い、目を覆う穂乃果だが、彼女の左手に何かが握られた。

それは近代的で機械的な形をし、中央には黒いディスプレイをしたベルトのバックルと似た銀色の物体。

 

「な、なにこれ…」

 

突然握らされ、それを呆然と見ていた穂乃果だが、その物体を眺め、触り、何気なくその物体を腰に当てる。

 

すると、その物体の左右から帯のようなものが腰に巻き付けられ、ガチャンという音がなって穂乃果の体の一部のようにくっ付く。

 

「な、なに、これ……ベルト?何の……!?」

瞬間、"ベルト"と思わしき物体から凄ましい風が吹き荒れ、されども病室内にあるものを吹き飛ばす事なくとてつもない"嵐"となって巻き起こる。

 

「え、え!?」

 

訳のわからない事態に穂乃果は動く事ができなかった。

硬直する穂乃果の腰付近に溶け込むように粒子と化して穂乃果の中に消えてしまった。

 

「………………」

 

絶句するしかなかった。これは自分が見た妄想なのか何かか、それとも真な現実か……穂乃果はしばらく放心状態となった。

 

 

しかしそんな放心状態も長くは続かない事態となった。

放心する穂乃果がいる病室の扉が、突然開けられた。

 

「すみません、ノックしても反応がなかったので勝手にお邪魔させてもらいます」

 

「し、失礼します」

 

「!」

 

入って来たのは見覚えのある、青いロング髪と灰色のトサカのような頭をした二人の少女。

園田 海未と南 ことりであった。そこで穂乃果の頭はますます混乱する事になった。何故クラスが違い、妹の椎名の幼馴染である二人がお見舞いに来たのか。

接点など何もない筈なのに。

 

「……何で園田さんと南さんがここに…?」

 

「あ、いえ、その……実は…」

 

「椎名ちゃんのお姉さんである穂乃果さんが倒れたって聞いてお見舞いに来たの」

 

「え……」

 

来る理由としてはあまりにも弱く、違和感がある。こんな自分の元にお見舞いを来てくれたのは素直に嬉しい。

だがそれが妹の椎名関係となるとそれは別の意味になる。

幼馴染である自分達の知らない椎名の話を聞かせてくれとか。

何時も家の手伝いをする椎名のシフトとかを教えてくれとか。

時には、「何でアンタが椎名の姉なの?」と罵倒される時もあった。

最後に挙げたのは穂乃果の悪い部分しか知らない人達からの偏見に満ちた嫉妬のようなもので、クラスメートや彼女を良く知る者はそんな事は言わない。

 

「えっと……あ、ありがとう?」

 

「いいえ……しかし椎名は来なかったのですか?」

 

「来ないよ、私嫌われてるから」

 

「え?」

 

もう一人の妹の雪穂は来たんだけどね、と苦笑いを浮かべ、そう言った穂乃果の言葉に海未とことりは驚いた。彼女達自身、兄弟姉妹はいないが、周りの話を聞いて仲が良いものだと思っていて、穂乃果と椎名のような邪悪な姉妹仲というのは珍しいものだと思った。

 

「穂乃果さんは椎名の事が嫌いなんですか?」

 

「ううん、私としては仲良くしようとしてるんだけど……昔からなんか、私がお姉ちゃんなのが気に入らないみたいで…まあ、日頃の行いが悪いと思うんだけどね」

 

タハハ…と笑う穂乃果。

幼い頃から一緒だったが、高坂 椎名は彼女達から見てもおかしな人だと思った。

廃校話を聞いて迷わずに『スクールアイドルをやろう』と言い出し、歌も躍りもまるでずっと前から練習し、やって来たかのように易々とやってのけ、ダンスや歌を海未やことりに教えていた。それだけ見ればかなりのセンスを持っていると見えるだろう。

だが、彼女は何処かズレていた。浮き足立っていると言ってもいいのか?やたら自分達と親しく接して親陸を深めたりするのはいいが、その行為に何時も作為めいたものを感じてしまう。

何より、今日の放課後にスクールアイドルの活動をしている椎名に母親から掛かって来た電話に答えた時の彼女は『面倒』と一蹴して一方的に電話を切ってしまったのだ。

不思議に思い、椎名に理由を聞いて見ると…。

 

『え?ああ、姉さんだよ。姉さん、突然神社で倒れて病院に運ばれたんだって』

 

『それは大変!お見舞いに行かないと椎名ちゃん!』

 

『え?いいのいいのことりちゃん、あんな姉貴。勉学も運動もできない甘えん坊。ただの能天気で、パンの事しか頭にないバカ。見舞いに行く価値もないし、面倒くさい』

 

海未とことりは何も言えなかった。そもそも穂乃果と言う人がどんな人物なのか、今まで碌に会わして貰った事がない。

だが、自分達が小学生と中学生の頃の記憶を思い出した。

 

自分達が小学生の頃から何でもできる椎名に嫉妬し、疎ましく思った男子が4、5人と群れを為して彼女を殴り蹴ろうと目論んだ。それを知った海未とことりが何とか止めようとしたのだが、男子達の怒りの矛先が彼女達に向き、一方的に殴り掛かろうと襲い掛かった時に二人の目には────男子達の怒りの拳をしっかりと受け止め、しかし数の多さで受け止めきれなかった拳をその身を挺してくらう穂乃果の姿だった。

