やはり俺が私立グリモワール魔法学園に転校生と一緒に入学するのは間違っている 作:水無月ゲンシュウ
第七次侵攻三日目。ここまで順調に見えた防衛線に遂に綻びが生まれる。ここまで持ちこたえた国軍の一部が魔物の突破を許した。いや一部という情報はいらないか。背後を取られるということは今まで気にしていない部分にまで気を使わなくてはいけないということで、そのような状態に一部でもなるということは、素早く態勢を整えなければそのまま包囲、殲滅されかねない。人類が古来より多用してきた戦術を偶然ながら相手に使われた形となったのである。
その情報を受け取った俺たち風紀委員会は即座に撤退の準備をしていた。しかし既に最初に突破した魔物の一部が目と鼻の先まで来ていた。
「こりゃ、ちょいとまずいですねー。とっとと撤退して防衛ラインを構築しますよー」
水無月風子風紀委員長。学園の風紀を守る集団をまとめ上げている学園内でも指折りの実力者。生徒会長から直々に次期生徒会長の座を指名されている学園の中心人物。リンゴに目がなく食べている間は目を輝かせながらおいしそうに食べる一面も持ち合わせている少女。
「いまこそ魔法使いの義務を果たすときです!皆さんいいですねっ!」
氷川紗妃副委員長。彼女の取り締まりが厳しいことは有名で鬼の副委員長とも呼ばれている。彼女の働きあってこそ学園の風紀は守られているともいえる。実は友達と呼べる人が少ないという悩みを持っている。
「……あの子のもとへは行かせないっ」
冬樹イヴ。幽霊委員であるが、その実力は精鋭部隊とやりあって引き分けるほどに強い。双子の妹がおり絶賛大ゲンカ中。隠し切れないポンコツぶりとシスコンオーラを放っている。
ここには今いない、神凪怜。ボッチへのかかわり方を分かっている少女で俺に対しても絶妙な距離感で接してくれた少女。実はカナヅチ。
今も最前線近くで活動しているであろう服部梓。いろはすを思い出させるので正直イラっとしていたがそれでも仕事のパートナーとして俺にはもったいなくらい最高だった。
ボッチであり、異物であった俺を温かくかどうかは微妙だが向かい入れてくれた風紀委員の面々。ここは非常に居心地がいいと思ってしまった。ここでなら本物を見つけることができるかもしれないと。だが現実は違った。いや気づいてしまった。たとえ見つけられても、手に入れても、失ってしまっては意味がない。彼女たちが死んでしまえば、それは結局のところまやかしでしかなかったのだ。俺に居場所を作ってくれた借りは返す。養ってもらいたいが施しは受けない。どんな時でも俺は俺のやり方を貫く。
「委員長たちは撤退しろ。殿は俺が引き受ける」
「アンタさんいったい何言ってるんです。アンタさんに殿が務まるわけねーじゃねーですか。ここは迎撃しつつ撤退するのが最善です」
我ながら柄にもないことをいうものだ。
「追撃を受けながらの撤退戦がどれほど厳しいものかアンタにはわかるはずだ。このメンツで戦力的に欠けても問題ない俺が時間を稼ぐのが合理的だ」
そうだ、委員長、お前が決定すればみなそれに従う。だからとっとと命令してくれ。俺にここで死ねと。
「比企谷さん!」
「氷川、集団には規律が重要だ。その規律に当てはまらない俺がやるのが一番いい方法だ」
氷川、ここで頑固さを発揮するな。
「比企谷さん…あなたって人は」
「冬樹、お前はエリートになるんだろ、だったら戦場でこういう判断をする時が来るはずだ。その時の予行演習にちょうどいいだろう?」
冬樹、妹と仲良くな。
「風紀委員長としては命令します。一緒に……」
こんな俺をまだ委員会の仲間として扱ってくれる委員長。恐らくだが今の戦力で立ち向かえば死人が出る。それだけは避けなければならない。
どんな手を使ってでも。
「アンタらみたいなうざい連中でも俺の目の前で死なれると俺の責任になるからな。関係のない奴らはとっとと逃げろ」
今の関係が壊れたとしても。
「……っ…さい…ですか…………」
まだなにか言いたそうだったが、言葉を飲み込み他の風紀委員へ指示を飛ばす。これでいい。これでいいんだ。少なくともしばらくは大丈夫だあれだけの面子がいれば魔物の奇襲にも十分に対応できるはずだ。
彼女たちが居なくなったのを確認し、俺は戦闘態勢に入る。ここまでの戦闘で弾薬はほぼ使い果たした。転校生たちが僅かに持ってきてくれた弾薬だけが頼りだ。今の俺に出来るのは一分でも、一秒でも長く、ここに魔物を足止めすることだ。前からは四体、全てタイコンデロガ級だ。一般的にタイコンデロガ相手に一般人ならデクと呼ばれるパワードスーツを着た兵士十人、生徒会長なら一人が等しい戦力と言われている。魔法使いでありながら満足に魔法が使えない俺がどこまでやれるか。
比企谷に魔物が接近してくる。その背後には新たな魔物の姿も確認できた。
死んだな、これは。小町、先に死ぬ兄ちゃんを許してくれ。覚悟を胸に武器を構える。
しばらくしたのち、水無月風子から連絡を受けた武田虎千代が目にしたのは、様々な手法で動きを封じ込められた十数体の魔物と、おそらくそれを一人で成し遂げたであろう少年が地面に伏しているところであった。
彼の健闘により風紀委員の撤退時における負傷者はゼロ名であった。
それから七日後、第七次侵攻は無事に防衛したという形で終了したのであった。
おそらくですが、ちょくちょく内容を変更したりします。この後は回想シーン的なものを投稿する予定です。