猫がいる   作:まーぼう

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第1話

「入るぞ」

「先生、部屋に入るときはノックをしてください」

 

 毎度毎度よく飽きないな、この二人。

 何度言われても改めない先生もアレだが、毎回律儀に突っ込む雪ノ下も相当だぞ。

 ここは『奉仕部』。

 顧問である平塚先生が、変革の必要ありと判断した生徒の悩みを解消する……部?組織……集団というのが一番しっくりくるか?でも一応部活動なんだよな。

 ぶっちゃけ普段はダラダラ文庫本を読むぐらいしかすることがないわけだが。

 

「まあ、細かいことは気にするな」

「ハァ……。それで、ご用件はなんでしょうか?」

 

 雪ノ下が小さくため息をついて先を促す。

 

「うむ。君達に依頼を持ってきたのだが……由比ヶ浜は来てないのか?」

 

 先生がこの場に不在のもう一人の部員、由比ヶ浜のことを尋ねる。

 

「……由比ヶ浜さんなら今日は用事があって欠席です」

「ま、あいつにも付き合いとかあるだろうしな」

 

 雪ノ下の返答に補足する。

 奉仕部は部長である雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣、そして俺、比企谷八幡の三人で全員なのだが、雪ノ下の言った通り、由比ヶ浜は今日は休みだ。

 俺と雪ノ下は友達ゼロのいわゆるぼっちなのだが、由比ヶ浜はスクールカーストの頂点に所属するリア充だったりする。本来俺達とは水と油の関係のはずだが、どういうわけか奉仕部に入り浸っている。

 そんな由比ヶ浜だが今日はリア充組の先約があったらしい。今頃元気に女王様のご機嫌をとっているだろう。

 

「なるほど。それで雪ノ下が不機嫌なわけか」

「……別に不機嫌じゃありません。適当なことを言わないでください」

「いや、それは機嫌悪い奴のセリフだろどう聞いても」

「違うと言っているでしょう。腐っているのはあなたの脳と魂のどっち?」

 

 すげえ目で睨まれた。なんで魂なんだよ、耳だろそこは。

 

「それで、依頼というのは?」

「ああ、そうだった。入りたまえ」

 

 先生が振り返って声をかけると、ドアの前で待たされていたのだろう、すぐに一人の生徒が入ってきた。

 見覚えのない女子。と言っても俺の場合、クラスメイトの顔すら覚えてないから当然か。

 黒髪ロングの小柄な少女。色白でどこか日本人形を思わせる和風美人。……なんとなくプチ雪ノ下って感じがする。

 

「比企谷くん、目を腐らせないでちょうだい。……先生、彼女は?」

 

 雪ノ下が促す。いちいち俺を一刺しするのやめてくれませんか?

 

「彼女は五更瑠璃。1年だ」

「……初めまして、五更です。あの、先生、これは?」

 

 どうやら何の説明もないまま連れてこられたらしい。俺の時と同じだな。

 

「ここは奉仕部と言ってな。生徒の抱える問題を解消することを目的とした部活だ」

「正確にはその手助けです。自分の受け持つ部の説明くらいちゃんとしてください」

 

 先生の説明に雪ノ下が付け足す。それを聞いていた、五更という1年の表情がピクリと動いた。

 

「先生、つまり、ここはお悩み相談室ということですか?」

「まあ、有り体に言えばそうなるな」

「なら私には必要ありません。先輩方、お騒がせして申し訳ありませんでした」

 

 五更さんはそう言って小さく頭を下げると出ていってしまった。

 

「……あの娘、依頼人なんじゃなかったんすか?」

 

 説明を求めると、先生は難しい顔でバリボリと後頭部を掻いた。なんか男らしい。

 

「いや、依頼人は私だ。先ほどの彼女、気づいたかもしれんが気難しい性格でな。教室で君達のような状態になっている。なんとかしてやってほしいのだが」

 

 俺達みたいって、ぼっちってことか?失礼すぎんだろ、事実だけどさ。あと悪いのは先生なんで人が殺せそうな目で睨みつけるのはやめてください雪ノ下さん。

 しかし、と思う。この依頼は受けるべきか?

