部屋中にあるモニターからの光だけが照らす薄暗く無機質な部屋の中、二人の男女が向き合っている。
片方は少女と呼んでも差し支えない見た目をした女だ。
緩くウェーブしたアッシュブラウンの髪は肩まで伸ばされ、掛けられた赤いフレームの眼鏡の奥には深い知性を湛えた鳶色の瞳がある。
ミステリアスな雰囲気を纏う少女はその美貌も相まって、どこか現実離れした妖精のようだ。
もう片方は白髪混じりの男だ。
老境に差し掛かっているであろう年齢であってもその姿には威厳が溢れ、その瞳には強い光が宿っている。
年月を重ね、培われた力強さがそこにはあった。
その男が口を開く
「計画の進捗状況は?」
男と向き合う少女がその美貌に笑みを浮かべ、頷く
「はい。両機共に【La+プログラム】の搭載も完了しました。後はこの子が相応しい主を見つけるだけです」
視線の先には二つの人型がいた。
共に額から伸びた一本角が特徴的なシルエットをしている。
しかし白と黒、姿形は似ていながら彩られる色彩が違うだけで受ける印象が全く正反対となっている。
一方は神聖さを感じさせる純白、もう一方は禍々しさを感じさせる漆黒。
この二体の魔物は唯一つの目的のためだけに生み出された存在。
その一対の姿を視界から外すと、
「ではサイコフレームの一部技術を凍結、La+プログラム及びNT-D、太陽炉、月光蝶システムに関する全資料の完全抹消によりUC計画の最終段階への移行を宣言する」
その言葉の意味する重要性を知っているものがいれば、全力で止めたであろう宣言も、止める者はここにはいない。
部屋に浮かぶモニターの画面が次々と切り換わり始め、羅列されていた文字やグラフが片端から削除されていく。
世に出せばISと同等の騒乱を呼びかねないそれらの基幹が消され、無へと帰す。
数秒後、そこに存在していた全ての痕跡は抹消され、あるのは空っぽの箱だけだ。
完全にデータが抹消されたのを確認し、男が口を開く。
「情報が漏洩した可能性は?」
「ゼロです」
圧倒的な自信を持って告げられる言葉に偽りは無い。
「ネットワークからのハッキングを防ぐために、施設内では外界と完全に隔絶した独立ネットワークと、それを支えるための電力供給を施設に併設されたソーラーシステムで補うことで電脳空間からの進入はシャットアウト」
「さらに彼女によるISのコアネットワークからの進入対策にコアの中でも特に自我の強い物を選び、それを外的要因で増幅させることでコアを上位固体として確立させました。まぁそのせいでIS側で搭乗者を選ぶようになりましたけれど」
「搭載されたシステムも搭乗者との共鳴によって覚醒するようにしましたから、二次移行なりワンオフ・アビリティーなりで理由付けすればいくらでも誤魔化しは効きます」
「直接的な潜入もここの立地なら無理です」
その言葉を聞き納得したのか、男は目を閉じて頷いた
「後は二番機の搭乗者の件ですが、如何なお考えで?」
「順当に考えれば元ブリュンヒルデが適任だが…」
「ですが彼女にはしがらみが多くあります。仮にこの子に認められたとして、それを私たちの目的通りに使ってくれるかどうか…」
しばらく思案していたが、
「とりあえず、この件は保留としておく。信頼できる者をこちらで用意するしかあるまい」
「では一番機を受領後、私は二番機へのフィードバック用のデータ取りを、そうですね…。欧州のイグニッション・プランのコンペでも財団経由で利用させてもらいましょう」
最新鋭のISを取り扱う、欧州連合の統合防衛計画である【イグニッション・プラン】の第3次期主力機の選定。それをまるで遊戯としか見ていない発言だが、それができるだけの力が彼女たちにはあった。
「…そうか。では私は地上に戻る。お前も一段落したのなら戻れ」
「はい、明後日にでも戻るつもりです。相応しい主が見つかるまで、この子は私が責任を持って管理しておきます」
少女は背を向けて歩き出す男の背中に言葉を投げかける。
「父さん」
先ほどまでの関係は上司と部下、そして今は父と娘へと変わる。
「なんだ?」
足を止め、されど振り向くことはしない
「後悔しているの?あの子のことを」
「それに応える資格は私にはない。話はそれだけか?」
