IS He The Key?   作:ナインキューブ

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一夏の専用機はあと一話、二話くらい先になりそうです。


錆びた歯車は動き出す

 

はぁ、やっとこの針の筵から解放されるのか

 

今は放課後、初日からこの調子で大丈夫なのか俺?

 

早いところ羽を伸ばしたい俺はカバンに教科書類を詰め込んで、帰宅準備を始める。

 

カバンに詰めるにしてもIS関連のものが分厚い、電話帳と間違えて捨てそうになるくらい分厚い。

 

岸里さんだったか?が

『フルアーマープランを始動するしかないようね…ッ!!』

とか言って教科書類全部置きっぱにしてたが、予習はいいのか入学生。

 

現状、この学年で一番できないのは俺だろうがな!

 

 

 

自分で言ってて悲しくなってきた。帰ったら勉強しよう…。

 

 

 

きっと今の俺の背中は煤けているに違いない。

いつもなら春埜がおちょくりに来るのだが、幼馴染の一人である【篠ノ之 箒(しののの ほうき)】を剣道場へ引っ張って行ってしまった。

 

まぁ久しぶりにライバルと出会えたんだ。友情を育むがいいさ。

色々会って箒とは会えなかったから、春埜は再会を喜んでいたからな。

 

 

 

ふと目を窓の外に向けると、桜の花びらが空を舞っていた。

世界で唯一のISの操縦者育成を目的とした教育機関であっても、学園という名目のご多分に洩れず桜の木が植えられているらしい。

メガフロートの上にあるIS学園からは海が見え、空を舞う桜の花びらと晴れ渡った空と群青の海がコントラストを生み出している。

もしもISに触れることがなければ、俺ももっと素直にその美しさに見惚れることができただろうか。

 

突然変わってしまった日常に戸惑わなかったと言えば嘘になる。

明日も来週も、変わらぬ日々を積み重ね、夢を叶えるために努力する、そんな日常。

俺にだって夢があったのだ。小さくても、他人からどんなにくだらないと笑われようとも俺にも夢あった。

でも、もうそれも叶わない。きっと世界が許さないだろう。

 

 

無意識に自分の胸元を押さえていることに気が付き、苦笑する。

押さえている手の内には硬い感触、そこにあるのは俺が物心ついた時には持っていたペンダントだ。

表に【獅子と一角獣】がレリーフされ、裏に【A Mon Seul Desir】と文字が刻まれた小さな銀盤に紐を通したもの。

肌身離さずにしている俺のお守りのようなモノだ。

 

胸元からそれを引き出して眺める。

きらり、と光を反射し輝くそれを見ていると不思議と心が落ち着く。

何かに悩んだりしたときにはいつも俺はこうするのだ。

 

 

 

納得したものと思っていたんだが、心の奥底ではまだそうではなかったらしい。

我ながら女々しいことだ。箒に知られたら一発もらうことになりそうだな…。

 

 

                      

                  ▽

 

 

 

外の風景を見てボンヤリと黄昏ていると、声を掛ける相手がいた。

「ああ、ここにいましたか織斑くん。帰っちゃったかと思いましたよ」

一組の副担任の山田先生だ。

走り回って探したのか、息が少し上がっている。

俺はかなり長い間ボンヤリしていたらしく下校時刻が過ぎ、夕暮れの光が差し込み始めた教室にいるのは俺だけだ。

 

「なかなか見つからないから学園中を探しちゃいました。織斑くんはどうしてここに?もう下校時刻ですよ?」

そういいながら呼吸を整えているのだが、それに合わせて山田先生の母性の象徴も揺れている。

そのふくよかな胸は健全な男子高校生には目に毒過ぎます先生。

 

俺は必死に下を向きそうな視線を押さえつけながら返答した。

「少し自分のアイデンティーについて考えてました」

 

「はい?」

小首を傾げる彼女のそんな動作は、リスとか小動物のような愛らしさをかもし出している。

どうしてもこの人が年上に見えんときがあるんだが、そう思っているのは俺だけじゃないはず。

 

「いえ大したことじゃないですよ。それより山田先生は俺に何か用事があったんじゃ?」

 

「ああそうでした!!織斑くんの入寮について話です」

 

「え、しばらくは自宅通学って話だったんじゃ?」

この学園での生徒で男子は俺だけだ。そして突然の入学のせいで寮の部屋が確保できなかったらしい。

事情が事情だけに、通常の入学枠を削ることもできず特別枠として入学させたのが原因で余りとなった訳だ。

 

「はい、そのことなんですけど。やはり安全上の都合からそれはダメだということになりまして。どうにか帳尻を合わせて部屋を用意しました」

「なんか色々すみません…」

「生徒のことでがんばれるなら教師としての本懐なので、気にしなくていいですよ」

 

山田先生いい人だなぁ…。

 