 めんどくさいというのはもちろんだが、それ以外の部分で納得いかない。

 

「……それは、余計なお世話、と呼ばれるものだと思いますが」

 

 雪ノ下の言う通りだ。

 世の中では、それがさも悪であるかのように扱われているが、ぼっちは別に悪いことではない。当人が好んでそうしているのなら口出しすべきではないだろう。

 だが先生は引き下がらなかった。

 

「余計な世話をやくのが教師の仕事というものだよ。なに、君達が手を貸す必要がないと判断したのならそれで構わん。とりあえず様子を見てやってもらえまいか?」

 

 

 

「それで結局引き受けたんだ?」

「まあな」

 

 翌朝。乗降口で出会った由比ヶ浜にいきさつを話しつつ教室に向かう。

 

「じゃあ、その五更さんって娘に友達作ってあげればいいんだよね」

 

 俺はため息をついて、隣を歩く短絡的なお団子頭に説明してやる。

 

「あのな、まずは本人がどう思ってるか確認してからだろうがこのバカ。ちゃんと話聞いてたのか」

「うっ……。で、でも普通だったら友達欲しいって思うでしょ?」

「普通じゃないかも知れないだろが。そもそも普通の奴はぼっちになったりしないだろバカ」

「そ、そうかも知れないけど……。ていうかバカバカ言いすぎ!ヒッキーのバカ!キモい!」

 

 ぷんすか怒って先に行く由比ヶ浜。やれやれ、あいつにバカ呼ばわりされ……えっ、キモい?

 

 

 

「まずは情報ね」

 

 それが昨日雪ノ下が立てた方針だった。と言っても大したものでもない。件の五更さんのクラスに行って、普通に評判なんかを聞くだけだ。

 昔から言うだろ?敵を知り己を知れば百戦諦めよって。おいおい諦めちゃうのかよ。

 とはいえこの情報収集というのは、俺や雪ノ下のようなぼっちにとって苦手な分野ではある。違う学年ともなればなおさらだ。

 というわけで昼休み。

 

「出番だリア充」

「命令すんなし。つか自分で行けばいいじゃん」

「バッカお前、相手は一年の女子だぞ?俺が行ったらストーカー扱いされるに決まってんだろ」

「決まってるんだ……」

「当たり前だ。女ってのは知り合い以外の好みじゃない男が声かけて来たらナンパか痴漢かストーカーだと思うもんだろ?」

「いや、んなことないし。ハァ……しょうがないなぁ。んじゃ、行ってくんね」

 

 人当たりのいい由比ヶ浜ならなんとかなるだろ。

 由比ヶ浜の交遊関係が一年にまで及んでいるかは知らないが、俺が行くよりはマシなはずだ。

 教室の入り口から様子を見ていると、最初は警戒されていたようだがすぐに笑い合うようになっていた。

 なんというかさすがだ。なんでああいう連中って会ってすぐの相手に平気で冗談とか言えるんだろ。少なくとも俺には無理。怖いもん。

 

「あの……何かご用ですか?」

 

 不意に後ろから声をかけられた。

 振り向くとそこにはクラス委員って感じの真面目そうな眼鏡女子。……ていうかでかいな。由比ヶ浜と同じくらいか……?