話を切り上げて去って行く背中は先ほどまでと違い、小さく見えた。
その姿を見て少女はポツリと呟く
「本当に不器用な話ね…」
その呟きを聞いていたのは白と黒だけだった
▽
世界で唯一ISを専門とした学び舎、IS学園。本来なら女子生徒だけの学園だが、今年は違った。
世界で始めて男性でありながらISを動かした人間が入学したのだ。
その唯一の男性である【織斑 一夏(おりむら いちか)】とその妹であり日本の国家代表候補生たる【織斑 春埜(おりむら はるの)】のいる一年一組の教室。
そんな渦中の彼らの姉であり、かつては世界最強の称号であるブリュンヒルデの名を冠していた女性、【織斑 千冬(おりむら ちふゆ)】はそのクラスの担任であった。
「全員席に着いているな。この時間でクラス代表を決める。自薦他薦は問わん、誰かいるか?」
今は二時限目だ。休み時間にはいろいろあったのだが、割愛する。
「ええとですねー。クラス代表とはクラス対抗戦でISに乗って戦う人のことです。他にも細々とした作業もあって言わばクラス長みたいなものですね」
このクラスの副担任【山田 真耶(やまだ まや)】。胸部がとても豊かな彼女の言葉にクラスがざわつき始める。
一瞬少女たちは顔を見合わせたが、すぐに意思疎通を行うと―――
「はい、織斑くんを推薦します!」
「私もそれが良いと思いま~す」
「世界唯一の看板を使わない手は無いよね!!」
「俺!?」
思わずといった風で声を上げてしまった少年、彼こそが世界で唯一ISを動かせる男性だ。
「他にいないのか?いないのならこのまま無投票当選だぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ千冬姉(ちふゆねえ)。俺は別に―――」
「織斑先生だ。織斑弟(おりむらおとうと)」
スパァン!!
快音とともに瞬いた出席簿が一夏の頭を叩く。
叩かれた彼は机に突っ伏し、沈黙する。
そんな彼に後ろの席に座る少女、春埜がこっそりと話しかける。
「諦めなよ、一兄(いちにい)。これも人生って奴じゃん」
「ならお前がやればいいだろうがッ…!」
頭を押さえてリカバリに努めている彼は絞り出すような声で返す。
「春埜さんは謙虚で奥ゆかしい大和撫子なのでーす。というかぶっちゃけメンドイ」
「おい代表候補生。おい」
静かな舌戦の火蓋が切って落とされようとした瞬間
「そのような選出認められません!」
机を勢いよく叩きながら立ち上がったのは、豪奢な金髪を持つ少女だった。
平時であるなら多くの視線を集めるであろう美貌も、険しい顔では迫力を増すだけであった。
「おいおい、一兄見ろよ。金髪縦ロールだぜ、金髪縦ロール」
「コラ。初対面の相手をそんな風に言うんじゃない」
どうやら件の金髪縦ロールは言いたいことがあるらしく
「男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!この【セシリア・オルコット】にそのような屈辱を一年間味わえと仰るのですか!?」
段々ヒートアップしてきたのか、身振り手振りを交え始めた彼女を、女子達は何言ってんだコイツという目で見ていた。
IS学園は世界中から国籍問わず優秀な人材を集まっているが、その中で最も割合が大きいのは日本人であり、彼女の言う言葉は少数意見以前の問題だ。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体が、耐え難い苦痛で―――」
完全に冷め切った目を向けられていることにも気付かずに言葉を重ねようとするが
「うるさいなぁ。イギリスだって大したお国自慢ないだろーが。世界一料理が不味い国で何年連続覇者だよ」
イラついた声で割り込んだのは春埜だった。
「あ、あなた!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「あ゛あ゛!?先に売ってきたのはそっちだろーが。脳まで埃被ってんのかテメー!」
かなり過激な口調で返す春埜にセシリアは一瞬怯んだかのような反応を見せるが、気丈に言い返す