 

「それと、あまり一人の生徒のことを言うべきではないんですが…」

少しの間言いにくそうにしていたが、口を開いた。

 

 

「織斑くんの相部屋の子のことなんですが…」

「え?相部屋?」

待って欲しい。生徒とのルームシェアはマズくありませんか、先生。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!相部屋ってどういうことですか!?」

「ああ。相手のほうも納得しているのでその点は問題ないですよ」

「そう言う問題じゃないと思います。同意の上だからって男女が一つの部屋は色々マズいですって!!」

 

山田先生は俺の言葉にハッとする。よかった、思い直してくれたんですね。

「同意の上…男女が…部屋で二人っきり…部屋?…教室…ダメッ!織斑くんこんなところでなんて…!でも…」

 

なにやら呟いたと思ったら急に悶え始めたぞこの先生。

どういうことなんだ………。

 

 

イヤンイヤンと身を揺らしている山田先生に俺が軽く引いていると、つい最近聞いた快音が響いた。

 

 

スパァン!!

 

 

「ぴゃッ!?」

 

同僚相手でも容赦なしですね千冬姉。

山田先生、頭抱えてうずくまってるけどいいのか?

 

「まったく…。何をしているんですか?山田先生」

ヤレヤレといった風に颯爽と登場したのは、俺の姉こと千冬姉だ。

 

「話は聞いているな、織斑弟?」

「ああ、って。相部屋ってどういうことだよ千冬姉!」

 

スパン!!

 

「織斑先生だ」

「はい…」

これで家じゃだらしないってんだから、詐欺のようだ。

 

「織斑弟?」

「ナンデモナイデスヨー」

ポーカーフェイスを磨くべきだろうか。

 

「…ふん。まぁいい。相部屋の件だが、部屋割りの都合だ。諦めろ」

「ええー…」

「女子生徒と同室だといって絶対に問題を起こすなよ?」

「起こしませんよ!?そもそもなんでそう都合よく一人分の容量が空いたんですか?」

 

「織斑くんの相部屋の子は訳ありで、言ってみればものすごいVIPで、ここ最近まで一人部屋だったんですよ」

ようやく立ち直った山田先生が答えてくれた。

 

「それならなおさらマズいんじゃ…」

「相手方は事情を話したら快く了承してくれました。織斑くん用の部屋が用意できるまでの辛抱ですから」

「背景が特殊なだけで、奴本人は少々浮世離れしてはいるが至ってマトモな人格の持ち主だ。少なくとも他の連中よりは信用できる」

 

「わかりました…」

腹を括ろう。男は度胸だ。

 

「はい。じゃあこれが部屋の鍵です。無くさないでくださいね」

寮は校舎から出て、すぐ見える建物らしい。

会議があると言って、千冬姉は山田先生を伴って去っていった。

 

 

 

「そうそう織斑くん。なにか悩みがあったらなんでも相談してくださいね」

ひょっこりと廊下側からドア越しに顔だけ覗かして、そう言うと山田先生は去っていった。

 

なんだかんだであの人は良い先生のようだ。

 

 

 

                    

                   ▽

 

 

 

「えっと1325号室、1325号室…。ここか」

渡された鍵を手に寮の部屋の前に立つ。

ここまで来るのに奇跡のように誰にも見つからずに済んだ。

目撃されていたらどうなっていたことやら…。

 

だが本当の戦いはこれからだ。いいか織斑 一夏、どんなときでも平静を失うな。

 

戦場(アウェー空間)では油断した奴と焦った奴から(社会的に)死んでいく。

 

 

コンコン

 

「すいませーん」

ノックをして部屋の中に声をかける。

 

『どうぞ、鍵は開いているわ』

 

 

深呼吸を一つし、覚悟完了

 

「お邪魔します」

ドアを開けて部屋に入るとそこにいたのは、一人の少女だ。

少女は肩まで伸ばされ緩くウェーブしたアッシュブラウンの髪を持ち、赤いフレームの眼鏡の奥の鳶色の瞳は深い知性を宿している。

 

 

 

「始めまして織斑 一夏くん。私はIS学園三年三組、ラプラス・ビストよ」

制服のスカートの裾を摘まみ優雅に一礼する。

ふわりと浮かべる笑みはどこかミステリアスで、彼女の魅力を引き立てる。

 

 

「え、あ、はい。一年一組の織斑 一夏です」

詰まりながらも俺は相手に則って自己紹介する。

 

「あら?そんなに緊張することなんてないのに」

 

 

そうじゃない、俺は緊張していたのではない。

 

 

「あの…」

この人を見たときに俺にはとある感覚が湧いていた。

 

「なあに?」

 

「俺ってあなたと会ったことってありましたか?」

 

 

 

俺はこの人を見たときに、猛烈な既視感に襲われたんだ。

 

 

 

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