 

「……どこ見てるんですか」

 

 ジト目で睨まれた。

 いかんいかん。紳士にあるまじき行為だったな。

 とりあえず警戒を解こう。……ふむ。さっきの由比ヶ浜を参考にしてみるか。まずは笑顔だな。

 

「いやぁ、ちょっと一年の女の子に用事があってさ。よかったら話聞かせてくんないかな~、なんて、フヒッ」

 

 そう爽やかに笑ってみせると、眼鏡っ娘は身を守るように自分の体を抱いてずざざっ!と後退った。

 うむ、好感触。先生を呼ばれない内にちゃんと誤魔化そう。

 

「いや、知り合いが一年の子に用事あるっつうから付き合ってるだけなんだ。ほら、あれ」

 

 教室内の由比ヶ浜を指すと、とりあえず納得はしてくれたようだ。距離は開いたままだが。

 

「でさ、このクラスに五更って娘がいると思うんだけど知らない?」

「五更さん……ですか?」

 

 名前が出た途端、表情が動く。

 俺は人の顔色を伺うことにかけては自信のある方だが、そんなことは関係ないくらいあからさまに嫌な顔をしていた。

 これは……もしかして当り引いたか?

 一瞬だけそう思ったが、すぐに否定する。

 この娘が五更瑠璃をハブにしてる連中の筆頭なら、ここで出てくる表情は、嫌悪ではなく嘲笑のはずだ。

 集団で一人を小バカにするような人間は、本気で人を嫌ったりはしない。相手のことを知る必要などないからだ。

 数という強みさえあれば、立場の弱い相手を攻撃する理由として充分なのだ。なにそれ虫酸が走る。

 とはいえこの娘がまったくの無関係ということもないだろう。嫌っているということは、意識してるということなのだから。……少し探りを入れとくか。

 

「もしかして友達?」

「違います」

 

 即答かよ。

 

「五更さんってどういう娘なの?仲悪いみたいだけど」

「……知り合いなんじゃないんですか?」

「知り合いはあっち。俺はただの付き合いだって」

 

 由比ヶ浜を指差しながらしれっと大嘘をつく。

 ただまあ、知り合いじゃないのは本当だ。

 自己紹介したのは向こうだけだし、俺はステルス能力があるから認識されてない可能性もある。そもそも挨拶しただけの相手を知り合いとは呼ばないだろう。

 眼鏡ちゃんは顔をしかめつつ話し出した。そういや自己紹介してねえな。

 

「なんて言うか、とにかく付き合い悪いんです、彼女。初めはみんな遊びに誘ったりしてたんですけど、全部断っちゃうし。クラスで団体行動しなきゃいけないときも、よくわかんない理屈で一人で勝手に行動するし。はっきり言って私は嫌いです」

 

 ずいぶんハッキリ言う娘だな。嫌いじゃない。

 しかし、やっぱり自分から好んで孤立してたのか。なら問題ないな。

 あとは一応いじめになってないかだけ確認したいところだけど、どうしたもんか……。

 

「あれ、ヒキタニくん?」

 

 思案していると後ろから声をかけられた。

 同じクラスの爽やかイケメン葉山隼人だ。

 少し前に奉仕部に依頼を持ってきて、成り行きで今度の職場見学で同じ班になった。それ以来、たまに話すようにはなったが別に友達というわけでもない。

 

「どうしたの?こんなとこで」

「いや別に。てかお前こそどうしたんだよ。一年の教室だぞこの辺」

「俺は職員室に用事あってその帰りだよ。その娘は?ヒキタニくんの彼女?」

 

 うぜぇ。

 なんでおまえら系は男と女が一緒にいるだけでなんでも恋愛に結びつけんだよ。お前だって三浦と付き合ってるわけじゃねえんだろ?

 葉山は爽やかに笑って去っていった。

 何しに現れたんだあいつは、いらんこと言いやがって。

 すっげぇ嫌な顔してるんだろうな。これ以上の情報収集は無理か……?

 おそるおそる眼鏡ちゃんの様子を伺うと、予想に反して機嫌を悪くした気配はない。というかすっごいエエ顔してる。なんか鼻息荒くないか……?

 

「……あの、よだれ垂れてるけど?」

「――はっ!す、すみません!今の、二年の葉山センパイですよね。お付き合いしてるんですか!?」

「?あ、ああ。一応付き合いはないこともないけど」

 

 一年にまで知られてんのか。さすが葉山だな。

 

「そうですか!頑張って下さい!応援してます!」

「お、おう。ありがとう?」

 

 なんだろう。なんとなくクラスメイトのある女子と似た気配を感じる。何この娘?同系機?ビギナ・ゼナ?