「まぁ!レディがそのような言葉を使うだなんて品性を疑いますわ!どんな時でも気高く振舞うのが淑女の嗜みではなくて?」
「おーおー自分を飾り付けることに関しちゃ一級品だなぁ!昼は貞淑に振る舞い、ベッドでは乱れるってか!?」
「な、な、なななんて破廉恥な!!」
お互いがお互いを煽りあう泥沼の状況。入学初日にしてこの二人は何故昼ドラめいた罵り合いをしているのだろう。
回りが展開についていけずに目を白黒させているなかでも、醜い女の争いは続くかに思われたが、
「なんだ図星かぁ?この、いん―――あだッ!?」
意外なことにこの言葉のキャットファイトを止めたのは一夏だった。
春埜にチョップを下し、強引に遮ったのだ。
「いい加減にしろ春埜。それ以上は俺もさすがに怒るぞ」
チョップをした残心のまま
「あと春埜。イギリスにはプリンとか旨い物もある」
どこか的外れな言葉だったが、毒気を抜くには充分だったらしく
「え、マジで?」
「おまえプリン無しな」
うぎゃー!!と頭を抱える少女は先ほどまでの様子が嘘のようにふざけている。
「ッ…馬鹿にして!!」
どうやらそれすらも頭に血が昇ってるセシリアの神経を逆撫でしたらしい。
彼女は一夏達へと指を突きつけると
「決闘ですわ!!!」
「受けて立とうじゃねーか。後で吠え面かくなよ、セシリア・オルコット!!」
血気盛ん過ぎる。このクラスでの彼女の印象が定着した瞬間だ。
「一兄もそれでいいな?いいよな?いいだろう?」
「え?」
彼が口を開くよりも早く、それまで静観を決め込んでいた千冬が口を開いた
「話は決まったようだな。では明日の放課後、第三アリーナでオルコット、織斑弟、織斑妹の三名による模擬戦を執り行う」
「 ( ゜Д゜) 」
解せぬ。とでも言いたいような表情の一夏を置いて話が進んでしまっている。
「ああ、それと織斑弟。お前用の専用機が明日に届く。準備しておけ」
その言葉に教室中が俄かにざわつく
「せ、専用機!?」
「やっぱり世界唯一の男性IS操縦者だからかしら?」
「いいなー専用機。私も欲しいなぁ」
世界で500機しかないISコア、そしてコアを作り出せる唯一の存在である【篠ノ之 束(しののの たばね)】が雲隠れしている今、限られた数のそれらをやりくりしているのが各国の現状だ。
そんななかで専用機を与えられるというのが、どれだけのことかは簡単に理解できるだろう。
「俺に、専用機?」
それこそISにほとんど触れたことのない彼であっても―――
「あらちょうど良いですわね。わたくしには弱者をいたぶる趣味はありませんもの」
なにやら英国少女が喧しいが、今の春埜にとってそんな事よりも気になることがある。
「織斑先生。一体どこがそんな気前の良いことを?」
春埜は己の才覚を並々ならぬ努力で鍛え上げることで、専用機を持ち代表候補生という立場を勝ち取った。
故に専用機を持つということの意味は十二分に理解している。
それこそ自分に比肩し得る腕を持つ候補生達であっても専用機を持っていない者のほうが多いことも知っている。
だからこその疑問であり、興味でもある。
「【ビスト財団】だ」
その言葉に教室中が静まり返る。
沈黙した生徒たちを見て、千冬はその存在へと思いを巡らす。
▽
【ビスト財団】は第一次世界大戦の戦前から続く大財閥であり、【AE社(アナハイム・エレクトロニクスしゃ)】を代表とした超巨大コングロマリットの頂点だ。
いまや世界で知らない人間はいないだろうとまで言われる大企業、その元締めをする一族。それがビスト家という存在だ。
だが元々ビスト家は旧フランス貴族の名家でありながら、それまでの頭手たちの度重なる財産の浪費によって没落間際にあり存続の危機にあった。
新たな頭首となった当時のビスト家頭首は貴族という己の名前を最大限に利用し、まだ当時は中堅程度の家電メーカーの会社であったAE社の社長の娘と結婚、二子を儲ける。
しかしそれだけでは終わらず、非常に優秀な人物でもあった彼はそこで辣腕を大いに振るい、一代にしてAE社を大企業へと引き上げ、ひいてはビスト家の栄華を再び取り戻した。
それからはビスト財団はAE社を中心として、様々な事業へと手を出した。
