ゆかりさんと主人公が共依存になるお話です。

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ゆかりさんと共依存になる話

「えっ、今朝渡したお金もう使っちゃったんですか…? だ、大丈夫です!すぐにまた渡しますね!」

 

 今日も僕は彼女に金の無心をしている。なんと情けないことか、今朝もらった金はパチンコで全て溶かしてしまった。彼女も僕が何に金を使っているのか分かっているだろうに、今日も疲れているのを精一杯隠した笑顔で金をくれる。なぜそんな笑顔ができるんだ、何故こんな情けない奴に優しくできるんだ、何故僕を見放さないんだ、何故僕を謗り罵らないんだ。そんな事を思い、自己嫌悪に陥りながらも彼女の優しさに甘える。

 

 情けない...

 

僕はこの罪悪に押し潰されそうになりながらも罪悪感を忘れるために家を出る。

 

「いってらっしゃい」

 

やめろ、やめてくれ、そんな笑顔で僕を見ないでくれ

 

僕は逃げるように走った。

 

 走った後の事はあまり覚えていない。多分いつもの様に時間と金の浪費で日常を忘れ去ろうとしたんだと思う。そして今は帰路。夕暮れに照らされた町には帰宅を急ぐスーツを着た男や談笑しながら歩く学生が行き交っている。そこに僕がいるとひどく場違いな感じがするし、世界で一番惨めな人間は自分のような気がして辟易した。

ふとある交差点を曲がった時、懐かしい匂いがした気がした。

 

 コーヒーだ、コーヒーの香りだ

 

そうだ、この道の先には前はよく通った喫茶店があるんだった。久々に行ってみよう。そう思い立つと昔の記憶が呼び起こされた。あの喫茶店はゆかりともよく行ったんだった。

ゆかり...彼女がいなければ僕は既に死んでいただろう。新卒で入社した会社での残業に次ぐ残業、上司からのパワハラを受ける日々、そういったものは僕と云う人間を壊すのに十年とかからなかった。生きることに疲れ自分を自分で終わらせようとした時、彼女に寸での所で止められた。彼女はその時、僕を抱きしめこう言った。

 

「大丈夫、私がずっと一緒にいるから大丈夫ですよ」

 

それから彼女に救われた僕は未だ生きている。しかし、トラウマは癒えず、キーボードを叩く音で手が震えだすし、年上の男に話しかけられるとパニックになる始末。当然職には就けず、金と時間を無駄にする日々は続いている。過去を思い出しつつ歩いていたら、喫茶店の扉まであと数歩といった所まで来ていた。

 

 あ...ゆかりがいる

 

反射的に引き返しそうになったが、友人なのだろうか、彼女は若い女性と話しているようだった。こちらから彼女達の話し声は聞こえず、ゆかりの顔も見えない。何故か無性に気になったので店員に近くの席を案内してもらう。何故だ。何故気になったのだろうかと考える。話し相手の顔が困惑した表情だったからだ。そうだった、と考えながら席に座り、適当なコーヒーを頼み、聞き耳を立てる。

 

「ゆかりさん、また貸して欲しいって...これで5回目ですよ。何にお金を使っているんですか。」

 

心配するような声で若い女性は問いかける。

 

「ごめんなさい、それは言えないんです。でも...ちゃんと来月のお給料日には返しますから...。お願いします。」

 

「そう言ってもゆかりさん、先月も借りたばっかりじゃないですか。」

 

「ですから...」

 

 駄目だ、聞いていられない

 

僕は頼んだコーヒーを一口も飲まずに店を後にした。

 

彼女は僕に金を渡す為に知り合いに借金までしていた。この事実は僕を押し潰しそうな程に重くのしかかっていた。駄目だ、駄目なんだこのままじゃ。このままの生活をしていったらどうなる。数年はこのまま何もないかの様に時が進むかもしれない。しかし、その裏で彼女は精神を磨り減らしていく。

 

 一緒じゃないか...

 

僕は自分の記憶に残るあの過酷な日々を思い出した。彼女は自己を害する事はないかも知れない。だが、心労が積もりきった先にあるのは破滅。僕が彼女を殺すのか。僕を救ってくれた彼女を。変えよう。そう決心した。

 

「お帰りなさい」

 

彼女はあの笑顔で僕を迎え入れてくれる。

 

 変えろ、変えるんだ

 

「お金は足りましたか?また必要になったらいつでも――」

「いらない」

 

彼女が言い終わる前にそう言った。

 

「えっ...それはどういうことですか...?」

 

「もうゆかりから金を貰うことはないってことだよ。それと、こんな生活はもう終わりにしようと思う。」

 

瞬間、彼女の顔は蒼白になった。

 

「どうして...どうしてですか...?私、何か悪いことしましたか...?悪いところがあるなら直します。だからそんな事を言わないでください...!」

 

 ああ...何という事だ...

 

彼女は既に病んでいた。

 

「私がお世話しなきゃ、またあの時みたいにあなたは死のうとしちゃうかもしれないんです...!だから...!私はあなたのためにお世話し続けなきゃいけないんです...!」

 

「何故、何故そんな...」

 

心の中で呟いたことが口から漏れていた。

 

「私、私、あなたがいなきゃ生きていけないんです。親友のあなたがいなければ...」

 

「私、嬉しかったんです。進学の為にここに来て右も左も分からなかったけどあなたが話しかけてくれて、それで私、あなたと友達に、いや、親友になれたからこそ頑張ってこれたんです。」

 

「だから、一番大事な人が死ぬなんて、考えただけで...!!」

 

 ゆかりの眼から涙が溢れる。それと同時に声にならない嗚咽。ああ...僕はこんなに思ってくれる人がいるのに死のうとしていたのか...。愛おしい。そう思った時には僕はゆかりを抱きしめていた。

 

「大丈夫、僕はずっと一緒にいるから大丈夫。」

 

 ゆかりは、はっとした顔でこちらを見上げる。

 

「あの時はゆかりに救って貰った。今度は僕の番だ」

 

 笑顔。ゆかりの笑顔。あの疲れを隠したような笑顔ではない、安心したような、心の底からの笑顔。そして溢れる涙。気づけば僕も涙を流していた。抱きしめたゆかりから高鳴る鼓動が伝わってくる。変わっていこう。ここから僕らは変わるんだ。少しずつでも、一歩ずつでも変わっていくんだ。

それから僕らは抱きしめ合いながら泣いて、泣いて。泣き疲れたころにお互いの顔を見合わせた。

 

「フフッ、ひどい顔ですね。」

 

「ゆかりこそ今まで見たこともないくらいひどい顔だよ。」

 

泣き声がこだましていた部屋に笑い声が響いた。

 

「これからは依存するんじゃなくて一緒に手を取り合って生きていこう!よろしくね、ゆかり!」

 

「ええ!こちらこそよろしくお願いします、マキさん!」

 

 終わり


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