 もう少し話を聞くこともできそうだがすごく逃げたい。

 

「じゃあ俺、そろそろ行くから」

「ハイ!今度、彼氏さんのお話し聞かせて下さいね、ヒキタニセンパイ!」

 

 間違って覚えられた。……彼氏ってのはなんかの聞き間違いだろう。そう信じたい。

 

 

 

「それで由比ヶ浜さんを置いて帰ってしまったわけね」

 

 ……いや、そうだけどさ、仕方ないじゃん。ねえ?

 

「ふんだ。ヒッキーのバカ」

「……悪かったよ」

 

 由比ヶ浜が戻ってきた頃にはもう授業が始まる直前だったから、今まで謝る機会がなかったんだよな。

 

「……今度なんかおごって」

 

 くっ、足下見やがって……。だがまぁ仕方ないか。

 

「わかったよ、サイゼでいいか?」

「ん、許す」

 

 えへへ~♪と機嫌を直す由比ヶ浜。まあ、分かりやすいのは助かるけどさ。

 

「二人の情報をまとめると、五更さんは自分からクラスメイトに距離を置いている、という判断でいいのかしら?」

「ま、そうなるな」

 

 由比ヶ浜が仕入れてきた情報も、俺とそう大きな違いはなかった。

 

 とにかく付き合いが悪い。

 愛想がない。

 口が悪い。

 和を乱す。

 何を考えているかわからない。

 時々意味不明なことを言う。

 

 まさにプチノ下。最後のはよく分からんが。

 とにかく良い印象は持たれてないらしい。

 

「とりあえず、依頼は完了、ということになるけれど……」

 

 雪ノ下にしては歯切れの悪い言い方。無理もない。

 平塚先生の依頼は「必要なら手を貸せ」だ。

 俺達なりに調べた結果、その必要はないと判断した。彼女が孤立しているのはあくまで自分の意志だ。

 但し、これには「今のところ」という注意書が入る。

 ちょっと調べただけで判るほど悪印象を持たれている。今はまだいじめになったりはしていないようだが、これが何時攻撃に切り替わるかは未知数だ。

 

「……やっぱり友達作り、手伝ってあげた方がいいんじゃないかな」

「うーん……」

 

 由比ヶ浜の意見に唸り声で返す。

 彼女が独りでいるのは自分の意志だろう。それは間違いないと思う。

 だが、望んでそうしているか、と訊かれると判断に迷う。

 

 ぼっちというのは世の中に優しい存在だ。

 他人に迷惑はかけないし、進んで嫌われることをすることもない。少なくとも本人はそう心がけている。何故か。

 それは自分を守るためだ。

 ぼっちというのは絶対的に弱者だ。

 数とは強大な力であり、ぼっちが他者と対立すれば、ほぼ間違いなく数を敵に回すことになる。

 それを回避するためには、初めから敵を作らないことが肝要になる。

 

 五更瑠璃の場合、あれだけ嫌われるということは対人スキルは高くないはずだ。そうでなければそもそもこの依頼自体がなかったはず。

 そうなると彼女は以前からぼっちだったことになる。高校に上がってからいきなりぼっちになったというのは考えにくい。

 だがそれだと矛盾が生じる。

 以前からぼっちとして過ごしていたのなら、嫌われるリスクを理解していなければおかしい。

 人と関わるのを嫌っているのだとしても、自分から拒絶するのではなく、やんわりと断り続けて相手の意識からゆっくりとフェードアウトするべきだ。

 ぼっち歴が長いなら、このあたりは理解してないはずはないのだが……。

 