第一次世界大戦という戦乱の激流を巧みに潜り抜け、戦争という市場で莫大な財を成し、AE社は欧州だけでなく世界的な大企業へと成っていった。
その過程で特に力を入れていたのが宇宙開発であり、第二次世界大戦後の米ソの宇宙開発競争に、財団が第三勢力として影から参戦しているという都市伝説がまことしやかに流れるほどのものであった。
そしてその都市伝説は現代で、現実味を帯びた話として再び流れることとなる。
ISの存在とその規格外の性能を見せ付けた【白騎士事件】
それが起きる以前から財団はISの有用性を見出し、秘密裏に【篠ノ之 束】を莫大な資金援助をしていたのだ。
『やぁやぁ世界中の束さんのファンのみんな元気ー?私は今、南の国でバカンスの真っ最中さ!!』
『そうそう。ISコアは467個しかないなんて言ってるけど、実際は私が作ったコアの数は500個だよ~ん』
『では残りの33個はどこにあるでしょう?正解はぁ~、ビスト財団にあげた!でしたー。正解者に拍手ー』
『でもでもざんね~ん!財団にあげたコアは開発初期の特別製でぇ、特殊な方法を使わないとすぐに暴走してアボンなんだよん』
『そしてそれができるのはこの束さんと、私が唯一ライバルとして認めた【ラプラス・ビスト】だけさぁ~』
『以上、束さんのIS速報でした!!あでゅー』
音声だけのそれは世界中に発信され、各国で嵐を呼んだ。
コア33個、これは大国の所持するコアと同等、あるいはそれを越える。
当然のことながら、ビスト財団からどうにかしてコアを掠め取ろうと画策した国もあったが、相手が悪すぎた。
『我らの所有するコアは【白騎士事件】以前に、篠ノ之博士から直接譲渡されたものであり、アラスカ条約に帰属する物ではない』
『また、博士の言うとおりコア自体の持つ固有自我が強く、無理にISとして活用すれば暴走し、甚大な被害を周囲へと与えることと成るだろう』
その言葉を鵜呑みに信じたわけではないが、暗躍しようにも全力を出した財団を阻めるものはいなかった。
ならばとコアを凍結させようとした国も、
『我が社には月面基地を建設できるだけの用意があり、日本から借り受けたコアで作成した宇宙開発用ISを使用し、すぐにでも建設に移ることができる』
不思議なことに大企業でありながらそれまで支社を持っていなかったAE社は、初めての支社を日本に置いたのだ。
その理由はフランス政府からISコア及びIS開発の権利を与えられなかったためと、世間一般では言われている。
ISの台頭に伴い、女尊男卑の風潮が世界に広まっていくなかでも、AE社はそういったことに対して変わらぬ姿勢を保っていた。そんな彼等を快く思わなかったのが欧州連合だ。
だが実際のところ、それらは建前であった。
欧州各国はこれ以上のビスト財団が勢力を伸ばすことを恐れ、世間的に見れば女尊男卑の風潮を無視し続けるAE社へのあてつけであるかのようにカモフラージュしてISの開発権を与えなかったのだ。
しかし、AE社は日本でIS開発の権利を与えられたのだ。
ISを生み出した篠ノ之博士の出身国ということで、国際IS委員会からIS学園を初めとする多くの難題を押し付けられていた日本にとって、財団からの開発権利との引き換えの援助は渡りに船だった。
結果として欧州、そして財団の飼い殺しを狙い欧州連合をそそのかしたアメリカの目論見は完全に潰えた。
数々のしがらみから解き放たれたAE社は、その宣言から一年後にIS技術を転用することで世界初のマスドライバーと新型ソーラーシステムを開発、建造を行った。
そのまた一年後、マスドライバーによって打上げられた物資を使い、月の裏側に月面基地【グラナダ】を建造した。
宇宙開発用に日本から借り受けたコアは建造後、組み上げられていた機体丸ごとが譲渡され、色々な圧力で遅滞していた日本のIS開発の大きな助けとなり、日本政府への貸しを作っていた。
そもそもAE社のIS開発を妨げていた原因である、暴走の危険性も周囲一体が無人である月面では最低限でしかなく、独力での開発が可能となった今は借り物のコアを使う必要などなかったためである。
あまりにも速過ぎるこれら一連の流れの裏には、篠ノ之 束がライバルと呼んだ一人の天才がいた。
