作中時期は12月。
俺妹は最終巻。俺ガイルは9巻の生徒会選挙後になります。
3話で止まってて、続きをいつ書けるかも分からないので、半端なところでもやっとするのが嫌な人は読まぬが吉。
第13話
「だぁーっ!くそ!クリアできっかこんなもん!」
爆発のエフェクトと共に消滅する自機を見送って呪いを吐く。
「ぬう……凄まじい妖気よ。これはもはや大妖クラス。我でも勝てるかどうか……」
隣では剣豪将軍こと材木座が、ブツブツとわけわからんことを呟いていた。
「ひっひっひっ。どうよお前ら。俺様謹製、
そうドヤ顔で笑うのは、ゲー研部長の三浦弦之助先輩だった。
放課後、たまたま材木座と話していたところをこの人に捕まり、新作ゲームのテストプレイをさせられていたのだ。
感想を請われ、俺は材木座と顔を見合わせ忌憚無き意見を述べる。
「クソゲーっすね」
「げほぁっ!?」
壮絶に吐血する部長。いや、吐いてるのは血じゃなくてホットドッグのケチャップだが。汚えなおい。
「ち、ちなみにどこが駄目だった……?」
「うーん……」
中々難しい質問だ。強いて上げるとすれば全部だろうか。
「とりあえずボムでも消せない追尾弾とかやめましょうよ。難しいのは問題無いけど鬱陶しいのはアウトっすよ」
「然り。背景と見せかけて実は障害物など、一つ二つであれば面白いトラップで済むかもしれんが、それで迷路を作るのはいくらなんでもやり過ぎであろう」
「初見殺しっていうか、あらかじめ知ってないと絶対に対処不可能なのはSTGとして最悪でしょう。前触れなく後ろから敵が湧いてくるとかファミコン初期のゲームじゃないんですから」
「よ、容赦ねーなテメーら……」
いや、いくらオブラートに包んでもクソはクソだし。
ゲーム自体の出来は悪くないのだが、いかんせんバランスが取れてない。良い悪いではなく破綻している。グラフィックがムダにハイレベルな分、内容の酷さがより際立つというか。
逆に言えばそれさえなんとかすれば売りに出せるレベルなのかもしれないが、作り手の性格を反映したような内容を見る限りあまり期待できそうにない。
「だから前から言ってるじゃないですか。部長が作る限りクソゲー以外はあり得ないって」
「ぐっはぁ!?ブルータス、お前もか……!?」
「いやブルータスじゃなくて真壁です」
「うるっせえ!俺は俺の作りたい物を作るんだよ!見てろてめえら、ぜってえ面白いって言わせてやるかんな!?おい剣豪!手伝え!」
「ふっ!信玄公の頼みとあらば断れはすまい!」
そう言ってパソコンをいじり始める部長と材木座。
元気だなー。真壁の言葉が止めだと思ったのに。本気でゲームが好きなんだな。
だがまあ材木座の方はただのノリだろう。
あいつの場合、スキルがどうこう以前に絶望的に根性が足りない。
部長はどうかしらんが、あいつに本気になって何かを成し遂げるなんてできるわけがない。それができるくらいなら、いい加減パクリ小説から卒業してるだろう。
そんなことを考えながら滅魏怒羅怨Ⅲをリスタートする。ま、一応は仕事だしな。
それぞれが黙々と作業をこなし、しばし沈黙が流れる。
そんな時だった。予想だにしない人物が現れたのは。
「ひゃっはろー!遊びに来ちゃった!」
「うげっ!陽乃!?」
雪ノ下の姉、完璧悪魔超人陽乃さんである。いや、ていうか部長……?
「ちょっと弦ちゃん、人の顔見てうげっ!はないんじゃないの?うげっ!は」
「うるせえよ!?暇もて余してんのか知らねえけど、ちょくちょく出没しやがって!卒業したんだからおとなしく大学行け!」
「むぅー!弦ちゃんちょっと冷たくない?ゲー研作る時、あんなに手伝ってあげたのに」
「あれ手伝ってるつもりだったの!?俺妨害だと思ってたんだけど!?」
え?ちょっ、何この距離の近さ。この二人どういう関係?
「あれ……?」
まじまじと見ていると、陽乃さんと目が合う。
「へ……?ちょちょ、なんで比企谷くんがいるの!?」
「陽乃、何慌ててんだオメー?」
慌てる。
確かにそんな風に見える。が、陽乃さんだぞ?この人が慌てるとかあり得んのか?
