やはり俺が私立グリモワール魔法学園に転校生と一緒に入学するのは間違っている 作:水無月ゲンシュウ
突然風紀委員を辞めると言い出す比企谷八幡。今までいろんな理由をつけては仕事をさぼろうとしてきたがその大半は彼なりのコミュニケーションの一つであり、(まぁさぼりたいのは本当なのだろうが)少なくとも風紀委員の仕事がいやで言っていることではなかった。仮に今回の言動が真実であったとしても委員長である風子が認めるはずもなくその理由を問いただした。
「辞めるって……いったいどういう心境の変化なんです?」
心臓の鼓動が早くなるのを嫌でも感じる。聞かなくたって理由は私が考えうる限り一つしかない。彼を見捨てた私への失望だ。常識的に自分を捨て駒にした人間を恨まないはずがない。たとえ彼からの申し入れがあったとしても、本当に見捨てるとは、また彼も見捨てられるとは思ってもいなかっただろう。彼からのどんな言葉も受け止めよう。それが彼への贖罪になるのなら。それが罪人である私への罰になるのなら。
「侵攻の時、俺は俺の意思であの場に残りました。それは断言できます。なので怪我をしたのは俺のミスであり、自業自得です」
そこで一息つく八幡。彼女を見つめるひとみは普段と変わらず腐ってはいるがその奥底にはゆるぎない決意をちらつかせていた。
「俺が病院にいる間、お見舞いに来てくれていたそうですね」
その情報を漏らしたのは宍戸だろう。彼女のことだ、おそらく事務的な報告感覚でしゃべったのだろう。別に彼女を責めるつもりもないが、自分の知らないとこで自分の行いをばらされるのは恥ずかしいものだ。などと考えている場合ではない。私が見舞いに行っていることを知ったうえで辞めるといっているのだ。そしてそれをわざわざ私に面と向かって言ってきたのだ。覚悟はできている。
「前に行ってた学校でも諸事情で入院していたことがありましてそん時は誰も来なかったので、ちょっと驚いていますね」
これは本当のことだ。正直誰も来ていないものだと思っていた。嬉しくない、といえば嘘になる。だからこそ。
また、ここでマッ缶をあおる。
風子自身も驚いていた。てっきり罵倒されると覚悟していたのに、驚いた、とだけ。
「ですが……俺が怪我したことに同情しているならやめてください。そんな理由で無理に俺に関わろうとしなくて結構です」
だからこそ、彼女が俺のことで苦しむことだけは避けなくてはならない。たとえ一時的に、いや永久的に彼女を傷つけることになったとしても。彼女が罪の意識に苦しまないのなら。俺が風紀委員を辞めることになってもだ。別にまた一人になるだけ。一人は慣れてる。
「うちはそんなつもりで………」
そこで彼女は言葉を飲み込んだ。加害者である自分の言葉はどんなに取り繕っても彼には決して届かない。ましては偽りの言葉など、それこそ彼への冒涜でしかならない。
「……わかり…ました…あなたの風紀委員脱退を…………認めます」
私にできることは彼の望みを聞くことだけだから。
そう言い放ち、その場を離れた彼女の顔は泣いていたのかもしれない。だがそれを知るのは彼女だけなのだから。その場に残された比企谷も一つの大仕事を終えたのかごとく、大きく息を吐き、マッ缶をあおろうとするが中身はとっくのとうに空になっていた。