AE社が宇宙開発において遥か先を進めているのはそのおかげでもあった。
―――ラプラス・ビスト
ビスト家現頭首【カーディアス・ビスト】の嫡女である彼女は、若くしてAE社のIS部門において開発主任及び、月面基地【グラナダ】の管理も受け持つ才媛だ。
そして彼女こそが世間がISに注目するよりも遥か先、篠ノ之博士がISの基礎理論を発表したと同時に彼女に接触、自身を通して秘密裏に財団に援助させた張本人だ。
篠ノ之博士をISの生みの親とすれば、ある意味彼女はIS研究の第一人者ともいえる。
そしてかの天災と決定的に違うのは、絶大な後ろ盾を持つということだ。
一時期、彼女の弟の存在が裏社会を駆け回ったがすぐに沈静し、今では噂程度に世間話の端にあがる程度だ。
だが、世界はそれでもISに関しては未知の技術ということもあり、横一列のスタートだと高をくくり、あくまで彼女を篠ノ之 束が認めた変わっているが優秀な技術者としか見ていなかった。
彼女から認められるということがどれほどのことかも知らずに―――
彼女が公的には初めて設計した機体である【スタイン】は世界最強を決めるISの世界大会である【第二回モンドグロッソ】の優勝国にコアを搭載していない状態で進呈される予定だったが、IS委員会の意向によりメダルと機体を同時に進呈する流れとなったのだ。
しかし授賞式の日に会場が謎の勢力に襲撃を受け、その混乱に乗じてスタインが奪取されてしまった。
優勝候補と目されていた織斑 千冬は決勝を何故か棄権してしまい、不戦敗となって会場にいなかったのが決定的であった。
襲撃者はどこからか持参したコアをスタインに接続、フッティングを即座に済ませその場にいた各国の国家代表を蹴散らし、去っていった。
全身装甲を採用していたスタインを奪っていった襲撃者の顔は結局分からずじまいとなってしまった。
肝心の奪取された機体に関しては、各国は自国のISではなかったためかなりドライな対応を見せ、AE社のほうもIS委員会に対して厳重抗議をするに留まった。
バランスを考えられて作られたスタインはその機動性以外に突出した性能はなく、その方向性も搭乗者の能力を引き上げるというよりも搭乗者の腕で性能を引き出すというものであったために、各国の視線は襲撃者の突出した強さに向けられていた。
そういった諸々の事情から彼女の才が正確に把握されることはなかった。
それから彼女はIS学園に入学した後も、長期休暇中に大気圏突破用の特殊ISを用いて幾度となくグラナダと地球を往復しつつも、年相応の学園生活を満喫していた。
しかし織斑 一夏という存在が見つかる数ヶ月前欧州で開催された、欧州連合の統合防衛計画である【イグニッション・プラン】の第3次期主力機の選定の一環を兼ねたコンペでの模擬試合において彼女の才能は浮き彫りとなった。
AE社が自社の最新鋭ISのデータ取りを目的として模擬戦への参加を望んできたのは、欧州各国にとって寝耳に水だったが概ね肯定的に受け入れられた。
徹底的に秘匿され、概要しか知らされていなかったAE社のIS開発計画である【UC計画】の結実たる存在をその目で確かめることができ、しかもそのISを撃破できれば自分達の開発したISに箔が付くと考えたのである。
【RX―0 ユニコーン】そう銘打たれた機体を駆るのはIS学園の二年生、ラプラス・ビスト本人であった。
欧州の面々は調子に乗った小娘だと鼻で笑っていたが、その余裕は一瞬で叩き潰された。
結果は残酷なものであり、各国の最新鋭機がたった一機のISに鎧袖一触であった。
最後に立っていたのは、ズタボロにされた各国の威信を見下ろす無傷の純白の一角獣の姿だ。
全世界に中継されていたその映像は、ラプラス・ビストの持つ天才性を揺るぎようがない事実として後押しした。
そして世界は彼女を天災の同類として、認識することとなった。
▽
「ビスト財団…?」
水を打ったように静まり返っている教室の中で、一夏の呟きはよく響いていた。
「明日には責任者が来る。くれぐれも面倒を起こすなよ?織斑弟」
その言葉は教師ではなく、一人の家族としてのそれだ。
いかに世界最強といえど、世界最大の存在を相手にして守りきれると思うほど自惚れてはいない。