やはり俺が私立グリモワール魔法学園に転校生と一緒に入学するのは間違っている 作:水無月ゲンシュウ
前回、風紀委員である氷なんとかさんに無理やり風紀委員室に連れてこられ、説教?を受けていると新たに部屋に入ってくる人物がいた。そしてその人物は俺が見たことのある人物でもあった。
「おや、どーかしましたか氷川」
「い、委員長」
部屋に入ってきたのは、どうやらこの委員会の長らしい。いったいどんな奴かと確認しようと思ったが、俺はその人物のやたらけだるげなしゃべり方に聞き覚えがあった。(正式な)登校初日に兎のぬいぐるみもどき(確か兎ノなんとか)に絡まれた(話しかけたのは俺だが)際に助けてくれた?人物だった。まさか風紀委員長だったとは……まぁ前回も懲罰房が何とかって言ってたし。そういえば腕に腕章もつけていたし。あの時は文字まで見ることができなかったからな。(位置的に)
俺が相手のことをそのまま見ていると委員長さんも俺に見覚えがあることを思い出したらしい。
「おや、アンタさんはたしか……卯ノ助と猥談をしていた生徒さんじゃありませんかー」
「ものすごい悪意のある事実の歪めかたなんですが……」
「じょーだんですよ、じょーだん……ところでなんでここにいるんです?また猥談でもしてたんですか?」
彼女の冗談についてはこれ以上付き合うことなく、正直に事実を伝えた。
「服装が乱れているとか言われてそこの人に連れてこられました」
「ほー……さいですか。猥談では飽き足らず服装まで乱すとは……すっかりその目に似合う不良っぷりじゃぁありませんか。前回は初犯ということで甘めに見ましたが……これはブラックリストいり決定ですかねー」
なんなの?最近俺の目のことdisるの流行ってんの?あれ?目から塩水が……そんなことより気になる単語が。
「ブッラクリスト?」
「そのまんまのごそーぞーの意味ですよ。校則違反を繰り返したり、注意しても行動が改善されないような人たちを要注意人物として学園内にある掲示板にのせるんですよ」
なるほどなるほど、つまり、
「見せしめってやつですか、風紀委員に従わないやつを衆人の前にさらして。なかなかしゃれたことしますね」
「……ほう?」
俺の一言をきっかけに部屋の温度が下がったような気がした。逃げ出してぇ。ちなみに最初から部屋にいた神凪は見回りかなんかでもうこの部屋にいない。どこか抜けているところがあると思っていたがこの空気に気づかず、部屋を出ていけるとは相当な胆力の持ち主だ。
「ちょっ!?なんてこと言うんですか!」
氷なんとかさんんが何か言っているがかまっている暇はない。目の前にいる鬼の対応で精いっぱいだ。
「だって実際そうじゃないっすか、自分たちの権力に屈しない人間をさらしてあなたたちに何の利益があるっていうんですか?別に他人に危害を加えてるわけでもないんでしょ、それはそいつ自身の問題ですよ。むしろ自分たちの力不足が露呈するだけじゃないっすか」
「どうやらアンタさんにはちょうーばつぼーのほうがいいみたいですね」
……どうやら鬼の風紀委員長はこの程度の揺さぶりでどうこうできるタイプの人間ではないらしい。一見やる気のなさそうにして相手を油断させようとしているが俺にはきかない。が、どういうわけが自分から地雷原を足元を見ずに全速力で突っ込む並みのことをしでかしたようだ。だがその程度の脅しに屈するような俺ではない。そうであれば俺は当の昔に立派な社会の歯車に慣れていただろう。見せてやるこれがっ!俺のっ!本気のっ!
「調子乗ってマジスンマセンでした。それだけはマジ勘弁してくださいっ!」
土下座だっ!!!
「「……………………」」
流石に予想外だったのか二人も言葉が出ないようだったが、委員長のほうがわずかに早く思考を回復させたようだ。
「アンタさんなかなかおもしれーですね。気に入りました。ウチもそこまで鬼ではありません。今回はまだ入学してから日も立ってませんし、大目に見ましょう……ただし条件があります」
俺の渾身の土下座は鬼を譲歩させることに成功したらしい。しかし条件か……まぁせいぜいトイレ掃除とか、靴舐めとか、踏み台とか、椅子替わりだろう。
「アンタさん風紀委員に入りなせー」
「……は?」
この日が八幡の学園生活を大きく左右した日だと、のちに彼は語るのであった。