「……もう少しだけ様子を見ましょう。由比ヶ浜さん、明日もお願いできるかしら?」

「うん、まかせてゆきのん。ヒッキーもがんばろうね」

「比企谷くんは得意分野だからといって羽目を外さないようにね。事件になったら私では庇いきれないわ」

「なんで俺が普段からストーキングしてることが前提なんだよ。お前はあれか、そんなに俺を犯罪者に仕立て上げたいのか」

「ひどい言いがかりね。わざわざ仕立て上げるまでもないでしょう。ところで昨夜はうちのマンションの壁に張り付いて何をしていたのかしら?必死そうだったから声はかけないでおいてあげたのだけれど」

「ヒ、ヒッキーそんなことしてたの!?」

「いや、信じるなよ。ていうかまでもないってなんだ」

 

 

 人気の減った校舎を一人歩く。

 冬に比べると陽もずいぶん延びたが、そもそもまだ陽が暮れるような時間ではない。

 今日の部活は報告のみで早々に解散になった。雪ノ下にヤボ用があったらしい。

 雪ノ下は部室の鍵を職員室に返しに行き、由比ヶ浜はそれに付き合っている。俺だけ先に帰らせてもらってるわけだ。

 並の奴なら「あ、俺も付き合おうか?」とか、そんな軟弱なことを言い出すところだろうが俺には通じない。異性に向かって軽々しく「付き合おう」なんて言わない硬派な男なのだ。

 階段に差し掛かったところで見覚えのある顔を発見した。

 最近、と言ってもたった一日のことではあるが、とにかく話題の人物、五更瑠璃だ。

 彼女は箒を持って階段を掃除している。当番なのだろう。が……

 

「……お疲れ」

「……どうも」

 

 短くねぎらいの言葉をかけると、やはり短く返事する。

 

「……手伝おうか?」

「……結構です」

 

 予想通り、あっさりと拒絶された。その眼には警戒の色がありありと浮かんでいる。しかしあれだな。やっぱり覚えられてないみたいだな。

 

「そっか、じゃな」

 

 簡単に言って階段を降りる。角を折れたところで辺りを見回す。

 周囲には誰もいない。通行人も、五更瑠璃と同じクラスの掃除当番もだ。

 

 少しまずいな……。

 

 彼女に掃除を押し付けた連中も、特に悪意のようなものは持ってないのかもしれない。

 だが、こういう事例を一度でも作ってしまうと、周りから『面倒を押し付けていい相手』というレッテルを貼られてしまう。

 そうして何度も繰り返しているうちに、『面倒を押し付けていい相手』から『理不尽を押し付けていい相手』に変質していくのだ。

 そうなれば最後、単なる憂さ晴らしのための攻撃が始まり、誰もそれを咎めなくなる。なにしろ本人達には攻撃してる自覚すらないのだ。

 無論、そうならない可能性もある。

 だがこの手の問題は、一度始まってしまえば止める方法は無いに等しい。

 思ってた程楽観できる状況ではないのかもしれない。だが、何か打てる手はあるか……?

 

 

 

 翌日。

 昼休みにパンを持って教室を出ようとすると来客と鉢合わせた。

 

「このクラスに真壁くんっていると思うんだけど呼んでくんない?」

 

 人の良さそうな地味顔の男子。上履きの色で分かるのだが3年だ。

 しかし真壁って誰だ……?

 

「僕に何か用ですか?」

 

 おおっと、ご本人登場。手間省けてよかった。

 気配を消してさっさと退散する。こんな時、存在感ないって超便利。

 さて、と……。

 俺が普段飯食ってる階段の方は省いていいだろ。

 入学して間もない1年、と言ってももう1月経ってるが。とにかく、よほどめざとい奴でもなければ校舎内の線も考えにくい。この学校、屋上は施錠されてるしな。

 となるとやはり裏庭か。一応ベンチあるし。

 目的地を定めて歩く。裏庭のベンチに、はたして彼女は居た。

 もう少し情報が欲しい。人と関わりを持たないなら、本人に聞くのが一番だ。

 

「隣、いいか?」

 

 声をかけると五更瑠璃は、弁当箱に蓋をして無表情に俺を見上げてきた。


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