キリト「生還したら妹と弟がくっ付いてた」 作:ブロンズスモー
翌日、SAOに囚われていない、直葉と海斗は普通に学校である。
直葉は部活があるので、学校の剣道場。海斗は先に帰って来てから、グローブとボールを持って放課後の学校に出掛けた。
「おう、桐ヶ谷」
クラスメートの中崎が待っていた。
「やるか」
「おう」
二人でまずはキャッチボールを始めた。肩を温めながら段々と距離を離す。いつの間にか遠投くらいの距離になっていた。
しばらく投げると、距離を縮めて最初の位置より短くした。そのまま、投げてすぐ返すキャッチボールに入った。
「そういやさ、」
「ん?」
「今なんか、SAOとかいうのが大変らしいな」
「ああ。うちの兄貴が巻き込まれてるアレ?」
「え?巻き込まれてんの?」
「俺も危うく巻き込まれる所だったわ」
「なんか悪いこと聞いた?」
「いや全然。あんま気にしてないし」
「ふーん……お前そういうとこ強いよな」
「いや、だって心配したって仕方ないじゃん?俺なんも出来ないし」
「野球の時は超熱いけど、それ以外の時はマジ冷めてるのな」
「まぁ、そりゃ多少は心配してるけどな」
「あ、もしかして、前のβテスト勝手にパクられたのまだキレてんの?」
「おう」
「お前………」
「とにかく、一回謝らせてやる。そうしないと許さん」
そんな話をしながら、キャッチボールを切り上げた。次はノックである。じゃんけんで勝った方がバットを握る。
「…………」
「…………」
「「ふんっ」」
「「ふんっ」」
海斗が勝ち、中崎はグローブを嵌めた。
「そういえばさ、」
「ん?」
「一応、聞くけど中学上がったら何部入る?」
「野球」
「だよね、良かった」
「なんで?」
「俺も野球部入るから」
「なるほど。中学の先輩どもに俺たちの二遊間を見せてやろうぜ」
「もちろん、一年でレギュラーだろ?」
「当然」
そんな話をしながら、ノックを続けた。
ー
気が付けば、夕方になった。夕焼けのチャイムが鳴り、中崎だけ先に帰って、海斗だけ残っていた。家には誰もいないから、チャイムなんて無視しても誰にも怒られなかった。
壁当てを軽く流しながら公園の時計を見ると、17:30を回ろうとしていた。
「海斗」
背後から声が掛かった。部活帰りの直葉が竹刀袋を持って立っていた。
「帰るよ」
「うい」
グローブとボールをしまって、直葉の方に駆け寄った。
「また野球してたの?」
「中学で一年レギュラー取るのは大変な事なんだよ」
「そんなの分かってるよ。あ、買い物して帰るけど良い?」
「分かってるよ。荷物持ちのためにここに寄ったんでしょ」
「うん、素直でよろしい」
「素直か?これ」
小首を傾げながらも、直葉とスーパーに向かった。
「どう?中学でレギュラー取れそう?」
「取れるよ」
「うわあ……すごい自信……。中学のセカンドがどんな人か知ってるの?」
「知らないけど」
「その自信はどこから……」
「まぁ、夏までには取るよ」
「あ、もしアレなら野球部の偵察して来てあげよっか?」
「一年の癖に自分の部活サボる気?」
「そっかー……」
「むしろ、一年でレギュラー取ると先輩に嫌われたりするかどうか心配だわ」
「大丈夫だよ、そんな事でいじめが起きる時代は終わったよ。あたしはいじめられてないもん」
「そりゃ、スグの場合は返り討ちにされそうだからね。地稽古で先生の前でボコられるのを恐れたんじゃない?」
「なんか言った?」
「なんでもない」
ニッコリと微笑まれ、慌てて目を逸らした。
スーパーに到着すると、海斗は買い物カゴを取って、直葉の後に続いた。
「今日、何食べたい?」
「唐揚げ」
「えぇ……」
直葉は顔を引きつらせた。揚げ物系は面倒臭いので、部活の後に作るのは少し遠慮したかった。
「……他に食べたいものは?」
「竜田揚げ」
「…………もう良いよ、聞かない」
とりあえず、面倒だからカレーにしようと決めた。ニンジンだのジャガイモだのといった、カレーに必要な食材を海斗の持つカゴに入れていった。
続いて、玉ねぎの大きさを選別し、カゴに入れようとした直後、手がピタッと止まった。入れた覚えのないポテチ、コーラ、ビーフジャーキーが入っていた。
