やはり俺が私立グリモワール魔法学園に転校生と一緒に入学するのは間違っている 作:水無月ゲンシュウ
「比企谷さん………」
今まさに霧の魔物に攻撃されそうであった風子の窮地を救ったのは、本来、侵攻時の怪我でいるはずのない比企谷八幡であった。
風子の方を一瞥すると、何も無かったかのように立ち去る比企谷。彼の援護もあり、窮地を脱した風子。彼にいろいろと聞きたいこともあった風子だが、ともかく今は目の前の魔物に集中する。これ以上同じミスは繰り返さないように。その後の魔物討伐は前線のアクシデントを察知した精鋭部隊の援護もあり、問題なく終わった。最終的に風子の左手首骨折を含めた軽症者十名という結果でクエストは無事終了した。
クエスト終了報告後、風子は比企谷を探した。わざわざ呼び出さずなぜ委員長自らが探すのかというと、比企谷の性格上呼んでもおそらく来ない。それを分かったうえでの行動であった。短い期間であったが比企谷をこき使った人なりの間違った信頼の仕方だ。いそうな場所にも見当がつく。人があまり寄り付かなく、かつ一人でいるのに最適な場所。風子の予想した通りの場所に比企谷はいた。
彼はマッ缶を片手にいつも以上に目を腐らせていた。
「ここにいたんですか、比企谷さん……お久しぶりですね」
緊張で声が震える。彼は自分を恨んでいないのだろうか。彼をおいて逃げた私のことを。彼に死ねといったのと大して変わらない命令を下した自分を。
「………ん、委員長か、ご無沙汰してます」
侵攻前の彼と大して変わらない挨拶。覇気のないやる気のない挨拶。一つ違う点があるとすれば侵攻前以上によそよそしいということだ。それこそ初対面の時以上に。
「……いつ目が覚めたんです?」
先ほど救援に来た時からの疑問。少なくとも自分たちにクエスト依頼が来た時には意識は回復していなかったのは断言できる。なぜならクエストが発令されたとき私は彼の病室にいたからだ。
「ほんとについさっきですよ、宍戸博士から風紀委員がクエストに出ているって聞かされて、自分も風紀委員なんで……一応」
ここでマッ缶を口に含む。練乳の甘さが口の中に広がる。ホットで購入したがこの寒さでやや冷めている。だがこの生暖かさがまたマッ缶の甘さを際立てる。至福のひと時だ。
「さいですか……体の具合どうですか?」
目が覚めたばかりの彼の体はいくら魔法使いに覚醒しているとはいえすぐに戦闘できる状態でないことは誰にだってわかることだ。
「まだ何とも言えませんね、明日精密検査を受けるまでは何とも。それにしても珍しいっすね。委員長が俺の体の心配してくれるなんて」
「部下の健康ぐらい気を付けるのは当然のことですよ」
違う。本当はそんな崇高な理由なんかじゃない。ただ彼の安心を聞いて自分の罪を軽くしたいだけだ。本当に自分が嫌いになる。こんな時でも自分の保身が先に出てしまうなんて。
「そりゃわざわざ……元部下に対してありがとうございます」
「……え?」
元部下?
「水無月委員長、今日をもって俺は……風紀委員を辞めます」
その日、比企谷八幡は 風紀委員を辞めた。