受け止めた拳はともかく、受け止めきれなかった拳で殴られた部分には痣ができ、殴られた痛みで目に涙を浮かべながらも、穂乃果は男子達を睨み、果敢に挑み掛かった。だが多勢に無勢で、穂乃果は男子達の一方的な暴行を受け、さらには椎名の姉と言う事で椎名への暴言罵倒、さらには当時から自身の身に覚えのない出来事を言われながら殴られ蹴られてしまう。やがて怒りが冷め、暴行に飽きた男子達が帰った頃には殴られ蹴られた痣や傷、顔も酷く腫れ、着ていた洋服もぼろ雑巾のように酷い有り様となり、酷く泣きじゃくった穂乃果の姿が二人の目に入り、慌てて声を掛けようとすると、穂乃果は直ぐ様に涙を拭き、「大丈夫!二人の方はケガとかない?この事は椎名に内緒ね!」と目を赤くしながらも屈託のない笑みを見せて強がり、そのまま立ち去ってしまった。

そして中学生の時は同じように、椎名に嫉妬する男子達が影で椎名への悪口を言った時。

 

『椎名を……妹の事を悪く言うのやめてくれないかな?』

 

そこへ穂乃果が現れ、悪口を言う男子達を普段の表情からは考えられない程の鋭い目付きで睨み付け、その男子達を黙らせた。

 

当時の事を思い出した二人は今目の前にいる穂乃果があまりにも椎名の言う『ただの能天気で、パンの事しか頭にないバカ』と言う印象とはかけ離れていた。

常に妹の椎名の身を案じ、オマケにその友達である自分達を助けようとするその姿…。

小学生の頃に椎名や、その友達である自分達を守り、酷い姿となっても自分達を気づかって心配するその姿が痛々しさを感じ。

中学生の頃に椎名の悪口を言う男子達を睨み付け、妹を守ろうと言うその背中に儚さが感じられた。

 

『海未ちゃん、ことりちゃん、私のお姉ちゃんは本当にどうしようもない奴だから、私の方からも言っておくけど絶対に近付いちゃダメ。見てもいいものじゃないから』

 

家族を、姉を貶しめる。椎名の言葉に海未とことりはあまりいい顔はしなかった。

勉学も運動もできず、遅刻常習犯でもあってよく周りに助けを求める姿は有名だし、何より周囲の悪評にもなっている。だがその程度の悪評で印象を決めたくない。

そもそも、碌に人柄を知らないのにそこまで人格否定をされると、小学生の時や中学生の時の事を知っている海未やことりとしてはどうしても会わないと気が済まなかった。

 

だからこの機に乗じて、椎名には秘密にし、面会時間外にこっそりと穂乃果に会いに来たのだ。

実際に、面と向かって会ってみると、やはり椎名が言っている事は違うと確信した。病室の中で窓際に立ち、放心状態となっている穂乃果に何処か胸を締め付けられるような思いをした。

 

そんな彼女達に穂乃果は……。

 

「……あの、妹は…二人と一緒にスクールアイドルを初めてるんだよね?」

 

「はい…」

 

「う、うん…」

 

「じゃあ妹を……椎名の事、お願い。これからも仲良くしてあげてね?」

 

「……え?」

 

「………」

 

「……私、バカだから。何で私の事、嫌ってるのか全然わからないけど、妹だから…もう一人の妹の雪穂と同じくらい、ううん…それ以上に大事な双子の妹だから」

 

嫌われている筈なのに、散々な目に逢っている筈なのに……頭を下げ、二人にお願いをしてその頭を上げた穂乃果の目はどこまでも、どこまでも真っ直ぐで、小学生の時に見たあの時から変わらぬ微笑みをしていた。

だが、同時に自分はもうその双子の妹とは仲良くできないと言う"諦め"が入っていると海未とことりは気付く。

どれだけ仲良くしようとしても、肝心の相手が一方的にそうしない、する事を許さない。それが家族、ましてや双子の妹ならば尚更辛い……友達思いな海未とことりにはそれが痛い程理解できた。

 

「もう、遅い時間だし、もう早く帰った方がいいよ?……今日はお見舞いに来てくれてありがとう」

 

そう言って窓を閉め、二人を帰るように告げる穂乃果。病室の扉を開け、周りに誰もいない事を確認して

海未とことりに顔を向け、行くように促す。

そんな彼女を見て二人は、後ろ髪を引かれるような思いを感じつつも、その気遣いに感謝し、こっそりと病院から抜け出した。

 

穂乃果に会ってわかった事は、彼女が椎名の言うような人物ではなかった事。椎名は穂乃果の性格や普段の態度などとは関係なしに、海未とことりを穂乃果と会わせたくないと思っている事がわかった。

 

「穂乃果……ですか…」

 

「……また、会ってみたいな。穂乃果ちゃんに…」

 

何故今まで彼女に会おうとしなかったのか。そんな自分達を恥ながらも、また別な形で会いそうな気がした。




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