「……………」
「……………」
海斗を睨んだが、目を逸らして空欠伸された。その態度が余計に腹ただしい。
まぁ、そんな弟は最早、いつも通りなので、一々口うるさく注意しようとは思わなかった。
「………一つだけだからね」
「一つずつ?」
「どれか一つ」
海斗はため息をつき、ビーフジャーキーを残してポテチとコーラを戻しに行った。
「よりによってそれ残すんだ……ホント、趣味渋いなぁ」
半ば、呆れながら呟いた。
ー
帰宅し、直葉は休む間も無く晩御飯を作り、海斗はシャワーを浴びると、ゲーム機を持ってソファーの上で寝転がった。
野球とゲームの時の海斗の集中力は並ではない。周りの音を全て遮断して、必要最低限の情報のみを受け入れる。
よって、
「海斗、ご飯」
「……………」
「海斗ー?」
「……………」
「海斗‼︎ご飯あげないよ⁉︎」
「はいはい」
「聞こえてるんじゃない!」
と、言うようなやり取りも、ほぼ毎日である。
カレーを運ぼうと台所に向かうと、カレーが三人分あった。母親は帰りは遅いので、食べないはずだ。
「………一人分多くね?」
「……あ、そっか。お兄ちゃんいないんだっけ……」
直葉は寂しそうに呟いた。まぁ、急に慣れろという方が難しい気もするし、海斗は何も言わずに、二人分のカレーとスプーンを運んだ。
台所から、冷蔵庫を開けた直葉から声が聞こえた。
「海斗も牛乳飲むよね?」
「飲む。スグも飲むの?」
「飲むよ」
「………大きくしたいの?」
「あんた、牛乳に醤油ブレンドされたいの?」
「やめてください、死んでしまいます」
そんな話をしながら、直葉が牛乳を持って戻って来て、席に着いた。
「いただきます」
「………前々から思ってたけどさ、いただきますってどういう意味なんだろうか。曲解すると、『板、抱きます』って意味になるんじゃ……」
「いただく、というのを丁寧に言ってるんでしょ」
「………いただきます」
つまらないギャグを言った気分になり、海斗は額に手を当てて全力で後悔しながら、カレーを食べた。
「………美味っ」
「ありがと」
「けど、次は甘口が良い」
「そんなの給食でいつでも食べれるじゃん」
「好みの問題だよ」
「ふーん……子供だなぁ」
「自分の好みを隠す奴の方が子供だよ」
弟に論破され、直葉は悔しそうにジト目になりながら、カレーを食べた。
「………ま、カイくんは好みだけじゃなく身長も子供だもんねー」
「………本当それな。牛乳毎日飲んでるのになんで身長伸びないんだろ……」
「…………ごめん」
素で傷付かれ、からかった直葉も気まずげに目を逸らした。
海斗の身長は、同じ小学校の三年生と同じ身長だった。ちなみに、海斗は六年生である。
「ま、まぁ、成長なんて人それぞれだから!」
「………身長伸びるかどうかも人それぞれだよね」
「も、もう!クヨクヨしないの!牛乳もう一杯飲む?」
「……お腹壊すからいらない」
とりあえずカレーをかっ込んで、牛乳を飲み干した。
「……ふぅ、ご馳走様」
「………食べるの早いなぁ」
「遅いよりマシでしょ」
海斗は食器を流しに出し、歯磨きするとソファーに寝転がった。
「ちょっと、ご飯食べあと、すぐ寝転がらないの。牛になるよ」
「牛ってさ、飯食った後に食ったものを口の中にリリースしてまた噛んで食うらしいよ」
「へぇ〜。……って、そんな豆知識どうでも良いから寝転がるのをやめなさい」
「片手剣も試してみようかな」
「怒るよ?」
「分かったよ……」
起き上がってゲームをした。
直葉も食べ終わって、流しに食器を出した。
「あ、スグ」
「何?」
「ゲームやんない?」
「…………はっ?」
「てか手伝って。カズのやつ使って良いから」
「え、でもあたしやったことないよ?」
「大丈夫、俺一人いれば基本的には倒せるし」
「………じゃあなんで呼ばれたの?」
「一人でやってもつまらんのよ」
「……………」
海斗はそう言うと、和人の部屋にゲーム機を取りに行った。
その背中を見ながら直葉は思った。
(なぁんだ。海斗の奴、やっぱ少し寂しいんじゃん)
一方、階段を上りながら海斗は直葉をチラ見した。
(これで少しは気も紛れるだろ)
見事に思いは通じてなかった。