「ちょっと弦ちゃん、どういう事?」
「いや、何がだよ?」
「なんで比企谷くんがここに居るの?部室に居なかったから帰ったのかと思ってたのに」
「呼んだからだが。なんかマズイのか?つーか陽乃、お前こそ比企谷とどういう関係だ?」
「え……えっと、義弟?」
「違います」
黙って様子を見るつもりだったのだが、突っ込まずにいられなかった。
「えーと部長、この人とどういう知り合いで?」
陽乃さんを指差して聞く。
「あー、まあなんつーか、元同級生だ」
「弦ちゃんヒドイ!わたしの初めて奪ったクセに!」
「人聞き悪いこと言ってんじゃねぇ!?」
ますますわからん。いや、初めてがどうたらは陽乃さんの冗談なんだろうが。
「おい、誤解だからな?オメーらが想像してるような事は何もなかったぞ?」
いや、別に大したこと考えちゃいませんが。つうかなんでそんな必死なんです?
「えー、ひっどーい。わたし男の子にフラれたのって弦ちゃんが初めてなんですけど?」
やはり笑いながら言う陽乃さん。が、その内容は正直驚嘆に値するものだ。真壁と材木座も凍りついている。
フラれた?陽乃さんが?
「ちなみに二度目は比企谷くんね♪」
真壁と材木座が凍りついたままで視線を俺に移す。
あー……。部長も陽乃さんに苦労させられたクチか。
俺は眉間を押さえながら陽乃さんに疑問を投げる。
「……陽乃さんって俺と入れ代わりで卒業したんですよね?だったら部長と同級生ってあり得ないと思うんですけど」
「それがねー、弦ちゃんてば留年してるのよ。二回も」
ケラケラ笑って手を振る陽乃さん。なるほど、高三にしては老けてると思ってたらそういうことか。
「ケッ!ほっとけ。俺にゃここでやり残した事があったんだよ」
「あっははー。それはもう片付いたのかな?今年こそ卒業できるといいねー」
「おう。後継者も見つかったしな。もう大丈夫だろ」
「ありゃ、ホントに大丈夫なんだ。皮肉のつもりだったのに」
言葉通りに捉えるなら、部長が留年してるのは自分の意思ということになる。
普通ならただの虚勢と取るところだが、この人の場合あり得ると思えてしまうからすごい。
「それにしても弦ちゃんも比企谷くんを気に入ったんだねー。なんか意外」
「そうか?俺としちゃお前がこんなに誰かを気にかけることの方が意外だけどな」
「……んー、どういう意味かな弦ちゃん?わたしはいつでも周りに気を遣ってるよ?」
「まぁまちがってはいないわな。お前くらい周りを良く観てるヤツもそう居ねえ」
「……弦ちゃん。わたし、間違ったイメージを植え付けられるのって嫌いだよ?」
「知ってるよ。それがどうかしたか?」
こ……恐ぇー!?
陽乃さんの怖さはある程度知ってるつもりだったけど、それと普通に渡り合ってる部長って何者だよ?オイ材木座!全員から忘れられてるからってこっそり白眼剥いてんじゃねぇ!
「はぁ……相変わらずだなぁ、弦ちゃんは。ま、いいや。顔も見れたしわたしはもう行くから。また来るね♪」
「へいへい。二度と来んなよ」
「あ、そだ、比企谷くん。なんか静ちゃんが探してたよ?」
「え」
「何があったのか、詳しいことはお姉さんも知らないけど……雪乃ちゃんを泣かせたら、お姉さん許さないぞ?」
陽乃さんはそれだけ言い残して去って行った。
最後の言葉。あれは冗談めかしていたが、きっと本気なのだろう。部長とやりあっていた時には無かった凄みを感じた。
それに当てられたのか、材木座と真壁などは青ざめている。
「なんつうか、大変なヤツに目ェつけられたな」
一方部長は平常運転である。すげえなこの人。
以前葉山が言っていた事を不意に思い出した。
陽乃さんは、構い過ぎて殺すか、徹底的に潰すか、そのどちらかしかしないらしい。
部長は陽乃さんに明らかに気に入られている。それでこんな態度を取り続けていられるというのなら、もしかすると部長は、陽乃さんにとって極めて特別な相手なんじゃないだろうか。下手をすれば雪ノ下以上に。当人達に自覚があるかは分からんが。
「なんかフラれたとか言ってましたけど」
俺はごまかすようにそう言った。いや、何をごまかしてるのかは自分でもわからんけど。
部長はそれに、言いにくそうに答えた。
「あー、まぁ、告られた事はあったな」
「……なんで断ったんですか?」
「あんなおっかねえ女と付き合えるかよ……」
あー、うん。すごい分かるわ、それ。
陽乃さん襲来の後、俺は職員室に向かっていた。なんか先生が探してるらしいし。
(ま、そろそろかとは思ってたけどな)
心当たりならありすぎるほどあるが、おそらくタイミングから見て理由は一つしか無い。そしてその事にある種の安堵を感じている自分に嫌気が差す。
(雪ノ下を泣かせたら、か……)
先程の陽乃さんの言葉を思い出す。
正直そんな事態は、あらゆる意味であり得るとは思えない。そもそもあいつは誰かに涙を見せるような事は無い気がする。
仮に俺と雪ノ下が対立したとして、その場合俺が一方的に泣かされるだけだろう。スペックが違いすぎる。
なら俺が、そうだな、例えば事故か何かで死んだとして、雪ノ下が泣くか?泣かない気がする。
一応悲しんでくれるとは思うが、ため息一つ吐いて終わり、みたいな。うわ、なんかすげえ想像できる。
では例えば、雪ノ下が俺に何かを期待していて、俺がそれを裏切ったら?
……バカバカしい。雪ノ下が俺に期待するなんざそれこそあり得ん。それにーーーー
『わかるものだとばかり、思っていたのね……』
ーーーーそう、雪ノ下は泣かない。泣きは、しない。
俺はそれを、もう知っている。
「失礼します」
放課後に入ってそこそこ時間が経っていたが、職員室には結構人が残っていた。
生徒みたいに何となく残ってるわけじゃなくて、ちゃんと仕事してるんだろうな。
絶対に働かない。そう決意を新たにする17才の冬。
平塚先生もまた、書類の山と格闘していた。コーヒーの差し入れくらい持ってきてやればよかったかな。その先生が俺に気付く。
「おお、比企谷か。何か用か?」
「いえ、なんか先生が俺のこと探してたって聞いたもので」
まぁどうせ明日には呼び出されるんだろうから、嫌な事はさっさと済ませてしまおう。そう思って自分から出頭したわけだ。
先生は二度ほど目をしばたたかせてから「ああ、陽乃か」と呟いた。あれ?これもしかしてスルーしちゃっても大丈夫だったんじゃね?
「……そうだな。近い内に話をしなければならんとは思っていたところだ。向こうへ行こうか」
先生はそう言って、もう俺にとっても馴染みの深い応接スペースを指す。
「仕事、いいんですか?」
「丁度休憩しようと思っていたところだ。そろそろニコチンが足りなくなってきてな」
先生は内ポケットからタバコを取り出すと、やたらと男前な仕草で火を着けた。この人なんでこんなにかっこいいの。
先生はいくらか逡巡する素振りを見せてから切り出した。
「話というのはな、まあお前も分かってはいるんだろうが、最近部活に顔を出してないらしいな?」
「…………はい」
そうなのだ。
あの生徒会選挙からしばらくの後、たまたま用事ができて部活を休んだ。それからだ。
俺は何かと理由をつけて部活をサボるようになった。今日ゲー研に呼び出されたのも、正直に言えば渡りに舟と思った部分すらあった。
由比ヶ浜とは相変わらず教室で絡む事は無いし、雪ノ下に至っては話すどころか顔すら見ていない。まるで1年の頃に戻ったみたいだ。
唯一異なるのは戸塚の存在。
戸塚こそは個にして全。全にして個。つまり戸塚が居れば他はどうでもいい。ただし小町は例外。もう結婚するしかない。
ま、究極にして至高のボッチたる俺にとってははどうということもない。むしろ快適ですらある。
……などという強がりもいい加減苦しい。
結局のところ、俺はただ逃げただけだ。そこから目を逸らそうとすれば、惨めになるのも道理だろう。
俺は耐えられなかったのだ。
上っ面で横滑りな空虚な時間に。
紅茶の香りが消えたあの部屋に。
あの故人を偲ぶような、幼子を見るような、まるで取り返しがつかなくなったものを懐かしむような雪ノ下の微笑みに。
一月近くも費やして手に入れたものだからと。
俺と由比ヶ浜が守り抜いたものだからと。
そう自分に言い訳して、必死にこれまで通りを演じてきた。
だけど一度、たったの一度休んだだけで、その無理矢理被ってきた仮面にヒビが入った。
雪ノ下に会わずに済むことに、彼女の笑顔を見ないで済むことに、安堵してしまったのだ、俺は。
そして安息の味を覚えた俺は、それにすがった。それがこの状況だ。
いつまでもこのままというわけにはいかない。
例え結果が自分の望みからかけ離れたものだったとしても、自ら選択し行動した者として、それを見届けるのが最低限の責任だろう。何より、こんな重荷を由比ヶ浜一人に背負わせるわけにはいかない。
しかし、今の俺には自発的にあの二人に会うことはできない。
ただヘタレてるだけだというのは分かってる。だけど勘弁してほしい。自覚があるからって行動できるくらいなら、この世にヘタレなんて言葉は産まれてない。
ともかく俺は、自分の逃げ道を塞ぐ必要がある。そうしなければあの二人に向き合うことすらできない。
だから、今回ばかりは平塚先生の呼び出しが有り難かった。
やっと部活をサボれない理由ができた。そう思ってた。
それなのに。
先生の口から出てきた言葉は、俺がまったく予想していなかったものだった。
「なあ、比企谷。奉仕部を、辞めるか?」